JD-107.「再会は波乱の予感」
最前線の1つであるハーベストでの生活はあっという間に一か月が経過した。新しい土地での暮らしは目新しい事ばかりで、ジルちゃんやラピスたちも日々が刺激的な様子だ。
見たことのない採取物、モンスターとの戦い。そして時折発生する魔物の襲撃からの街の防衛。
時には兵士達と一緒に討伐の依頼も受けたりと濃密な日々だった。
季節は冬が目の前で、だんだんと朝晩の寒さが狩りや討伐にも影響を及ぼし始めていた。
幸いなのはモンスターたちも一部を除いて寒さの影響を受けているのか、以前よりは頻度が減っているということだ。
もっとも、俺達が来たのはもう秋口だから違いが良くわからないけど、春から夏にかけては今の数倍の規模でモンスターが森や敵側の領土をうろついており、非常に危険なのだとか。では相手の勢いが弱まる時に何もしないかというと、そういうわけではない。
今日あたり、とある軍主体の作戦に冒険者も有志が挑むということでそれに参加する予定だった。そのはず……だ。
「で、お久しぶりなわけだ」
「はいはーい! そうですよ。女神ジュエリーナちゃんとのお話の時間ですよ」
相変わらずというか外の季節を考えると寒さしか感じない薄着だ。夏じゃないんだから薄布1枚はどうかと思うけど……まあ、女神だしな、色々な意味で。というか名前をはじめて聞いた気がするぞ?
「んふふー、名前はトールさんにわかるようにしてるだけで本名は発音できませんよ。だって神様ですから」
えっへんと胸を張る女神。その胸が見事なまでに勢いのままぼよよんと揺れるのが目に入る。
(垂れないのかな……)
「垂れません!」
「おわ!? なんだ、聞こえるのか。今さらだけど」
どうやらここでは心の中も聞こえるらしいことがわかって今さらすぎる話に脱力するのを感じる。とりあえず、こうして話に来たということは、だ。
何か知らせたいことがあるからに他ならないはずだ。
「そうなんですよー。おかげでトールさん以外にも夢に出ることが出来まして。加護を与えることができるようになったんです! 全部トールさんのおかげですよー」
「俺は俺でジルちゃんたちと楽しく過ごしてるからそんな苦労したつもりはないけどな」
実際、俺一人だったらとっくに萎えてたかもしれないけど、みんなと一緒だから頑張っていられるのだ。
無音の空間だからか、妙にこれまでのことが頭をよぎる。ジルちゃんとの出会い、ラピスとの出会い、みんな大切な思い出だ。
「うふふ。今後もぜひそうしてあげてください。なにせ、不思議と他の人の加護はどうしても薄いんですよね。定着しないというか……ちょっと運がいいぐらいが精一杯です。さすがにトールさんは特別です」
「女神でも理由がわからないんじゃしょうがないな……それが知らせたい事?」
だとしたらがっかりも相当な物だけど、さすがにそれだけじゃないよねえ?
いや、でもこの天然女神ならあるかもしれない……だったらはたこう、聖剣で。
「ううっ、さすがに聖剣ではたかれたら私も痛いですよ。自分で自分を叩くような物ですから。
安心してください。じゃじゃーん、恒例のお知らせです。これまた恒例ですが、聖剣強化のお知らせです!」
力が戻ってきたから余裕が出てきたのか、どこからかホワイトボードのような物が出てきたかと思うとそこに鮮明な絵が浮かび上がって来た。
俺っぽい奴と聖剣と……ジルちゃんたち? でもなんであんなスクール水着なんだろうか。
「まずは、聖剣だけでなくみんながそうですけど……緊急解放を実装できました。これはトールさん、もしくは本人の判断で聖剣を使わずとも貴石解放を実施できます。ただ、貴石ステージ1つ分相当を消費するので本当に危ない時にするようにしてください」
「まさに緊急時、か。俺が戦えない時なんかには考えるよ」
苦笑しながらの答えに、女神も頷いて再びホワイトボードに指を向けると何やら俺らしい絵とみんならしい絵の間に線を描いた。何か行き来するということかな?
