JD-022「少女が飲むのは健全な液体です」
心が清らかな人なら大丈夫です(遠い目
「ひどい夢を見たような……いや、夢じゃないのか」
見慣れてきた天井。ぼんやりしながらも痛む頭に手をやろうとしてそれに気が付く。
両手をそれぞれ、抱きかかえられていることに。妙に温かいからそうだろうなとは思っていたのだ。女神様も何か言ってたしね。
顔を向ければ、ジルちゃんとラピスがそれぞれに薄着の寝間着で抱き付いている。
寝顔は……可愛い。白い肌、さらさらとした髪。小さな瞳にツンとした唇。
指でつつけば癖になりそうな柔らかさに違いない。
細い首に、小さな肩が続く。中が透けてみそうな素材の寝間着からはその2人の作り物めいた触り心地のよさそうな肌が垣間見える。
視線をそらすことができず、そのまま下に向かい2人の胸元に……って。
「いかんいかん。寝てるときにそんなことを。……ん?」
色々と手遅れな発言をした気がしたけど、きっと気のせい。起こさないようにそっと2人の腕から逃れる。
ちょっと、いや……かなりもったいなかった気がする。
痛む頭、多分二日酔いに顔をしかめながら、壁際にある水差しから温い水を飲むとひどく体に染みわたる気がした。
「女神様からの肉体も二日酔いになるんだな……」
そんな感想を漏らした声もお酒臭い気がするが気のせいと思いたい。
今日からは何をしようか、と考えたところで気が付いた。女神様に他のコレクションの居場所がわからないかということを。
(でもなあ……天然っぽいしなあ)
女神様の言動を思い出し、自力で何とかする方が早いのではないかと思い直した。
次に出会えた時には聞くだけ聞いてみようと考えつつ、今日という活動を始めるべく2人を起こす。
そして、朝食の後、ギルドへ。
「おはようございます、トールさん。報酬、出てますよ」
本人も昨日しっかり動いていたにも関わらず、元気な姿でお姉さんは俺達を迎えてくれた。
見渡せば、同じように参加報酬を受け取ったのかどこかにこやかな冒険者達。中にはけが人もいるが、それでも十分な額が稼げたのだろう。
今回は前よりだいぶ規模が大きかったらしいから、報酬もかなり変わっているのだとか。
「トールさんのパーティーはトールさんがまとめてでよかったですよね? こちらです」
そういって渡された報酬は、かなりの物だった。まあ、3人分だしね。
「実はオークキング1匹分の報酬が浮いちゃってるんですよね。名乗り出てこないから誰だか……あれ、青い髪……」
「その方はお姉様ぐらい背の高い方と聞いていますわ。たまたまですわよ、たまたま」
じーっとラピスを見るお姉さんに、さらりと流すラピス。
やっぱり、女の子は生まれながらに女優であるとまじまじと感じた。
「ですかね。それでもトールさん達は他よりだいぶ長く戦ってたのにあまり報酬に差が出なくてすいませんね」
「いや、これでも十分ですよ。俺達、途中で結構採取もしてるから大丈夫です」
かなりの勢いで謝られたがこちらとしてはラピスのことでつっこまれるほうが厄介だ。
周囲から報酬の入った袋の大きさに視線が来ているような気もするが……。
「マスター、3人の共有財産ですから……ポーションでも買いにいきましょう」
「ジル、新しい靴が欲しい……かも」
さっそく、2人が周囲の視線をやわらげるべく3人の分というアピール。
ただ、美少女2人と一緒であるということに1部からは変わらずの視線、だけどね。
今日はさすがに依頼を受ける人は少ないようで、街にもどこかのんびりした姿で歩く人たちが見受けられる。
俺達もいろいろな店を回り、必要な物資を買い込んでお昼。
「2人は体は大丈夫?」
「うん、げんき、だよ?」
「マナはプールしてある魔物から毎日補充できますから今のところは問題ないですわ」
俺と同じペースで戦ってくれた2人を気遣うと、2人とも問題ないという答えが返ってくる。
俺としては本当にそうなのか少し心配ではある。
あ、そうだ。
「そういえばさ、聖剣がパワーアップしたんだよね」
そういって、2人に夢のような場所で女神様に言われたことを伝える。
切れ味に関してはあまり反応が無かったけど、マナ補充の部分では2人ともしっかりと反応して来た。
「興味深いですわ。マスター、試してみましょう」
「ジルも、ジルも」
2人にせかされ、まだ片づけられていない木箱の積みあがった区画の中へ。
宿に戻るというのも大げさだし、襲われるかもしれない外でいきなり試すのもね。
「じゃあラピスから……こうかな? んんー!」
教わったままに念じてみると、聖剣(短)の先端に力が集まるのがわかる。
腰のあたりからじわじわっと何かが伝わり、先端からどろりとしたものが飛び出た。
(女神ぃぃぃいい。どうしてこんな液体なのさああ)
思わず心で叫んでも許されると思う。
「きゃっ! これがマスターのマナ……」
両手を出して受け止める姿勢だったラピスの手の中に自ら光っているマナの液体らしきものが飛び出ていた。
それをラピスは水あめでもなめとるようにして口にすると、ごくんと飲み干す。
「ど、どう?」
「なんでしょう、不思議な味です。果物を丸ごとかじってるような……でも、美味しいですよ」
恐る恐る聞いてみた俺に、ラピスは妙に満足した表情で報告して来た。
そうか、まずいわけじゃないのか……じゃあいいのか?
「次はジルだよ?」
「うん。じゃあ……うっ!?」
ラピスのように手を出して待ち構えていると思い込んでいた俺が聖剣(短)からマナの液体を出すと、ジルちゃんはそのまま聖剣を掴み、口でそのまま受け止め、飲み込んだ。
「……ジルちゃん?」
「? おいしい、よ? マナもいっぱい!」
(喜んでくれるのならいいけど、いや、良くない!)
ラピスの絵面も絵面だけど、ジルちゃんの破壊力は相当な物だ。
これなら服の下に手を突っ込んでいる方がまだましと思うほどに。どっちがいいのかなんてのは本当にわからない。
でも言い訳が効きそうなのは……どっちもダメか?
その後、もう少し欲しいという2人を説得し、聖剣の切れ味変化を確かめるべく外へ。
あんなに襲撃の際に倒したのに、森に入るとちょいちょいとゴブリンがやってくる。
「おおー」
「切れずに吹っ飛んでますわね」
切れ味を落とした聖剣で切りかかると、今回はきれずにこん棒で殴ったかのようにゴブリンが吹っ飛んでいき、沈黙。
どうやら威力は相応にあるか、斬れるときと同じぐらいダメージが出ているらしい。
便利だね……うん。これなら飛んできた何かをはじくということも気楽にできそうだ。
「二人とも、いいかな?」
「はい、なんでしょうマスター」
「?」
実験を終え、街道に出てきたところで2人を呼び止める。吹く風が心地よく、俺の気持ちも落ち着けてくれる。
「数日過ごしたら、新しい街に行こうと思う。後、3人目も探しにいかないとね」
そう、女神様に頼まれていることもあるし、散らばってしまったコレクションも回収しなくてはいけない。
問題はどこにあるのかといったことや、3人目が増えて俺が耐えられるかと言ったことだけど。
2人の答えは、承諾。
そうしてトスタの街がいつもの賑わいを取り戻す頃、俺達は別の街に行くという商隊の護衛依頼を受けて街道に出ていた。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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