JD-034.「コボルトをぼこるど」
廃坑ばかりの山のふもとにあるヴァイツの街。
廃坑となれば雰囲気が悪いとか暗いってことがあるかと思いきや、思ったような雰囲気ではなかった。
立ち並ぶ店には看板が出ていない場所も時々あるけど、それはかつての職人の店なのだという。
近くを流れる川と、周辺の豊かな自然から得られる物を加工する方に街の産業自体はシフトいっていったらしい。
その意味では、鉱山に頼らない普通の街になったといえるんじゃないかな。
鍛冶職人なんかはカセンドへ引っ越したようだけど、ね。
なんとなく、引っ越しのできないような熟練の職人さんでもいそうだ。
少し寂しい話ではあるけど、それでもまったく職人がいないということは無く、買取や引き取りはしてくれるということだった。
「わんわん、うるさそう」
「私、見たことありませんわ」
「鈍器が多いらしいので警戒なのです」
ヴァイツのギルドで聞いた限り、廃坑から出てくることがほとんどないというコボルト。
獣同然だというが3人の感想を聞きながら、俺も考えてみる。コボルト、というとどんな姿を浮かべるだろうか。
俺は耳とかが生えた、なんちゃってコボルトだったら戦うのが気が引けるなあと思っていた。
あるいはペットの犬みたいな見た目だったらやばいなと。
ともあれ、こうしていても始まらない。街を出て、その現場へと向かう。
今はあまり使われていないらしく、道も所々穴が開いており、馬車が通るのは難しそうである。
「あちこちになんか土砂があるな」
「そうですわね……長年の夢の後ということですわ」
歩き始めてしばらく。
よく見ると、廃坑そばに行くほど掘り出した後であろう砂や岩、そういったものが土砂となってかなり積まれている。
これだけの量が目の前の山から掘り出されたのだ、と考えるとカセンドの側も最終的にはこうなるんだと思わせる。
そしてそれらは雨によってか、街の方へ放射状に広がっている。
日本なら、環境汚染が―とか土砂の流出がーとか言われそうだけどここにはそんな法律もないし、今までに事故もなかったのだろう。
廃坑は街から1時間もしない場所にある。カセンドのそれより小さな山で、もう掘られることもなくなったからか、山肌には結構な緑。
所々に禿げたように土色が見えるのが面白い。
ただ、ふもと程見るからに穴ぼこで、ちょっと不気味に感じた。
例えるならそう、ホラーアクションゲームの1ステージみたいだ。
じっと見ていると、穴が口としてまるで過ぎ去った栄華を嘆く声が響いてきそうな気配さえある。
見える範囲でもいくつか採掘の道具だったであろう棒きれが転がっており、放棄されて年月が経っていることを感じさせる。
「他の冒険者はいないようですの」
「独り占めなのです! じゃなかった……四人占め?なのですっ」
「……不人気?」
(確かに、人が来る気配が無いな……)
街から近いのに、他の冒険者がこの依頼をほとんど受けていないのにはいくつか理由がありそうだ。
1つは相手のいる場所がわかりにくいということ。
これはコボルトが住み着いた廃坑は当然、蜘蛛の巣のようにあちこちに伸びており、見つけて倒す、というのに手間がかかるからだ。
こっちを見つけて襲い掛かってくる相手だけでは数が稼げないだろうね。
もう1つは、その数と戦い方。
平地であればともかく、狭い場所で前後を挟まれれば苦戦は必至。
普通にやったら危険度の割にうまみは少ないようだ。普通にやったら、ね。
それにしても、この穴の数は悩ましい。すぐそこの穴から何か飛び出てきそうな……んん?
「あれがコボルトか」
「完全にわんこですわね」
ラピスの言うように、顔は完全に犬だった。ただ、命を奪い合う危ない世界。
その顔は可愛らしいものではなく、口元も鋭い。手先が器用なのか、ぼろいけれど自前らしい防具を身に着けている。
毛皮も洗っていないのだろう、ぼさぼさとして汚れており、可愛らしさのかけらも残っていない。
俺達とは違う方向を向いて何かを観察しているようだ。
ともあれ、本当にコボルトがいたのであれば俺達のやることは決まっている。
聖剣はジルちゃんの部分が光っており、目的に合った状態だ。
コボルトに近づくと、こちらを見たコボルトは何事かを叫んでそのまま穴の中に引っ込んでいった。
(むむ?)
「はわわ、いっぱい出てきたのです」
「声がうるさい……」
1度引っ込んだかと思うと、すぐに出てきたコボルト。
しかも仲間を引き連れて、だ。それぞれの手には粗末なこん棒。
コボルトのサイズはジルちゃんと同じぐらい。つまり、そこそこ大きい。
坂を駆け下りてくる形のコボルトに対し、俺達は迎え撃つことを選んだ。
先頭に立って大盾(岩を薄くスライスしたような形)を構えるニーナ。
「ふっとべ、なのです!」
頭はよくないのか、そのまま突撃してくるコボルト数匹がカウンター気味にニーナの盾に吹き飛ばされ地面に転がる。
手早くそんなコボルトに聖剣を突き刺してまずは終わり。
周囲に獣臭いにおいと血の匂いが入り混じり、さすがに顔をしかめてしまう。
キャウンと叫ぶコボルトに思うところがないわけじゃないのだけど、どちらかというと可愛さより恐怖が勝っている。
血走った感じで襲ってくるんだもんなあ……怖いよ。
ゴブリンやオークには感じなかった、倒れている相手が起き上がってきそう、という感想を抱いてしまう状態だった。
もしかしたら、狂犬病みたいな病気でも持ってるかもしれないしね。
「念のために飛び道具に警戒しながら倒していくよ」
「うん」
街を支えていた鉱山の廃坑、となればその数や距離はかなりの物になるはずで、そこにコボルトが住み着いたとなると……一体何匹いるんだ?
というか食事はどうしてるんだろうか。
「マスター、魔物はマナも食べるんですのよ」
「だから何もなくても増える、の」
試しに聞いてみると、驚きの答えが返って来た。マナを食べて生きるとか、霞を食べて生きる仙人かよってところだな。
「だからトール様はものすごーく、美味しそうに感じるはずなのです」
さりげなく俺の前に立って盾を構えるニーナ。
ついつい切りかかりに前に行った時に前に出過ぎちゃだめです、とニーナが怒る理由がよくわかった。
肉食に思う魔物も、肉ではなくマナを食べるために襲うわけだ。そうして20ほどはコボルトを倒していくと、追加のコボルトが来なくなった。
「終わりってことはないか。今のうちに回収を」
「はいなのです」
「わんわんは牙と、毛皮」
剥ぎ取りはニーナとジルちゃんに任せ、俺とラピスは警戒に戻る。
まだ廃坑そのものにはたどり着いていないのに……さて。
事前に聞いていた、金属製の武器のような物や鉱石類を持ったコボルトはいなかった。
となると、このコボルトは先鋒とかそういった役目かな?
横合いからの奇襲が無いようにと警戒しながら、山のふもとに俺達はたどり着いた。
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