JD-018「それがないと……溶けちゃううう!」
「はい、依頼完了ですね。ご無事で何よりです」
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいです」
トスタの街、冒険者ギルド。いつものカウンター、いつもの場所でお姉さんに依頼の報告。
薬師のおじいちゃんを家に送り届け、完了報告にやってきた時には日も暮れようというところだった。
なのにお姉さんはいつも通りに笑顔。というか彼女は1日中いるんだろうか?
まあ、深く聞くのもなんだろうし、いっか。
「トールさん、出来ればでいいですけど、来月まではいてくれるといいなと思います」
「来月? 何かお祭りでもあるんですか?」
珍しく、具体的に期日について言って来たお姉さん。俺の疑問に、ちょいちょいと指さす先にはってなんかこのパターン前にもあったな。
カウンター脇にあるボードに書いてあるのは、告知の様な文章。
「えっと……結界装置入れ替え日は6日後です? 入れ替え……?」
「そうなんです。2年に一回、装置を入れ替えるんですよ。
石英からマナを取り出すときにどうしても負荷がかかるので放っておくと壊れるんです。
入れ替えの時は街の結界も消えますし、再稼働まで三日はかかるんですよ。
だからこの時には冒険者総出で国の兵士も必死ですよ」
なるほど……結構大変な話だ。街道にまで魔物が出てくるってことは……。
「ちょっとそこまで採取依頼、とはいかなくなるのですわ」
「ええ、その通りです。その分稼ぐ機会ですよ。 よかったらご参加お願いします」
ラピスのつぶやきにお姉さんは頷き、1色刷りのチラシめいた物を1枚渡してきた。
はんこや版画に近いのかな?
(稼ぐチャンス、か。その通りと言えばその通りか)
恐らくはここぞとばかりに魔物が街を狙ってくるのだろう。魔物にとって人間の街は滅ぼすべき対象なのは女神様の話からしても間違いない。
急ぎかどうかは別の話であろうが、それに関係する依頼に俺達が参加しない理由はないね。
お姉さんと別れ、壁際の依頼書の集まりの前へと向かい、依頼を物色する。
色々あるが、どれもなんとかできそうだ。今は夜になるところだから数も少ない。
本番は明日、かな。
「今日は早めに寝て明日からに備えようか」
「ごはん、食べる」
「あらあら」
お腹を押さえるジルちゃんに笑いながら、3人で宿へと戻り、追加分の宿泊料を払う。
ちなみに不在の間も安く部屋を抑えておいてくれるから非常に助かっている。
体はともかく、精神的には疲れていたようでぐっすりとその夜は寝てしまった。
──翌日。
朝の賑わいに騒がしいギルドの中で、改めて依頼を物色していた。
(薬草採取が多いな……じいちゃんに顔を出すか)
やはりというべきか、今のうちにという間引きの依頼のほか、戦いに備えての物資確保の依頼は倍近くになっていた。
今のところ、どれも受けるのに問題は無い。
「当日まで、しっかり仕事しようか」
「ご主人様と訓練、たくさんする」
「マナ補充用の石英もしっかり集めておかないといけませんわね」
2日働いて1日休む、と繰り返す形にして俺達は手ごろな依頼をガンガン受けていくことにした。
まずは薬草採取に関して、おじいちゃんに話を聞きに行くことにした。聞きたいこともあったしね。
「じいちゃん、いるー?」
「まだ調合は終わっておらん……ん? おまえさんたちか」
作業中だったのか、前掛けをしたままのおじいちゃんが迎えてくれた。こちらを見るなり、笑って手招きする。
「こうやってポーションが出来るのですね」
「おおお……」
2人はおじいちゃんの作業場所に声を上げ、おじいちゃんもまんざらではなさそうだ。
どっこいせと声を出して座り、すり鉢でを抱えるようにしたところで動きを止めた。
「それで、何用かな。3人も集めてくれるのか?」
「その予定。ちょっと聞きたいこともあってね」
言いながら俺は部屋にある採取済みの薬草、ギヨモを指さす。
それらは表面がきらきらしており、ポーションに使えることを示している。
そこで俺はこれまでに採取した中で、ジルちゃんがそれはまだ早い、と言ってくれたものを取り出す。
