JD-099.「宴は続くよどこまでも」
「「「カンパーイ!!」」」
屋根の無い広間に男達の声が響き渡る。大きく作られたいくつものたき火を囲み、持ちよった食料や後続の物資を全て使い尽くすような勢いであちこちで宴が始まっていた。
中には朝まで一緒にいた仲間を失った人もいるのだろうけど、こうして騒いであげることが例えるなら鎮魂ということになるのかもしれない。
そんな宴の1つに参加させられながら、俺はそんなことを考えていた。
「ほれ、カラじゃねえか」
「見た通りまだ子供みたいなもんなんでこの辺で……無理ですね、わかります」
すでに周囲は完全に酔っ払いだらけだ。かろうじて残っていたらしい砦街の結界装置は試運転を経て、ひとまずの稼働を始めている。
そのうち最新のものと入れ替えられるのだろうけど、こうして宴を開くだけの余裕は作れたらしい。
といっても元々は砦街奪還用の戦闘物資。贅沢な食事という訳じゃあない。ただ、こうして勝利した後に皆と飲み食いするだけで干し肉だって上等な焼肉のように感じるというわけだ。
俺もまた、見知らぬ冒険者や兵士達に半ばもみくちゃにされながら誘われるままに飲んでは食べ、と繰り返していた。
近くではジルちゃんたちが、参加していた女性陣と別の場所でわいわいと騒いでいる。
屋根の上でカラフルに貴石術を撃ち込んでいたのを多くの人が目撃しており、術士5人として優秀な証明をしたことになったようだ。
女性らしく持ち寄っていたらしいお菓子なんかを互いに摘まみながらあれこれと喋っている。
「それにしても、無謀ではあるが勇気ある行動でもあったな。その剣……よほど石英を吸わせたんだろうが、武器を惜しんで命を惜しむなよ」
「ありがとう。そのつもりさ」
結構なペースで飲んでいるはずだが、隣のおじさんはずっと素面のような姿で周囲や俺の話に相槌を打っては時折こうして言葉をかけてくれる。
結構いい歳のように見えるけど、ジルちゃんたちぐらいの孫でもいるのだろうか?
「それでいい。大枚はたいて買った良いものだからと取りに戻ってそのまま、なんて若い奴はいくらでも見てきた」
「おいおい、そのぐらいにしておこうぜ? この兄ちゃんなら大丈夫だろ」
少し暗くなりかけた空気に横合いの青年とおじさんの境目ぐらいの冒険者がつっこんでくる。
その手にはアルコールが入っているのか、ここまで匂いが届く。
おじさんはその乱入者になぜか嫌な顔はせず、俺の方をにやりと見る。
なんだか嫌な予感がする……。
「そうだな。あんな嫁さん5人と旅するようなすごい奴だ。やすやすと死にはせんな!」
「そうそう! っかー! 信じらんねえぜ! いいねえ、モテて!」
「ははは……」
俺は何と言っていいやらと困りつつ、なんとかごまかしながら宴の時間を過ごすことにした。
その間も会話に加わってくる冒険者は数多く、そのうちに俺達のおかげで儲けたからだと色々と手渡してくる始末だ。
ありがたいけれども、だんだんと周囲がカオスなことになってきた。
思ったより冒険者は貴重品を持ち歩いているらしい。確かに、銀行とかそういったものがないもんな。
ギルドが上手く行けば預り所のようなことはやっているかもしれないが……。
夜も更け、宴もだんだんと終わりになっていく。さすがの俺も疲れを感じるぐらいだから普通の人間であるみんなはもっと限界だろう。
気が付けばジルちゃんたちも周囲の女性は個別のテントに引っ込んだようだ。
残っている数少ない女性となおも喋ってるあたり、彼女たちは人間同様だなと感じた。
女の子はおしゃべりが大好きだもんな、なんて思うほどには。
「そろそろ寝ますかね。明日から片付けとかもあるのかな」
「恐らくな。まあ討伐よりは安いだろうが確実だ。あるいは周囲の討伐でもいいかもしれん」
結局、最後まで隣にいたおじさんは顔は赤くなっているものの、平気そうである。
(すごいタフ……で済ませていいのかはわからないけど、すごいな)
