JD-122.「虹色の罠」
「外に何かあるってのは同意するけどよぉ。どこにあるんだ?」
「わからん……が、じっと待っていても良くなるとは思えん」
門のそばで、どちらにどう探索の手を広げるべきか悩むメンバー。俺の呼びかけに答え、立候補してくれた男女の冒険者だ。
途中、兵士であろう人もついてこようとしたけれど、町を守ってもらう必要もあるのでそちらは辞退した。
結果としてマナの影響を受けにくい、つまりは貴石術をほとんど使えない冒険者が集まったので誰もが腕自慢、という様相だ。
この中だと俺が細身すぎるように見えるね……まあ、俺もこっそり細マッチョまではいかなくても筋肉が付いているのだけどそれはそれ。
「事件が起きてから、ずっと頭に嫌な感じがあるんですよ。ずっと灯りを向けられてる感じなんです。
こっちのほうにすごく感じるんですよね」
俺はそういって、明るいライトを正面から見ているかのような不快感を感じる方向を指さした。今も、その不快な感覚は俺を襲っている。まるで体の中に入って来た何かが暴れているような感じだ。
恐らくはこれがマナの流れの異常、なんだと思う。
「じっとしてたってあいつらはたぶん良くならねえ。よし、行くぞ!」
20人ほどの集まりで構成された臨時パーティーはそのまま街道を進み、すぐに妙な状況を目撃し始めることになる。
時にはゴブリンが己の腕をなくした状態で木の根元に倒れ、オークが何も持っていない手で岩を叩いている。
その中には、貴石術を使いそうな杖を持った存在もいて、それらは泡を吹いて転がっている、なんていう状況だった。控えめに言っても、恐ろしい光景だ。
速く何とかしないと、町の皆もこうなってしまうのだろうか……そう思わせた。
「こっちです。段々と変な感じが強くなってます」
「この先には1日も歩けば泉があるぐらいだ……。遺跡だってありゃあしねえぞ?」
俺の感じる変な気配は正しいと言っていいと思う。なぜなら、そちらに近づくほどモンスターたちの異常行動や、既にこと切れている個体等が増えてきたからだ。
町では影響の出ていなかったこちら側にも、なんとなく空気が重い、すっきりしない、という症状が出始めた。
先輩冒険者に勧められるがままに、すっきりする作用のあるという薬草茶を口に含むと幾分か良くなった頭を少しでも回転させようと集中した。
(前々からというのは考えにくいよね。そうなるとそんなことが出来る存在がどこからかやってきたか……)
あるいは、元人間のようなヒトが昔の技術を持ちだして邪魔をしているか、だろうと思った。
消音の機能が今もなお、生きているような街が作れる技術だ。中には貴石術そのものを使えなくするやつだってあってもおかしくはない。
問題はそれだったとしてどんなものか、どうしたら止まるのかなんてのがわからないことだ。
その日は、大した収穫もなく日が暮れた。本来ならば警戒すべき夜だが、今回ばかりはその必要が無い。なぜなら、あちこちでモンスターたちは1歩も動けないかのように倒れ伏しているからだ。
今なら討伐し放題だが、誰も休憩に邪魔な分以外に手を出そうとしない。その余裕が無いともいえる。
眠れない夜が過ぎていき、それでもわずかながらも意識が途切れているので睡眠はとれたのだろう。
翌朝、日も高くならないうちに俺達は行動を再開した。
「強くなってます。この方向であってるんだと思います」
「頼むぜ。兄ちゃんだけが頼りだ」
頷き返し、いつモンスターに襲われてもいいようにと聖剣を構えなおすと手にしたままの聖剣の柄が汗で少しにじんだ気がした。焦りが俺の体を支配しそうになったところで、ふとジルちゃんたちのことを思い出した。
彼女たちのことを考えれば、失敗するわけにはいかないのだ。冷静に、かつ迅速に、だな。
時間にして動き出して2時間ほどだろうか。俺は何かを足元の感覚で捕えた。
「!? 止まってください」
「どうした、いたか?」
