JD-015「おじいさんの里帰り」
「止まれ! なんだ、じいさんじゃないか」
上からかけられる声。おじいさんの故郷である村は、思ったよりも厳重に木の杭を並べた壁で囲まれており、見張り台のようなものまで作られていた。
いくつものかがり火が物々しさを表している。
壁は必要だと思うけど、こんなにかがり火を毎日燃やしていたら薪の量とかは大変に思えるけど……。
それだけ緊急事態ということかな。
「お勤めご苦労さんじゃ。開けておくれ」
それを知ってか知らずか、陽気なおじいさんの声に門が動くことで答えが返ってきた。
わずかに空いた隙間からすべり込むようにして入る。大体壁は俺の2倍ぐらいの高さになっているね。
これならゴブリンは一切入ってこられないだろうし、野犬は言うまでもない。
(ん? あの辺新しいな……)
いくつかの場所が周囲と比べて新しく、直したばかりということを感じ取った。
つまり、それを直す必要のある襲撃があったということになる。
おじいさんに案内され、村の中心部にある少し大きめの家に向かう。これはあれだな、村長宅ってところか。
中心にあるということは、集会所のような役割もあるのかもしれない。
まるで自分の家のように、おじいさんは家に入っていき、俺達を手招きする。
ゆっくりと扉をくぐると、そこにいたのは村長であろう白髪交じりのおじさんと、その家族であろう人達。
「おお? 随分と若い冒険者さんだな。だが、護衛ご苦労様。少々ごたついていて申し訳ない」
「ごたついて? それはあのかがり火や直されたばかりの柵と関係が?」
何にでも首を突っ込むのは早死にの元、とは恐らくどこでも言われることだろうけど、少なくともここでじゃあ明日帰りますなんてのは言いにくい。
気が付いてしまったからにはね。
「帰りに出会うかもしれんか……実はな、近くでオークの群れを見かけたのだ。ここに来るかはわからない……備えはしておかないとな」
(なるほど、それでこの木の壁……確かにあいつらは力はあるだろうな)
俺は記憶にあるオークの姿を思い出し、それが100匹ぐらい並んでるのを想像して身震いする。
命を大事にするなら、ここであまり深くつっこまないのが正しい。
だけど、俺は何のためにこの世界に来たかを考えれば取るべき行動は決まっている。俺自身、ここで見捨てたくはない。
「しばらくの間でよければ自分達もここに滞在しますよ。無論、出来るだけ戦います」
「ジルも、戦うよ」
「私はマスターのお決めになったことであればそれで……」
村長さんは俺とジルちゃん、ラピスを交互に見、最後におじいさんを見ておじいさんが頷くのに対してようやく首を縦に振ってくれた。
確かにね、俺達って見た目こうだからなあ……日本人って年の割に若く見られるっていうし、俺もまだ10歳半ばぐらいに見えてそうだな。
食事の準備をさせると言われたけど、一晩ぐらいは収納袋からの物で何とかなるので辞退しておいた。
「ひとまず、村にいる冒険者の先輩方に挨拶したいんですけど」
「確かに。彼らは大体横の小屋にいるよ。1人は門の上にいただろう? 彼がそうだ」
村長さんやその家族、そしておじいさんに頭を下げ、夜の闇が降りてきた村へと出る。
出歩く人がいないのは村だからというのが一番大きいだろうけど、話にあったオークの問題がどうしてもはしゃぐ気にさせないのだろう。
「こんばんは」
「なんだ、坊主。ん? その格好、同業者か」
扉の無い小屋の入り口から声をかけると、中で囲炉裏に火を起こしていた男が1人、振り返る。
年のころは30歳ぐらい、伸ばしている口ひげがもう少し年上な印象を与える。
やや小太りだけど、鍛えた体であることは見え隠れする腕や足に感じられる。
日焼けなのか、たき火による色合いなのかはわからないけど、かなり赤茶色の肌だ。
交代要員であろうか、壁の方には数名の男が眠りについている。
「ええ、先ほど薬師のおじいさんの護衛を終えたところです。
