JD-123.「虹の根元にあるものは」
真面目な話が続いてる……ネタを書きたい(ん?
ジルちゃんたちだけでなく、町にいた人々や外にいるモンスターですら謎のマナの流れにより体調不良を起こす事件が発生した。
その原因を探るべく、俺は不快な感じを覚える方角へと有志の冒険者と共にやってきていた。
そこで見つけたのは虹色に輝く貝を背負ったヤドカリもどき。どうしてここにいるかは不明だけど、奴らが原因だろうと思わせた。
まずはと俺が暴発気味に放った無数の貴石術によるナイフはヤドカリもどきへと突き刺さり、数匹を地面に倒れ伏すことに成功したのだった。
「行け行け! 止まるな!」
「はいっ!」
怒号のような叫びを背中に浴びながら、俺は地面を蹴って駆け出した。相手は初めてのモンスター。どんな強さで、どんな相手だとかはさっぱりわからない。
だけど、この相手を倒さなければジルちゃんたちは苦しんだまま。この地方での戦いも苦戦を強いられるだろうからね。
まあ、モンスターも影響を受けてることを考えると、どっちもどっちかもしれないけれども。
大きさにしてちょっとしたミニバスぐらいあるヤドカリもどきの足元に近寄ると、聖剣をそのまま横に振り抜き、まずは一番鋭そうな足部分を切り裂いた。
硬い物を切り取る感触と共に槍の穂先のような足……腕か?が吹き飛んでいく。
なおも振り抜いた勢いをそのままに回転、数歩踏み込むようにしてもう一度一閃させると面白いように相手の細いそれらは切り取られていった。強度そのものは大したことが無いようだった。
散らばった太い枝にも見えるそれらは七色に輝いて周囲のマナに反応し……はじけた。
「くっ!」
視界にマナの異常な動きが目に入ったからこそできた咄嗟の回避行動。爆発の威力自体は大したことが無いけど、至近距離で直に食らえば無視できない威力だと思わせた。
その俺の動きを見て、他の冒険者達も砕けた相手の体の一部から離れるようにし、その予想通りに破片が爆発する。
「弓を撃ち込めえ! 生身の部分を貫く!」
誰かの叫びに、後衛である冒険者達から手早く矢が放たれ、目玉にあたる部分などに突き刺さっていく。
そうして噴き出た血はまるでオイルがまき散らされているかのようで……ちょっと待て!
「下がって!」
「うぉっ!?」
俺の叫びに、踏み込もうとした1人の足が止まりそれが彼の命を救う。地面に撒き散らかされたヤドカリもどきの血が光ったかと思うと、そのまま一気に燃え上がり、炎の海となったのだ。
幸いにもすぐに火は消えたけど、それに巻き込まれたと考えれば恐ろしい話だ。
どうやら相手は全身がマナに異常反応する物で出来ているようで、下手に戦えばその暴発に巻き込まれるという状況の様だった。
ヤドカリもどきの意思で発動しているのか、一気に仕留めれば爆発はしないみたいだ。だけどそれはなかなか難しい。最初の数匹が運が良かったのだ。
「ええい、あぶなっかしくてしょうがねえぞ!」
「それでもやるしかないですよね」
1つ、方法は無くはない。俺がみんなと離れて一気に貴石術を放つのだ。恐らく聖剣を使って放てば直に撃つよりは安全性が高い。
問題はそうしていると俺の体の中でも何か暴れる感じがあるので限界が近くなるということかな。
出来るだけ温存した方がよさそうではある。
「よーく見て行け。アイツも生き物なら急所があるはずだ」
「急所……」
パッと思いつくのは、心臓や脳にあたる部分だ。後は、ヤドカリの首ってどこだっけな……。
どちらにせよ、無数とも思える足をかいくぐった先の貝の根元付近が頭になるだろうからそのままじゃ当てにくい。飛び込む……のはリスクが高いと判断した俺は魔刃を使い続けることにした。
マナの利用も少ないと考えたし、実際に反動も少ないように感じた。
