JD-109.「ふあんとふまん」
珍しく三人称です。
「ピギィ!」
「まるで豚ね。眠りなさい!」
全身を火傷したように赤く染め、これまで彼女たちが出会ってきたオークとは見た目が明らかに違う姿のモンスターが倒れ込む。
そしてそのまま相手が動かないことを確認し、赤い髪の少女、ルビーは小さく息を吐いた。次なる相手が来ないかを念のために警戒しているのだ。
それが例え、仲間である茶色の髪を持つ宝石娘であるニーナが既に警戒の役目を担っているとしても、だ。
一見して感じる印象と違い、ルビーはわざと過激な行動をしているのであり、思考自体は落ち着いたものだ。青の宝石娘であるラピスとはその意味では近い。
「終わりましたね。ルビー、お疲れ様です」
「ふんっ、このぐらいはどうってことないわ。フローラ、採取は終わったの?」
にこにこと笑みを浮かべ、ねぎらいの言葉をかけるラピスにルビーは髪を跳ね上げながら答えてもう1人の宝石娘であるフローラへと問いかける。
今回、採取を担当するのは風の宝石娘、フローラ。狙いの木の実が巨木の上に生っているということで飛び上がれる彼女が採取に最適だったのだ。羽が生えているかのように舞い上がったフローラは鼻歌交じりに次々と紫色の木の実をどんどんと回収しており、ルビーの問いかけに対していっぱいになった布袋を振ることで答えた。
5人の中では一番人化が遅かったルビーだが、その存在感は他の4人に勝るとも劣らない。物事に対してはっきり意見を言う分、目立っているときの方が多いと言えるほどだった。
その行動がまた、トールにとってルビーの性格が勝気なのかな?等と思われる原因なのだが彼女自身は気が付いていないように見えるとラピスは考えていた。
「追加の敵もいないのです。依頼完了なのです!」
「ふー……よかった」
これまでのような筋肉マシマシのオークと違い、まさに豚、という様相のぶよぶよした体のオーク。亜種と呼ぶ他ないその相手は、仲間を引き連れているという点では元のオークと同じだった。
白の宝石娘であるジルはそんな仲間のオークを相手に奮戦していた。他の4人に応援を呼びかけるでもなく、ただ1人で。
結果としては怪我も無く倒しきったのだが、それが彼女……ルビーには気に入らない。
降りてきたフローラが採取した木の実を見せびらかしているのを確認しながら、ジルへと歩みより、その肩を掴んだ。
「? ルビー、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ……アンタ、何を焦ってるのよ」
口調自体は強めだが、その言葉に込められた感情は紛れもなく、心配であるという気持ち。それは聞いていたラピスやニーナ、フローラにも伝わる。本来向けられた相手であるジルを除いて。
見た目も幼い彼女は、ルビーを困惑の表情で見つめ返すだけだ。
「え? なあに?」
宝石娘たちが感情という物は人化してから初めて自覚するのだということはルビー自身が強く実感していることだ。
であれば、自分も含め言動に幼さが混じるのは仕方がない事、それは間違いないとルビーは考える。
しかし、その上でジルの行動は彼女にとっては許せない物だった。
「何じゃないわ……ご主人様が見たらどう思う? 一人で危ない場所につっこんで、応援も呼ばずにあんな……危ないじゃないの!」
「でも、ジル……勝ったよ?」
本心からそう思っている、としか見えない答えにルビーは顔を片手で覆いながら空を見上げた。
そうではない、そうではないのだと思いながら。
「ジルちゃん、ルビーはジルちゃんが心配なんですのよ。同じ仲間ですもの」
「そう……なの?」
純粋な瞳に見つめられ、ルビーは言葉を失いそうになるが踏みとどまり、考えを口にするべくジルを見つめ返した。
「そうよ。最近、アンタ自分の戦い方が変わってるのわかる? 一番につっこんで、それでひたすら戦う。まるで鉄砲玉じゃない。そんな戦い、アイツが望むはずがないわ。ジル、何が怖いの? ううん、言いなおすわ……どうして見捨てられそうだと思ってるの?」
「……え?」
その反応に、ルビーは元よりほかの3人もジルが抱えている悩み、そしてそれを自覚していないのだということを悟った。それは同じ宝石娘であるがためか、あるいは同じ相手を主と慕う乙女だからか。
いずれにせよ、ルビーが強い言葉を選んで話した理由を言われた当人以外は知ることとなったのだ。
