JD-137.「同伴出勤(違います)」
「呼ばれて飛び出てー……あれ、なんで娘達もいるんですか?」
「いちゃ駄目だったかな?」
駄目ってことはないですよーと言いながらも女神様はどこか残念そうな顔でそそくさと俺のそばから離れ、どこからか生み出した椅子のような物に座った。
意識が戻ってすぐ、そばに立っていた女神様への応対としては少し冷たかったかな? でも、俺がどこかに行かないようにとばかりに抱き付いているジルちゃんたちを考えるとね、こうなるよ。
「今日は付き添い。ただいま、お母さん」
「あらあら、立派にレディになって……いい子に育って嬉しいですよ」
「私たちは育てられた覚えはないけどね。まあ、そんなことはどうでもいいのよ」
丁寧に頭を下げるジルちゃんに抱き付こうとする女神様。けれど横合いからのルビーによる鋭すぎる突っ込みに固まり、行き場を失った手がわきわきと動くにとどまった。
母親であろう相手にも容赦がないルビー。ラピスたちも苦笑して見つめるばかりだ。
「そうですかぁ……うう、悲しいけれど子供が独り立ちするのも人生ですね。あ、私女神だから神生?
うっ、わかったからそんなみんなで睨まないでくださいよう……ボケるぐらい余裕が出来たんですよ。ええ……」
いつかしたように、俺がどこからかハリセンを生み出して構え、みんなもじっとりとした視線になったのがわかったのだろうか、女神様はとぼけた顔で笑っていたがそれも真面目な物になる。
答えがあるとは思わないけど、聞きたいことはいくつもあるんだよね。
「まずさ……俺たちの相手に親玉はいないって言ってたけど、じゃあどうしてモンスターがあんなに増えて、頭を使うのがいるんだ? 種族を越えて共闘するとか、誰かが操るなりしてないと無理でしょ?」
「んー、それにはまずモンスターがどうして人間側を押し出し始めたかを話さないといけませんね。一言で言うと、種の危機に対して反発が起きたんですよ。かつて、まあ私にとってはついこの間ぐらいですけど、人間は貴石術をある程度極め、自分たち以外の種族を弾圧に近い扱いで区別し始めたんです。まだ話が通じて有益な相手はマシな物。それ以外の、それこそモンスターには容赦という物が全くなかったんです」
貴石術とそれを高める技術、その両方を手に入れた都の人間のような存在は、その力に酔ったのだろうか。
女神様の口から出てきた話の続きは、人間が如何に無配慮に他の種族に攻め込んだかという物だった。
これだけを聞くとただ単に人間が悪い奴……ということなのだけど……。
「そこからどうやって今の状況になるのです? 人間が圧倒して終わり、ではないのです?」
「そうだよねー。人間すごい!ってなりそうだけど」
確かにニーナとフローラの言うように、聞いた限りでは人間が負けるというかそうなる理由に思い当たらない。
力があることが良いこととも悪い事とも言わないけど、少なくとも今につながらない話だ。
それこそ、世界からモンスターが消えたと言われる方がしっくりくる。
「この辺は私でも制御できないんですけど、追い詰められたモンスター側が……西の端でついに反発する力を得てしまったんです。ぎゅーって手の中で圧縮をかけたらはじけた、みたいに追い詰められたモンスターたちは急激な繁殖力と、どこからか石英をコアに倒しても蘇るという力を得てしまいました。
人間が戦士になるまで早くても10年以上、でもモンスターがそうなるのに数日。戦力の補充という点では比べるまでもありません」
空中に浮いて表示された世界地図のような物は、多くが青い光に覆われていく中、大陸の西に赤いラインがあることを示しており、それが瞬いたかと思うと一気に大陸のいくらかを赤く染め返した。
これが、かつてあったというモンスターの逆襲?