声をかけてくる冒険者には返事を返さず、しゃがみこんで地面を触る。足裏から感じたマナの流れが、先ほどとは違った感じを受けたのだ。
さっきまではせせらぎが聞こえた、みたいな曖昧な物だったのが、今ははっきりと感じられる。
この先に、マナを集めては流している何かがある……そう感じたのだ。
「よくわかりませんが、何かありますね。生き物なのか、ただの装置なのかはわかりませんけど」
「上出来だ。この先ってわかってればやりようはある。よし、組み直すぞ」
素早く、冒険者同士の陣形が組み直され、前方に普段は斥候のように探っていそうな人、すぐ後ろに防御に回れる人、と相手の先手を警戒したものとなる。
俺もまた、浅くなりかけた呼吸を深いものに戻し、ゆっくりと進んでいく。
森ばかりだった視界に陽光の明るさが飛び込んでくる。話に聞いていた泉、ということになるのだろうか。普段であれば森の中の休憩所として、多くの動物やモンスターが思い思いに利用するであろう場所。
町からはやや遠く、依頼でも無ければ訪れない場所に違いない。
今そこは、異形の支配する場所と化していた。
「なんだあ……ありゃあ」
「虹色の……巻貝ですかね? いや、やどかり?」
泉を遠くに収める場所で、俺達は思わず足を止めて呟きあっていた。視線の先にうごめくのは人の数倍ほどの背丈の……貝の化け物。
見えている限りでも10はいるだろうか? それらの殻というか貝部分がまるで磨き上げた夜光貝の殻のように七色の光を放っている。動きによって色を変え、独特の感じを受けるがすぐに気が付いた。
その色の変化で周囲のマナの流れに乱れが生じていることに。
泉と、貝たちに向けてマナが流れ込み、そして何か変な感じを受けるマナが放出され、再び別の流れとなって周囲に伸びていくのがなんとなくわかる。
なんていうか、浄化装置の逆回しを見ているかのような感じと言えばわかるだろうか?
「俺でもわかるぜ。なんだか嫌な感じだ」
「そう……ですね。あいつらがどこから来たのか、元々住み着いてたのが目覚めたのかはわかりませんが……」
問題はあいつらの強さだ。挑みかかったら強くて負けました、では話にならない。かといってここでは貴石術は使えない。下手に暴走して……暴走?
「離れていてもらっていいですか? いっそのこと、暴発しそうな術を投げ込んでみます。その後突撃しましょう」
「兄ちゃんがそういうならいいけどよ……死ぬなよ」
俺が5人も待ってるから死にませんよ、なんて言ってみると相手は俺達のことを知っているようで、違いねえ!とだけ言って肩を叩いて少し下がっていく。
幸いにも、まだ距離があるので相手は気が付いていないようだった。
背中に冒険者達の視線を感じながら、俺は暴れ出しそうになるマナに意識を集中し……そこでやめた。
よく考えたら体で暴れるマナをそのまま使うこともないのだ。聖剣を媒介に、魔刃のごとく使ってやれば……よし!
ゲームやアニメのように、剣から魔法の力を帯びた斬撃を飛ばすイメージでマナを集中し、剣先に力を集めていくと……思った以上の手ごたえがあった。
周囲からおかしな状態のマナがどんどん剣先に集まってくるのだ。まるで掃除機で吸い込むかのようにだ。
(やばっ!)
なんだか危ないということだけは感じられたので、そのまま俺は聖剣を振り抜き力も解放した。
碌にイメージしなかったその貴石術が産んだのはジルちゃんの使うそれによく似た透明なナイフたち。
普段が小雨ならまるでゲリラ豪雨かと思うような数と勢いで、その力は無数の刃となって貝たちに降り注ぐのだった。
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R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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