JD-020「防衛戦のシリアス? あいつならどこかに逃げたよ」
少し増量したんですが、そこが本体な気がしないでもありません。
翌日も朝早くから鐘の音が鳴り響いた。
夜の間も襲撃が無かったわけではないようで、疲れた様子で街に戻ってくる人もいた。
彼ら曰く、前の時にはオークの奇襲が夜にあって怖かったが今年は無かった、とのこと。
村の近くで倒したオークキングが少しは影響を及ぼしているんだろうか?
聖剣はそのままでいいとして、街の門へ向かいながらも防具などに不備が無いかなどを互いに確認していく。
「ご主人様、変なところ、ない?」
「んー、無いよ。ジルちゃんは今日も可愛いよ」
くるりと回り、聞いてくるジルちゃんにほっこりしながら笑顔で答える。
ジルちゃんはえへへっと笑って飛び跳ねたと思うと、そばにいたラピスの後ろに回り込んでこちらにぐいぐい通してくる。
「どうしましたの、ジルちゃん」
「ラピスも、見てもらうの」
どうやら自分だけ褒められるのはいけない、と考えたらしく俺の前までラピスを押し出してきた。
「あー、その。マスター?」
「ラピスもいつも通り、綺麗だよ。今日もよろしく」
もじもじと照れているラピスに本心からそういってジルちゃんにするように頭を撫でる。
気合十分、準備完了だ。気のせいか、近くにいた若い女性も笑って……って受付のお姉さんだ。
「こんな場所にいていいんですか?」
「今から持ち場に戻るところですよ。途中でお見かけしたので」
よく見ればお姉さんも戦える格好だ。腰には短剣が何本もぶら下がっている。
「では、行ってきます」
「はい、いってらっしゃいです。ご無事をお祈りしていますよ」
既に戦いの始まった街の外へ、3人で駆け出す。
今日は野犬が少ないように思えた。最初からゴブリンで、たまに野犬というところだ。
外にある柵にも汚れが目立ち、戦いの規模を物語っている。
「ご主人様、オーク」
「やっぱりオークが来たか」
ひたすらゴブリンを切り裂いて血で汚れる様子もない聖剣に驚きながら、ジルちゃんの声に、森を向いて見つけた姿を睨む。
いくつかの人影は全てやや灰色がかった体躯。間違いなく、オークだ。
(つい先日、親玉の1人を倒されたというのに元気なことだ)
内心のつぶやきが伝わったのかと思うほどのタイミングでオーク達は吠え、俺達の方へと向かってくる。
だが……ただ向かってくるだけならオークは既に敵ではない。
貴石術が足や手を貫き、あるいは聖剣で構えた武器ごと切り飛ばす。
「2人とも、マナはよく考えてね」
「まだ大丈夫ですわ!」
「このぐらいなら、平気」
散発的ながらも、ゴブリンの中にオークが混じることで防衛側にも変化が出てきた。
オークはやはり怪力が苦労するようで、けが人が増えてきたのだ。
倒すには倒せるが、被害も出るといった感じだ。1日目と比べ、全体的にやや疲労や怪我が目立っているような気がする。
「マスター、左です!」
「っ! やらせませんよっと」
そんな中でも俺達は1日目同様に戦いを続けていた。
2人のマナ回復のために貴石術を節約するシーンはいくつかあったものの、それでも聖剣と俺の体力の前には問題がない。
これを倒せば終わりというのが出てくるなら、貴石解放も選択肢になるのだけど……今のところは短期間の無双より長期的に見たほうがよさそうである。
オークはたまに1匹かと思えば10匹同時に出てくるときもあったりとかなりまとまりのない状況になっている。
それが無数のゴブリンの襲撃の合間に入ってくるのだからなかなか大変と言えば大変だ。
オークキングという統率する者がいなくなって、自由に動いてるのかもしれない。
雄叫びを上げて、無造作に突っ込んでくるオークの前に再び立ち、その攻撃を誘発させる。
地面が揺れるかのようにたたきつけられたこん棒を持つ腕、そして無防備な首元へと聖剣を突き刺す。
僅かな痙攣の後、オークはそのまま草原に倒れ伏す。
森の奥で出会ったオークの方が手ごたえがあったような気がしたが、今は別の話だ。
木々の隙間から続々と見えるゴブリンやオーク達。野犬も、そしてたまにだけどウサギだって襲い掛かってくる。
街は、まだまだ平和からは遠いようだった。やや不安を残しながらの2日目はそうして過ぎていく。
「ちゃんと休息は取っているか? 昨日から随分と頑張っているようだが」
「ありがとうございます。やれるだけはやっておきたくて……」
こちらを心配してか、どこからか手に入れたらしい干し肉を差し出しながら声をかけてくるもう壮年に近そうな歳の冒険者。
食事も少しずつしかとってないから食べてないのかと思われたようだ。ありがたく受け取りながら齧ると、お腹が膨れる以外にどこか気持ちがしゃきっとしてくる気がした。
ふと見ると、彼のそばにも同じような年ごろの男女が3名ほど。というか、あのおばちゃんって古着屋のおばちゃんじゃないか?
