JD-127.「カメー!」
かつて、都だった場所は一時の賑わいを取り戻していた。セバスとの出会いからしばらく、俺達は出会った相手、手に入れた情報を他の冒険者とも共有し、全員で将軍へと報告した。
1つの国で抱えるには厄介だろう、という言葉も添えて。
事実、この都に残された技術や知識は1つの勢力が抱え込むには大きすぎた。簡単な物でも、例えば今よりも効率よく火を起こす道具などが作り出せるのだから……。
西に向かっていた人員もいくらかがこの都跡にやってくるようになり、人の欲望という物は果てしないなと感じさせた。
「かといって報告をしていなかったり、一部だけにしていたらもっとひどかったかな……」
「かもしれませんわね。もしも、は語ってもしかたありませんわ、マスター」
俺が力無くつぶやいたのはセバスに案内された部屋の一角だ。俺達は信用できる、そんなことを言ってセバスがこっそり連れて来てくれた部屋は貴重品の仕舞われた場所だった。古臭く言えば宝物庫、かな。
戦いのための物はいつぞやの戦いで持ちだされた後だったようで、残っているのは限られた物だけどそれでも貴重品の数々にジルちゃんたちは目を奪われ、先ほどからずっとウィンドウショッピングばりにあれこれと騒いでいる。
ここが消音の結界に覆われていなければすぐに他の人に見つかりそうなほどの騒ぎだけど、気持ちはわからないでもない。
どういう技術なのか見当もつかないような器具から、どうにかして糸状に貴石を編み込んだらしい服、生き物のはく製みたいなのもあるから、もしかしたらこの街の未来を予感していた人もいたのかもしれないね。
『進化はいつか満足によって止まる。そう研究者は言っていました。事実、晩年はほとんどの技術は停滞していたようです』
「ふーん、トール、アンタの知識にあるみたいにどこの人間も、文化も大体同じ道をたどるってわけね……」
「そうだね。歴史は繰り返すわけだ」
いくつかの道具を借り受け(セバスは譲渡すると言っていたが)、俺達は隠し部屋のようなその場所から出て、建物の外にある庭に向かう。敷地内を通る川の向こうにも建物があるということだったが……。
「あれ? とーるー、何か変じゃない?」
「あ、川が無いよ?」
庭に出てから感じていた違和感の正体はジルちゃんの言うように、水が無くなっている川だった。
一瞬、ここが閉鎖されていたからとか、長い間に枯れたのかと思ったけどどうも違うようだ。
『おかしいです。北の山から続く水がここを通っている……はずです』
「途中でがけ崩れでも起きたです?」
ニーナの言うように途中に何かあったと思うのが一番近いと思うけど、どうも嫌な予感がするね。
これまで、謎の相手はなぜかこちらの動きを読むかのように次の手を打ってきた。結構ラグがあるので、こちらが対応できることが多いわけだけど……。
きっと女神様みたいにどこからかこちらを見ることのできる存在がいる、最近はそう思い始めていた。
水源はどこにあるのか、と聞き出そうとした時のことだ。
視界の中にある小山が、弾けた。
「マスター! 敵ですわ!」
「この前のあいつぐらい強烈な奴よ!」
(あいつ……ドラゴンか!)
