JD-130.「日差しのような日常」
窓から日の光が差す中、ベッドの上の体は白く光る。何度見ても、何度触れても飽きない綺麗な体だ。
俺が手にしたピンポン玉ほどの石英の塊はそんな彼女のお腹付近にある魔法陣に接したかと思うと、もう数を数えることも忘れたほどのいつもの流れでゆっくりと沈み、中に溶け込んでいく。
最近感じるようになったのだけど、沈んだそばから全身にマナとなって光る物が散っていくんだよね。互いのいろんなものを感じ取れるようになったってことかな?
「まだ入れるの? もう30は入れたと思うわよ」
「あれ、そうだっけ? じゃあこのぐらいにしておこうか」
まるで事後のシーンのように、シーツを体に巻き付けてルビーが体を起こすのが見える。
シーツから出た足や、隠しきれてない肩とかが逆に興奮するんだけどそれを指摘すると怒られるのでやめておく。
それに、黙っていた方が目の保養というか、楽しめるもんね。
なぜか最近のルビーはいつもそのままお腹を出さずに、何かで上半身も隠すことが多い。特に顔はすぐに隠すんだよね。鼻ぐらいまでシーツやタオルのような布をあげていって目だけが見える状態なんだ。
太ももとかは見えても大丈夫なのに、上だけ隠すのはなんでだろうと気になった。
「ルビーはなんでいつも顔を隠すの?」
「何でって……その……もう、デリカシーが無いわねっ!」
言いたくないことなのか、顔を真っ赤にして彼女の手から枕代わりのクッションがいくつも飛んできた。
感じからして恥ずかしいということだと思うけど……だとするとどうして上だけなのか。
「その……ね? 我慢できないからすっごい顔してると思うのよ。寒い夜にお風呂に入ったーみたいなのとはちょっと違うけど、絶対に変な顔してるわ」
「そ、そう?」
確かに言われてみれば、ジルちゃんもこう……どきんとする表情をしているような気がする。ラピスはもうそれをわかってか、妙な流し目も送ってくるほど。みんなにとっては石英の投入というのは砂漠で飲む冷たい水、みたいにたまらない気持ちよさがあるって前に言ってたもんね。
普段勝気なルビーがそれに負けて(?)あられもない顔をしてしまうとなれば……なるほど、恥ずかしいかもしれない。
「そうなのよ。それに、そうなったらアンタ……我慢できないでしょ?」
「うっ」
まったくもってその通りであり、最近は誰かに石英を投入しているとお互いになんだか気分が高まってそのまま……なんてことが時折あるので、石英の投入は本来は夜にすることになっているのだった。
今日は1人だけ貴石ステージがまだ追いついていないルビーのために余分に追加してるのである。
徐に外で戦っては石英や素材を手に入れ、戦わない日は少女たちと一緒に街でデートをしたり、宿にこもって何やら語っては愛し合う、しかも相手が5人。どう考えても退廃的というかなんというか、外で戦っていなかったらダメ人間まっしぐらだ。
しかも、ジルちゃんたちはいざとなったら代わりに石英を集めてくるぐらいのことは喜んでしてくれそうなことが怖い。甘えすぎないように自重しないとね……うん。
いつだったか頭をよぎった、ヒモにならないようにと改めて自分に言い聞かせる。
「まあ、私達とつながればつながるほど絆も強くなって戦力も増大、良いことづくめよね。ちょっとばかりアンタが獣になって寝かせてくれないのも我慢しないとね」
「ごめんなさい。反省しています」
皮肉たっぷりのルビーの言葉に俺は頭を下げるしかない。そのぐらいのことをしてきてるからね。
これもそれもみんなが可愛いからいけないんだ!ってそういうことじゃない? ですよね……。
もうすぐ買い出しに出たみんなが戻ってくるころなので、俺は机を用意してルビーも光って早着替えだ。
そういえば、気のせいかジルちゃんとラピス、それと他の3人で見た目が少し変わったような。
「もしかしなくても、ジルちゃんたちの服ってグレードが上がった?」
「ええ、そうね。ほら……エンゲージに成功したから一味違う感じよ。私たちももう1つ見つかればたぶん行けると思うんだけど……こればっかりは発見されないとね。ああ、変なモンスターがいたら教えてって依頼でも出して見ましょうか」
