JD-125.「かつてと今」
「またかっ! ええいっ!」
「雷弾、いっくよー!」
前の探索の時には全く出てこなかった都の防衛機構と思われる同じ見た目のゴーレムたち。その手には暴漢を鎮圧するためだろうか、刃物ではなく鈍器だ。
正直、このゴーレムは大人の1.5倍ぐらいはある。そんな相手に殴られたら鈍器でも危ないと思うんだけど……昔のことはよくわからないね。
こういった技術とかが他じゃほとんど失われているのか伝わってもいないというのが不思議だ。
動力がマナだとしても、何かの回路で全身に力を巡らせて動いているのは間違いないようで、フローラの放った雷のボールが着弾するや否や、その動きはあからさまにおかしいものになる。
その隙をついて規格の統一された感のあるゴーレムを倒し、逃げていった何かを追いかけるのだけど……いないなあ。
「迷子さんどこかにいっちゃったのかな?」
「この場所にいたんだから迷子って呼ぶかどうかは疑問が残るわね。まあいいけど」
だんだんと周囲の建物の様子も変わっていくのがわかる。最初はただの居住区って感じだったけれど気が付くと倉庫のような物が多い場所になっていた。
そうなんだよな、一度じゃ探索しきれなくて広さをすごい感じたんだよな。そんな場所を放棄しないといけないような戦いが過去にあったというのが怖いところだけど……今は考えても仕方がないか。
(というか……こんな場所、前の探索の時にあったっけ? あんなゴーレムも見なかったよな)
追われていた方のゴーレムと今倒した方を考えると、どっちかの制御に問題が出ているということだと思うけど、
前の探索の時にゴーレムに襲われたって話は1つもないのは不自然だと思う。
「きっとお家のお手伝いゴーレムさんなのです」
「確かに強くなさそうだったもんねー」
そんな推測する2人の話を聞きながら、俺は一人、いや……ドルマさんと俺はなんとなく嫌な感じがして周囲を警戒していた。
これはなんというか、人間的なカンというか俺の場合はこういうシチュエーションだとあり得そうだなという感じの警戒で、ドルマさんは実際の経験上から来るものだと思う。
こちらの様子に気が付いて、表情を硬くしているラピスにも頷いて大きな壁のせいで見えない曲がり角を……いたっ!
「番犬、か。数百年も帰らない主のために守っているのか、あるいは最近目覚めたのか。なんにせよ、倒し甲斐はありそうだ……研究のためにはあまり壊し過ぎない方が良いのか?」
「だと思いますけど、無理なら仕方ないんじゃないですかね」
砕く、という言い方があっているドルマさんの戦い方だと確かに後の研究に使うには難しい状態になるかもしれない。
でも狙う場所さえ気を付ければ……相手は大きいしね。
こちらを見つめつつも、門であろう場所から動かない巨体はいつかの巨大狼ぐらいの大きさだ。もしかしたらアレを模倣したのが目の前の物なのかもしれないね。
生き物と同じように中には石英を動力源としていると考えると、そこを一気に壊せば止まるのかもしれない。
「ご主人様、あのお家はちょっと怖いかも」
「何かいそうってことかい?」
思ってもみなかった弱音がジルちゃんから飛び出したので思わず問い返すと、小さく首を振ってから思い出すように首をかしげる。
こんな仕草1つ1つまで可愛いんだからジルちゃんは罪な女の子である。っと、そんな場合ではなく……。
「マスター、ジルちゃんが言うのは、あの建物の中に何か仕掛けがあるんじゃないかってことだと思いますわ。
道端ですら消音の仕組みがあるぐらいですもの。重要施設なら貴石術での破壊活動が行えないように処置がされていてもおかしくないですわ」
「もしそうならアンタとおっさんの出番ってことよ」
自分たちが何もできなくなるかも、というのは悔しいものに違いない。ルビーが不満をありありと顔に浮かべている。
確かに、ルビーたちは全身貴石術の結晶といってもいいかもしれない体だもんね……。
相手は正面にそのままいる。まともにぶつかるべきかここから何か試すべきか、そう考えていた時だ。
横道から、何か動いてくる気配がある。突然生まれたので驚いたけど、最初に飛び出てきそうなのは逃げていたっぽいゴーレムのような気がする。
「まずはあれを捕まえるのを試すか」
「そうですね、そうしましょう」
