JD-115.「平和な時間」
ただのほのぼの話。見た目は通報待ったなしですが……
ぼんやりと、喧騒の響く廃墟同然の屋根の上で俺は空を見上げていた。別にサボっているわけじゃない。動けないのだ。
なんとかここまで上がってきたが、それだって全身の筋肉痛というか、何かちぐはぐな感じを我慢しての物だった。
「うう……ご主人様……」
それはジルちゃんも同じかそれ以上で、朝から意識ははっきりしているけど少しでも動けばしびれるように痛む体となっていた。
ラピスやルビーたち4人も似たような症状だけど、程度は彼女たちの方が軽い。
恐らくはマナの使い過ぎからくる疲労なんじゃないかとみんなは言っていた。
4人の中じゃルビーが一番症状が重いので、無理をしてくれたんだろうなと思う。
親玉であろうドラゴンを倒し、大き目の狼も倒れた後には特に目立って強力な個体はいなかったらしく、ヨーダ将軍指揮の元、街中のモンスターたちは順次排除され、今は結界の装置を絶賛修復中、ということらしかった。
本来であればモンスターたちが押し寄せてきてもおかしくないのだけど、運よく散発的な物にとどまっていると将軍たちは言っていた。
ただ、なんとなくだけどドラゴンが倒されたことでモンスターたち、そしてその背後にいるであろう何者かが様子をうかがっているのではないかと感じた。
「魔法陣からの出現……か」
あの魔法陣は、まるで俺がジルちゃんたちを貴石から呼び出した時のような力を感じた。そうなるとあの水晶獣たちはモンスターたちが体の一部を水晶としたのではなく、最初から水晶からモンスターが産まれたということになる。
女神に出会ったらぜひ聞いておかなくてはいけない。
「最初にいっぱいでてきたのは、ドラゴンさんを隠すためだったのかも」
壁にもたれかかったままの言葉通りに、ドラゴンの出現は直前まで全く感じられなかった。あれだけの存在だ。もし先に出てきていればすぐにわかったはずだった。
それがわからなかったのは、先に出てきた水晶獣たちの気配と、それに対する気持ちが死角となったからだと思う。
もし出てきたのが本当に真上だったら押しつぶされていたかもね。
それはそれとして、今は体を休めなければいけない。ベッドで寝ていてもいいのだけど、出来れば日にあたりたかったのでこうして用意された寝床の屋上に来ているのだ。
こうしていると、寒さも少しあるけど廃墟が街となっていく音が聞こえるのでどこか安心する。
人が、そこに生きていると感じられるからだろうか。
「ご主人様、ジルね。頑張ったよ」
「うん。すごかった……ありがとう」
痛む体のまま、その胸元にいつの間についているブローチをいじるジルちゃん。そこにはジルコニアの輝きと……小さいけれどダイヤモンドの輝きがある。
戦いの最中、どこかに行ってしまったと思っていたそれがジルちゃんのところにあるということはそういうことだった。
魔法陣に投入せずとも直に吸収、一体化できたようで今は力を2つとも感じる。
「ジルね、暗い場所で怖かったの。だけど、みんなの気持ちと、ご主人様の気持ちと、もう1人の私の気持ちが一緒になって明るくなったの」
「そっか……うん……」
戦いの後、気絶するように眠るまでの間、ジルちゃんやみんなから何が起きたかを聞いた。最初、ジルちゃんは死んでなくてマナによる再現が出来ないほどの重傷なだけだった、と聞いた。その時には脱力しかかったけど、ルビーの言うようにそれを知ってしまっていたらあの時ほど必死にはなれなかったかもしれない。
生きているならあのドラゴンを何とかしないと、って思ってただろうからね。その分、皆には負担をかけてしまったのだけど……。
「あの子はね。一緒に頑張ろうって言ってくれたの。ジルはジルになったんだよ」
はにかみを浮かべ、微笑むジルちゃんは……成長したと感じる。
