JD-138.「シスター オア ドーター?」
「あら、お気づきではありませんか?」
「ありませんかって言われても……ね」
戸惑いの声を上げながらも、どこかでそういうものなのだろうか?という気持ちもあった。というか、異世界に行くというのがどういうことか、知ってる人なんていないわけだしね。
俺自身、部屋からいきなり変な穴を通って……通って?
「詳しい部分は説明が難しいので横にしておいて、トールさんはこの世界に来る時にあちらの世界からこちらの世界に産みなおされたんですよ。だから私の力を混ぜて祝福のように肉体を再構築できました」
「そういえば、どこか狭い場所をすぽんって抜けてきたような気がする」
まるで赤ちゃんが生まれてくるみたいだな、という感想を持った。そしてそれが一番正しいんだろうなという直感も得ていた。元々の体が女神様の力でパワーアップしました、というよりもそっちのほうが納得しやすいと思ったのだ。
「という訳でトールさんは私の息子も同然です。お母さんって呼んでいいですよ。ママでも歓迎です!」
「脱ぎながら言うな!」
どうしてか、興奮したように顔を紅潮させ始めた女神様は元々薄くて服の役割を果たしていなさそうなものをはだけ始めたので迷わずにハリセンを振り下ろした。小気味よい音と共に見事にハリセンが弾け、女神様の動きが止まる。
むしろ勢いが良すぎたのか、服の裾を持っていた女神様の手が離れてしまい、薄布がすとんと落ちてしまう。
「ていっ」
「ぐふっ!?」
無表情のままでジルちゃんが目の前にいたかと思うと、俺の顔を掴んで無理やり気味に横を向かせた。
突然のことに加え、結構な痛みが走ったことで俺の頭は混乱してしまう。そんな俺の顔をじっと覗き込むジルちゃん。
普段はあまり見ない……いや、どっかで見たな。これは……おやつのお預けを食らった時だ。
「ご主人様はお母さんのじゃなくてジルたちの。駄目」
「そうなのです! お母様には渡さないのです!」
そのままあれよという間におみこしが担がれるように女神様から離れた場所に連れていかれる俺。
ちゃっかりルビーも参加してるし、嬉しいいことだけどなんだか大げさじゃないかな?
「マスター、駄目ですわよ。母は神様なんですもの。油断するとすぐに……ぱくりと」
俺としては、そう言ってくるラピスの瞳の方が蛇を思わせて少しばかりぞくぞくとするのだけど、それはそれ。
なるほど、確かに相手は神様だ。何をどうされるかは神のみぞ知る、か。
「そんなことしませんよー。見てるのでも十分楽しいですもん。宝石娘は私とトールさんの間に生まれた娘のような物。でもトールさんは私の息子のような物でもあります。さあ、妹かしら、娘かしら」
「どっちにしても背徳感しかないじゃないのよ……そんなんだから一部で色欲の女神とか言われるのよ、母さん」
妙な流し目で俺を見る女神様の視線を遮るように前に立ち、ルビーの呆れたつっこみが女神様を真っすぐに切り裂いた。
うぐってがっつり呻いてるからね。よほどのダメージに違いない。ルビーが言うのは、街の一角によくある歓楽街とかで女神様の像らしきものが飾られていた時に聞いた話の事だ。
快楽の、とまでは言わないけど色恋沙汰に関連するお話が多いんだそうだ。そりゃ、夜の街にはよく似合う神様になるよね。
「んー? とーるはとーるだよー……おかーさん変なのー」
「ん、フローラの言う通りだよ。ご主人様はご主人様……でも、パパのほうがいいなら……」
「ご主人様でお願いします!」
いつだったかニーナに対して呼び方を選択したよりも早く、俺は危ないルートを塞ぎにかかった。ここにきて5人から父親呼ばわりされたら俺の世間体が死んでしまう。今、息をしてるかどうかは別問題である。
それに、そんな呼び方になったらみんなとうん……その、色々できないじゃないか。中にはそういうのがいいって人もいるだろうけどさ。
「遠慮せず、最中にお兄ちゃん、ぐらいは呼ばせても罰は当たりませんよ? なにせ罰を当てるの私ですし」
「他の世界の神様に今すぐ謝れっ!」
全力でツッコミを入れながらも、基本一人な女神様はこんな時間でもどれだけ楽しく感じているんだろうか、なんてことを考える自分がいた。
長い長い時間を一人過ごし、地上の動きに一喜一憂して未来を思う日々。寿命という物があるかはわからないけれど、色々と大変そうだなと感じた。
なんだかんだと話に付きあってるのは、そういうところに考えた至ったからかもしれないね。
「イタタタタ……もう、トールさんは遠慮がないんですから。娘達には優しくしてくださいね?
