JD-027「少女は見つかってしまった!」
「ったく、真面目に掘ってるのが馬鹿らしくなってきたぜ、おい?」
「なんかすいません……」
ゲラゲラと笑いながら、土が除去された後に残った物を鑑定してくれるおじさん。
鑑定と言っても、おじさんの経験上の割り振りだけど十分だ。
「こっちは石英、これは鉄鉱石だな。この辺は混じってるからうまく分解しないといかん。
お? こいつは……ははっ、金だな。間違いない」
地面に座り込み、おじさんは次々と岩の塊のようなやつらを鑑定していく。
その中に、小豆程の小さな塊を見つけ、それが金だという。
「おおー……ぴっかぴか」
「普通に掘ってたら土に紛れてしまいそうですわ」
ラピスとジルちゃんは分類されたそれらをいくつかの袋に分けて入れていく。
この辺は後で換金する予定なのだ。石英はそのままもらっていく予定だけどね。
「この方法だと掘りすぎてしまいそうだな……あんまり掘ると危ないですよね?」
「普通にやりゃあな。ただ、その内に岩にあたるはずだ。大きく広げなければしばらくは良いだろうよ」
既に5回、まるでお絵かきソフトで直線を描いたようにごっそりと掘っている。
壁にはまだ土以外の、もしかしたら?というものが突き出てるけど、下手に掘るとそこから崩れてきそうである。
なので正面の1メートル四方に混ざっていた物だけを今は回収しているのだ。
どういう理屈かはわからないけど、残った鉱石類はそれだけでもかなりの光沢を誇っており、普通ならしっかり掃除しないと取れないような土まで一気に収納できたことがわかる。
なんというか、楽すぎる。
「収納袋にこんな使い方があったとはなあ……でもまあ、普通にマナ任せにしたら小さな壺1つ分ぐらいしか入んねえ。兄ちゃんが別格過ぎらあな」
「ご主人様、すごいの」
呆れたように鑑定を進めるおじさんにジルちゃんが自分の事のようにえっへんと胸を張る。
その鼻先がちょっとだけ土で汚れてるのが可愛すぎてきゅんとくる。
「ジルちゃん、お鼻汚れてますわよ」
「あう。さっきこすっちゃったからかな……」
少女2人がしゃがみこみながら小石やボール大の岩を掴んでいると公園で遊んでいる子供のように見えて微笑ましくも、ちょっとどきりとする。
何がって、ねえ。見てるだけですよ、そんなはずはない、みたいなアレだ。
まあ、通報される先も無いわけだけども。
「兄ちゃん、ちょっと試してみてもいいか? 俺も一応、良い奴が出た時用に収納袋持ってんだ」
「勿論。俺達だけじゃ何が何だか鑑定しきれなかったでしょうしね」
本当に、そう思う。 ラピスやジルちゃんもある程度はわかるだろうけど、鉱石類は正直、自信がない。
石英は一目でわかるからいいけどね。
おじさんは自前のツルハシで正面を少し掘り、転げ出てきた土にまみれた何かの塊を手に戻ってくる。
「さてと、この塊の土だけを……おお? 出来た出来た」
残念ながらただの岩だったようだけど、見事に土は取り除かれ、おじさんの収納袋の中に入っていったようだ。
しげしげと、それが貴重な物であるかのように岩を手に眺めるおじさん。
「細かい掃除にはいいな。こいつは良い話だ。こっそり使わせてもらっても構わないか?」
「いつか誰かが気が付くと思うんで、いいですよ。そういえば、土ってどこに捨てればいいんです?」
俺だけが使える秘密の技術というわけでもないので快諾し、疑問に思っていたことを聞く。
「大体道から下に落とすか、脇に積んでおくな。後から雨で流れていくから一緒っていやー一緒だな」
土砂をそうやって捨ててもいいのか?と思うけど、人の手による土砂なんてのは限られている。
いうほど山を荒らすことはないのだろうか。それにしても、上に登ってきてから1回だけ感じたあの気配は……。
掘り始めてすぐ、何かに呼ばれた気がしたのだ。これがジルちゃんの感じていた物だろうか。
