JD-111.「陣地奪還作戦」
平和な時間にはつい忘れそうになるけど、ここハーベストは最前線の街の1つだ。砦のように壁があるといっても、全てのモンスターが防げるわけじゃないことは住人の誰もが知っている。
それは俺たちであっても変わらない。だからこそ毎日誰かが街の周囲の討伐を行い、街道の整備と警戒を続けるのだ。
薬を作り、武具を作り、自らを鍛え上げて備える日々。その成果を試す機会がその日、やって来た。
その日は事前に知らされ、参加するならば十分準備をしたう上でと言われた。この周辺にいるモンスターの中でも、有力な集団の討伐戦が行われることになったのだ。
それはヨーダ将軍も陣頭指揮を執るということで本気具合がうかがえる。場所はこの街から真っすぐ進んで3日ほど。
元々別の街があったらしく、荒れてはいるが街道も残っていることが偵察人員の手により判明している。
「大規模な戦い……か。気を付けようね、みんな」
「無理しない、が通じる状況だといいのですけど」
「状況は作る物よ。今から気持ちで負けてるわけにはいかないわ」
宿の一室で、俺達は荷物の再確認をしていた。ジルちゃんたちにはいわゆるポーションの類はあまり効かない。人間の体じゃないからだ、と彼女たちは言うけど俺はみんなにも効くポーションの開発を行っておくべきだったかとまさに後悔していた。
苦肉の策として、ポーション瓶にマナ液を溜めて置き、使い切りのような形で何本か渡すことにした。
すぐにどこかに消えてしまうマナ液だけど、無いよりはあった方が良い。
「全身のあちこちが水晶化しているモンスターかー。とーるなら切れるだろうけど、ボク達はどうかな?」
「無理そうなら生身の部分を狙えばいいのです」
事前に聞かされていた相手、町に住み着く形となっているモンスターの話は謎に満ちた物だった。
体の各所が石英、正確にはもう水晶化しているそうだ。しかもそこはちゃんと動くのだ。
右腕を水晶と化したオークに殴られるなんてこともあるそうで、そういう奴らは元の物よりも強い個体であるという。
手足はともかく、首から上まで透明だという奴はどうやって考え、動いているのか謎すぎる。
ただ1つ言えるのは、どれもが強敵だということだ。これまでも何度か撤退を余儀なくされているらしい。
今回は十分に戦力をそろえてのリベンジというわけだ。
町だった場所からほとんど出てこない理由はわかっていない。相手を統率する何者かがいるから、というのが有力だけどその背後関係もまだわからないまま。それでも時間がたつと明らかに前より戦力が増えているのが見て取れるというから出来るところで挑むしかないわけだ。
一番大きな相手は、そこらの建物より大きい四つ脚の獣だという。大きさは聞いた限りでは工事現場にあるような物よりも大きく、単純に数倍はあるだろう大きさの表現だった。
もしも出会うことがあれば、決して前に立つなとは言われた。こちらとしても前に立ちたくはない。
ダンプの前に出るよりひどい状況なんて……別世界に旅立ってしまう。
と、一人ジルちゃんが静かなことに気が付いた。
「ジルちゃん?」
「ご主人様、ジル……頑張るから」
決意に満ちた、というには少し鋭すぎる瞳。結構前になるけどルビーやラピスに言われてようやくという遅さだけど気が付いた。
ジルちゃんがずっと、自分のことで悩んでいることに。ほとんど顔に出さないし、声をかければ元気になるから大丈夫なのだと思っていた。そうではなかったんだね。ずっと悩んでたんだ。
俺は4人に見られながらもジルちゃんを抱き寄せる。
小さな体、感じる温もり。何度触れあっても幸せな気持ちになれる。
「……大丈夫だよ、ジルちゃん。前にも言ったけど、戦えるからジルちゃんたちにいてほしいんじゃないんだ。一人の女の子として一緒にいたいからなんだよ」
「甘えん坊さんで、いいの?」