「今回の目玉強化は、遠距離覚醒です!」
ずばんとボードに踊る妙なフォントは確かにそう読める。遠距離ということは……まあ、離れていてもOKということなんだろうな。
逆にそれ以外考えにくいだけだけど、具体的にはどういうことだろうか。
「先ほどの緊急時の解放と違い、デメリットは特にありません。やり方はこれまでとほぼ同じです。ただ、武器として使ってるときでも小さいのを出すことが出来るようになりました。まずはやってみましょう。長剣のまま小さいのを呼び出してください。」
言われ、謎空間ではあるが聖剣を抜き、そのまま左手に短い方をイメージしてみる。するとなじみのある感触が……確かに両方存在している。
特に変わりが……ん、このボタンみたいなのがそうだろうか? ちょうど柄と剣、鍔とが交差する付近の5色の宝石がついているところに見知らぬボタンが出来ていた。
「今までの貴石解放は、こうやって……」
「ちょ!?」
言うが早いか、女神は唐突に俺を抱き寄せてその豊満な胸を押し付けてきた。自然と顔も目の前にくる。
さすがに突然のことに焦る俺だけど、女神としては不満なようだった。
ぷーっと膨らんだかと思うとなぜか俺を突き放して先ほどのような距離になる。
「むむう、本当に反応が鈍いですね。大きさの上限がニーナちゃんぐらいになっちゃいましたか?」
「ぶふっ! だからいきなりそういうことを言うなと……さすがにあれだけ密着したら多少は焦るよ」
実際、さっきはどきどきしていたからね。でも、そのドキドキ具合がジルちゃんたちと抱き合ってるときのそれと違いすぎると言いたいらしい。同じ女性体として悔しいというところかな?
「まあ、そんなところです。私としてはトールさんと娘達の仲が良いのは嬉しい事ですよ。
あ、今の娘たちの仲が良いというのはですね、中が良いということじゃ、イタッ!」
「驚きのあまりツッコミが遅れたよ! 何言ってんだアンタ!」
切れ味最低の聖剣の腹部分で思わず殴り掛かるぐらいの発言をしだした女神。本当に神様なのかな?
いや、神様って大体こういうもんだったかもしれない。主に某神様たちは……。
節操のない感じの神様が多かったよね、あの辺。どうもこの女神は地球の文化をそこそこ知ってるようだから染まってるのかもしれない。
「うう……ジョークですよ、ジョーク。コホン。これまではさっきみたいに近くにいないといけませんでした。そりゃそうですよね、聖剣の短い状態のを挿さなきゃいけなかったんですから」
「普通に始まるのかよ……まあいいや。ああ、お腹というか魔法陣に挿す必要があったね」
自分でめくりあげた少女のお腹の前に座るなりして近くで聖剣を差し込むというとんでもない解放の仕組みだけど、それが解決するのかな?
でもこの女神の事だから結構嫌な予感が……。
「そうなんです! それを解決するのが今回の能力です。使い方は簡単。
切っ先を向けてその増えた奴をカチッとすると、即座に決めた相手の魔法陣が展開してですね。
お腹の中に短い状態の聖剣と同じ物が出現してひねったのと同じように震えます」
「……ん?」
気のせいだろうか、妙な話だったような……離れていても貴石解放がいけそう、というのはかろうじてわかったのだけど……?
