JD-120.「琥珀色の想い」
やはりただのヒモなのでは? ユーリアルは疑問を抱いた(某ゲーム風味
「そりゃあああーーーー! なのです!」
掛け声一つ、俺の前でニーナの手にした大き目のツルハシが坑道の壁に突き刺さる。と同時に音を立てて崩れてくる岩壁。
後ろで見守っている男達の感嘆の声が響く。やる前に聞いた話によれば、良いところに当てるとこうして一気に崩れるんだ、とは言っていたけど……ね。
小さな重機であるかのように、ニーナはどんどんと掘り進んでいく。今掘っているのは、ハーベストそばの鉱山だ。
アラカルから一度みんなして戻り、ハーベスト側からの開拓といった事にも参加しようという意図がある。
今日はニーナの番だから、なんてジルちゃんに言われて2人でこの依頼を受けたわけだけど……番?
(きっと気にしたらいけないんだろうな……)
なんとなく、ジルちゃんたちの言いたいことはわかるけど、それは口にする物でもないかなと思い直して目の前の仕事に集中することにした。
俺は俺で、聖剣を使って綺麗に切り取るような採掘を始めるのだ。運び出しは他の人がやってくれるらしい。
「ニーナ、大体何があるかわかったりするの?」
「んー、わかると言えばわかるのです。匂いがするのですよ、最近」
鉱石に匂いがあるというのは初耳だけど、きっと特殊能力のような類なのだろう。貴石ステージも上がってきているので、もしかしたら祝福やスキルたちもその力を増しているのかもしれない。
実際、俺の使える貴石術の度合いというか強さもどんどん高まっている。たとえば今なら、ニーナと同じように岩の壁を作り出す、なんてことも不可能ではないと思う。
「大した嬢ちゃんだな。ま、取りすぎて値段が下がらないように適当にやってくれ」
「了解なのです! トール様もどんどんいくのです!」
「おうっ!」
最初は掘ったものの運びだしやまとめるだけという仕事に嫌そうな顔をしていた同業者も、俺とニーナが掘り出す量に段々と目の色が変わってくる。
現在はいくら物資があっても十分ということもないわけで、これらを使う先はいくらでもある。
何故なら、アラカルの町の解放のことが東側に伝わると話を聞きつけて冒険者や、他の国からの援軍などが集まってきているのだ。
そうなれば過ごす場所もいるし、武具だってどんどん消耗していく。需要は無くならない。
最近までじわじわと人間側が押されていた中、いい方向に動いているということで各地で討伐にも力が入っているらしい。
「トール様、そういうときは……こうなのです」
「なるほど、こうなんだ」
ひび割れていて危ない場所をふさごうとして、少しふさぎ過ぎた俺に横からニーナの指摘が飛んでくる。
それに従ってやり直すと、ちょうどいい感じに穴が土でふさがる。こうしておけば足を取られることもない。
以前と比べ、俺の貴石術もやれることが増えてきたと思う。もっとも、それを使いこなすには練習が必須という状況なのでまだまだなのだけど……。ずっとニーナが相手の攻撃を防げるとも限らないし、二方向から来た時に集中しきれなくなるということだってある。
そんな時に俺がちゃんと防げればそれだけニーナだけじゃなく、みんなも安全になるはずだ。
(だから……しっかりしないとな!)
