JD-103.「西の最前線にて」
人間の対魔物戦線の1つ、そして最前線の1つでもある街ハーベスト。それは山のふもとにある壁に囲まれた街だった。
限られた出入り口であろう門は鉄格子を組み合わせたような物で、大型のモンスターが体当たりしても抜くことは出来なそうな迫力を備えている。
これまで街が無事ということは、その実力は証明されていると言っていいんだろうと思う。
「おおきいねえ、ご主人様!」
「本当だ。予想以上だよ」
目をまん丸にして、身を乗り出すジルちゃんを抱えるようにして俺も感嘆の声を上げる。
壁は見上げるほどで、ちょっとしたビルぐらいはあると思う。10メートルぐらいは確実にありそうだね。
恐らく上からは弓矢や貴石術で迎撃を行うことが出来るに違いない。空を飛ぶモンスター相手にはどうなるのか、気になるところだ。
ヨーダ将軍の乗る馬車を先頭に近づくと、門の上に人影。こちらを見るなり大きく手を振ってくる。
こちらも振り返してる間に、大きな音を立てて門が徐々に開いていき、そこを通り抜けることであっさりとハーベストに入ることができた。
門の中は、立派な町が広がっていた。
「もっと殺伐とした感じを予想してましたが……そうでもないですわね」
「正直、あちこちに荒くれ者なタイプのがいると思ってたわよね」
「あはは、ラピスもルビーも考え過ぎだよー。あ、子供もいるよ!」
大通りであろう場所を進む中、戦士や兵士だけかと思った街中に俺達は普通に子供やその家族を見つける。
考えてみればそうでもしないとずっと前線にいるなんてできやしない。危険はあるけど、ここで暮らすことも悪くはないだけの稼ぎがあるということだろうか?
行き交う人の中には兵士や装備を帯びたままの冒険者のような人が多いのは前線の空気を感じさせる。
ヨーダ将軍の乗る馬車はそんな街中でも比較的大きい建物へ向けて進む。俺達もひとまずそれについていくことになるわけだ。
思っていたよりは街らしい、そして不思議な感じだった。
「道中、お疲れ様というべきかな」
「勉強ばかりでしたよ。あ、物資はどこに出します?」
冒険者然とした装備から、見るからに正規兵やその関係者です、という空気を醸し出す鎧姿になったヨーダ将軍。
人間というのは簡単な物で、見た目が変わるだけで俺もなんとなく接し方を変えたくなるから不思議な物だ。
案内を受けた先の倉庫のような場所で、道中兵士達も一緒に仕留めたモンスターの素材や採取した物を順々に出していく。
立ち合いをしていた街の先任であろう兵士の顔がほころんでいくのがわかる。
この状況では、物資はあったらあっただけ嬉しいということなんだろうか?
「こうしてみると随分ため込んだものだな……」
「出会うが幸い、と大体仕留めましたからねえ」
狼型が一番多かったけど他にもキラービーの針や毒袋、6本足の熊の毛皮やゴブリンなんかのいつもの相手の素材も取れるだけ集めてある。
ついでに薬草類も道沿いのものだけだが遠慮なく採取してきたのだ。
そう考えると……ちょっと集めすぎたかもしれない。
「さすが将軍ですね。これだけの物資を馬車で運べば5台にはなりますから目立ったことでしょう。
それを収納袋を代用して運ぶとは……」
「ただの偶然だよ。彼がたまたまいい性能の収納袋を持っていた、それだけだ。ああ、正しく査定してくれ。買い叩くようではこの街の名前が下がってしまう」
強めの言葉に、思わず敬礼を返す兵士を見つめた後、一転して笑顔でヨーダ将軍が手を差し出してくる。
俺も色々な思いを込めて握手を交わし、映画とかで見るように軽く抱き合う感じで互いの背中を叩いた。
こういうのは世界が違っても共通なのかな?