その疑問が顔に出ていたのか、女神様は仕方ないなあという表情で数歩、近づいて横についてきたボードにさらさらと絵を描く。
「いいですか? 遠距離地点Aにいるトールさんがボタンを押すと、離れた場所にいる宝石娘Bのお腹の中に聖剣の短いのが出現し、挿した時と同じ刺激が相手に、イタッ! 何するんですか!」
「かんっぜっんにっ! 遠隔操作のおもちゃじゃねえか! 色がついてて震えそうな!」
大人相手ならともかく、見た目少女幼女のジルちゃんたちにそんなことをしたら危なくて仕方がない。
でも、どうせ女神のことだから他のやり方には変わらない……やるしかないのか。
じろりと女神を見ると、ビクンとなりつつもひるまずに口を開いた。
「しょうがないんですよぉー。あの子達にとってはトールさんの体や聖剣は特別なんです。触ってるだけでも刺激になるんですから何をどうしたってこうなっちゃうんです」
「本当かぁ? まあ、使うかどうかはよく考えるよ」
無いよりはあった方が良い機能ではある。それは間違いない、間違いないのだけど……ねえ?
色々と使い手の精神を削るのはやめてほしいものである。
予想外の出来事に、出会った時にしようと思っていた問いかけを今の今まですっかり忘れていた。
「聞きたいことがあったんだ。アレは人なのか?」
「どちらがお好みですか? なんて返すのはずるいですよね。そうですね……トールさんの考えに沿えば、人ではありません。アレはもう戻れない、見た目は人っぽいですけどモンスターです」
聞いたのは他でもない、砦街で倒した元人間が集まったであろうヒトだ。
倒してしまったのは俺だし、人なのかそうでないのかで何かを変えるつもりもない。ただ、ずっと気になっていたのだ。
「あれはもう石英を中心として生きていましたからね。生き物とは違います。だから気にしないでくださいね」
「ああ……わかった」
まだ同じような相手が目の前に来た時には迷いそうな気がしないではないけど、何とか気分の折り合いはつけることができそうだった。そんな俺を見て、女神は微笑んでいる。
心の底から嬉しい、という表情でなおも女神は俺を向いて語りだす。
「トールさんは優しいですね。娘達にも人と同じ感情を……」
「ジルちゃんたちはあれと同じじゃない! 俺にとっては大切な!……悪い、怒鳴ってしまった」
思わずかっとなってしまった俺の叫びにも女神は寂しい表情で首を横に振るだけだった。
そこにはどんな思いがあるのかは俺にはわからないけど、彼女だってどうでもいいと思っているわけじゃあないはずだ。
「いえいえ、私も女神であって人ではないですから……そんな私の感覚はきっと貴方を怒らせるだろうと思いました。でも、ありがとうございます。貴方を選んでよかった。
あの子達は血を流せないことを、同じ生き方ができないことをきっといつか後悔し、私を恨むことでしょう。その時どうなるかはわかりません。でも、最後まであの子達の味方でいてあげてください」
「言われるまでもないさ。みんなの泣き顔は見たくないからな。それに、女神……貴女もさ」
色々あるけど、俺とジルちゃんたちが出会えたのは女神のおかげだ。そこは間違いない。だったら感謝こそあれ、恨みなんてありやしないのだ。
「……はい! あ、そろそろ時間ですね。ではまた」
「ああ、またな」
そうして、いつかのように俺の意識は白い海に溶け……どこかへと浮上していった。
「おはよう、トール。今日は討伐の日でしょ? しゃっきりしなさいよ?」
「あれ……とーる、元気ないー?」
俺は2人に答えず、部屋を見渡した。そこには寝る前と同じ光景。ジルちゃんがいて、ラピスもいて、フローラもニーナもルビーもいる。思わず、頬が緩む。
「あ、寝坊助なトール様です。ささ、ご飯を食べるのです」
「うふふ、食欲がないなら少し甘い物でも食べるといいのですわ。ハチミツとか」
「やった、ハチミツさん!」
元気な3人にも視線を向け、無言で見つめた。そんな俺を誰もが不思議そうに見つめてくる。そりゃそうだよね。でも、ちょっと今は言葉がうまく出てこなかったんだ。
「みんな、いつもありがとう」
「んー? 変なご主人様!」
ジルちゃんのそんな感想を皮切りに、部屋に笑いが満ちた。俺も笑いながら、今日も頑張ろうと強く思うのだった。
気が付いたらただのエロ女神になっていた……。
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