JD-124.「過去の探索」
謎の七色に輝くヤドカリもどきや、全身銀色なんていうおかした大ダコを討伐し、周辺に生じていた奇妙なマナの暴走は無事に収まった。
原因であろう相手は倒すことはできたけど、そもそもなぜそんな奴らがそこにいたのか。あるいは目覚めたのか。そういった一番の問題は解決していなかった。
そんな中、同じようなことが起きた時に少しでも対処できるように、と各方面に対策の研究を行うような連絡がやって来た。
それはギルドを通じて、冒険者達にも伝わったのだけど……はい、と方法を出せるような天才、あるいは予言者染みた人は今のところおらず、皆が試行錯誤といったところだった。
だからといって研究のできないような人間でも何かしなくては、と考えれば1つぐらいは策が出るという物。
今回もまた、その通りに1つのアイデアが幾人かから出てくることになった。一番わかりやすく、冒険者の誰もが得意にしているであろうこと。
そう、既存の知識に学ぶべく探索を行うのだ。
「今度は落ちないようにみんなで固まっていこうか」
「ふふっ、私はマスターと2人きりになれるならそれはそれで……」
さらりとからかうような言葉を口にするラピスはそんなことを言いながらも苔むした建物を気にするジルちゃんやフローラをしっかりと見張ってるというか、気にしている。
ほとんどはこういった冗談なのだけど、たまに本音っぽいのが混じるから油断できないのである。
失望させないように注意しないといけないな。
「やっぱり、年代の割に壊れてないのです。不思議なのです」
「古代の超技術ってとこかしら? 相当な間放置されてたと思うけど……」
敷き詰められたレンガのような石や、壁の造りを調べるニーナのつぶやきにルビーも頷いている。
実際、この場所に人間が住んでいたのは一番近い物でも数百年らしい。ここに都があったというのが記録に残ってるだけでもすごい。
恐らくは長い時間をかけて、人が住めない場所が広がっていったのだろう。そうやってアラカルは孤立していったのだ。
なおもああでもないこうでもないと、騒ぎながら探索をするジルちゃんたちは女の子らしい騒ぎ方だなと感じる。
正直、廃墟同然の場所でする騒ぎではないよな、と思うぐらい元気な物だ。
「ふははは、陽気な物だな。そのぐらいがいいのかもしれんが」
「すいません」
すっかり顔なじみの1人となった先輩冒険者へと一応頭を下げておく。騒がしさが気になる人もいるかもしれないもんね。
目の前の男性は余り気にしそうにないけれどそれはそれだ。
「なあに、もし敵対する奴がいたらあの嬢ちゃんたちを狙いにやってくるだろう?
そこを俺達が退治すりゃいい、逆に簡単な話さ」
笑いながら、背中に背負っていた両手斧を手に構え、周囲を警戒しだす男性。確か名前はドルマさんだ。
人間をそのままドワーフ染みた体格にしたらこうなる、とイメージ通りのマッチョな冒険者だ。
普段は仲間の4名ぐらいで過ごすらしいけど、今回はたまたま都合がついたのがドルマさん1人だったらしい。
「やっぱり音があまりしませんね」
「ああ。今もなお生きている都市機構、すごいもんだ」
視界の中で建物らしきものの一角が崩れるけどほとんど音がしないのを見て呟く。ジルちゃんたちの騒ぎな声も、もう少し離れるとほとんど聞こえなくなってしまう。それは街全体に仕掛けられている消音の仕掛け。
そう、今俺達がいるのは以前に一度探索した都なのだ。前に探索した時にも色々発見し、持ち帰ったのだが今日はさらに探索を進めるべく人数を確保した。
あの七色の生物がこの前初めて世界に誕生したとは考えにくい。同じようなことがあったという冒険者もいたからね。
そうなれば、古い書物などに情報が無いか、対策品があるのではないかという話が出たのだ。
今度は二手に分かれることなく、全員一緒なのだけど……。
「うう、こういう廃墟は何かいそうなのです」
「えっと……幽霊さん? いるのかな」
「い、いいいるわけないでしょっ」
こういう話に強そうなルビーが意外と……というのは面白いところではあるけど、幽霊か。骸骨船長なモンスターがいたり、この前の集合体みたいなのもいるぐらいだから普通の幽霊の1人や2人、きっといるんだとは思う。ただ、今のところそういう反応はないよね。幽霊の気配がわかるなら、だけど……。
