JD-031「ミニマムボディーのマックスパワー」
2回目となる採掘へと向かう途中、俺達は予想以上に魔物に襲われていた。
この前はほとんどいなかったのに、上層に差し掛かってからあちこちから茶色いゴブリンや小さめのゴーレムが出てきていたのだ。
幸いにも1つ1つは強くなく、それぞれの攻撃であっという間に倒されていく。
「マスター、祝福とスキルは変えておいた方が良いかもしれませんわ」
「そうだね。でもとりあえず坑道に着いてからかな」
残念なことに、ジルちゃんの祝福が無いと石英のドロップは1、2割といったところ。
多くは砕けてしまうようだった。ジルちゃんの祝福とスキルに切り替えればそんな内容も一変するはずだ。
石英の大きさもだいぶ期待できそうである。
だけどこの場所で変更をするには襲撃が怖いし、なんというか、野外も野外すぎる。
ジルちゃんの柔肌を俺以外に見せるつもりはない、ないのだ。ということにしておいてほしい。
「よっほっ、そこなのです!」
収穫と言えば、驚くべきはニーナの肉弾戦の強さだった。
今は碌に武器を持っていないのだけど、拳に岩の様な何かを作り出し、素早く相手の懐に潜り込むとパンチ一発。見事に相手は沈黙していく。
「びくとりー! なのです!」
自重操作により自分を軽くさせることで早く動き、攻撃の瞬間には増加させて威力を高めているそうだ。
動く度に背格好に不相応な胸元が結構な勢いで……おっと。今はひとまず坑道に駆け込もう。
4人で開いたままの坑道へ飛び込み、様子をうかがう。
「こっちを見失った……みたい?」
「ですわね。ひとまずは休めますわ」
何かが入ってきたらすぐに影でわかる位置に座り、息を整える。
疲れたというよりは、めんどくさい方が強い。
「これはあれかな、ニーナの付いていたゴーレムがいなくなったからその反動かな?」
「うう、ごめんなさいなのです」
叱られたと思ったのか、突然泣き出すニーナ。慰めるべくしゃがみこんでニーナに視線を合わせる。
「ごめん、そういう意味じゃないんだ。大きいのがいなくなってみんな自由に動き出したのかなってそういうこと」
「そ、そうなのです? よかった……」
間違えて泣いちゃったのです、とにこにことなるニーナ。
あれだな、ジルちゃんとは違う意味で小動物系だな。
そうして、採掘の準備をするのです!とニーナは奥に走っていく。
元気で切り替えも早い。一緒にいて楽しいタイプではあるよね。
「マスター、今のうちに」
「あ、ああ。ジルちゃん、ちょっといいかい」
「(こくん)石英いっぱい、うまーのお時間です」
入り口を警戒し続けるラピスの声に頷き、ジルちゃんを手元に呼び出して聖剣を短くする。
入り口から差し込む陽光の境目付近にちょうどジルちゃんは立つ。
日向と日陰。
その合間に立つ白の少女が服をたくし上げてすんなりとお腹を見せる。
照らされたお腹の艶めかしさにいつも通り打ち抜かれながら、目的のために近づいてその手を下に伸ばし、聖剣を差し込む。
「ふぅ……んっ……」
この時ばかりはいつもと違い、どこか熱い吐息を漏らすジルちゃん。
そのまま引き抜くと、どこか物欲しそうに閉じかけた瞳で聖剣を追うジルちゃんが目に入った。
「ジルちゃん、これ好きなの?」
「……うん。ご主人様を感じられて好き。でも最近解放されてないから少しムズムズするの。ご主人様、また今度解放して……ね?」
試しに聞いてみた俺に、抗えないジルちゃんの精神攻撃が帰って来た。
本人がそういうなら、きっとラピスもニーナもそうなのだろうと思う。
そのためにも魔物をしっかり倒すか、石英を一杯確保してマナの予備を確保しないといけない。
ともあれ、これで次からは石英が多くドロップするはずである。
でもここまで来たので討伐ではなく、今は採掘だ。採掘……なのだけど。
「……ニーナ?」
「あ、トール様! 勝手に掘ってるのです。ここ、掘れば掘るほど出てくるのです!」
奥に向かうと、そこにいたのは一心不乱に一人でつるはしを振るうニーナの姿があった。
その小さな体のどこにそんな力があるのか。恐ろしく的確と思える場所につるはしが叩き込まれ、見事に岩肌を砕いていく。
「良いものありそうかい?」
「はいっ、なのです。岩が多いですが、鉄鉱石もそのまま溶かして使えそうなぐらい高品位なのです。はわっ、銀も出てきたのです」
ニーナは手際よく、ただの岩の塊とそうではない物とを振り分け、また岩壁に向かう。
そのままがっつんがっつんと掘っていくニーナ。
後ろではその採掘品をえっほえっほと布袋に仕舞いこむラピスとジルちゃん。
そっか、ニーナは鉱石の鑑定も出来るんだ。さすが土の祝福。
(あれ、俺だけ何もしてない?)
気のせい……じゃないよな。
「まるでヒモみたいだな……」
つぶやきが思わず出てくるぐらいにはちょっとアレ気な光景だった。
「ヒモ?」
「なのです?」
割と大きな音が出ているはずなのに、ジルちゃんもニーナも聞きつけて何のこと?と首を傾げる。
慌ててごまかそうとした俺だったけど、それよりも早くラピスが口を開いた。
「マスターは私達を愛してくれていればそれでいいんですわ。
ふふ……見た目少女のヒモになるとか、マスターもマニアックですわ」
ニコニコと笑ったまま、ラピスの落とした爆弾に俺は固まる。
その間に2人はラピスにヒモ?って聞いている。
俺は答えることも出来ずに、違う、違うんだと呟きながら売れそうなものを拾う作業に移る。
でもヒモみたいなもんかな、と思ったのはそれからさらに掘り進み、どう売ろうか考えるだけの採掘品を手に入れてからだった。
恐るべし、ニーナ。
そろそろ十分かなという量の鉱石類を予定より早い時間で手に入れた俺達は揃って一度外に出る。
太陽も上に登り、山を明るく照らし出している。
少し離れたところにゴーレムの姿が見えるけど今は襲ってこない。
こちらに気がついていないのだろう。眼下には森、そして麓の平原が見える。
「すごい、高い」
「結構上ってきてたんですわね」
「あ、街ですよ。トール様」
それぞれの感想が聞こえる中、ニーナの声にそちらを見ると麓の街とは違うところに別の街。
今いる鉱山とは別の山を背にした大きそうな街だ。
あそこが別の依頼で討伐であるとかを出している街になるのかな。
そう遠くないはずなのに、何か……なんとなく、変だった。
どことなく、こちらの街とは何かが違うのを感じながら、4人は山道を下っていく。
途中の敵は3人が俺が飛び出す前にばっさばっさと片づけていく。
そばにいることで祝福の効果はあるのか、何気に石英のドロップは増加している。
誰かが倒して取ってきたことを褒めて石英を受け取る俺。
……あれ? やっぱ俺、ヒモ?
考えてはいけない事実に俺はぶつかり、もやもやしながら下山となった。
ヒモ化が進んでいるようです。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