あ、無理ですか。無理ですよね、この前も一晩j、イタッ!」
「私達しかいないからってそんなこと言わないでいいのっ! もう、行きましょトール!」
俺の返事を待たず、ずるずると俺を引っ張り始めるルビー。みんなも仕方ないなあという顔をしてそれについてきている。
もうちょっと聞きたいことがあるけど、また来ようか……。
「あ、ここに来なくても何か通信みたいな手段ないのかな?」
「わっかりました! 聖剣に機能を増やしておきますねー!」
意外と別れはあっさりとしたもので、その場で大きく手を振る女神様に引っ張られながら小さく手を振り返し、いつしか俺の視界も白く染まっていく。
「はっ!」
「ちょっとふらふらする……よ」
床に胡坐をかいた状態のまま、俺はこの世界に戻ってきたことを実感する。同じように座り込んでいたジルちゃんがゆらゆらと揺れているあたり、しっかり女神様のいる場所に行っていたんだ、と実感が沸いた。
明確なボスのような相手はいないけれど、厄介そうな相手を退治してればいいとわかったのは一番の収穫かな。
いや……まあ、個人的には生まれ変わってたというのが衝撃的だったけどさ。
「トール様、顔が赤いですよ。調子悪いです?」
「うふふ。マスターはそういうのも趣味ですものね」
ジルちゃんたちを見ているときに沸き立つ気持ちに顔が赤らむのがわかる。ニーナは体調不良を気にしてくれたけど、ラピスにはすぐにわかってしまったようだ。
俺も一応オタクの部類、となれば色々と作品は読んだり見たりしてるわけで、嫌いじゃないんだよね、嫌いじゃ。
「私は他の呼び方でいちいち呼ばないからねっ」
「ルビーはずるいよ。もうそれだけで十分だとボクは思うなー」
みんな女神様と話していたことを覚えてるみたいで、途端に部屋が騒がしさに包まれる。気のせいだろうか、壁際にある女神様の像が微笑んだ気がした。
まあ、退屈しないように頑張って見せましょうかね、色々と。
そんな決意のような物を胸に抱き、俺は立ち上がった。話はひとまずできたし、一度村によってから街に帰ろうと思う。街の人にもあまり長い間行方不明状態だと心配させてしまうからね。
そのことをみんなに告げて、大きな扉をくぐってまた閉じ直してコボルトの村に向かう。すると騒ぎに村全体が覆われているのを感じた。あちこちをコボルトが走り回っているのだ。
慌てて俺達も走っていくと、見覚えのあるコボルト2匹がこちらを見つけ、駆け寄って来た。
『大変だ、オーク達がこっちにやってきたんだ!』
『森に警戒に出ていた仲間が見つけた。明らかにこっちに攻めてくるぜ』
「オークが……復讐のつもりかな?」
襲ってくる理由としては、オークの集落での出来事ぐらいしか心当たりがない。それにしたってあれは金獅子のほうが襲う形としてはメインだったと思うんだけど……コボルトを取り返されたことがそんなに気に入らないということかな?ただ、どちらにせよ……だ。
「一宿一飯ってわけじゃないけど、俺達も戦うよ」
「みんな、いっしょ」
人間のいない土地で、いつかあった光景と同じような姿で戦いが始まった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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