なんでもオークが近くに出て来てるらしいので、出来るだけのことはしようと思って」
そこに座れ、と指をさされた場所に3人して座ると、じろりと見られるが我慢する。
俺が相手の立場だったらなんだかんだと観察するに違いないからだ。
「物好きなことだな。ああ、敬語やらはいらん。
ま、何もせずに帰りに襲われるぐらいなら、ここで数を減らしたほうが良いという考え方もあるな。言い出すぐらいだ、多少はやるんだろうな」
「俺は剣を中心に、後ろの2人は近接と貴石術かな。
5匹ぐらいまでならやったことはあるけど……。10や20となると想像がつかないな」
飲むかと誘われた何か、多分軽いお酒だろうけど変な酔い方をするわけにもいかないので遠慮して置いた。
見張り中にお酒?と思うけど、昔はこうして軽い物を飲んで夜を過ごしているのをどこかで読んだ気がする。
「同じようなもんだ。ただまあ、連続してくるときは来る。
牙を折るぐらいなら石英を取るだけにしとけ。森の中じゃ、援軍に気が付きにくいからな」
先輩冒険者のありがたい助言に頷く。
もしかしなくても力そのものは俺の方が上になっている可能性が高いけど、ステータスでは計れないところにも、強さという物はある。
注意すべき点や石英の配分などを確認し、後は朝起きてからが本番ということで、その後は解散となる。
すっかり忘れていた寝床に関しては使っていない納屋があるとのことでありがたくそこを使うことにした。
収納袋から毛布などを取り出し、簡単な寝床を作る。
「マスター、明日は気を付けていきましょうね」
「怪我したらだめだよ?」
「うん。2人共ね。さ、寝よう」
ホコリっぽさから本当にしばらく使っていないことを感じながら、心は移動のために疲れていたのか、思ったよりもあっさりと眠ることが出来た。
翌朝、炊事を始める村の人に混じって俺達も朝食をとる。
余った状態のニッパのはさみを提供したところ、かなり喜ばれるという一幕はあった物の、それ以外は予定外の事もなく、俺達は改めて村の門の前に立っていた。
「じゃあ、目撃されたのは街道沿いから少しそれたところなんだ?」
「ああ。森の方は疑ってもきりがねえ。3人には街道沿いをしばらく見回ってほしい。
見つけて、無理のない範囲で倒してもらえりゃ十分だ。もういないに越したことはねえが、間違いなくまだいる。
ああ、もし、もしもだが……奴を見かけたら街まで逃げるか、ここにすぐ戻ってこい」
(奴? ボスみたいなのがいるってことか?)
「その、奴とはどのような相手ですの?」
「ん? ああ、そうだな。文字通り、オークの統領さ。
どこからかっぱらったのか、手前たちで作ったかは知らんがな、
頭に王冠を被ってるでっかい奴がいたら話が全く変わってくるからな」
俺が疑問を思い浮かべてる間にラピスが聞きたいことを聞いてくれた。
ジルちゃんはじっと俺の服の裾を握ったまま話を聞いている。こういう時に喋る子では確かにないので気にならない。
(そうか、オークキングってところか……図鑑にあったようななかったような)
「実力はオークと別格ってほどじゃあねえんだがな…… 奴は1つ、厄介な力、スキルを持っていやがるんだ」
「スキルを? 貴石術のような、特別な力ってことか」
苦々しく言い放つ男が、俺の答えに頷きながらもなおも口を開く。
「経験上、となるがな……。奴は配下のオークが多いほど、自分に強化魔法がかかる。だから、囲まれているほどヤバイってわけだ」
ある意味予想通りのスキルに俺は硬い顔をしながら頷き、門を開けてもらい外に出る。
一度通った道であり、夜より昼間の方が安心できるはずなのに……何故だか夜より不気味さを感じるのだった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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