JD-104.「大胆な宣言は時には必要」
年貢の納め時!……ちょっと違う?
「おい、お前の後ろの5人はなんだ」
「えええっと……その」
ダラダラと冷や汗。目の前の男性の視線は俺を越えて後ろにいるジルちゃんたちを向いている。おそろいの服を着て、固まっている姿はまるでアイドルグループの様でそれだけで絵になる感じだけど今はそれどころではない。
ハーベストの街にあるギルドらしき建物に入り、仕事を探し始めてすぐに利用者の1人であろう男性に話しかけられたのだ。
(正確には……問い詰められているというか?)
「まさかこの街が対魔物との前線と知らずに来たという訳じゃああるまい?」
はい、知ってて来ました、というだけじゃ明らかにいけないだろう雰囲気だ。恐らくはこちらを心配してる、あるいは足手まといが増えたら困る、といった感じだと思うのだが顔が怖い。
ジルちゃんたちの方を見ずとも、みんなが俺を信用した面持ちで見ているであろうことはわかる。そういう子達だからね。だったら俺も覚悟を決めるべきだった。
「みんな俺の恋人です! 色々と費用を稼ぐために来ました!」
きっぱりと、宣言した。だって妹って言うには無理があるからね。髪の色も違うし、顔つきだって違う。両親のどちらかがだらしなくてみんな片親が違うとかならいけるかもしれないけどさ……。
「なん……だと? 5人もか」
「はいっ! ガンガン稼いで楽をさせたいです!というか本当は6人でイチャイチャしていたいです!」
まるで舞台に立っているかのような状況に俺もハイになっているのだろう。普段なら恥ずかしくて言えないような本音がポンポン出てきた。こうして考えている部分の俺が色んな悲鳴を上げている気がする。
見える範囲にいる男達はみんなポカンとした表情をして固まったままだ。女性陣も目を丸くしている。目の前の、話しかけてきた男性も同じで問いかけた姿勢のままだ。あれ?と俺が思って言葉を続けようとした時、固まっていた男性が勢いよく俺の肩を掴んできた。ちょっと痛い。
「良く言った! 5人、しかもこんな嬢ちゃんとは驚くばかりだが……好きあってるならいいじゃねえか、なあ!」
シーンとしていた建物にその声はひたすら響き、全体に染みわたっていく。後ろできっとルビーは赤く震えているし、ラピスとかは驚きながらも笑顔になっている気がした。
後ろを振り返るのがちょっと怖いけど、幸いにもその必要はなかった。
男達だけでなく、女性人も巻き込んで一気に建物の中が騒がしくなったからだ。
「5人って……正気かよ!」「まさか全員と同時に……」
「あのぐらい愛を叫んでほしいわぁ」「馬鹿言え、恥ずかしすぎるわ」
聞こえる範囲でもかなり一方的にネタにされているようだった。まあ、そりゃあネタにするよなって話だけども。
今さらながら恥ずかしくなってきたけどしょうがないよな。ただ、顔が赤くなる暇も無く数名の冒険者が俺のそばによってきては肩を叩いていく。
「戦うのはお前さんだけか? 何、みんな貴石術を使う術士か、贅沢だな!」
「いつも助けてもらってますよ。ほんと、もったいない子達です」
一番絡んでくるのは最初に俺に話しかけてきた男性だ。まだ日が上ったばかりなのに酔っぱらったような顔だ。もしかして今日はお休みの人かな? 素面だったら馬鹿なことを言うなと怒られていそうだ。
多少はお酒が入っていた方が動ける、なんて人もいるにはいると思うけど……。
「謙遜も過ぎれば毒ってやつだ。5人ともお前さんを信じて、こんな場所まで来たんだろう? 大事にしてやんなよ」
「はい!」
ガハハハと大きく笑う男性に笑い返し、視線を向けるといつの間にか女性陣に囲まれているジルちゃんたち。
こういう話、どこの女性も好きだよね……うん。あの中に割って入っていく勇気は俺にはない。
「実力があるだろうことはわかるが、まずはこの辺がいいんじゃねーのか?」
「おう、そうだな。ほれ、これなんかどうだ」
横合いから差し出された依頼書は、薬草採取という単純な物。期限は常時で、現場はここから半日かかるかどうかというところらしい。
急いでいって日帰りも良し、泊まりにして量を確保しても良し、ということらしい。
「なるほど。地形や雰囲気をつかむには最高ですね」
「おう、その通りよ。コイツは絵を見た通り、地上じゃなく水辺に浸かるように生えてるやつだ。水草に近いんじゃねえのかな? 俺も駆け出しんころは何度も採取にいっては勉強した、この辺の冒険者の先生みたいなもんだ」
俺の答えは正解だったようで、周囲の冒険者たちの機嫌はますます良くなっている。見込みありと思われたなら嬉しいことだ。
話によると、この薬草が生えるような場所は飲み水としても優秀なことが多いということでポーション作りにも役立つレベルらしい。
普通の冒険者だと持ち帰るのも大変だが、手段があるなら臨時収入になるからオススメとのこと。
肝心の薬草も、痛まないように専用の皮袋に水毎入れてあると長持ちするということも教えてもらった。
「何から何まで……頑張ってきます」
「おうよ。1つだけ気を付けろ。なんだかんだと魔物が多いからな。儲けはトントンと思って無理はするな。うまくいけばぼろもうけだが、そうでなくても生き残れば次がある。それがこの街の生き方だ。いいな?」
警告としては非常にわかりやすく、俺は思わず相手の手を取って頷く。相手もそれが伝わったのか、気持ちいい笑顔で行ってこい、と言ってくれた。
依頼を受け、ジルちゃんたちのところへ行くとちょうど話もひと段落付いたようだった。
いや、もしかしなくてもこちらに合わせて切り上げてくれたのかな?