同じ気配を感じ取っていたドルマさんと頷きあい、横道から飛び出してきたところで俺はそのゴーレムもどきに、ドルマさんは後ろから追ってきてるであろう相手を狙うべく飛び出した。
『ギャピー!? ナニナニナンデス!?』
予想通り、最初に飛び出してきたのは見覚えのあるゴーレム。見た目もそうだけど、声が合成音声過ぎて思わず笑ってしまいそうになる。
そうだな、よくあるサポートマシーンみたいなのを思い出すと大体あってると思う。足元は車輪みたいなので動くタイプだね。
「話が聞きたいんだ。大人しくしてて!」
俺に続けて飛び出してきたジルちゃんたちも参加してゴーレムは逃げ出すことも出来ない状況になる。
ドルマさんはというとずっと追いかけてきていたらしい大きい方のゴーレムを砕いているところだった。
ううん、強い。武器が違うから何とも言えないけど、今度お金を払ってでもしっかり稽古をつけてもらおう。
結構な騒動のはずだけど、門番としての役割は果たす仕組みなのか、大きな番犬型ゴーレムがこちらに飛び出てくる様子はない。その視線?みたいなのはずっとこっちを見てるけどね。
お屋敷の前であまり騒ぐな? あ、ハイ。すいません。
「どうしたの、ご主人様?」
「ううん、なんでもないよ」
思わず心の中でネタに走ってしまったけれど、腕の中のゴーレムはあきらめたのか、機会をうかがっているのか静かになっているのに気が付いてその顔らしきものの前に立つ。
こうしてみると……うん、味があっていいじゃないか。俺はこういうの好きだな。
こう……いざという時にはポンコツとか呼ばれてそうなドジをしそうでいい……うん。
『ナンダカ トッテモ シツレイナコトヲ カンガエテマセンカ?』
「そうかな? あっと、俺はトール。外から来た人間さ」
何が面白いって、表情に当たる部分はツルツルしていて、マナを利用したであろう灯りみたいなのが点線になって表情を作っているのだ。LEDの電光板みたいな感じかな。
そこに浮かぶ顔文字みたいなものが、こちらを疑問視するような顔から、急に驚きの物に変わる。
『ソトカラ! アア ツイニ タスケガキタノデスネ!』
「助けが欲しい状況とは穏やかじゃねえな。他のゴーレムに追われてたのもそのせいか?」
喋るゴーレムは初めてだ、とドルマさんは言うけどそれにしては随分馴染むのが早い。わからないものに悩んでもしょうがない、現実を受け入れるのが大事、なんて言われたけれど見習わないとな。
相当待っていたらしく、ゴーレムからは色んな言葉が飛び出すけどあまり要領を得ない。
しばらく誰かと喋ってなかったせいだろうか? 話すことが多すぎるんだろうな。
「ちょっと、少しは要点を整理しなさいよ。何がどうなって今ここにいるわけ?」
『アッ! ソウデシタ カンタンニイウト マモノトノタタカイノサイ ココハホウキサレマシタ』
イライラした様子のルビーのつっこみにより話が軌道修正され、ようやくまとまった話を聞き始めることができたのだった。
ポツポツと話される内容によると、やっぱりこの街を舞台に以前、大きな戦いがあったようだ。
その後、恐らくは敗北した人間側が都に戻ることはできずに……今に至るらしかった。
「逃げ延びるという考えが出ないほどの相手……どんな相手かは知りませんが、マスター」
「うん。あのドラゴン以上と思った方がよさそうだね」
次に女神に出会ったらもっと聞き出しておこう、そう思った。もっと話を聞きたいところだけどここじゃ落ち着かないな。
このゴーレムを追いかけてきたやつらがまた出てこないとも限らないし……。
「ねえねえ、キミはいつもどこで寝てるのー?」
『メンテナンスハ アノイエノナカ デス』
そういって小さめの腕のような物が指さす先は……番犬のいる建物だった。え、中に入れるの?
『イッショナラ ハイレマス タブン』
「たぶんじゃ困るけど……まあ、行きましょうか」
「はっはっは! 退屈しねえなあ」
こうして失われた都にて、俺達は過去と向き合うことになるようだった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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