つまるところ、最近のジルは何かに焦り、ひたすらに戦いに身を投じているように見えていたということだ。それは主であるトールとの交流により解決したかと思えた物。
それに起因した行動は一見すると積極性が増した、等と言えるかもしれないが実態は違う。これまでジルが培ってきたような戦い方を捨て、自分の身を危険にさらし続ける戦い方だったのだ。
それを案じたルビーが、こうしてトール抜きでの経験を積まないといけないからと押し切ってこの採取依頼をもぎ取ってきたのだ。
無言のような状態がしばらく続き、ジルは何かを考え込むようにして沈黙している。その間、ルビーは静かに彼女を見守った。こういうことは自覚がないと何にもならないからだ。
果たして、ジルは思い出したような顔をしてルビーを見た。
「無理……してた?」
「そうよ。無理も無理、大無理よ! まあ、なんとなくわかるけど……ジル、貴石ステージの限界が見えたのね?」
ビクンと、ルビーの言葉にジルの小柄な体が跳ねる。まさに図星だった。ハーベストの街は前線ということで戦いは数多く、狩りの獲物も多いということで石英の入手チャンスもまた、多い。それはつまり、彼女たちに投入される石英の数も増えるということだ。それにより貴石ステージは順調に上がっている……はずだった。
しかし、限界の見えない4人と違い、ジルは自分自身の貴石ステージが限界に近付いていることを感じていた。
その理由は、彼女たち自身にとっては明確な物だ。
「貴石が、ひとつしかないから……カラードは補助だから……ふたつある皆より、ジルは弱いの……」
ぽつりぽつりと、小さな口から不安が言葉となって紡ぎ出された。それは自分自身の存在意義へと問いかけでもあり、一緒にいる仲間を、何よりも主を守れないかもしれないことへと恐怖であり、そんな自分への不満の表れだった。
ついには泣きだしたジルを、ルビーが正面からそっと抱きしめる。抱き合えば温もりを分け合うことで気持ちは溶けていく。そう信じているルビーの心からの行動だった。
そのままジルの長い髪を優しく撫で、ルビーは耳元で口を開く。
「馬鹿ね。アンタの、私たちのご主人様は戦えないからって見捨てるような人なの?」
「……ううん」
ぷるぷると自分の腕の中で首を振るジルを、ルビーは愛おしくなりさらに抱きしめる。泣いて震えていた体が少しずつ静かになるのを感じ、優しい顔になるルビーをラピスたちは見守り続けた。彼女たちも、わかっているのだ。同じ悩みをいつか自分達も持つかもしれない。だけど答えは一緒だ。トールは、戦う力があるから自分達と一緒にいるのではない、と。
「だったら自分にやれることをやればいいのよ。大丈夫、そのうち貴石も見つかるわよ。
そりゃあ……私達と違ってジルの適性貴石は1つしかないけどさ……ね?」
「そう……だよね。最近、ご主人様がジルを頼りにしてくれない気がするの。だから気になってたの」
あの馬鹿、等と思いながらもルビーはどちらの味方もしにくいな、と思った。戦力的に考えると確かにジルは特化していない分、使いやすくもあり使いにくい。一掃したいのであれば自分や他の子と一緒に貴石術を使った方が早いのだということもわかる。
逆に、ジルも弱くはないのだから効率を少し横に置いて彼女と戦ってやればいいのに、とも思っている。
(これは帰ったら怒っておかないと)
そんなことを考え、珍しくトールへの不満のような物を口にするジルをルビーは再び抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩いた。
まるで赤子にするような仕草だったが、ジルにとってはそれでいいようで、いつの間にかその顔には笑顔が産まれていく。
「よしっと。さっさと戻ってあいつに襲い掛かりましょう!」
「襲う……の? 叩くの?」
きょとんと首をかしげるジルに笑いながら、ルビーは他の3人も集めて自分の考えを口にした。
トールに、自分たちの目の前でジルを可愛がるように、じゃないとみんなで襲い掛かるぞ、と言おうと。
最初は珍しい物を見たと言わんばかりの4人だったが、すぐにその顔は同じような笑みとなる。
街から離れた場所で、少女5人の楽しそうな笑いがこだました。
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