JD-117.「あかいはじめて」
「ちょっと、あんまり……見ないでよ」
ぽっかりと開いた上空の穴から注ぐ日の光に、少女の白い体がさらに白く照らされる。恥ずかしさも頂点に近いのか、脱いだ服を前に抱えて身をよじる姿もまた、俺の心をざわつかせる。
普段は勝ち気で、時にはしかりつけることさえしてくれる子が今、目の前で顔を赤くしている。俺の視線から逃げようと、体をひねるもそれは別の場所を俺の視線にさらすだけに終わった。
「ルビー……きれいだ。磨きたての宝石みたいだ」
「ばかっ。そういうのはいちいち言わないの。前から思ってたけど、アンタそういうところはもう変態そのものよね」
やっぱりルビーはルビーということのようで、切れ味鋭いカウンターに俺も思わず、伸びかけた手が止まるぐらいだ。
でも、すぐそこにいる半裸のルビーという状況に再起動を果たしてそっとそのそばに座った。
小さなその肩を抱き寄せると、吐息が俺の腕にかかる。
「でもいいの? こんな場所で……宿とかじゃなくて外でなんて」
「私が良いって言ってるのよ! それに、私たちは元々自然の中にいたんだから気にしないわよ。
ここならアンタと……その、ラピスだけだし……」
ついっと視線を逸らす先には、何がそんなに嬉しいのか笑顔満載のラピスが佇んでいる。急に思い出すのは昔の江戸の将軍は夜の時間にそばに別の女性が待機していた、なんていう話だ。
別にラピスがそういう存在という訳じゃあないけど、なんとなくね。
ラピスもここに乱入してくるのかと思ったのだけど、最初ぐらいは1対1がいいはずですわ、なんて言って自分はこの後周囲の警戒に向かう、と言っていた。
そう、今俺達が3人でいるのは穴の底。地下20メートルはありそうな洞窟の中なのだ。
ドラゴンとの戦いによる傷も癒え、アラカルの町も野宿は少なくともしなくて済む、結界もちゃんとある、という状況になり復興のための人の移動や物資の行き来が尽きることはない。
物と人がアラカルとハーベストを行き来することで道中の安全性はますます増している。
こうしていけばモンスターたちも危険であることを覚え、一部を除けば襲い掛かられることも無くなっていくだろうとのことだった。
そんな中、俺達がヨーダ将軍直々に依頼されたのは、他の冒険者チームとの合同での地域調査だ。
「廃棄された都、ですか」
「うむ。ここから東に真っすぐいった川のそばにかつての都があるはずなのだ。そこは貴石術使いの聖地とまで言われた場所でな。もしかしたらまだ使える物や技術の断片が残っているかもしれないのだ」
過去に学び、新しい未来を切り開く、そういうつもりだということだ。探検と発掘というのはわくわくするけど、危険の方はどうだろうか?
貴石術に耐性のあるあれこれがいきなり湧き出てくる、とかあると大ピンチだと思うのだけど。
「もっとも、どこまで残っているかは未知数だ。無理はせずに確認だけで構わない。そのため、2週間で区切りとする予定だ」
成果が出たら、ではなく一定期間で戻る、ということなら大丈夫かな。最悪、俺たちだけでも戻らないといけないけどそれは何とかなるとは思う。
自分たちの力になる何かが見つかるといいなとは思うがそううまくはいくかな?
