JD-100.「正体と願い事」
ついに百話!! これからもよろしくお願いします。
「改めて見ると皆、幼い少女ではないか……よくもまあ、あれだけ戦えるものだ」
「みんな優秀な子達なので。その分俺も頑張らないとと思ってますけどね」
いつまでも酔っぱらわないおじさんは実は偉い人だった、というお約束のような光景を前に俺は緊張していた。
結構乱暴な意見も言ったような気がするからだ。
例えば、建て直せばいいんだから外から全部壊す勢いで貴石術を撃ち込んだり、投石器みたいなのはないもんなのか、とかね。
残念なことに俺は武器や化学だとかに詳しくなく、碌に調べもしてなかったので投石器とは、と聞かれても正確に答えることができずに地面に適当に絵を描いて説明するぐらいだったのだが……。
「マスター、ひとまずお話だけでも聞きましょう」
「こちらに……どうぞ」
突然の来訪に驚いたままの俺と違い、ラピスやジルちゃんはいち早く立ち直ったのかおじさんらに座ってもらうように近くの瓦礫の汚れをはたいている。
他の3人も広げていた荷物をまとめたり、お茶の準備をしたりと女の子らしい動き。
というか、準備してないのは俺だけだったり?
動揺している間におじさんは護衛の人達と一緒に俺達の前に座り、こちらを見つめてくる。
少々居心地が悪いが仕方ないと言えば仕方ないのかな。悪い視線じゃないようだけど……。
「全員に良い力を感じる。なるほど、アレを倒せるわけだ」
「アレというのは俺が斬ったあの人間っぽいけど何か違う奴ですか?」
深々と頷き、おじさんは懐から何かが書かれた紙を取り出す。
そこには文字が並び、人の名前であろうことがわかるぐらいだ。
10人ほど並んでいるように見えるけど……。
「その通り。アレは人間が魔物と化してしまった哀れな犠牲者、と言える」
「人間が魔物になっちゃうの!? 怖いねー!」
「どちらかというと魔物になって復活したって感じじゃないかしら?」
フローラたちが言うように、驚きではあるがいわゆるアンデッド的な物になって復活してきた相手、と考えるとしっくりくる見た目をしていた。
それはどうやら正解の様で、おじさんや後ろにいる護衛の人も頷いている。
護衛の兵士もそこそこ事情は知ってる立場みたいだな……。
「妙に装飾品がついていただろう? 私が良く見れていないが、恐らくそれは生前の勲章や記念品を元にしているのだろう。アレは1人に見えてこの中の面々が1つになってしまったものだ」
「言われてみれば、気配がいくつもあったように思うのです……だからです?」
「こちらの貴石術を防ぐ障壁も1人の人間で展開し続けられるとは思えませんわね」
俺達以外の参加者からもあいつには遠距離攻撃は飛んでいたけど、弓矢なんかははじかれるか、届いても大した痛手になっていなかった。
貴石術による攻撃をあれだけ受け止めるのだから相当な実力を持つ相手だと思っていたけど、10人がかり……なるほど。
だんだんと話が見えてくる。アレはこの砦街が襲われた時にいたであろう人間側の指揮官やエースクラスの人達だったのだ。
それが何らかの理由により1つにされ、人間の敵となってこちらに向き合っていたわけだ。
かなり切ない話だ……眠らせることが出来てよかったのかな。
「犠牲者の中に2人ほど、生前は術士として名をはせた者もいたせいだろうな。
上手いところ君に弱点を突かれたようだが……見事」
「ご主人様はすごいんだよ。ずばーって切っちゃうの」
「みんなのおかげですよ。撃ちつづけられなきゃわからなかったですからね」
本心からそう答えて、俺は改めておじさんを見つめる。王様ってことはさすがにないだろうけど、この感じからしてちょっとした部隊の隊長です、ってことはなさそうだ。
そこそこ上の……まあ将軍職とかその辺のラインに思える。
そうなるとそんな立場の人が俺達みたいな見た目が若い集団を気に掛けるというのがよくわからない。
「ふむ。若いのに謙遜しすぎだなと受け取っておこう。話はこれだけではないのだ。兵士に勧誘したいというわけではないのでそこは安心してほしい」
言いながら懐から取り出したのは大き目の縮図の周辺地図。俺は内心その行動に驚いていた。
今も昔も地図というのは貴重な情報であり、厳しく管理されるような話も色んなもので見た覚えがある。
無造作すぎないかと思ったのも無理もないはずだ。ただ、それが顔に出ていたのかおじさんは地図を広げたまま笑った。
「このぐらいであればギルドにでも行けば見ることが出来る程度だ。さて、今我々がいるのがここなのだが……」
