JD-021「とおるは ろりこんに なって しまった」
「ぱんぱかぱーん! 無事の帰還、おめでとうございまーす!」
「……え?」
目の前にメロンが2つ踊っていた。もとい、出会ったときと同じく妙に薄着の女神様が目の前でポーズをとっていた……あれ?
「俺は……そう、ラピスの貴石解放をして突撃して……」
「そうですよー。がっつり戦ってました!」
ひどく陽気な女神様を横に置いておいて、思い出しにかかる。
オークキングが複数、その時点でこういうリーダーは1匹だけという自分の勝手なイメージとは大分かけ離れているのだけど、オークの数はかなりの物だった。ただ、逆に言えば小細工なしの真っ向勝負だったのだ。
冒険者も兵士も、ほとんどがオークの展開してきた森に向かい、貴石術や弓矢が遠距離からオークを襲う。
「そんな棒きれで!」
俺もまた、ラピスを追うようにして集団に突撃する。後ろにはジルちゃんが付いてきており、短剣をオークの急所へと的確に打ち込んでいる。
段々と倒れたオークが邪魔になってくるが、それは相手も同じ。動きにまごついたところを、動きの良い人達が仕留めていく。
ラピスはその一人であり、オークを蹴り飛ばすように跳ね、空中で氷の槍をいくつも生み出しては投げ、突き刺していく。
やってることそのものは少女の時と同じだけど、その威力、速さは全く違う。
時間制限のあるヒーロー物を見ているかのように、流れるような動きで1秒も無駄にしないという気持ちがあふれ、倒れるオークは増えていく。
「そろそろ終わり……これで打ち止めですわ!」
叫び、ひときわ大きなつらら状の氷が生み出され、オークキングの1匹へと飛んでいく。
「ジルちゃん」
「うん。とげとげいっぱい……出ろ!」
つららが相手に当たり、見事にその命を刈り取った時、時間切れとなってラピスが煙に包まれる。
俺はそれを見越してジルちゃんに貴石術による大げさな攻撃を別方向に放つようにお願いしていた。
耳を貫くような音と、目立つ透明な石の槍たちがラピスのいる場所とは別の場所に一度に発生し、注目を集める。
俺はその間に収納袋から毛布を取り出し、ラピスを包む。
「すごかったよ、ラピス」
「お役に立てたなら幸いですわ、マスター」
疲れた様子の顔だけ出して、微笑むラピス。俺もそれに笑顔で答え、そのまま森を迂回するようにして一度街の近くまで戻り、彼女を物陰に横たえる。
「貴石術は使えませんけど、動くぐらいなら大丈夫ですの」
「そうか……無理はしないようにね」
一人にするのも、それはそれで問題と思った俺はそのままラピスを引き連れてジルちゃんの元へと戻る。
そしてそのままいつもの3人が合流したと思わせて戦いを続け……。
「そうだ。それで無事に戦いは終わって祝勝会に参加して……たぶん散々飲んで、ぐでんぐでんになってそのまま寝た……はず?」
「はい、合ってますよ。今も半裸の少女2人を両脇に抱えて本体は爆睡中です」
何でもないように言われてようやく気が付く。ここがこの世界に飛び込む直前にいた場所と同じだと。
「心配しなくても、外じゃ1秒にも満たない時間ですから魂がこっちに来てることを誰も気が付きませんよ」
「ならいいけど……それで? こうして会えたってことは事態は好転してるのかな?」
かなり力が失われていたということはこうして顔を出す余裕も恐らくはほとんどなかったはずだ。
「ええ、そうです。無事に守り切っていただいた上に、魔物から人間側に石英が大量に行きわたりました。全体からすると大した量ではないですけどね? それでもこうしてお話しする余裕が少し、出来ました」
「それはよかった。目立ってわかりやすい相手がいないからどうしたらいいか悩んでたんだよな」
元気そうな女神様の姿に俺もうれしくなるが、ふと気が付いたことがあった。
メロンが2つ揺れているけど、前ほど気になってないな、と。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、女神様は無駄にメロンを揺らしながらさらに口を開く。
「押されてるっていったのはこういう時の事なんですよ。僻地では守り切れてない町や村がそこそこありまして……。だんだんと人間が安心して住める地域が減ってるんです。
だから、旅先で今回のように防衛の機会があったらぜひ参加してください」