そうなると、ここにはコレクションが1つはあるのではないかと思わせる。
それがこうやって埋まっているのか、あるいはラピスの時のように……。
可能性として高いのは、ゴーレムだと思うけど、闇雲に探しても出会えるとは思えない。
そうしてる間にもおじさんの実験は終わったようで、岩を適当に横に放り投げれて立ち上がる。
「ありがとよ。そうだな……もう少し掘ったら戻ったほうが良いだろうぜ。
さすがに1日で掘るにはこれ以上は深すぎらあ」
「確かに、そうしますよ」
掘ろうと思えばこの調子ならいくらでも掘れるけど、崩れてくるのは確実だろうし、さすがに物が多すぎる。
それでもこの時点でかなりの物だけど……まあそこは運が良かったと言い切るしかないね。
その後も少し作業を進めると、突然入り口に影が差す。
「マスター、曇りの様ですよ」
「雨……降るのかな」
2人の言葉に頷き、荷物をまとめる。ふもとまで結構距離があるから、下手に雨に降られると厄介だ。
足元もぬかるむと危ないしね。
「よっし、これで今日は祝杯か? 良い店紹介してやるぜ」
豊作というか大量にとれたことに自分の事のように喜んでくれるおじさんが先に掘った穴から外に出ようとした時だ。外に、唐突に猛烈な気配を感じた。
「おじさん、下がって!」
「っと!?」
とっさに襟をつかみ、穴の中へ引っ張り込むと、目の前を土色の何かが通り過ぎる。
かなり遅いけど……間違いなく、落石ではなく自分から動くものだ。
「マスター!」
「わかってる! おじさん、ここにいて!」
何はともあれ外に出ないと始まらない。攻撃を食らうことを覚悟して外に飛び出すと、俺の体は自分に迫る何かを感じ取った。
聖剣を横に構えながら上を向くと、迫るのは巨大な……腕だった。
鈍く響き渡る音。
「ちっ」
咄嗟に体を横にずらしたのが幸いして、直撃は回避することができた。
俺の胴よりも太いような腕が受け流されるようにして目の間を通り過ぎる。
動きは間違いなく、遅い。避けようと思えば避けられるだろう速さだ。
「ご主人様、あれ!」
「コアが……黄色い! 間違いありませんわ!」
続けて飛び出してきた2人の声にそちらを向くと、ヒョウタンに手足が生えたようなゴーレムと、その胸の中央に輝く黄色い光。
距離があるが、俺にもわかる。懐かしいと思える感覚は俺のコレクションだと何かが訴えてくる。
なら、やることは1つ。コアを潰さないようにしてこれを倒す!
別に人間型じゃなくてもいいのに手足が2本ずつというのは世界のルールなんだろうか?
まあ、相手にするには考えやすくていいけどさ。落ち着いて眺めれば、動きの速くないこのゴーレムの攻撃はなんとかなりそうなものだ。
「まずは切れるかどうか」
まっすぐ聖剣を構え、切れ味を最大にと念じる。少し輝きが変わったのは気のせいじゃないのかもしれない。
迫る腕、それを回避しながら横から聖剣をたたきつける。
「おいおい、あれを切るんか。兄ちゃんやるなあ」
洞窟の陰から聞こえるおじさんの称賛の声。
その声の通りに、ゴーレムの腕の指に当たる部分がすっぱりと切れていた。
(行ける……!)
ゴーレムに痛みはないらしく、再びこちらに攻撃を仕掛けようと振りかぶるゴーレム。
足を一歩踏み出し、勢いを乗せての一撃を繰り出そうというのだろう。
だけど、それは悪手だ。
「ラピス、足元!」
「お任せくださいな!」
特に専門でもない俺にだってわかる。踏みしめようとする足場かつるつるとしたものになったらどうなるかってね。
ラピスの貴石術により凍り付いた地面に足をつき、見事にひっくり返る巨大ゴーレム。
さあ、解体の始まりだ。
29及び30話にはやらかす気がします。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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