JD-139.「いつかのような戦い」
「コボルトたちは小弓が主体か……まあ、なんとかしないとね」
「うん。わんこは守る、もこもこ」
普段から訓練は積んでいるのか、村のコボルトたちは大人も子供もあちこちでしっかりと陣形を組み、建物や柵の上にと陣取り始めた。
人間と交流が過去にあったというコボルトの村。恐らくは彼らの持つ人間の遺産を目当てに襲い掛かってくるであろうオークを一緒に撃退しようというシーンである。
かつても人間はコボルトを助け、共に生きてくことを選んだ。そこまで大げさな話ではないかもしれないけれど、俺達もまた、今コボルトと協力をして戦うのだ。
『人間、礼は出せないが……いいのか?』
「昔人間がお世話になった。それで十分さ」
かっこつけ過ぎかなとも思ったけど、これが本心だった。報酬が無いからってここで見捨てていく? それは無いね。言葉の通じる相手の味方、なんていうわけじゃないけれど……今はこれが一番の選択だと思うんだよね。
だから俺達は頷きあい、オークがやってくるであろう方角の柵へと向かい……待機した。
周囲には腰ぐらいの大きさしかないコボルトたち。その手には思い思いの武器だ。訓練を積んだ兵士としてのコボルトもいるだろうけど、一般の普通のコボルトも多いんだろうね。表情が強張ってるコボルトや、ちょっと震えてるのもいる。尻尾までまとめて揺れてるから見ている分にはどこか可愛さがあるけれど……。
「森がちょっと痛むかもしれない。先に謝っておくよ」
『うむ……仕方あるまいな』
どんな戦い方をしても、森が巻き込まれないということはないからだろうか。たまたま隣にいた老コボルトに先に伝えると、重々しい表情で頷かれた。あるいは彼は俺達がしようとしていることをなんとなく察したのかもしれない。
遠くから聞こえてくる聞き覚えのある叫び声。オーク特有の、耳に響く甲高い声だ。まるで笛でも吹いてるかのようだね。
その声を合図に、コボルトたちにも緊張の色が走る。確かにあの体格差だ、まともにぶつかるのは問題がある。
だからこそ柵を作ったり、穴を掘ったりと対策は取っているわけで……それでも怖い物は怖いし、厄介なのは変わらないのだ。そこを、俺達が少しでもひっくり返す。
「みんな、準備は良い?」
「うん。ご主人様に合わせるよ」
「燃えないように道からそれてるのは任せるわよ」
太陽の光を浴びて、いつも以上にキラキラした感じのジルちゃんの力強い頷き、手品のように手のひらで小さく炎を揺らし、やる気満々のルビーの顔。
「大地を舐めたら怪我するのです」
「んっふっふー、今日も飛ぶよー」
「何事もスマートに、淑やかに、ですわね」
固そうな岩も砕きそうな気合のニーナ、今にも飛び出していきそうなフローラ、そして既に氷の刃による薙刀を生み出しているラピス。それぞれにやる気に満ちた姿を確認して、俺は頷いた。
そして、馬鹿正直に正面からやってくるオーク達。この距離でもその体格、全身のパワーという物を感じる。
けれど、それもまともに戦えば、の話だよね。
『放て!』
老コボルトの合図とともに、あちこちからコボルトたちの放つ矢がオークへと襲い掛かる。コボルトの体格に合わせた小弓は放てる矢もとても小さい物だ。人間の使う物と比べ、半分以下。しかし、ただの小弓による小枝のような物と侮ると……。
『ピギッ!?』
先頭にいた数匹のオークが根元まで突き刺さる小さな矢、という不思議な物の前に、それを確かめる前に力尽きていく。
人間の遺した技術、貴石術を応用して放つ矢に力を与えるコボルト専用の弓の力だ。
これまでに何度も味わったであろうものなのに、それをオークは学習しているのかいないのか、再び犠牲者が相手に出るのがわかる。
それでも相手の数が多い。味方の死体を踏み越え、こちらに迫ろうとするオーク達。
そのまま乱戦か、というところだけど今回は俺たちがいる。