その後続いた話は今のこの国、そして人間の置かれた状況の再確認といったものだった。
この世界に来た直後に、ジルちゃんが説明してくれたようにこの世界の人間は危機に瀕している。
今すぐというわけではないけど、ドラゴンなんかもいる魔物相手に苦戦を強いられているわけだ。
スーテッジ国以外にもこの大陸にはいくつも人間の国があるが、その領土は大陸の東側だけ。
昔は西にもあったそうだが、そこは既に滅亡しているとのこと。
他でもない、襲撃して来た魔物達の手によって。
かなり歪んでいるが、ユーラシア大陸の右半分は一応人間の領土、左の海岸線から少し入ってきたところが魔物側、そこから人間の領土まではなかなかカオスな感じの乱戦状態とのことだ。
ただ、人間側の領土というのも街や砦が点在しているだけで日々浸食されているのだとか。
今回取り返した形のこの場所も、地図上では人間の領土となっているのだから何とも言えない。
(確かに面で魔物を受け止めるのは難しいよな……)
地球の国境だって、全ての国境に例えば壁があったり、隙間なく兵士が監視してるという訳じゃあない。
隙間とは言わなくても、即座にはカバーしきれない部分もあるはずだった。
飛行機やらレーダーのような物がないこの世界であればなおさらだ。
そう考えると、この人間側の領土というのもどこまで信用できるものか……。
「察しが良いな。今心配したように、これも人間側のこうだったらいいなという願望が入っている。
便りが届く以上はこれらの拠点の周囲は維持できていると思いたいがな」
「うーん、むずかしーお話はわからないけど、とーるとボクたちが一杯倒せばいいんでしょ?」
「ジルも戦うよ?」
恐らくおじさんの要望はそうだとは思いながらも、こうもストレートに言われると相手も苦笑するしかない。
俺はあいまいに笑いながらも、考えを巡らせていた。
相手の誘い自体は恐らく、今話題になったように討伐が関係している。ただ、そうなるとわざわざ俺達に声がかかる理由は薄いように思う。
「どうして俺たちなんです? 他にも、実力者は見た目にも実績的にもばっちりな人たちはいっぱいいるんじゃ?」
そう、実力はよくわからないが、見た目の安心感は俺たちにはたぶん、無い。それどころか女子供に何が出来るなんて思われる可能性の高い組み合わせだ。
別にジルちゃんたちが悪いという訳じゃないけど、見た目の第一印象は侮れないはず。
「確かに、見た目も含めれば他も選択肢に入れるところだが……そういう人物らを同行させれば、それはそれで兵士を信用していないのか、なんて思われるのがこの世界なのだよ」
(そういう物なのだろうか? でもまあ、悪い話じゃあない)
俺たちにとってこの話は悪い話ではないのだ。恐らくは最前線に近くなるということは危険度も増すが、その分実力をつけ、石英を確保するチャンスが増えるということでもある。
実力がつけばますます安全に戦えるようになり、と上手く行けばいい循環になる。
「もしかして、私たちは表向きは一緒に依頼を受けた冒険者という扱いとかですの?」
「下手に指揮下に入ってもらうよりそちらも都合がいいだろう?」
「それはその通りですが……目立たない方が良い……そういう依頼ですか」
俺がその言葉を口にすると、おじさんはにやりと笑い、来ていた鎧をいきなり脱ぎだした。
その下に出てきたのは、昨晩出会ったどこの街にも1人はいそうなベテランの冒険者然とした姿。
逆に言うと、誰とは気にしないぐらいにどこかで見たようなおじさん、という感じだ。
「依頼内容は最前線に向かおうとする熟練冒険者と一緒に旅をしてもらう、という物だ。
目的自体は私が最前線に目立たず到着することにある」
護衛であろう兵士達も装備を外すと、普通の青年冒険者が数人誕生した。
「あからさまに移動するわけにはいかない……魔物にこちらを伺う偵察兵のような奴でも?」
「まさに! それを危惧しているのだ。やはり君たちに目を付けて正解だった。返答や如何に!」
おじさんの問いかけに、俺は皆を見渡し……頷きで答えた。女神様の願いを叶えるためには戦う以外にはないのだから。
温泉宿から離れるのはちょっと寂しいけれどね。
「では一度スフォンに戻った後、具体的に予定を詰めよう」
おじさんの言葉が合図となり、その場はお開きとなるのだった。
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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