JD-028「少女の殻を取ってあげましょう」
「だるまさんが……ってやつだ!」
足元に気を付けながら、俺はひとまず目の前に転がっている無防備な左足に駆け寄る。
勢いよく駆け出したすぐそばには崖。気を付けないと真っ逆さま。
自分がそんな状況にもあまり恐怖を感じていないことに内心疑問を抱きながらも目的の場所へ。
巨大ゴーレムはいくつもの関節を持っており、デッサン人形を思い出す作りだった。
球体の代わりにはまっているのはバレーのボールほどの石英。これだけでもオークの3倍ぐらいはある。
薪を割るかのように聖剣を真上から振り降ろし、その関節の前を一発で切り取った。
勢いあまって地面に聖剣が刺さったのは内緒だ。ゴーレムは声を出すことはできないらしく、無言で体をきしませつつ起き上がろうとしている。
その巨体が道を全部塞いでしまうほどの質量で土煙が上がる。
「させませんわ。凍れ!」
ラピスの貴石術が太い氷の槍となり、自重を支えているゴーレムの右手首付近へと突き刺さる。
大きくきしむ音と共にゴーレムの動きが止まり、わずかに姿勢が崩れた。
ゲームであれば、今だ!とばかりにアイコンが飛び交うような光景。
「ジルちゃん!」
「うん。つらぬけ……」
見た目はラピスのそれと同じような、純白の槍が数本産まれ、動きを止めたゴーレムの関節部位へと迫り、めり込んだ。
大きな音を立て、ゴーレムは自重で破損個所を拡大させてまた山道に倒れ込む。
俺は、その間にゴーレムの体を下の方からどんどんと切り取って行っていた。
大根でも切るかのような勢いだ。
まな板の上に上がってしまった生きている魚のように暴れるゴーレムだったけど、手足を切られ体も少しずつ、であれば運命は決まっている。
物の数分で、俺達の前にはゴーレムだった物と、その頭部と胸元だけが残る。
コアの部分に近づくと、間違いない。
コアであろう巨大な石英のそばにあるのは見覚えのある形、コレクションの1つだ。
「マスター、こっちにも埋まってますわ」
「ラピスと、いっしょ」
わかりやすく光っていたのはトパーズだった。そして、首元に埋まっていたのは琥珀。
どちらも俺が集めていた物だ。ラピスと同様に、2つ見つかるとは運が良い。
残念ながら、本当のコアの石英は砕けてしまったが、目的は達成できたし、儲けもある。
「おじさん、終わったよ」
「3人ともすげえな、俺だったら逃げるかねえよ。こんな大きさ……」
声をかけると、恐る恐ると坑道から出てくるおじさんが現状を見るなりそういってあきれた様子となる。
確かに、運が良いでは済ましにくい現状だよね。
「お、この辺も色々混じってるな。持って帰るのが大変だが……」
「あ、このぐらいなら入るかも」
え?となるおじさんを尻目に、俺は砕かれた石英は元より、ゴーレムだった何かを次々に収納していく。
合間にがけ下に向けて先に仕舞いこんだ土を出しておくのを忘れない。
「兄ちゃん、すげえマナの素質があるんだな。容量固定でこんだけ入る収納袋があったら金貨どころじゃないぐらい入ってるぜ?
俺はだからどうしたってぐらいだが、これからは奮発した収納袋ですって言っておいたほうが良いだろうな、きっと」
「あー、なるほど」
実際にそういう容量の大きめの収納袋自体はあるのでそれを買ってあることにしておけというありがたい助言だった。
「ご主人様、もう帰る?」
「おじさんが良ければ一度帰ろうかな」
「おう。このぐらいなら運が良かったってまだ言えるかもしれんな。
ああ、帰りに息子たちも拾っていいか?」
ジルちゃんの問いかけに頷きながら、おじさんの要望通り、山を下りながら息子さん2人の元へ向かう。
途中でいくつかの魔物に出会ったけどみんな大したことが無く、余裕で対処することができた。
そして、見覚えのある坑道へ。
「あ、父ちゃん。もう上がり?」
「おうよ、兄ちゃんたちの運が半端なくてよ」
駆け寄ってくる息子を撫でつつ、おじさんはそういって笑った。
(ああ……いいな、ああいうのは)
仲良く笑いあう親子を見て、俺はなんとなく感傷を覚えた
一人暮らしを始めていたけど、年末年始ぐらいは帰る間柄。
でも、戻るまで会えないと思うとどこからか痛みがやってくる。
「ご主人様、大丈夫?」
いつの間にか、服が引っ張られてジルちゃんがそういって覗き込んできた。
心配してくれているのだ。
「マスター、私たちがいますわ。最後まで、お供しますの」
「ありがとう。戻ったら試そう」
慰めのラピスの言葉に頷き、意識を現実に戻す。何かを話し合っている親子。
そして息子たちが道具を片づけ始め、おじさんはこちらに歩いてくる。
「少し早いけど上がって、今日は終わりにしようってことになった。
一緒に戻るついでに、飯でも食わねえか?」
「良い店を教えてもらえると助かります」
断る理由もないので、6人で山道を降りていく。途中、鉱山ギルドによって報告と清算。
運が良い事に、どれもそれなりの値段で売れた。一番高かったのは金だった。
砕けたゴーレムのコアだった石英も、1つ1つは値段が付くということで今回は引き取ってもらった。
ラピスたちが、取り込むなら割れてないほうが良いといったからだ。
「そんな巨大なゴーレムが……俄かには信じられんな」
念のため、大きなゴーレムがいたことを正確に報告したのだけど、さすがに大きすぎたのかすぐには信じてもらえなかった。
嘘を言ってるとは思わないが、と付け加えられるが気持ちはわからないでもない。
「そういうなよ。俺も見てるし、お前さんだってさっきの買取を見ただろう?
