JD-016「野外でのSOI利用にはご注意ください」
てんどーん。
「ご主人様、いいよ?」
街道からすぐの、人が一人十分に隠れるほど大きな木の陰。葉っぱや枝の隙間から差し込む陽光がジルちゃんを照らす。
日焼けする様子の無い白い肌が息をするたびに揺れ、光の当たっている場所とそうでない場所が絵画の様な姿を生み出す。
見上げれば金色の瞳がしゃがみこんだままの俺を見ている。
そこにあるのは、信頼と期待。顔が少し赤いのは羞恥にではなく、これから行われることへの期待なのかもしれない。
いや、間違いなく期待なのだろう。何故なら彼女は、始める前に言ったのだ。
──ご主人様とのつながりが太くなるのがうれしい、と。
自らの手でめくりあげられ、あらわになった白いお腹へと聖剣(短)をゆっくりと差し入れる。
「ふぅ……んっ」
もう慣れたから大丈夫、そう言いながらもジルちゃんの口からは大丈夫ではない吐息が漏れる。
俺はそれを頭上すぐに聞くというシチュエーションにドキドキしながらも、見張りを続けているラピスのためにも手早く終わらせるべく一気に差し込む。
スカートの端を嚙み、声を抑えるジルちゃん。恥ずかしがっているというわけではなく、近くにいるかもしれないオークに声を聴かれて見つかるわけにはいかないからだった。
そして俺はひねらずにそのまま聖剣(短)を抜く。何かに濡れているような気がしたが、乾いたまま。
俺の妄想が生み出した思い込みによるものの様だった。
(そうは言ってもさあ、仕方ないよね?)
俺は狙い通り、聖剣の柄付近にある玉の内、白い部分が輝きを増しているのを確かめながら一人、心でつぶやく。
白昼堂々、でも隠れるように言葉巧みに少女を木陰に連れ込んで自ら服を脱がせてお腹に見惚れつつ棒を挿して声を出させる。
文字だけ見れば立派な……ああああ、お巡りさん違うんです。これは、そうこれはそんなやましい事じゃ。
「マスター? どうですの?」
「はっ!? ありがとう、ラピス」
少し冷たく感じるラピスの声が俺を現実に引き戻す。首を振ってそちらを向けば、手に槍を構えながら周囲を警戒してくれている少女、ラピス。
「いいえ。もう、私だってマスターとつながっていたいんですから。……ジルちゃんばっかりは嫌ですよ?」
構えを解かず、ちらりとこちらを見ての台詞は俺の胸に大打撃を与える。
先ほど感じた少しの冷たさは、自分も……という気持ちの表れだったということだ。
その思われ方に俺は嬉しくなりながら、改めて目的の物を確認し、頷く。
視線の先では、はふーと火照った顔を覚ますように木にもたれかかり、服を戻しているジルちゃん。
「うん。これでジルちゃんのスキルが有効になったわけだね」
「ええ、私のリジェネーション・ソウルは今のところあまり意味がないですから……」
またも落ち込みそうになるラピスの頭を撫で、俺も聖剣を戻して周囲を見る。
今のところは襲撃の気配は無いようだが……。
「ご主人様、いけるよ」
「よし、進もう」
木陰から街道へと出、自分たち以外誰も動かない道を進む。時折吹く風が木々を揺らし、音を立てる。
いつもなら爽やかさを感じるはずのその風も、今は不気味な音を立てるいたずらな妖精の仕業にさえ感じてしまった。
(緊張が無いといけないとはいうが……大丈夫だ、反則的な俺はそうそう負けない)
気合を入れれば大岩でも切り裂けそうな聖剣の力、女神視点での健康的な肉体という規格外のこの体。
もしかしたら、オークに殴られても無事かもしれない。そんな事実が、俺の余分な緊張を少しずつ剥ぎ取っていく。
「いた……3匹」
足を止めて除いた先には木々の向こうでこちらを見つけたらしいオークたち。
前にいる2匹は武器を構えて突撃してくるが、残り1匹が後ろを向いている。
「逃げるつもりですわ! 増援を呼ばれないようにしないと」