「女神は人間の母でも無ければ、モンスターの母でもなく、世界に干渉するだけの存在ってこと?」
「そう考えると、最初にあった万能感がどこかに行ってしまいますわね」
「正面から言われると自信が……うう。ともあれ、モンスターが全くいなくなるのも問題ですけど、逆に人間もいなくなるのも問題なんです。モンスターは世界からマナを吸い上げ、石英と化して自身に取り込み、そしてそれを世界に拡散して消費する目的を持っているのです」
出会った時のように、どんよりとした様子で2人のつっこみにのの字を書いている女神様。それでもすぐに復活してくるあたり、なかなか面白いよね……面白いと思うんだけど気のせいかもしれない。
さらりと重要なことを言うのも変わらないよね。
「つまり、人を滅ぼすような強力なモンスターはいないほうがいいけど、そうじゃないモンスターは適度に人間と争っているのが一番いいってこと?」
「うん、モンスターがいなくなったらご飯食べられなくなる……よ」
女神様ではなく、ジルちゃんが俺の問いかけに返事を返してくる。なんだかんだとジルちゃんが一番状況を理解しているのかもしれないと感じた。なんだか出来レースのようだけど、適度な危険が無いと動物はだらける、みたいなのかもしれないね。
「内緒にしていたみたいでごめんなさい」
「別に良いよ。みんなとこうして出会えたしさ」
なぜモンスターが勢力を強めたかを最初に言わなかったかを謝ってくる女神様。こういうところが人間みたいなんだよね。
確かに思うところはあるけれど、今を俺は後悔していない。だからいいかなと思った。
「ありがとうございます。続きとしては、モンスターの反撃が思ったより激しく、何もなければ人間の領土がさらに減り、バランスが悪くなるところにトールさん、貴方がやってきました。私からは改めて、モンスター側に残っている強力な個体の退治と、世界の安定の依頼をお願いできますか?」
「それはわかった。けど、相手の中にこっちを見てるような存在がいるように思えて仕方がないんだけど」
そうなのだ。監視衛星なんてものじゃないとは思うけど、先手を打つかのようにモンスターがいるとかそういった経験が心当たりが多いのだ。偶然で片づけるには問題だけが残る襲撃とかを思い出す。
女神様は問いかけに、腕を組んでうんうんとうねっている。神様なのに妙に人間臭いよね。
「どうでしょうね。いくつか可能性はありますよ。1つはオークの頭のいい個体とかが遠くから見る貴石術を使ってる場合、それ以外にもいくつもありますけど、もしかしたら……モンスター側にも私のようなというと大げさですけど、生命体じゃない何かがいるのかもしれませんね」
「そのぐらいそっちでわかんないわけ? 私たちはそんなことできないわよ」
相手側にも女神様のような存在がいる……黒女神? まあ、だとしたら正直雑なんだけどさ。
なんとなくだけど、言葉の通じないモンスター同士をどうにかしてるんだから会話じゃなくて直接伝えてるのかもね。女神様ぐらいとなれば口に出さなくても話し合うとか簡単そうだもんね。
「私にもはっきりしませんからそういう中心となるのがいないか、隠れてるかじゃないですかね。
そうそう、エンゲージのこともお伝えしないと。おめでとう、娘2人。他の3人も近いうちにきっとですね。
エンゲージは貴石の所有者と精霊の親密な関係と、未来に一緒に生きていたいという気持ちが産む愛の証です。
私が覚えている限り、エンゲージに成功した例は指折りできるぐらいしかいません」
「そうなんだ。やったねジルちゃん、ラピス」
俺が喜ぶと、2人がはにかんで笑みを浮かべる。その横でニーナたちも喜びの笑顔になるけど、きっと3人にも近いうちにと思うと俺は気が引き締まるような感覚を覚えた。
都合後3匹、いつかのような強力な相手と相対することになるからだ。
「おかげでこの場所も長めに維持できます。ささ、親子水入らずでお話しましょう」
「結構既に話してると思うけど……俺はお邪魔になるかな?」
親子水入らずというからにはジルちゃんたちと色々話したいってことなんだろうね。
普段は話せないだろうからいい機会だとは思う。この場所なら椅子もベッドも簡単に作れそうだし、俺は少し休もうかな。
そんなことを考えていると、女神様は不思議そうな顔をしてこちらを向いた。
「何をおっしゃってるんですか? トールさん。当然あなたもですよ。世界の息子よ」
「……は?」
唐突に、本当に唐突に飛び出した言葉に、俺は完全に固まるのだった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