良いに決まっている。そんな俺の言葉は他の4人の頷きで肯定される。そのまま準備はそこそこに、なし崩し的に雑談の場になっていく。といっても俺達の場合、弓矢とかを使わないから消耗品もほとんどない、身一つみたいなもんだからね。
十分英気を養い、当日を迎える。
「出発だ!」
ヨーダ将軍の声を合図に、兵士と冒険者からなる集団がハーベストを出て西に向かう。街に残る戦力と、家族らが心配そうに見つめるのを背中に感じながらも俺達は振り返らない。戻る時は、勝利の時だけだと信じて。
目的の町までは多少荒れてはいるけど街道を進むことが出来る。森の中を切り開くよりははるかにましだ。
みんなの士気も高まっており、十分に実力を発揮できるだろうなと感じさせる。俺もまた、まだ見ぬ強敵への恐怖と、何度味わってもなかなか慣れない非現実的な戦いの空気に負けないように気合を入れていた。
「アンタ、今からそんな緊張してどうすんのよ」
「うっ……わかっちゃいるんだけどねえ……」
ルビーの冷たいつっこみに、苦笑で答えるしかない。空は晴れ渡り、視界も良好。なにせ、揺れる馬車の上だからね。中じゃなく、丈夫に作られた外側の上、なのである。俺達はそこで貴石術でモンスターの迎撃を担当している。
だからこそ、相手が出てくるまでは話す余裕もあるのだけど……。
「ご主人様、何か来る」
「あっちからもなのです! あれ、ゴブリンなのです」
森から街道沿いに出てくるのは既に馴染となったゴブリン、ただし黒い肌。深緑よりさらに黒っぽい。
強さは他の土地で見るような物より上だけど、ただ突っ込んでくるだけの相手なので迎撃は簡単。そのままいくつも貴石術を撃ってやれば後は下の他の人がざっくりと仕留めてくれる。
「ふんっ。相手にも偵察人員……鳥型のモンスターでもいるのかしら? まだ来るわよ」
「消耗戦……ですかね?」
口調は違っても同じようなことを口にするルビーとラピス。属性の割に相性がいいよね、この2人。熱い感じに語るルビーに、冷静なラピスは良い組み合わせだ。
ともあれ、2人の言うようにまだ気配が続々とやってくる。消耗戦、というのも間違いではないかもしれない。
立ち止まるわけにもいかず、移動しながら集まってくる小物たちを俺たちと、兵士や冒険者らは蹴散らしていく。
さすがに今回のために選抜された人員は優秀で、本当に俺達が参加してていいのかな?と思うほどだった。
まあ、こうして到着までのつゆ払い用に呼ばれたのかもしれないけど……ね。
数日後、ようやく木々と地面以外の物が見えてきた。目指す町なんだと思う。
こうなると、誰もが馬車から飛び降りてそれぞれの武器を手に街道を進み始めた。馬車が壊される恐れがあるけど、どうも相手の殺意は俺たちにだけ向けられているようにも感じる。
やっぱり、わかっている奴がいるんだろう。
町の方角から飛び出してくる何か。それは虎やライオンのような大きさの狼だった。その口元や足の1本が水晶化している。
その割に硬さを感じさせない動きで街道を駆け、一気に迫ってくる狼を落ち着いて前線が対処し、その間にも徐々に町へと進む。戦いが、始まった。
「マスター!」
「わかってる!」
そんな中、俺達はモンスターの集団の中に白く光る眼を持った巨体を見つける。先ほどの狼が子供に感じるような巨体が、建物の残骸の上で座り込みながらこちらを伺っていた。
感じる気配に思わず背筋に嫌な物が走るが、ひるむわけにもいかない。
相手も俺達が周囲の狼ではなく、自分自身を見ていることに気が付いたのだろう。まるで笑うように口元をゆがめたかと思うと、その白く光る瞳を細め、こちらを向いた。
ダイヤウルフ、あるいはクリスタルウルフとでも呼ぶべき相手はそのまま残骸を蹴り飛ばすように飛び上がり、戦場へと舞い降りた。
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