「俺とラピスが前2匹を。ジルちゃんは飛んで後ろのを!」
そう叫んでからまっすぐに駆けだす。こちらを見て子供と侮ったのか、笑みを浮かべたままのオーク。
が、その顔はすぐに驚愕に染まることになる。
振り降ろされたこん棒ごと肩までもを一気に切り裂く俺の聖剣、続けてもう1匹への胸元に刺さるラピスの槍。
逃げ出していたオークは味方の2匹の死にざまを見ることは無い。
俺の肩をジャンプ台として飛び上がったジルちゃんの投擲した短剣が逃げ出したオークの膝裏に突き刺さり、倒れたからだ。
もがくオークの頭にジルちゃんは地面から杭の様な岩を呼び出し、貫いた。
「よし、今のうちに」
すぐさま石英を取り出し、死体から手を放す。機会があれば女神様に聞いてみたいものだが、なぜか石英を取った状態だと魔物の死体はすぐに溶けていくのだ。
牙を取ったり、皮を剥ぐために触っている間はそのままなのに、手を放すとこれなので謎は深まるばかりだ。
人間はどうなのか、とかね。
オークの方は声もほとんど出させていないので、増援がやってくる気配は無い。
「ご主人様、おわったよ」
「上手く行ったね。油断せず、次に行こう」
「はい、マスター。いざという時は逃げられるようにして、ですね」
その通り、とラピスに頷いてジルちゃんと共に小走りで街道へと戻り探索を再開。
目印となる街道の分かれ道の大岩まで何度もオークと出会ったが小さい集団のみだった。
時には相手全員が逃げ出すこともあったけど、幸いにも倒すことは出来たので群れと言えるほどの相手には出会っていない。
本当にオークキングと呼ぶべき相手がいるのか、と疑問が出てきそうだけど今回の相手はやはり、どこか違う。
「普通ならオークはあそこまで逃げませんよね」
「追いつくの大変……」
2人の言うように、普段のオークは増援を呼ぶのはその場での遠吠えだけだ。
ここまで逃げて伝令のように伝えようとはしない。そうさせるだけの誰かがこの森の中にいるのだ。
考えるだけでぞっとしてしまう。
十分牽制や援護になっただろうと思える数を倒している。
(深追いせずに一度戻ろうか……)
次の相手がいつ出てきてもいいように警戒をしているジルちゃんやラピスのマナプールにもオークが多数蓄積されていることだろう。
戻ろう、そう声をかけようとした時、何かが風を切る音がする。
「なんだ!?」
咄嗟に2人を抱えてしゃがみこむと、すぐ上を何かが通り過ぎた。
それはそばの木に突き刺さった数本の矢。2人を抱えたままで転げるように草むらに飛び込むと、遠くの方に見える影、影。
「ゴブリン!?」
「オークもいますわね……」
視線の先では、オークに率いられたゴブリンとオークの混成軍がいた。
数はものすごいというわけではないが、少なくともこのまま戦うのはちょっと遠慮したい。
想像してみてほしいのだけど、地球でネズミや野良犬を確実になんとかできる腕と、手にはスタンガンのようにショックを与える棒があるとして。
そんな君の前に10匹も20匹も続々とやってくる。ひとまず撤退、ってならないかな?
「一度撤退!」
「おー……」
叫び、2人を抱えたまま走り出す。足元には無属性の貴石術による強化魔法。
元々軽い2人を抱えるのは余裕、そこにこれだ。まるで漫画の様な速さで走り、あっという間に村へ。
「ゴブリンも一緒に出た! 迎撃準備だ!」
端的に事実だけを言って、俺たちは門をくぐって村長宅へ。
(さって……どこまでやれるか……いや、やらないといけないんだ)
がやがやと騒ぎ出す村の中心で、俺は戦いの覚悟を決めていた。
2人とも慣れてきたようです(何に
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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