あの大きさのコアだ。少なくとも普通じゃねえってわかんだろうよ。
あー、兄ちゃん、足だったか手だったか、1本だけ持って帰ってこれたろう?」
そこにおじさんがフォローに入り、そしてこちらをちらりと見、ウィンク1つ。
俺はおじさんの言いたいことが分かったので、場所を確認して比較的大きめの塊を取り出して見せる。
「「おお……」」
周囲に広がる動揺の声。収納袋になんとかこれだけは入りましたよ、という演出だ。
「ゴーレムのコアが大きさに従って変わるのは常識だろ?
ついでにこれだ。残りは下におっことしちまったがな」
「なるほど、な。疑ってすまん」
「いえ、俺も相手がこけてくれたから倒せたようなもんですから」
残りの残骸が仕舞われっぱなしなのは内緒にしておこう。
後で少しずつ、拾ったっていうことにしていく予定だ。
「おじさん、ありがとうございました」
「いいってことよ、俺もいいもん見せてもらった」
売り上げから少しでも渡そうとしたのだけど、俺は鑑定したぐらいだからいらないと固辞されてしまう。
「そうさな、気にするなら酒をおごってくれや」
それではこちらの気が済まないので、なおも申し出るとおじさんは頭をポリポリとかいてつぶやいた。
俺はそれに頷き、おじさんたちの家へ。出迎えてくれたおばさんは前のように元気いっぱいで、速く帰ってきたことに最初はびっくりしていたけど、顛末を簡単に聞いて大いに納得したようだった。
「ダンナもたまにそういう日があるよ。持ちきれないからって切り上げてくるのさ」
そう豪快に笑い、おばさんも連れておすすめの場所へ。
ジルちゃんどころかラピスまで騒ぐほどの、良いお店だった。
夜もとっぷりと更け、部屋を灯りが照らし出している。部屋のベッドに腰掛、手に入れた2つを観察する俺。
どうもラピスの時と少し違う様な?
「げんき、ない」
「少しマナが不足気味ですわね。呼び出した後はすぐに石英を入れるのがいいですわ」
両者の意見を耳にしながら、トパーズと琥珀、両方に口づけをしてラピスの時のように光り始めたそれを見つめる。
今度は敢えて願いを言わないでおく。どんな子が出ても大切にしてあげればいいのだ。
他にやましい気持ちは無い。無い……よ? そして光が人型となっていく。
背丈はジルちゃんと同じぐらいのミニマムサイズ。そして……胸元は大きそうだった。
光が段々と収まっていくと、濃い小麦色を感じる服に身を包んだ茶髪の少女がベッドに横たわっていた。
じっと見つめていると、瞼が震える。目覚めるところなんだと思う。
「おはよう」
俺の声に目を開き、きょろきょろとあたりを見回す少女。
短めのツインテールにドジっ子を予感させるたれ目。やはり胸は結構あり、いわゆるロリ巨乳1歩手前といったところ。
それでもジルちゃんは元より、ラピスよりありそうだ。
「ジルはねー、ジルっていうんだよ。おねーちゃんは?」
「ふふ、私はラピス。こちらがマスターの透様ですわよ」
まだぼーっとしているのか、こちらを静かに見つめてくる少女。
その少女に2人が話しかけ、少女も目をぱちくりしながら聞いている。
「ニーナ、とお呼びくださいなのです、父様」
「と、父様!?」
柔らかい声が、爆弾を繰り出してきた。お兄ちゃんぐらいは予想していたけど、完全に外した。
「はわっ……女神様と父様の力で自分は生まれたので父様は父様かなと……お嫌ですか?」
ぐすっと、たれ目に涙を浮かべて問いかけてくるニーナ。断りたくはない、無いけど……。
「他の呼び方だと助かるかなーって」
さすがに父親呼ばわりは外で呼ばれた時に何とも言えない空気になりそうだった。
それに、ニーナほどの子供がいる歳に自分は見えないだろうからね。
「そうなのですか、では……トール様とお呼びするのです」
「あ、うん。じゃあよろしく」
そっと握った手は暖かく、やっぱりみんな……大切にしないといけないなと思うのだった。
なのです!!
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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