JD-024「山にも……穴はあるんだよな」
鉱山の街に来たならば掘らなくては嘘だ。そんな言葉がどこからか降りてきた俺は手ごろそうな依頼を物色していた。
なにせ、俺達は来たばかり。そんな俺達がいきなり高度な依頼を受けられるはずもないからね。
山以外で採取などに挑んでもいいけど、せっかくだしこの山で受けられる依頼を受けてみようかなと思う。
そうして並んでいる依頼を見ていると、ちょっと不思議な物がある。
坑道への山道の警備、巡回、という物だ。補足としてゴーレム討伐時は討伐者の物、とある。
「ああ、それですか? 普段の魔物以外に、たまにゴーレムが出るんですよ。大体は石英をコアにしてますが、たまに掘れる鉱石類をコアにしてますね。
大きさは小さいものから大きな物まで。毎日いるわけじゃないので巡回がメインの依頼ですね」
小さいとこのぐらいですよ、と示すのは俺の腰ぐらい。大きいと見上げてしまうほどだというからなかなか怖い話だ。
お礼を言って掲示板に戻って確認を再開する。
「お、これならいいな。作業員への物資配達。安いけど急ぎじゃないってことだろうな」
鉱山の様子を見に行きたい俺達にとっては渡りに船という奴だ。運ぶ物資は食料と水、そして着替えか。
「ずっと、ほってるのかな?」
「そうみたいですわね」
さすがに2人が疑問を顔に浮かべている。俺自身も、さすがにそこまでするなら家に戻ろうよ、と思う。
それだけ奥地で行き来が面倒なのか、それとも掘るのが好きでしょうがないのか。
カウンターで依頼を受けることを申告し、運ぶ物をもらえる場所に行くと……普通の住宅だった。
出迎えてくれたのはどこにでも良そうな恰幅の良いおばちゃん。
「アンタたちが運んでくれるのかい? それにしちゃ随分と線が細いねえ。大丈夫かい、結構量があるけど」
最初は笑顔で出迎えてくれたおばちゃんの顔が心配そうなものになる。
確かに、俺も服の上からじゃ力強そうには見えにくいだろうし、2人は少女だしね、無理もない。
「ご主人様は、すごいんだよ」
「こら、ジルちゃん。そういうのは冒険者の秘密ですよ?」
ジルちゃんにとっては俺を馬鹿にされたように感じたのだろうか。
必死に手を挙げてこんなにいっぱい運べる、とおばさんにアピールし、そんなジルちゃんをラピスがたしなめている。
「ラピス、大丈夫。ジルちゃんは俺の事を褒めてくれたんだよね?」
「うん……」
俺は適当に家の脇に転がっていた石をおばちゃんの目の前で収納袋に仕舞いこみながらジルちゃんを片手で抱き寄せる。
ちょっとしょんぼりとしていたジルちゃんもそれで笑顔が戻って来た。
「悪かったね。高い収納袋を持ってそうには見えなかったからね」
「そりゃそうですよ。気持ちはわかります。とりあえず、そのぐらいなら入ると思うので」
玄関わきに積んである物資を見る限りは余裕だ。2、3人分ってとこかな?
「そうかい。旦那と息子2人で掘ってるんだがね。3人そろって採掘中毒とでもいうのか、
掘って儲かるのがやめられないみたいでね。稼ぎがいいのはいいことなんだけど……」
やれやれといった風に愚痴るおばちゃんに笑い返し、さっそくと物資を仕舞っていく。
こうしてると思うんだけど、収納袋があったら街中でも泥棒として取り放題だと思うけど問題になってないってことは何か方法があるか、みんなお人よしってことだろうか。
深く考えないようにしておこう。
「これで全部ですか?」
「そうさ。じゃあ穴の前にある番号はこれだからね、よろしく頼むよ」
おばちゃんから3人のいるという坑道の番号を聞き、山へと向かう。
ごつごつとした岩肌の割に道中の道はかなり整備されている。
山は非常に大きく、いくつかの山が重なっているかのように頂上がいくつもある。
途中で聞いた話によれば掘る場所によって取れる物が結構違うんだとか。
よくわからないけど、こういう鉱山って鉱床自体は同じのが多い気がするんだけどなあ。
化石でも探せば地層の違いとかわかるんだろうか?