収納袋からだから、まだ新鮮なままだ。
「ふむ、そいつはまだ使うには早いな」
「ジルちゃんもそう言ってたんだけど、これって地面に植えておくと何かを吸収してこうなるってことでいいの?」
同じことを言うおじいちゃんに向けて差し出し、開いた手できらきらしてるほうを指さす。
おじいちゃんはそれぞれを交互に見て、頷いた。
「そのはずだが……わざわざ早い奴を抜いて畑に植えるとかいったことはしたことが無かったのう……。恐らくはマナを吸い上げて石英の結晶のような物を表面に作り出しているんだとは思うぞ」
「なるほど……」
野菜の代わりに薬草栽培、というのは不可能じゃないとしてもまだ未知の世界、か。
(ん? そういえば……女神様じゃなくても常識かもしれないな)
「おじいちゃんが知ってるかはわからないけど、疑問があってさ」
「悩むのも若いもんの特権とは言うが、年寄りにわかることかいのう」
笑うおじいちゃんに、1つ石英の塊を取り出して見せる。
その間ジルちゃんもラピスも部屋の中の物に夢中だ。よほど珍しく感じるらしい。
「大きさ的にはオークかの? それで?」
「魔物が溶けていく条件がわからないなと。石英を取るとすぐにってのはわかるんだけど、取る前に溶けていくやつと、しばらく大丈夫な奴とがいるんだよね」
そう、ニッパの戦いのときもそうだった。
多くはそのままはさみを切り取った後に消えていったが、そうでは無い奴もいた。
あるいは、死んでない奴は消えないというのもわかっている。
「昔、物好きが試した話を聞いたことがある。ゴブリンを捕まえて、少々残酷だが色々試したとな。
まずは死んでいない物は溶けぬ。次に、石英を取り出した物は溶ける。
では後はどうかというと、石英を取り出せる状態であればしばらくは大丈夫で砕けている、取るのが難しい状態だとそのうち溶けていく、というのがわかったそうだ」
「まるで第二の心臓だ」
おじいちゃんの説明は淡々としたものだったが、だからこそすんなりと頭に入って来た。
つまり、ニッパの時には直前にラピスを貴石解放したため、スキルがラピスの物になっていたので
石英の数が少なく、そのまま溶けていく状態の相手が多かったわけだ。
「第二の……ま、その通りというところか。 満足いったかな?」
確かめるような視線に頷いて、立ち上がる。
さっそく依頼をこなすために、だ。
「ではまた後程」
「またね」
2人も挨拶をして、再び街へ。やることは決まったし、聞くことも聞いたので後は仕事をこなすだけだ。
森の中の薬草採取やゴブリン退治、再びやってきたらしいニッパの退治等だ。
貴石解放をしなくても十分チート気味な俺達3人は普通の冒険者では無理なペースで稼ぎ続けた。
初心に返って、とはちょっと違うかな?
こうして印象付けておけば、結界装置入れ替え当日に好きに前に出ても文句は出ないのではないか、と思ったのだ。
一般的な冒険者が何か月もかけてこなす量をほぼ1週間で終わらせた俺達はその分、成長していると思う。
俺もどんどん聖剣に石英を飲ませているし、出来るだけジルちゃんとラピスにも入れている。
最近、恥ずかしがる感じは少し減って、楽しんでる風な気配がするのは良い事なのか悪い事なのか……。
目を閉じて耐えるようにするのと、潤んだ瞳で赤らんでこちらを見てくるのと。
俺のそういう部分にどっちが効くのかと聞かれたら答えは出せないね、うん。
どっちも危ない、危ないのさ。
ともあれ、気が付けば当日。数日前から街のあちこちに兵士や冒険者が歩くのがわかり、みんな本番に向けて気合が入ってるなと感じる。
「2人とも、準備は良い?」
「うん。だいじょうぶ」
「予備の武器も薬草類も用意しましたし、ね」
街のあちこちで今の俺達と同じように準備の確認をする人でいっぱいだろう。
そして、街に鐘が鳴り響く……装置の入れ替えの合図だ。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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