JD-033「どこにでも刺さる、それがやつさ!」
「うっそだろ……」
「マスター、しっかり冷やさないと……」
我ながらひどく情けない声だなと思いつつ、その場にしゃがみこんでそう呻くしかない。
ラピスが心配して駆け寄ってくるけど、実は怪我はしていないという情けない状況だ。
吐きそうだけど吐けない、何とも言えない不快感。
「トール様は守るのです!」
「……来た」
よろめきながらも視線を上げた先で、石の盾を構えたニーナへと何かが飛びかかり、音を立てる。
その相手を横合いからジルちゃんが切り付け、見事に両断。
相手は勢いを失って地面へと力なく落下した。それは細長い、地球でいうごぼうのソレ。
だが、その生態は予想外の物だった。
「ふう……楽になったよ。ありがとう、ラピス」
「いえ、目とかでなくて何よりですわ」
ラピスの生み出してくれた氷を布袋越しに当て、冷やすことで何とか痛みから復活する。
彼女の言うように、もしも目や口等の柔らかい場所だったら大惨事だったといえる。
もっとも、今回の俺……言葉にするのも悲しい下半身な部分にぶつかるというのもひどい話だ。
幸い、女神様からもらった体は丈夫で怪我までは行ってないけど、あんな場所に細長い棒がめり込むというのは地獄だ。
「撫でたほうがよろしいですか?」
「い、いや。大丈夫」
ラピスが心配そうな顔で覗き込んでくるけど、まさか女の子に撫でさせるわけにはいかない。
それにしても……。
「まさか取ろうとすると飛んでくるとはねえ」
「はわわっ、守れなくてごめんなさいなのです」
泣き顔で謝ってくるニーナに首を振り、まだ生えているボーゴ達を睨む。
なるほど、煮て良し焼いて良し、すりつぶせばポーション材料にもなる、と。
便利であちこちに生えているという割に依頼料が高いわけである。
「ニーナ、悪いけど先頭で防御し続けてくれる?」
「任せてくださいなのです! ニーナ、とつげきしまーすです!」
ジルちゃんやラピスがそうなように、ニーナもまた、俺のあれこれからなんだか変なのを学んでいる気がする。
日当りのいい場所に花を咲かせたボーゴの中にニーナは突撃し、周囲から飛んでくるボーゴを器用にその盾で受け止めた。
ガガガガンと恐ろしい音が響き渡る。
「えいっ」
「凍りなさい!」
そこをジルちゃんの透明な短剣やラピスのつららが貫き、落下させていく。
俺も聖剣でボーゴを切るのだが……なんだか包丁で野菜を切ってるような気分だ。
そのまま依頼用の本数を集めるべく、狩りというか採取を続ける。
確かにこれは安全に行くなら装備が必要だけど、大げさすぎて冒険者が敬遠するわけだ。
あるいはこれで大怪我となった日には笑われそうだ。
初見殺しというだけで、以後は危なげなくパターン化した作業となっていく。
結局は植物の反射的な攻撃に過ぎないのだと思う。 タイミングをずらすといった工夫もないしね。
長いままで採取できたボーゴを束にして縛り、収納する。これで依頼自体は達成だけど……。
「魔物がいませんわね」
「石英が、無い」
2人の言うように、この森ではまだ動物とボーゴ以外に出会っていない。
ニーナも含めた3人、そして聖剣のためにも石英の確保はしたいのだけど……ん?
