JD-141.「潜り抜けた先」
いつまでも続きそうな謎の悪天候。暇をつぶしにギルドに顔を出した俺が呟いた一言をきっかけに、悪天候が自然の物ではなく、何者かの手によって引き起こされているという可能性にギルドが動き出したのだった。
俺達はその原因の討伐を目的とした依頼に参加し、ハーベスト近くの鉱山にまでやって来た。
前は感じなかった妙な気配を、鉱山全体に感じた俺達は慎重に坑道をくぐるのだった。
「マスター、お気をつけて。何かいますわ」
「やっぱり? なんだか……全体に何かあるような気がするんだよね」
坑道の入り口をくぐってすぐ、外の音が妙に遠くに感じたころ、ラピスの警告の声が届く。
前は俺とジルちゃん、中央にラピスとルビー、後ろはニーナとフローラに任せている。灯りを生み出す道具を片手に、慎重な足取りの俺たちだけど何も好きで遅く歩いているわけではない。
「下手に動くと滑るわね……相当長く降ってたものね」
「ぬるぬる……泥パック? ご主人様こういうの好き?」
2人の言うように、足元は入り口から流れ込んできていた雨によりぬかるみ、うっかりするとこけてしまいそうである。後ジルちゃん、誤解を招く発言はやめようね。嫌いじゃないけれど。
いっそのこと、ルビーに乾燥ついでに焼き払ってもらいながら進もうか、なんてことが浮かぶぐらいには足場がひどい。
それでも進まないわけにもいかない。嫌な気配は中にあるのだから……。
しばらく進み、鉱山全体に感じる気配のせいで近くのジルちゃんたちですら薄く感じるのが精一杯。
そんな中で曲がり角を曲がると、1メートルもない場所にスケルトンがいた。
「どわっ!?」
「えいっ」
咄嗟に聖剣を振り抜き、あっさりと1体の腰骨あたりで両断。ジルちゃんの一撃も別の1体を横に折り曲げるように吹き飛ばしている。
全く気配を感じなかった驚きに鼓動が高鳴るけど今はそれどころじゃない。まだスケルトンは何体もいるのだ。
「燃え尽きなさい!」
顔のすぐ横を、ルビーの手による火炎弾がいくつも飛んでいき、着弾。熱風と共に狭い場所ではあるが一気に春か夏が来たかのように熱を帯びていく。
俺はその熱を奥に押し出すようにして風を生み出し、火を煽ってスケルトンを焼き尽くす。
「トール様、この場所ってこんなに骨があるぐらい人が死んじゃってるです?」
「いや……そんなことはないはず……」
そりゃ、鉱山となれば事故の1つや2つはあるとは思う。けれど少なくともそんな大人数が死んでいるような話は聞いたことはない。
鉱山を掘り始めた直後なんかはもうわからないけれど、最近はそう言った事故がほとんどないと聞いている。このスケルトンたちが彼らだとは考えにくい。
「んー? とーるの言う通りならこの数はなんだろうねえ……」
フローラのつぶやきが、現状を表していた。そう、暗がりからわらわらとスケルトンが沸き立つように出てきたのだ。
その手には自らのどこかから取り出したかのような骨の棒。刃物ではないけれど、殴られればそれなりに痛そうではある。
「理由はともあれ、迎撃なのです!」
「おー」
気が付けば後方からもスケルトン。そんなのが隠れるような横穴は無かったにも関わらず、だ。
1体1体は弱いようなので、迫る骨たちに対して順序良く貴石術を叩き込み、時には飛び込んで聖剣で薙ぎ払った。
落下していく骨たちの中には小さいながらも石英がある。スケルトンになってしまうような遺体はそうそうあるものじゃない。ということはモンスターということで間違いないのだろうか?