戦場となる泉のそばを駆け抜けながら、俺は周囲のヤドカリもどきに次々と魔刃を放っていくことにしたのだ。
できるだけ破片が出ないように足ではなくちょうど貝殻と本体に近いだろう部分を狙っていく作戦としたところ、美味い具合にそれが決まっていくのが見えた。厄介な爆発や炎上は相手にとっても良くない物のようで、その度に相手の動きが鈍くなる。なんというか、自爆してるような感じだな。
相手がひるみ、動きを止めたところで両手斧が貝殻を砕き、頭部分を一気に叩き潰す光景や、長い槍が正面から奥へ奥へと差し込まれ、そのまま動きを止める奴も出てきた。
残念なことに小さな破片も爆発するようで、俺も途中で何回かその爆風を受けてしまうことになる。
至近距離で戦う他の冒険者はぎりぎりの戦いをしていると言えると思う。
それでも1匹、2匹と数が減ればこちらの動きにも余裕が出てくるという物。一方に向けさせ、その隙をついて一気に仕留める、なんてことをしているうちに相手の数もだいぶ減って来た。
それと同時に、呻きたくなるようなマナの異常も減っていくのが実感できた。間違いなく、ヤドカリもどきがこの異常の原因だったのだ。
最初と今では、都会から高原に来たかのような空気の違いを感じる。
「あと少し! って、なんじゃありゃあ!」
「タコ? にしてはでけえ!」
大きな音を立てて、泉の底から地上に出てきたのはまさに大ダコ。だけどその体の表面はぬめり気が全くなく、逆にアルミホイルでも巻いているかのように金属的な光沢を誇っていた。
今は色が銀色だけど、俺も冒険者達も悟ったことがある。こいつを放っておくとヤドカリもどきのように七色に光るのだろう、と。
「一気にやっちまえ!」
「行きます!」
暴走の収まって来たマナに意識を集中し、フローラのそれのように足元に風。聖剣を構えたまま俺は風の弾丸となって駆け抜ける。こちらを見、迫る巨大な腕はニーナに教わったように斜めに岩壁を生み出して受け流す。
崩れそうになる姿勢をなんとか維持し、迫る細い食腕を氷と炎の槍を撃ち放って貫き、視界を確保。
確かタコの心臓は正面じゃなく後ろ側……でも感じる場所が少し違う!
俺は生半可な知識より、今感じる物を信じることにした。
相手の攻撃をみんなの力を借りた貴石術で退け、触れそうな距離まで近づいて……俺は聖剣を一気に突き入れた。
中はぬめっており、嫌な感じはしたが同時に手ごたえもあった。
視界いっぱいの大ダコの表面が目まぐるしく色を変え、まだ生きてるのかと思わせたところで一気に相手から力が抜けた。
同時に俺の腕も相手の中から抜けることになり、俺は荒い息を整えながら相手の絶命を確かめていた。
一見すると、これまでのような無謀な突撃。だけど今回は違った。安全性を確保し、確かな一撃を繰り出せたのだ。
「おい。大丈夫か」
「はっ!? なんとか……」
肩を叩かれ、俺は視線をようやく大ダコから他に移すことができた。まだヤドカリもどきがいる状況でこうだと、まだまだ訓練の余地はあるようだった。
幸いにも今回はヤドカリもどきはそばにおらず、また近づいてくる奴はみんなが倒してくれたようだ。
気分は、問題ないかな。これなら貴石術の行使にも問題は無いだろうし、みんなも元気になるに違いない。
「よっしゃ、回収するだけして、戻ろう!」
「了解!」
原因そのものは不明なままで不気味だけど、ひとまずの危機は脱した。このヤドカリもどきとあの大ダコがどこから来たのか、あるいは最初からいたのか。
その原因がはっきりするのは、季節がいくつも廻った後になるとは……俺達はこの時、考えもしなかった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