「それはいいね、自分たちだけじゃ限界があるもんね」
俺のコレクション内容を考えると、ルビー、ニーナ、フローラの3人に合いそうな貴石はまだ確実にある。それがどこに落ちて、どんな状態なのかはわからない……けれど、これまでを考えると取り込んだモンスターが普段より強くなっていたり、暴走気味というのは共通していそうだ。
そんなモンスターが出ていないか、なんてのを依頼にしてみるのも面白いね。
「このままこの北側や西側にあれば一石二鳥ね。あら、戻って来たみたいね」
ルビーの言うように、宿の廊下からなじみのある声が聞こえてくる。まるで女子中学生たちが騒いでいるようでいい意味で非常に元気だ。
そんな彼女たちがみんな俺と一緒に日々を過ごしている、ってことを転移前の自分に言っても……信じられないだろうな。
(おい、昔の俺。俺は魔法が使えないからな、貴石術は使えるけど)
俺以外、誰も面白味を感じないであろう冗談を心の中で飛ばしながらジルちゃんたちを出迎える。
今日は週に2回ほど設定した休養日なのだ。3日戦って1日休み、だから実際には週に2回とは違うけれどね。
「ただいま、ご主人様!」
「お帰り。特に問題は無かったかい?」
フランスパンのような長いパンを袋にいくつも入れ、よろけるようにして入って来たジルちゃん。こう、小さい子のお使いみたいだよね。見た目は少しだけど前より大きくなった気がするけど。
その後ろからラピスたちもそれぞれに荷物を持って入ってくる。本当は収納袋に入れるとかしたら早いんだけど、自分で運びたいとみんなが言うんだよね。
言いたいことはわかる気がする。自分でしてないとなんだかすっきりしないんだよね。
「前と比べてハーベストは最前線、とは言えなくなってしまいましたものね。前ほどは活発ではないというか、冒険者の方々は減っている気がしますわ」
「うんうん。森の開拓も無理せずにーってギルドの人が言ってたよー」
「その分、害獣が増えてる感じなので明日はそのあたりを気にしてもいいかもなのです!」
それぞれの話からすると、ハーベストとその周辺そのものは平和と言っていいようだった。その分、日常のための細やかな依頼、それに関係する問題というのは出てるようだけどね。そこまでは俺達が気にしてもしょうがない。
俺たちにどこかを統治、なんてのは向いてないからね。毎日少女を愛でてる領主なんて乾いた笑いしか出ないよ、きっと……。
「そっか。じゃあご飯にしよっか」
急ぎの討伐が特になさそうということは俺たちにとっても都合がいいかもしれない。さっきルビーと話していた変なモンスターがいないかという探索の依頼を出しても受けてくれそうな人がいないと意味がないからね。
ついでに、で受けてくれてさらに本当に見つかればラッキーってところだろうか。
「そうだ、ご主人様。お風呂作ろう?」
「急だね。それは俺たちだけじゃなくて、他の人が入る用ってことかな?」
もぐもぐと可愛らしくパンをかじっていたジルちゃんの要望は、俺が問い返したように俺達以外の人も入れるようなというお風呂の建築だった。
何人かに要望されたということは、そういったことに貴石術を使う余裕というのが出来てきたという証拠なのかな……。
「ちゃちゃっと作ってみんなで一番風呂といきましょ」
「あらあら、私たちが入るんじゃありませんわよ?」
急にやる気になったルビーへと素早くラピスのつっこみ。ルビーは面白いぐらいに「そうなの!?」なんて驚いている。そんな一コマにも、俺は幸せを感じてしまうのだ。こんな日が続くように、頑張らないとね。
口に残ったパンを嚙みながら、つかの間かもしれない平和も俺はゆっくりと噛みしめるのだった。
書けば書くほどヒモ化が進む気がする……
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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