「ニーナ?」
「いえ、何か聞こえた気がしたのです」
きょろきょろとあたりを見渡すニーナ。
俺には何も聞こえないけど、彼女がそういうからには何かあるのかもしれない。
それが魔物がいない原因かもだしね。
「こっちなのです」
「何がいてもいいように注意して進もう」
ニーナを先頭に、街から離れた場所へとゆっくりと歩いていく。
木々の隙間に何かが出てこないか警戒しながらの歩みはゆっくりとしたもの。
それでもしばらくすると、俺にもその気配が感じられた。
「でかいな……」
そして見つけた物は、優に俺の胴体ぐらいはありそうな太さのボーゴ。
なるほど、こいつがいるから近くに寄らないようにみんな別の場所に逃げたわけだ。
「かなり、危ない」
「さすがにマスターが前に出るのは……ですわね」
ジルちゃんが俺の前に立ち、後ろに下がるように促すほどの相手ということだ。
「うーん、このまままっすぐというのも芸がないのです。ここは楽な手段を取るのです!」
しばらく考え込んでいたニーナは叫び、ラピスを指さした。
「作戦は簡単なのです。氷漬けにしてばっかーんなのです」
ニーナはどこかとぼけた顔をしながら、意外と過激というか、戦いが得意なようだった。
確かに、それが一番楽そうだ。
「それでは行きますわ」
「よろしく」
少し離れた場所で、しっかりとチャージした形でラピスの手から無数のつららが産まれ、飛んでいく。
それらは地面や周囲の木々にも当たりつつ、巨大ボーゴへと迫り……しっかりと当たる。
「……逃げるか何かすると思ってましたわ」
「同感。所詮は植物か」
拍子抜けといったところではあるけど、楽なのは違いない。
近づいて、聖剣を横に一線。これ1本で依頼が3回ぐらい達成できそうな気がする。
これは仕舞わずに運んでいくのがインパクトがありそうだなと思い、担いで街へと戻ることにする。
「おお、巨大ボーゴを手に入れるとは、素晴らしい。けが人もないようですな。ますます喜ばしい事です」
「なんとかなりました。これでも依頼はいけます?」
冒険者ギルドの受付は今日はロマンスグレーなおじさんだった。
巨大ゴーボを担いで俺が入ってくるなり、カウンターからこちらに出てきてわざわざ先に声をかけてきてくれたのだ。
こうなればこちらも気持ちが良くなるという物だ。
「勿論。むしろ、専用の依頼がありますよ。普通の物と比べて薬効がかなり違いますからね。
ささ、こちらへ。清算いたしましょう」
周囲の視線を集めながら、専用の場所へ巨大ゴーボを下ろし、収納袋から普通のゴーボも取り出していく。
若干背後でどよめきが聞こえるのは収納袋のせいだろう。
「良いものをお持ちですね。お金の使い方としては正しいかと思います」
「高い甲斐がありましたよ」
受付さんはわかっているのか、あるいは本当にそう思っているのか。
俺の収納袋が高い物だと口にしてくれたのでそれに乗っかることにした。
テンポよく清算を済ませ、報酬を受け取る。
「あのー、出来れば討伐で稼ぎたいんですけど、いいのありますか?」
「そうですね……緊急性の高めの物ですとこちらでしょうか。
相手は特殊ではないですけれど、数が多いようですね」
曖昧で都合のいい聞き方だなという自覚はあるけど、あっさりと提示された依頼は山の上から見えた近くの別の街での依頼。廃坑に住み着いたコボルト退治の依頼とある。
数は狩れるだけ。討伐証明である尻尾の分だけ払う、という歩合制だ。
「コボルトは山を掘るのが好きなようでしてね。
討伐の際には彼らが持っている武器のような物や鉱石類を拾うのを忘れずにいたほうがよろしいでしょう」
かゆいところに手が届く、とはこのことではないだろうか?
丁寧に依頼の事を教えてくれ、助言までくれたおじさんに頭を下げて依頼を受ける。
これは隣街から回って来た依頼とのことで、報告はそちらでするように、とだけ注意を受けた。
「狭い場所での戦い……みなぎるのです」
「ふふふ。頼りにしてますわよ、ニーナ」
「わんちゃん……仕留める」
3人のそれぞれの宣言を聞きつつ、隣街であるヴァイツへと向かうべくカセンドを出た。
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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