そんなことを考えていると、おじさんは変わらない視線で俺を見た後、片づけを始めているジルちゃんたちを見る。
何かを見定めているような……そんな瞳だ。
「若いの、思い切った戦い方をしていたが……何を目指しているのだ?」
「目指す……うーん、特にこれってのは無いと思う。どこまで行けるかわからないけど、昇れるだけ昇りたいんだ」
さすがに女神様に言われて人間を救うために戦ってます、とは言いにくい。
ごまかすにしてももう少し言い方があっただろうに、なんだか変な感じになった気がするな。
かといって、モンスターをひたすら倒すために旅をしてます、だと他から見るとジルちゃんたちがかわいそうすぎるよね。
おじさんは何を感じたのか、考え込み始めてしまった。
「俺は寝ようと思うんだけど」
「ん? おお、すまんすまん。私も明日は早い。失礼するとするよ」
止める間もなく、先ほどまでお酒を飲んでいたとは思えないほどの動きで、おじさんはどこかへとスタスタと歩いて行ってしまう。
残された俺はポカーンとなってしまうほどだ。
(飲んでいたのはお酒のように見えてアルコール入ってないのか?)
そう思って残されたカップの匂いを嗅ぐと鼻に残る独特の香り。間違いなくお酒だった。
つまりは元々あれだけお酒に強いということで……いるところにはいるもんだ。
「さって、片づけは……明日でいいか」
随分と体も重くなってきたので片づけはやめにして寝ることにした。
ここでジルちゃんたちのテントにお邪魔するとまた寝られなくなりそうなので適当なところにもたれかかり、毛布をかぶって寝床とすることにする。
真冬でもなく、戦いの熱気が残っているのか自然と意識は落ちていく。
「ご主人様、朝だよ」
「……おはよう」
揺らされ、目を開くと見知らぬ天井どころか天井が無かった。
周囲を見渡すと、頭がようやく動いてきたのか戦いの跡の残る砦街の中だと気が付く。
既に一部の人間は起きて作業をしだしているようだった。
「ったく。寝坊助ね」
「とーるはそのぐらいのほうがいいよ、うん」
好き勝手に言われてる気がするが、俺以外の人も倒れるように寝ている状態ではあまり強く言えない。
この辺は誰も起きていないのだ……ひどいもんだ。
横合いから差し出されたコップの中身を飲み干すと、喉を冷えた水の感触が気持ちよく通り過ぎる。
「ありがとう、ニーナ」
「いいえなのです。トール様の体調管理の自分たちの仕事……じゃなくて、仲間を気遣うのは普通なのです!」
幸いにも二日酔いということじゃないようだからよかったけど、元気なニーナの声は結構響くのだ。
可愛いから全然問題ないけどね、うん。
ひとまずはこの辺の片づけをして、今日の仕事を確認しよう。
「みんなは昨日、これからのことは聞けた?」
「うん。倒すのも、片づけるのも自由だって」
「片づけはきりが無いんじゃないかしらね?」
ルビーの言うように、砦街の大きさに比べて戦闘員として参加した俺達の人数は心もとない。
さすがに復興を俺達だけでやることはないだろうけど、形を整えるにしてもどこまでやるべきか。
そんなことを考えていた時、朝靄の向こうから人影が数人。
「よかったらこちらの依頼を受けてみるかね」
「あれ、おじさん……? もしかして、そこそこ偉い人だったり……?」
俺のつぶやきに頷くのは昨日、最後まで一緒だったおじさん。昨日の夜と違い質のよさそうな鎧を身に着け、護衛にか数名の若い兵士がそばにいる。
お約束と言えばお約束だけど、まさか自分の身に降りかかるとは。
「近くでアレを見た君の話も聞きたい。どうだろうか?」
丁寧に誘われては断る理由もなく、みんなを問いかけのように見回した後、頷いた。
戦いはこれからが本番だ、なんてことが無いように祈りながら……。
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