焦りを隠すことの無いラピスとルビーの警戒の叫び。それは庭中に響き渡り、近くにいた冒険者にも聞こえることになる。
波が広がるように伝わっていく敵であるモンスターであろう相手の出現、そしてその厄介そうな気配。
それからの反応は主に2つに別れた。1つは逃げ出す人、別に悪いってことじゃない。生き残るのは大事だからね。
そしてこちらが多めだったけど相手に挑もうとする人たちだ。高台に登って観察する人、メンバーを集めて一緒に動こうとする人等様々。
だけど共通しているのは、戦って生き抜こうという気持ちだ。俺達は……6人で生き残るべく戦いを挑むことにした。
「いるいる。亀さんみたいなのがいるよー!」
一足早く飛び上がったフローラの叫ぶ先に、確かに大きな気配。俺も飛び上がり、建物の上から観察すると……確かに遠くにだけどいる。某映画のような巨大な亀が立ち上がってこちらを向いていた。
ひっくり返らないかななんて淡い期待はやはり叶わず、牙を口元に生やした巨大亀の口が開く。
「やばい! 下がるんだ!」
「わわっ!」
この距離で巨大生物が口を開いたらすることなど決まっている。お約束中のお約束だ。
大体家の屋根ぐらいの高さに、暴風が横向きに吹き荒れたのが見える。
森の木々の上半分ぐらいを吹き飛ばしながら、その暴力が都の建物をいくつも削り取っていった。
このまま何発も撃たせるのは問題、そう思える強さだ。
「てめえら、ぼさっとしてねえで行くぞ!」
「「「おうっ!」」」
転がったセバスを助け起こしている間に、冒険者の集団がそれぞれに都の外にある森へと飛び出していく。
巨大亀からは木々に隠れてこちらは見えないかもしれない場所だった。逆にいつあれが撃たれるかと思うと怖い気がする……。
「みんな、つかまって。出来るだけ上をいきつつ、こっちを向いたら降りてまた飛んでいこう」
「それしかないか……頑張んなさいよ、トール、フローラ」
フローラにニーナ、ラピスがくっつき、俺はルビーとジルちゃんを運ぶことになった。
自然とそうなったんだから文句はない……はず。とそんなことを考えているとあらぬ方向に巨大亀のブレスが放たれた。
どうやら冒険者達はもう攻撃を仕掛け始めているらしい……負けてられないね。
巨大亀との戦闘は地面の揺れとの戦いでもあるようだった。相手が1歩動く度、確実に地面は揺れる。
まるで海の上の船で戦っているようだ、と感じたのは俺だけじゃないみたいだ。
何人かはその場での弓や貴石術に切り替え、こういった揺れに慣れている様子の男達が大きな脚を斬りつけていく。
巨大亀はその度によろけ、その巨体を揺らしては冒険者達を踏みつぶそうとしてか地面を向いている。
「ご主人様、あれ」
「ん? あれは……青い……アクアマリンかサファイアかな?」
ジルちゃんが指さす先、巨大亀の甲羅の頂点付近に輝く色合いは恐らくは力ある貴石。
言われて集中すると、確かにこれまでのような何か懐かしい感じを覚えた。
「トールのコレクションがくっついてるから暴れるのか、くっついているからのこのこ出てきたのか……」
「どっちでもいいよー。ラピスが強くなれるかもしれないならちゃちゃっとやっちゃおう!」
ルビーの考察も気になるところだけど、今は今、というフローラの意見ももっともだ。巨大亀を倒してから採取してもいいけれど、タイミングがあれば甲羅ごと先に切り取ってしまいたい。
そのまま相手の弱体化にもつながるだろうからね。
「トール様、ひとまずは解放からなのです」
「うん……みんな、行くよ」
幸いにもというべきか、もう少し先に行くまで誰かに見つかるということも無いだろう場所だ。
素早く木陰に入り、2人は直に聖剣を、残り3人は遠隔操作により解放をする。
5人の少女が目の前で顔を赤くし、もじもじとするというのは色々とクラクラして仕方が無いのだけど、地面の揺れがの俺を正気に戻した。
「ご主人様、いこ?」
「うん。わかったよ」
大きくなったジルちゃんに誘われるままに手を取り、俺も聖剣を手にして森を駆けだす。
向かう先では、巨大亀の足元へと冒険者たちが攻撃を集中しているところだった。
大きなダメージはないようだけど、邪魔ではあるのか巨大亀も下を良く向いている。
その口が何かを吐き出すようにした時、俺とフローラがその顔のすぐそばに迫っていた。
ほぼ同時に飛び上がり、顔面に一撃を加えるためだった。
「えい!」「くらえ!」
一足先に俺の聖剣が牙の1本を切り取り、その横をフローラが風をまとったまま蹴り飛ばした。
悲鳴のような声を上げ、姿勢を崩す巨大亀。出来れば巨大になりたいな、と思える体格差の戦いが始まった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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