その姿が前より少しだけど大きくなり、髪の毛の色も白、という感じから透明感のある物に変わったのも、もう1人のジルちゃん、ダイヤモンドを自分の物にしたことが影響しているんだと思う。
正直、お人形のように可愛かった姿がより綺麗さを増したというか、こうして陽光に照らされた姿を見ているだけでドキドキしてくる。
陳腐な言葉だけど、神さまの作った芸術がそこにあるように思えた。
同時に、失う訳にはいかないと強く思った。そのためには俺ももっと自分で立ち向かえるようにならなくてはいけないなと思った。
守られてるばかりじゃ、かっこ悪いよね。ちゃんと訓練して、戦えるようにならないと……。
「よいしょっと……」
「どうしたの?」
顔を恐らく痛みにゆがめ、それでもジルちゃんは体を起こしてよろよろと俺の方へと倒れ込むようにしてのしかかってくる。
正直、結構痛かったけどここは我慢のしどころだと思う。
ずりずりと姿勢が変わり、すぽっと俺の体の前にジルちゃんが収まった。
「ご主人様のこの場所を独り占め……なの」
もたれかかり、見上げるようにしてくる瞳にはいたずらが成功したような輝き。妙に可愛く感じてそのまま抱きしめる。
ちょっとばかりお互いに痛いけどきっとそれ以上に幸せを感じたはずだ。
お日様に温まって、いつもと違う安心する女の子の匂い。感じる温もり、聞こえる心音が本物じゃないと言っても何も問題はないと思う。
だってそれは、ジルちゃんたちが俺に共有してほしいと思っている温もりであり、音なんだと思うから。
2人して空を見上げ、ぼんやりとする。その間にも耳に届く人が働く音。体を休めるのも仕事だと言われ、この建物で休んでいるのだけど……ちょっと落ち着かない。
「落ち着いたら、みんなで少し遊ぼうか」
「やった。ジル、1日中ハチミツさん食べたいな」
ジルちゃんがそうして俺の体の上に乗ったまま喜びに暴れるものだから、思ったよりも痛くて思わず手に力を込めて抱きしめるようになってしまった。
ついでに上半身も前にいったので自然と両者の顔がくっつくぐらいの距離となった、
俺の吐く息がジルちゃんのほっぺたを湿らせるような距離。そんな距離で瞳が絡み合った。
「ジルちゃん……」
俺のつぶやきにジルちゃんは無言で目を閉じて……んん!?
なんと、目を閉じたままジルちゃんはそのまま身をひねって俺を押し倒すようにして体重をかけてきた。しかも両手で顔を挟み込んでいる。
全く予想外の動きに、俺はそのまま屋上の床に転がり……向いた視線の先には人がいた。
「「「「あ……」」」」
誰であろう、ルビーたち4人だった。ラピスは期待に溢れた顔つきで、フローラとニーナもニコニコのままだ。
ルビーだけは驚きと羞恥にか顔を赤くしてこちらを凝視している。
どうやら……最初から覗いていたようである。
ジルちゃんがキスをしたまま離してくれないので、頭越しに見える範囲には他に人はいない。
それだけが救いじゃないかな……と思う。別に駄目なことをしてるわけじゃないと思うけど、こういうのは恥ずかしいよね。
と、ようやく満足したのか音を立てて離れるジルちゃん。
はふーとばかりに息を吐いて俺を見た後、その視線が自分に向いていないことに気が付いたのかあおむけになった俺の腰に跨ったまま、首を横に動かし……固まった。
さすがに今回は恥ずかしいの……だろうか?
「……みんなも、する?」
真面目100パーセントの表情で、そんなことをジルちゃんは口にする。その後、どうなったかはいうまでもないことだけど……ルビーが何やら積極的だったのは印象に残った。
復旧作業中の兵士とかが見たら殴られそうだな……まあ、その時はその時か。
雲1つない青空の下、俺は5人と、勝ち取った平和な時間を過ごすのだった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




