JD-116.「さざ波のような不安」
キャラ別に話が少し続きます
「はっ!」
「もっと腰を落として、そうだ!」
背中にかけられる叱咤の声に従い、姿勢を変えていくと先ほどよりも力が剣に乗るのが自分でもわかる。
それだけ、今までの自分が能力だけで戦ってきた部分が大きいのだと実感する。
太陽の光に聖剣が反射し、目に剣閃が残ったかと思うと街道沿いの木が徐々にずれ、倒れていく。
たった今、俺が両断したからだ。
「せっかくの切れ味だ。それを活かせるように的確に切り付ける必要があるだろう。その上、トールはその剣をずっと使いたいのだろう? 何かあっても剣も一緒に下がれるように握り方にも注意が必要だ」
「はいっ!」
奪還作戦に参加した兵士や冒険者のいくらかにはジルちゃんの貴石解放した姿や、みんなの姿も目撃されている。
その上、彼女たちと俺の戦いぶりも、だ。聖剣そのものは俺が変なこだわりでたまたま容量のある擬似聖剣にひたすら石英を吸わせたのだと思われているようなのでそのまま誤解してもらうことにした。
ジルちゃんたちはそういう貴石術があるんだ、肉体強化の一種だとして押し切った……つもりだ。
実際、変身染みた貴石術はまったくないわけじゃないらしく、教えてくれという話が少しきたぐらいだった。
一番大きいのは、ヨーダ将軍が勝利が全てであり、そこに何も問題はない、といったように宣言してくれたからだった。
例に挙げた貴石術の難易度が桁違いで、実行できる人間もほとんどいないのもそれを助けたようだった。
結果、俺達は奥の手をみんな持っている侮れない実力の6人、という扱いとなっている。
やや都合が良すぎる気もするけど、毎日弟子入りの人が集まってくる、とかあるいは化け物を見るような目で見られることが無かったのでありがたい。ジルちゃんたちは今日も、女性冒険者達に付きあって奪還した町、アラカル周辺の討伐に繰り出している。
緊急解放で失った分を確保しないといけないし、女性同士だから話せることもある、と言われたら止めることも出来ない。
「この街道が広がればこっちに戦力が呼べますよね」
「おお、その通りだ。ここから東に人間の領土を取り戻せばその分、東側の魔物が弱っていく。
そうすればよりこちら側に戦力を送れるわけだ。その点で言えば、この拠点を取り返したのは非常に重要なことだ」
俺達が取り戻したアラカルは、モンスターたちの領土になっていた西側にうちこまれた楔のような物だった。
ここからヒビを広げるように、ハーベストまでの間にある場所の討伐を進めていき、開拓も行えば自然とモンスターの住む場所は減っていくそうだ。例えば、草原にはオークは生まれないから、とのこと。
俺としては、モンスターがフィールドに産まれてくるもの、と人々が認識していることが結構な驚きなのだけど……この世界の常識だったのかな?
ともあれ、マナをジルちゃんに注ぎ過ぎた反動がまだ抜けていない俺はこうして木を切るマシーンとして顔なじみになった冒険者達に誘われ、街道沿いに来ているというわけだ。
ついでに邪魔になるような岩も細かく切り裂いては運びやすくし、倒した木だって枝葉も落として運びやすくしてしまう。
便利屋のような働きだけど、先ほどのように訓練として指示を受けながらの時間なので十分鍛錬になる。
下手に動くと痛い分、自分の無駄な動きが無くなっていくのを感じるのだった。
「よし、こんなもんだろう。これ以上は今日中に戻れないからな」
「了解です。ああ、町がぎりぎり見えるぐらいか……」
用意してきた馬車の荷台に木材を積み上げつつ、重量を減らす貴石術をかける人たちを護衛するように周囲に立つ。
幸いにも、今日は一度もモンスターを見ていない。不思議なほどだ……うーん?
「この前までの戦いの気配は強烈だったんだろうな。強い奴らは様子見に後退し、弱い奴らはその気配にあてられてこっちにおびえているのさ」
「そうなんですね。じゃああっちの討伐はその分大変ってことか……」
相手が逃げるのを上手く見つけ、仕留めないといけないのだから少々苦労しそうだなと思う。
フローラもいるから、一気に追いつくのとかは大丈夫そうだけど、ね。
そういえば、ルビーが元気になったら話があるとか言ってたな……なんだろうか?
「お前の嫁さん連中も見た目の割に強いからな、こっちみたいにあっさりこなして帰ってくるだろうさ」
「嫁さんって……まあ、大事にするつもりはありますけど」
ストレートな言い方にさすがに顔が赤くなるのがわかるけど、今さらと言えば今さらだ。
ハーベストでは堂々と宣言したし、戦いの後の過ごし方を見られたら一発だ。常に誰かが隣にいて、他の子とも仲がいいのだから……。
「また西に行くには時間がかかる。しばらくはこの周辺の地固めが続くだろう。以前は人間の領土だったとは言っても自然の多い場所だ。昔の遺跡なんかも山の中に眠っていると聞く。稼ぎの話はそこらじゅうに出てくると思うぞ」
「その分、しっかり鍛えないといけませんね。剣に使われるんじゃなく、剣を使えるように」
わかってるじゃねーか、と背中を叩かれるがかなり痛い。女神様からもらった体でもこうなのだから相当な威力だ。わかってやってるんだろうな……たぶん。
水晶獣であるドラゴンも倒したし、このまま討伐も行えばまた近いうちに女神様には会えるような予感があった。
少しは女神様の願いが叶ってるといいのだけど……どうだろうな。
そんなことを考えながら、ぎりぎりまで木材を搭載した馬車は無事にアラカルへとたどり着き、稼働し始めたばかりの結界の壁をくぐりながら町へと入る。
まだまだあちこちが補修中で、無事に住める場所の方が少ないのだけど急ピッチで修復、復旧活動は進んでいる。
この場所が維持できるかどうかで西側の動きが違ってくるのだから当然のことだ。なんでもスーテッジ国の活躍を耳にした他の国々も、ゆっくりとだがモンスターへの反撃を実行し始めているらしい。
最初はスーテッジ国との国境沿いからということで互いに協力し合って領土を広げているのだとか。
「地方でくすぶっていた奴も前線に戻ってきてるからな。これから戦力はあるならあっただけありがたい。出来ることなら大陸から魔物でも目立った奴らは追い出したいところだな……」
「そうだ、ドラゴンって何匹ぐらい目撃されてるんですか?」
さすがにドラゴンがあの一頭だけとは思えず、かといってたくさんいるぞ、なんて言われたらショックだけど確認はしておきたかった。
しかし、戦い方を教わっている壮年の冒険者は首を横に振る。
「わからん。俺が知ってる限りでは10は聞くが……どれが同じでどれが別だか……。
恐らく、まともに討伐に成功したのはこの前のが初だからな。後は大体街ごと相打ちか、ドラゴンの亡骸が残っていないのでわからんのだ」
そう、あの水晶竜とでも呼ぶべき相手は石英を砕かれても解けずにほとんどの体を残していた。それは全身素材だという証明でもあるようで、将軍の要請を受けて売却することにした。
その素材を使って少しでも全体の底上げになればいいなと思ったからだ。
(例えば属性ごとにドラゴンがいるとしたら後5匹ぐらいはいる……一度には相手にしたくないな)
ジルちゃんが行ったような二段階目の貴石解放、その謎も解明されていない現状では再会したくない相手に他ならないドラゴン。
しかし、この先全く出会わないという訳にもいかない……そんな予感があった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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