その後も時にはニーナと交代しながら、順調に掘り進み……その日の作業が終わる。
収納袋を使った土砂の移動なども浸透し始めたようで、俺達以外の場所でもこれまでとは段違いの速度で採掘が進んでいるという。
これでも1年もするとほとんどもとに戻るというのだから世界は不思議に満ちている。
俺は噴き出た汗をぬぐいながら、ニーナと2人、高台の上で休憩していた。
「トール様、はいなのです」
「お、ありがとう」
どこから調達して来たのか、リンゴのようにも見える果物を手渡してくるニーナ。彼女の手にも同じような物が。
ちょっと下品かなとも思いながらもそのままかじりつくと、思ったよりも酸味が強く、動いた後にはたまらない味が口いっぱいに広がった。
「くーっ! 不思議な味だね」
「そうなのです。雑貨屋のおじさんに今が旬なんだって売ってもらったのですが正解なのです」
一口かじってはきゅっとなる顔が女の子らしいな、なんて思ってしまう俺。じっと見られていたことに気が付いたのか、ニーナは恥ずかしそうに体を縮めてしまう。
俺はそのまま笑いながら再び一口齧り、その酸っぱさに大げさに顔をしかめて見せる。
「……トール様は優しいのです」
「そうかな? 甘いってことかもしれないけどさ」
実際、俺はみんなに甘えていると思う。これまではそれでなんとかなって来たかもしれないけど、ここから先はそうもいっていられない。
ドラゴン以上の敵が現れ、ジルちゃんたちがこれまで以上の危険にさらされる可能性だって十分にある。
そんな時、俺は何もしないわけにはいかないのだから。
常に前で守りを担っているニーナだって、もっと大変になる。
「そんなことないのです。今日だって……うまく言えないけど、優しいのです」
「そっか……ニーナがそういうならそうかな? でも、ニーナも優しいのは俺も知ってるよ」
え?なんて呟くニーナの空いた手をそっと握って、顔を見つめる。とても、小さな手だ。地球なら、料理の手伝いをするなんていってフライパンを持つのがやっとに思える手。
その手が生み出す力がどれほどの物か、俺はよく知っている。そしてその力が頼りになることも……。
だけど、みんな女の子なんだ。
「いつも前にいて、みんなが怪我しないようにって頑張ってくれるから俺達も頑張れるんだと思うよ」
「それは……自分の役目なのです」
当たり前のことをしてるだけ、そう続けるニーナの肩を抱き寄せて距離をゼロにした。なんだかんだと遠慮がちに皆より後に俺に抱き付いてくるニーナ。
それは何かあった時に守れるようにといつも気を張ってくれているからだと知っている。
だから感謝の気持ちを示したかったのだ。
最初は遠慮してか、離れようとしたニーナだったけど俺が力を緩めないということがわかると、そっと体重をかけてきた。
俺達はそのまま高台の上で少し傾いてきた太陽の光に身を任せる。
「……トール様は、後悔してないですか? 見知らぬ土地で、命の危機にさらされて、5人も女の子に振り回されて……大変なのです」
「確かに、ちょこっと大変かな」
確かに大変と言えば大変だ。気を使う部分もあるし、かといって好き勝手にやっていいかというとそうでもないしね。
いろんな意味でドキドキもするし、命の危険もたぶん、ある。だけど……。
「はわっ、トール様?」
「こうやってニーナたちと過ごせるならとんとんどころかこっちのほうが幸せじゃないかなあ……」
本心からの言葉と一緒に小柄な彼女の体を抱きしめるようにして、そのまま体の前にすっぽりと抱き寄せた。
恥ずかしいのか、うつむいてしまうニーナ。そんなところが可愛いのだけれど、口にすると余計に赤くなりそうなのでやめて置く。
「誰にも、いなくなってほしくない。これは本当だよ」
「……駄目なのです。もしも、もしも……誰かが犠牲になるならそれはトール様以外でないといけないのです」
いつの間にかニーナの横顔は真剣な物になっていた。手にした果物の残りもあとわずか。気を紛らわすためにか、それをかじって芯だけになったところで2人して投げ捨てる。
それは俺にとってはためらいを捨てたようにも見えた。
「俺は、誰も失いたくないなって思ったんだ。この前はたまたまジルちゃんが強くなれた。でも次があるとは限らない。だから、一緒にさ……強くなろう。それじゃ駄目かな」
「……わかったのです。自分も頑張るのです。でも今は……ちょっとだけこうしていたいのです」
夕日に近づいている陽光に照らされた顔が段々と赤くなるのを見て取りながら、そのまましばらくの間、2人して温もりと気持ちを確かめ合うのだった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