掘られている場所以外は緑豊かで、鉱害が出ている様子はない。
歴史の授業を思い出すけど、鉱山街でもそういう暗い空気は見当たらなかった。
技術的に対処してるとかそういうことはなさそうだけど……。
「マスターの思っているようなデメリットはほとんど無いみたいですわ。この世界の生き物は少し地球のそれと違いますの。
そうでなければ石英が胸の中に埋まってる、なんてありえませんよ?」
「そういえばそうか……あれ? もしかして俺以外の人間って……」
魔物と同じように心臓のそばに石英みたいなのがあるのか。そう聞こうとした時だ。
「マスター、何か……来ますわ」
「……下?」
2人が向くのは山道の下側、林というか茂みのある方だ。
警戒する3人の前に飛び出してきたのは、ただの鹿だった。ほっとする俺達に対して、こちらに驚いてどこかに去って行く鹿。
俺が思っている以上に鉱山は自然の中にあるようだ。
「もしかして、近くで獲物が捕れるから帰らないでも良い人がいるのかな?」
「かもしれませんわね。川も流れているそうですし」
途中、いくつもの坑道と、そこを行きかう人や馬車とすれ違いながら番号を確認しつつ目的の場所へ。
途中、土色の謎のゴブリンに出会った。この土地ならではの相手だろうか?
森からやってきたのか、山の上の方から降りてきたのかはわからないけど、さくっと倒しておく。
そうしてたどり着いた場所は賑わうところから少し離れた、馬車の通りにくい部分だった。
「番号、あったよ」
「お、本当だ。穴は結構深いな」
高さは俺の2倍ほどで、手を伸ばしてジャンプしても届かないなといったところだ。
いや、今の俺なら余裕で届くか。ともあれ、親子3人で掘ったとするとなかなかすごい大きさだと思う。
今のところ、中は真っ暗なので相当奥にいるようだ。
足元に気を付けながら収納袋から松明を1本取り出して灯りとする。
火打石はラピスやジルちゃんのお手の物だった。さすがである。
魔物はいないと思うけれど、念のために注意しながら進むことしばらく。奥の方に松明じゃない明かりが見えてくる。
「誰だ!」
そこから聞こえる問いかけの叫び。
声の感じからしてお父さんのほうかな?
「奥さんに頼まれて食事とかを運んできた冒険者です」
魔物と思われてはたまらないので離れたところで立ち止まり、わかりやすくいくつかの物資を足元に出してみる。
明かりの向こう側から顔を出す男性。顔は薄汚れているけど、元気そうである。
「おお? そいつはありがたい。おい、飯にすっぞ」
奥の方から2つ声がする。間違いなく、息子2人だろう。
手招きされ、少し広くなっている場所へと向かってそこに預かった荷物を出していく。
息子2人はその光景に驚いた顔をしているけど、お父さんの方は真面目な顔だった。
ラピスとジルちゃんは鉱山という物に興味があるのか、その間も壁を見てはペタペタと触り、落ちている石を拾っては光で照らして眺めている。
「お嬢ちゃんたちは……術も使えるのか」
「ええ、オークぐらいなら余裕ですよ」
場に不釣り合いこの上ない少女2人への感想としてはマシな物だろうと思う。
貴石術が使えるから戦力として一緒にいるのだと予想できるのだから、このお父さんも結構戦えるのかもしれないな。
息子2人は「オークを?」と驚いたままだけど。
「これで終わりですね。伝言ぐらいは預かりますけど」
「助かった。ちょっといい感じの場所に当たってな。掘れるだけ掘ってやろうと思ってたらこんなになってた。かーちゃんに心配かけちまったなあ」
頭をポリポリとかき、反省している様子のお父さんに少し気まずそうな息子2人。
俺はそこまでするいい場所とはどんなものか、当然気になった。
「高いのでも掘れたんですか? 宝石とか」
「いんや、普通には売れねえ。コイツさ」
そういって差し出してきたのは半透明の黄色、あるいは茶色い塊。
どちらかというとあまり硬そうに見えないそれは……琥珀。アンバーとも呼ばれるアレだ。
コレクションに持っていたアンバーを思い出しながら、俺は奥の方へと視線を向ける。
ここにいるのかな、と思いながら。
30話ぐらいに透君が暴発します。
いや、させられるのかな……。
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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