「ここで一度お別れだが、また頼みごとをするときがあるかもしれない。街から去るときにはひと声をかけてほしいところだな」
「しばらくはここにいますよ。たぶん。しっかり稼がないと来た意味がないですからね」
おどけたように言えば、査定をしている兵士達も一緒に小さく笑い出す。馬鹿にしたような物じゃなく、わかってるじゃないか、みたいなそういう笑いだった。俺もその雰囲気に思わず笑みを浮かべ、査定を待つ。
その間、ジルちゃんたちは馬車で荷物の整理をしてもらっている。ここで渡す物資以外の自分たちの取り分を改めてまとめているのだろう。その中には当然、ハチミツはたっぷりとだ。
まだ食べ比べてはいないけど、前の物とは色合いが少し違うから楽しみだ。
馬車は使う予定が無いのでこのままここに置いていく予定だ。どっちにせよ馬車の代金は将軍が出してくれたしね。
そして1時間もしないうちに査定が終わり、少なくない額が手渡される。恐らくは将軍の関係者の持ち込みということである程度は信用の上で査定は簡略化されたんだと思う。逆に損しない方法だから嬉しいのだけどね。
「ああ、そうだ。多少騒いでも迷惑じゃないような造りの宿ってわかります?」
「どうだろうな。君、わかるかね?」
将軍自身はさすがにそこまで街の事は知らないようで、査定をしてくれた兵士に問いかけるとやや緊張した面持ちながら兵士からいくつかの宿の名前と大体の場所を聞くことができた。
将軍の、わかってるぞ、という顔が何だか気になったけど事実なので全く否定できない。
いや、毎日そういうんじゃなくて石英を入れる時の……って誰に言い訳してるんだ?
将軍たちにひとまずのお別れを告げ、ジルちゃんたちの元へと戻ると荷物の準備は終わっているようだったのでそのまま6人で街へと出向くことにした。
緊急時に打ち鳴らすであろう銅鑼の脇を抜け、街にたどり着くと想像より騒がしく、活気に満ちていることがわかる。
あちこちに武具を売る店があるのが目立つが、それ以外は食料品も普通に売っているし、普段着の人も多い。
リスクはあるが好景気な街、それがハーベストなのだろう。そして魔物というバブルは恐らく彼らが生きている間にはなくならない。
なんとなく、この街が生き残っている理由が見えてきた気がした。
「トール様、竜の咆哮亭はあれです?」
「そうだね。赤いドラゴンが描いてある。間違いない」
おすすめされた最初の宿は中心部よりはやや鉱山より、という立地の宿だ。すぐそばに食堂らしき店もあるから食事には困らなそうだった。
中の雰囲気も石造りでしっかりしており、話を聞くと飲み屋が近いので騒ぐ人が多いために防音に気を使っているそうだ。
問題なさどうだということでさっそく大部屋を1つ、借りることにした。
ちなみにお風呂は自分で沸かすか、道具を借りる形式だそうだ。
「あーっ、つっかれたー」
「あらあら、ルビー。はしたないですわよ」
ふわりと回転して光ったルビーの足元からは靴が消え、素足の彼女がベッドの1つにぼふんと飛び込む。
注意するラピスも、少し疲れた様子だ。確かに戦闘も多かったし、ゆっくり出来そうなのは久しぶりだよね。
「みんなゆっくりしててよ。俺は先にお風呂の用意をしてくるから」
さすがに女の子が5人集まっていると何でもないのに賑やかに感じる。その横を抜けるようにして浴室側に行き、石製の浴槽に貴石術で水を張り、そのまま同じようにルビーの力を借りるようにして温めていく。
なんとなく、湯沸かし器から出るお湯に手を出しているような感じだよね。
「ご主人様。お風呂入れる?」
「すぐだよ……どうしたの?」
いつの間にか後ろにいたジルちゃんは手にタオル代わりにと買った布を持ちながらこちらを覗き見ていた。
なんだかもじもじとして、言いたいことを我慢しているようだったので話を促してみた。
すると、俺の服を掴んでぐいぐいと上に引っ張り始めるのだ。
「一緒のお風呂で、洗って欲しいな。旅の垢を落とすの」
(どこでこんなセリフを覚えたんだろう……)
そんな疑問が浮かぶけど、ジルちゃんが彼女なりに俺を気遣いそう言ってくれているのだとわかって温かい気持ちになる。
もちろん、答えはイエスだ。お湯を張り終えた俺はそのまま温まることにして……ルビーを除いた他の3人も乱入してくるという状況に慌てることになるのだけど、いつもの事……かな?
「あ、ルビーも早くなのです!」
「わ、私はいいわよ……ちょっと、ラピスも引っ張らないでよ!」
だけど、ルビー1人だけ仲間外れというのはみんなが許せないらしく、最終的には6人でのお風呂タイムとなった。
ちょっと疲れるけど、色々な意味で全く問題ない。問題ないのだ!
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
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