「大丈夫ですわ。幽霊もマナがないと存在できませんの。だから私たちが気を付ければ出会いませんわ」
「幽霊もそういう時は生きてるっていうのかなー、どうかなー。ボクはどっちでもいいんだけど」
とりあえず、こうして騒がしくしていたら出てくるものも出てこないような気はするね。
人好きな奴が出てくるかもしれないけど、今のところはそんな気配がない。
(それにしても、すごいな……)
前にも見たけれど、この都の建物とかの残り具合は非常に面白いと思う。台風のような災害が無かったのかもしれないけど、綺麗に残っている。さすがにあちこちは自然に覆われ始めてはいるけれど、それでも崩れているような建物はごくわずかだ。それ以外は一見、廃墟に見えてしっかりとした作りだ。
逆に、前に自分とかが落ちたように道はいきなり大穴が開いていたり、この前のように下に落ちそうな場所がいくつもある。
地下水路でもあるのかと思って覗き込んでみるけど、なかなか状況はつかめない。そんな街中を、今にも敵が出てきてほしそうなドルマさんと一緒に歩く。
残念なことに、今のところは敵の襲撃に出会ってはいない。たまに小動物が見えるけれどもそれぐらいだ。
「ううーむ、もう少し軽い武器にすべきだったか。出番が無いぞ」
「危険が無いのは良い事じゃないですか」
答えながらも、俺もあまりの静けさを気にしていた。確かに以前の探索でもほとんど戦闘は無かった。これだけの建物群となれば、多少モンスターが住み着いていてもおかしくはなはずなのに……。
そこまで考えて、ふと頭によぎるのは地球にいたころに読んだような作品たち。
それは終末めいた世界や街を舞台とした物語だ。大体はそういった物語の場合、多くは自動化され、人間のすることというのは少なくなり、機械に管理された世の中で生き抜くのだ。
掃除や洗濯、身の回りのことは全て機械であったりして、時には警察機構のような物まで機械化された文化。人の気配のない都に、そんなことを思った。
(そういう場所には大体あるんだよな。昔の警備機械とかがさ……ん?)
言葉を口に出すと本当になる、なんていうけれど心で考えるのもその対象なんだろうか?
俺はジルちゃんたちの前に立ち、耳を澄ませた。小さくなっておりほとんど聞こえない音を必死で聞く。
「ご主人様?」
「しっ! 何か、いる」
音が当てにならないと考えた俺は、相手に見つからないように物陰からその方向を様子見として少しずつ顔を出すと……いた。
全身苔だらけで、ちゃんと動いてるのが謎なぐらいだけどゴーレムのであろう物が動いている。
その手には、森からやってきたであろう狼のような獣がつかまれている。動きが無いところを見ると、既に死んでいるのだろう。
「なーるほど、ゴーレムか。砕くなら俺に任せな」
「了解です。合図でしかけましょう」
相手は見える範囲では2体。死角から襲い掛かれば大した相手ではないと思ったが、事実その通りであっさりとゴーレムが地面に倒れる。
ドルマさんは手ごたえが無さすぎると思ったのかやや不満そうだ。
「こいつらだけか?」
「さあ……あれ、何か動きませんでした?」
周囲を見渡していた俺が指さす先で、再びゴーレムが角から現れてくる。その数は5。一気に倍以上だ。
ドルマさんはそのゴーレムたちを見て、舌なめずりでもするかのような笑みを浮かべ斧を構えなおす。
いざ突撃だ、というところで別の影が俺達の視界に入って来た。正確にはゴーレムたちが向かっていた先にあるがれきから飛び出してきたのだ。
『ニゲロー!』
あからさまな合成音声を口にして駆け出す1メートルもなさそうな……ゴーレムっぽいものが街中へ逃げ出した。慌てて俺達も追いかけるが、ゴーレムが邪魔をしてくる。
速くこいつらを倒して、さっきの何者かに話を聞きたいところだった。
「まずはこいつらか……」
「ははっ、すぐさ」
廃墟な都で、不思議な相手との追いかけっこらしきものが始まる。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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