そんな思いを抱きながら、他の3つほどのチームと一緒に東に進んで4日。
他チームの1人が森の中にそれらしい建物たちを見つけてから手分けして探索が始まる。
モンスターの気配が全くしない状況ではまとまって行動するのもどうかということで俺達もまた、二手に分かれて進んだわけだが、結果的には良いのか悪いのか。
元々あった地下だったのか、浸食によって開いた穴なのか、それはわからないが崩れた足場から俺とラピス、そしてルビーは見事に落下していき、ぎりぎり俺の風により着地、怪我はない状況となった。
「随分落ちたね……」
「さすがにこの高さは危ないわね。ラピス、周囲はどう?」
「今のところ気配は無いですわ。念のために一度氷で塞いできますわね」
遥か上の方に広がる穴からは太陽の光が注ぎ、地下を照らしている。穴自体はちょっとした庭ぐらい広がっており、周囲には一緒に落ちてきたであろう瓦礫が散乱している。
ひとまずは、ということで3人して周囲の確認を行うが道ばかりでどれが正解だかはさっぱりだ。
めぼしい道はラピスに塞いでもらったのでモンスターが襲ってくるということはなさそうだ。
「マスター、少し時間がかかるかもしれませんわ」
「どうして? こんな大穴だ。きっとジルちゃんたちも音に気が付いて……あれ?」
ラピスに言われて気が付いた。落ちる時に、音はしただろうか、と。
思い出してみようとするがそれは失敗する。音自体はあったが、妙に小さかった気がする。
「そういうこと……ここが元都っていうのは本当みたいね。消音の機能を持つ何かが生き残ってるのよ。
ほら、街中は騒がしすぎても良くないって言うのはこの世界でも同じみたいよ」
ルビーが手元の石を適当に投げつけるも、それは豆が当たったぐらいにしか響かなかった。
これでは崩落の音を頼りに、というのが難しくなる。どうやって助けを呼んだ物か……。
「そんなに心配しないでも、私達やアンタとはなんとなくつながりからわかるから、そのうち動いてないなって気が付くわよ」
「そうなんだ?」
意識したことはなかったけど、そういう能力が俺も含めてあるらしい。それっぽく考えてみると、確かになんとなくルビーには赤い気配を、ラピスには青い気配を感じる。
と、がれきに座り込む俺のそばにルビーが歩いてきたかと思うと、真剣な表情で見つめてきた。
「どうしたの?」
「……その……さ、しばらくかかるし、ここでしない?」
しない? 竹刀? なわけないか。えっと……女の子が俺という男に対してするかしないかを聞く……え?
これまでに貴石解放は野外がほとんどだし、今さら何をというかもしれないけど……外で?
「あ、それはいい考えですわ。私は見張ってますから、ささ!」
「ラピスもそう言ってるし……ね?」
「ね?って……うーん、わかったよ」
正直、どきどきしてるのがこれからのことに対してなのか、こんな場所でという気持ちなのかはわからないけど、女の子にこう言わせて何もしないというのもどうかなと思い、承諾した。何をって言えば……脱ぎ始めたルビーを見ればすぐにわかる。
もうルビーは貴石ステージがあがらない。その状況でするということはそういうことだ。
いつも、ジルちゃんたちとしているのをなんだかんだとじっと見てきているのは俺も知っていた。
その度に誘ったのだけど、その時には断られたんだよね。
「トールはさ……こんな女の子は、嫌?」
「嫌なわけないよ。むしろ俺でいいのかな、なんて思うぐらいだよ」
正直、女神様にもらった体がなければ4人どころか2人ぐらいで限界だと思うけど、良い事なのか悪い事なのか、女神様の力による肉体は俺とみんなの希望に応えてくれる体力を誇っていた。
視界の中で絡み合う少女たち、というのは映像に残しておきたいけれど俺が独り占めというのも悪くない、そんなお話だ。
そうして、ごゆっくり、なんてラピスに言われながら、俺とルビーは太陽の下でちょっとばかり普通じゃない繋がりを……確かめた。
自分の出す声もあまり響かないで済むというのはルビーの色々な気持ちの枷を外したらしく、普段の彼女からは予想もつかない姿に、太陽の光が穴から差し込まなくなってもしばらくは俺達は抱き合っていた。
一通り終わった後、「じゃ、帰りましょうか。ジルちゃんたちもそろそろ探しに来ますわ」なんて言って、氷の階段を作り出して誘うラピスに俺とルビー、2人して口がふさがらなかったのはいうまでもない。
最初からそうやって……いや、ラピスには敵わないな、まったく。
足元に気を付けながら長いらせん階段を上り、地上に出たころには日が傾いていた。
それからジルちゃんたちと無事合流し、本来の探索が再開したのだった。
屋外が最初とかレベル高いよね!
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