「そうか。俺達も住む街のためだからな、無理のない範囲でと思ってはいるが……。今日はまだオークの親玉が出てきていない。例年なら2、3匹は出てくるのだが……」
(オークキングは1匹だけじゃないのか? それもそうか……)
ありがたい情報にお礼を言い、村で1匹倒したことを告げる。ゴブリン交じりでその意味では強敵ではなかったということも。
「そうか。そうなると……機会をうかがっているだろうな。明日、結界の再稼働前にでかいのがくるだろう。覚悟しておけよ」
「はい!」
肩をぽんと叩かれ、仲間の元へと戻っていく冒険者のおじさん。
「あの人たちのためにも、頑張らないといけませんわね、マスター」
「うん。早めに宿に戻ってマナの補充をしようか……」
「だいぶ減っちゃった……」
結界の再稼働まであと1日。実際には三日目のいつ再稼働になるかは機材の調子次第らしいので何とも言えないらしい。
それまではなんとか頑張らないと、と思いながら宿での時間を過ごし、夜を迎える。
遠くに戦う人たちの音を聞きながら、寝ようとするのだがなかなか寝られない。
興奮しているのか、どこか疲れすぎているのか。
「ご主人様、一緒のベッドでもいい?」
枕を持っていつの間にかジルちゃんが佇んでおり、寂しそうな表情でこちらを見ていた。
「ん……いいよ」
俺に断る理由は無い。いや、薄着のジルちゃんがその方面では強力な攻撃を放っているのだけど、それを理由に断ることはできないわけで……。
「ずるいですわ。私もマスターと!」
そのやり取りが耳に入ったラピスもまた、俺のベッドにもぐりこんでくる。
左右を挟まれ、俺はあおむけ。人間を再現しただけ、と言われても2人とも美少女(幼女気味)である。
かなりドキドキして寝られない……かと思ったが誰かがそばにいるということで安心したのか、いつの間にか意識は遠のいていた。
翌朝、鐘の音が鳴り響くが昨日までと状況はやや違った。
「あれは……」
森と草原の境目に立ち並ぶ灰色の体躯たち。オークの集団だった。
襲い掛かってこようとせず、何かを待っている。街の防衛側もまた、これから起こることへの予感に険しい顔で待ち構えている。
そして……森の奥から聞き覚えのある咆哮が響いた。
オークキングだ、しかも複数。俺はそれを見て、切り札の1つをきることにした。
「ラピス、こっちへ」
「ええ、マスター」
短い呼びかけに短い返答。でもラピスは全てお任せしますとばかりに素直に俺の手招きに従う。
向かう先は街の門に近い物陰。宿からじゃ距離も時間ももったいない。
元々はこの戦いのための物資が置かれていたが、既に中身は使われていて空の木箱だらけだ。
ジルちゃんも引き連れてこんな場所で何をするかと言えば決まっている。
(わざわざ誰もこちらに来ないとは思うけど……なあ)
「ラピス、声……抑えられそう?」
「難しいですわ。自分だと手を放してしまうかも……マスター、お願いします」
ごくりと、自分の喉が鳴るのがわかる。誰かに見られるかもしれないのでスカート部分をたくし上げるのはやめておき、どうするかと言えば俺が直接服の下から手を突っ込む。
そして、声が漏れないように左手でラピスの口元を出来るだけ優しく塞いだ。
「(コクン)」
無言でうなずき、どうぞと目で訴えてくるラピスにこちらも頷き、服の中で右手を動かし、差し込む。
いつもと少し違う気がする手ごたえと共に、ラピスの恐らくは光っている魔法陣部分に沈み込む聖剣(短)。
「んんーーーっ!!」
声を出せないからか、ラピスが以前よりも身をよじる。抑えている手に鼻息がかかり、手にも思わず声を外に出すべく動く口の感触が伝わる。
女の子の口を押えて声を出なくさせ、もぞもぞと片方の手で動かす。
他に貴石解放の方法ないのかな、と本心から思うシチュエーションに誰かに見られていないかドキドキしつつ、ジルちゃんの警戒に任せることにして俺は俺のやれることを、ということでさらに聖剣を差し込んでひねる。
大き目のくぐもった声と共に、光。
「はぁ……もう、マスター。もうちょっと優しくしてください」
「努力はするよ……うん」
前よりも正直、俺のダメージは大きい気がするけど、貴石解放は成功だ。見られて……ないよね?
「よし、行くぞ!」
「とつげきー」
「はいですわ!」
恐らくは結界防衛戦最後の戦いが、始まる。
光って変身とかいわゆる魔法少女の変身シーンと同じはずなのに
なぜこうもアレになるのか……愚問ってやつですね!
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