「少しずつ移動するよ。じゃないと終わりがなさそうだ」
「そうですわね。探索も進めましょう」
最初の勢いはなくなったものの、すぐに顔を出すスケルトンを適宜撃破しながら俺達は進む。
覚えのある坑道を進む中、気が付いたことがある。外から見た時には妙な気配を鉱山内部に感じたのだが、今は違う。
ほとんど鉱山と同じ場所だけど、少しだけ……外に出ているのだ。
(ということは何者かがその穴からスケルトンを補充している?)
スケルトンを操る、なんていうといわゆるネクロマンシーな話が思い浮かぶけどどうなんだろう。
突然鉱山に現れてスケルトンを操りながら嵐を起こす? 想像しにくいね。
「あ……ご主人様、見て」
「ん? 掘り出された……鉱石?」
途中、ジルちゃんが見つけたのはつい最近掘られた形跡のある鉱石と土の塊だ。この世界に来る前だったらさっぱりだっただろうけど、何度も掘っているうちにニーナにも教わり、なんとなくわかるようになったのだ。
そんな経験が言っている、これは新しいと。
「この嵐が誰かの仕業だとして、消耗していないはずがないわね。そうなるとどこかで補充するはず」
「この場所ならうってつけですわね」
やはり、考えることは同じだった。休憩のいらないスケルトンに掘らせ、運ばせる。そんなことができる相手がもしかしたらすぐそばにいるかもしれない、その考えがさらにみんなの警戒度合いを上げていく。
俺はそのまま気配を感じる方向へと進み……覗き込んだ先の光景に動きを止めた。
「幽霊さん?」
「だね」
そう。いわゆる半透明なローブ姿……日本の物とはだいぶ違う、西洋系の浮いてるやつだね。
目的もなさそうに浮いて移動している。あれじゃ掘れないだろうに、なんでいるんだろうか。
そう思っていると、何事かを口にした幽霊のそばに岩が浮く……なるほど、貴石術みたいなものは使えるわけね。
「一気に行くよ」
「いつでもおっけーなのです」
みんなに頷き、俺は飛び出すと同時に火の矢を出来るだけ広範囲に生み出して打ち出す。そのすぐそばを俺よりも多い数の火の矢が飛んでいく。犯人は言うまでも無く、ルビーだ。まだまだよってとこかな。
半透明で剣で切るのは難しいだろうなと思う幽霊は貴石術には強くないようだった。そのまま体のあちこちに火の矢を受け、わめきながら溶けるように消えていく幽霊たち。
後には彼らが運んでいる途中だったらしい岩が転がっている。
(これを続けていても十分邪魔になりそうだけど……直接何とかした方が早いね)
まるで人工のダンジョンだな、という感想を抱きながら進むと、外の嵐であろう物の音が耳に届いた。
足元のぬかるみも、途中までよかったのにまたドロッとした感じが多くなった。雨が入り込んでいる場所に近づいているということだった。
「ジルちゃん、念のために解放しておくよ」
「うん。ジル、みんなを守るよ」
相手がどんな奴で、どんな戦い方をするかがわからない状況では一番頼りになるのがジルちゃんだ。攻防そろった能力は非常にバランスがいい。
相手に押し負けるにしても時間を十分稼げるだろうという目論見だった。
他の皆に見守られながら貴石解放のためにジルちゃんに聖剣(短)を入れていく。もう実際には入れなくても貴石解放は可能なのだけど、やっぱりこれのほうが実力が発揮できる気がする、とのことだった。
大きくなったジルちゃんを先頭に、俺達は坑道を進む。そうして聞こえる雨風の音が大きくなってきたところで急に視界が開ける。今までの流れからして、広くなったとはいってもそうとわかるなだらかな物だったが、今回は違った。
うっかり顔を出してしまった、そう思うほどそこは広かったのだ。
「! みんな下がって!」
焦ったジルちゃんの声が響くと同時に、正面に展開された透明な盾に何かが無数に当たってくる。
耳が痛いほどの音を立ててそれらが全てジルちゃんの盾に防がれた。
防御の構えを解き、視線を戻すと……そこには雷鳴を背景にホバリングする1匹のドラゴンがいた。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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