「お帰り、とーる」
「いい仕事あったんでしょうね?」
みんなに依頼書を見せて読んでもらう間に必要な皮袋の在庫を確認しておくことにした。
水筒になるような布袋がほとんどなく、ポーション瓶ばかりなのに気が付いた。買っておかないといけないけど、先にわかっただけいいことだよね。
「ジルの出番、だよ」
「そうですわね。ジルちゃんの目なら見極めもらくちんですもの」
「じゃあ必要な物を買ったらさっそく出発なのです!」
こちらを見るいくつかの好意的な視線を背に、俺達は必要な物を買うべく街にでる。そして手早く皮袋などを買い込み、門へと向かった。
門番の兵士には、最初は変なまなざしで見つめられたけど全員冒険者だと伝えるとなんとか納得してもらえた。
重厚な門が開き、1歩出ればそこはもう大自然だ。
さすがに壁の近くは木々も切られ、平地になっているけど少し歩けばすぐ森となる。うっそうと生い茂る木々と草花は緑の匂いを感じる濃さだった。
なんだか空気自体、濃いというか重いというか……うーん?
「マスター、このあたりはマナが濃いですわ」
「気をつけなさいよ。こういう場所の魔物は大体地力が強いんだから」
この感覚はマナが濃い、ということになるようだ。試しに移動用にフローラと一緒に風の祈祷術で補助をかけると手ごたえが違った。よりスムーズで、強さも違うようだった。
こんなことでも感じるぐらいなら、本格的に攻撃を行ったらどうなるのか……少し怖いな。
それよりも、このマナの濃さに影響を受けるのは俺たちだけじゃないということのほうが重要だ。
視線を横切る影。それを目で追うと後ろから歓声が響く。慌てて振り返ると、みんなが横切った影を指さして黄色い声を上げていたのだ。
こんな声を上げるのは石英を入れているときかお菓子を食べてる時ぐらい。
俺も釣られてそちらを見ると、そこにいたのはふわもこだった。
「うさぎさん……でっぷりしてるよ」
「おおおー、食べごたえありそうなのです」
「そうかなー、毛がもこもこしてるだけかも」
色気より食い気、といった様子の3人に対し、残った2人は可愛さを感じているような言葉を発している。
どちらにしてもウサギにとってはうるさかったようで、全員の視線が集まる中、草むらに飛んで逃げていった。
あからさまにがっくりとなる5人。俺はそんな姿に苦笑しながら近くのニーナの頭をぽんと撫でるように叩いた。
「帰りか余裕があればね。あいつは襲ってくる奴じゃなさそうだしさ」
これで首を狙うようなタイプのウサギだったら慌てて仕留めるところだけど、そうでもないようなので安心だ。
食べるにせよ、毛皮狙いにせよ、あるいはふわもこを楽しみたい、でも何でもいい。
倒して無駄になることはなさそうだからね……。
「あ、あったわよ。目印になる小川」
「お、本当だ」
ルビーの指さす先に、目的地まで続くと聞いた小川がある。この時点でだいぶ透明度があり、いいお水のような気がするけどもっとすごいのだろう。
目的にまではこの小川の横を進めばいいのだと聞かされている。
一応モンスターに気を付けながら、6人で進む。
「今のところは襲撃の気配は無いのです」
「静かなのはいいことですけど……拍子抜けですわね」
「何もない方が良いよ」
警戒は続けるので緩い時間というわけじゃあないけれども、確かに何もないというのもそれはそれで……ね。
でも何か起こるなら薬草採取後にしてほしいというのは贅沢な願い事だろうか。
しばらくの間小川沿いを進むと、開けた景色になってくる。なんとなく、ラピスに出会った洞窟の先の泉のような雰囲気を感じた。
それは、見えてきた水場が同じような泉だったからかもしれない。
「じゃ、採取を始めようか」
新しい土地での最初の仕事はそうして始まった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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