「行くよ!」
横並びに立った俺たち。その手から一気に力が放たれた。出会ったころと比べ、みんなの力が増していることがすごくよくわかる光景だった。
空に踊る透明な短剣たちは大雨のようにオークを貫き、空の青さをその身に宿しながら産まれる氷柱はオーク達を地面ごと凍り付け、地面から生える土槍は迂回してくるオーク達を串刺しにし、不可視の風の刃はオーク達が避けた先でその足を刻む。
そして……地面を舐めるような炎が動けなくなった道の上のオークを飲み込み、炭と化した。
動揺がオーク、コボルト双方に広がるのを感じた。俺でもたぶん、同じ立場だったらビビるね。みんなにはそうなるように派手な感じにしてもらうように言っておいたからなんだけどさ。
こういう時、怖いのは勢いのまま攻め込まれることだからね。足を止めた時点で、オークの……負けさ。
俺は練習の成果を見せるべく、両手からそれぞれに貴石術を繰り出す。みんなの力を使える俺だからこそかな。
しばらくして前線部分にオークがいなくなり、増援が来るのか撤退するのかなというところで後方から大きな相手が出てきた。
オークの集落でも見た、親玉だ。オークキングの1種なんだろうけど前に見た奴と少し違うんだよね。地域差かな?
どこからか持ってきたのか、大きな石斧を構えて吠えている。このまま遠くから狙ってもいいのだけど、それではオークはまたやってくるんだろうなと思った。正面から叩き潰し、ここは危ないと思わせる必要を感じた。
俺が1歩踏み出すと、オークキングも一声吠え、部下を従えて道を走ってくる。
『お、俺も行くよ』
「無理はしないようにね」
コボルト兄が手にした槍を構えながら横に立つ。安全を考えるなら後ろにいてもらった方が良いのだけど、男にはそれじゃ駄目な時って……きっとある。それが今なんだろうね。
ジルちゃんたちの援護を受けながら、他のコボルトの戦士たちも一緒に道を進む。
こちらが正面から挑んできたことが嬉しいのか、あるいは叩き潰す喜びを感じているのか。
苛つくほどに笑顔を浮かべるオークキングに向けて踏み出し、その振り下ろされる石斧を……聖剣ではじくようにしてそらした。
『!!』
「武器は丈夫なのが一番だよね。その点、これは失格さ」
伝わらないであろう言葉を口にしながら、地面に食い込んだ石斧の柄の部分へと聖剣を切れ味をあげて振るい、切り落とした。
咄嗟のことにか、残った石斧の手元部分を手放すことを忘れているオークキング。俺はそのまま聖剣を2度3度と振り抜き、その腕を半ば切り落とすようにして最後には地面に転がした。
「今だ、貫け!」
『う、うんっ』
ちょっとばかりずるいかもしれないけど、どんな戦いでも命のやり取りなのは一緒。強者同士の戦いで命を散らすこともあれば、ひょんなことであっさりと、なんてのも現実にはよくあることだ。
地面に転がり、腕も上がらないオークキングの無防備な胸元に、コボルト兄の手にした槍が吸い込まれ……しっかりと突き刺さる。
しばらくはそれでもあがいていたオークキングだけど、そのまま動かなくなった。
『俺が……やったの?』
「ああ、おめでとう」
自分では到底倒せない相手を手にかけた、そのことは彼にどんな影響を与え、彼がどんなコボルトになっていくのか。
それは俺にもわからないけれど、なんとなく、そうなんとなく……いいコボルトになるんじゃないかなと思った。
親玉を失い、敗北が確定したオークたちはそのまま散り散りに森の中へと撤退していった。
その後、再びの宴が始まり俺達はそれを別れの場ともした。
別れを惜しみ、抱き合う子供のコボルトとジルちゃんたち。俺もまた、老コボルトやコボルト兄と談笑を続け……俺達は人間の場所へと戻るのだった。
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