「勿論。見捨てるつもりもないし、何より稼ぐにはちょうどいいもんな」
真剣な顔の女神様に俺はすぐさま頷いた。今回の戦いでも細かい報酬は後だけど、参加費用としてお金も出てるし、途中で回収した石英や素材も結構な量だ。
ゲームのように言えば襲撃イベントをこなした後なわけだ。
「そんな透さんにプレゼント、とは少し違いますけど、聖剣の力が少し戻ったのでご紹介に来ました。お礼もかねて、ですけどね」
「おお? 特に見た目変わってないから変わらないとかと思ってたよ」
そういえば聖剣の力が失われてるって言ってたね。今の状況でもかなりチート武器なんだけど……。
「はい、見た目はたぶん変わらないかなと思いますよ。1つは、切れ味が任意で設定できます。最大は強化した部分まで、最低はほとんど切れないまで。たぶん、切れすぎて困ってませんか?」
「確かに……武器を受け止められないんだよね、逆に」
女神様の問いかけに、最初のオークキングとの戦いを思い出す。
切れ味が良すぎて、武器を受け止めるとそのまま切れて上半分が勢いは失われてもこちらに来るので危なくて仕方がないのだ。
「そんな時に切れ味を落とせば、ばっちりです! 切る時には切れ味を戻せばいいです。
透さんの気合や叫びで勝手に調整されますから便利ですよ」
女神様はそういって、手にしていない聖剣を振るうふりをしている。
ちょっと面白い光景だ。メロン2つ、もとい豊満な胸がすごい揺れるけどね。
……あれ、やっぱり。
「もう1つはマナ補充です。透さんの持っているマナからあの子たちに直に補充できますよ」
「こう、補給ビームみたいなのでも出るの?」
いつの間にか手に取っていた聖剣を杖のように突き出しながら聞いてみると、女神様は首を横に振ってから笑顔になった。
「短い状態にして先の方から液状化したマナが出るのでそれを」
「なんでそんな形なんだよ!」
遮り気味に叫ぶけど仕方がないと思う。短くなった聖剣は15から20センチ弱。
そんな先端からってどう考えてもあれでしょ? ねえ!?
聖剣(短)から出てくる液体をジルちゃんたちに飲ませろと?
あ、なんか言葉にしたら聖剣(短)を咥える2人が幻視されて慌てて首を振った。
危険だ、危険すぎる。
「何でと言われましても……聖剣がいわゆる媒体と言いますか、出力先のデバイスなので……」
「あー……じゃあ、石英を入れるみたいにお腹じゃ駄目なの?」
俺が指摘すると、女神様はきょとんとした顔をしてから、ポンっと手を叩いた。
「ああ! たぶん、それでも大丈夫ですよ。要は出てきたマナを体内に入れればいいので」
だったらそう最初から言おうよ……というツッコミはもう言葉にならなかった。
「ともあれ、その2つです。娘たちをもっと仲間にして、強くなっていけば力も戻ってきますのでお願いしますね」
「まあ、言われなくても2人とも可愛いからいいけどさ」
実際問題、これで男が仲間だったら少しばかり、いや、かなりむさくるしいと思う。
それでいうと女の子でよかったと思うわけだけど…かなり、理性との戦いが続いている。
「んー、あの2人、それに今後の娘も基本的に貴方のですからね。合意の上なら何にも問題ありませんよ?」
「何が、何が合意なのさ……」
どうやら葛藤が顔に出ていたらしく、そんなお言葉を頂いた。
なおも女神様は何かに気が付いたように顔を笑顔にし、自分の胸を強調するようにして腕組みする。
俺の視線が思わずそこに行くが、それはどちらかというと……。
「ほら、視線にいやらしさが無くなってます。透さん……。たぶん、貴方……娘たちの成長後ぐらいまでがゾーンの上限になってますよ?」
「え……」
女神という超常の存在にまで指摘されてしまうという事実に俺は固まり、そして時間が来ました!と叫ぶ女神様に返事も出来ず、気が付けば意識は暗転。
(あれ……俺……)
わかっていても認めたくない自身の性癖の変化に、困惑のまま俺の意識は体に戻っていくのだった。
とおるは ろりこんに なってしまった!(元からという説
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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