JD-098.「怪しいヒト影」
『キサマラアアアアー!』
「あ、よかった。終わりじゃない」
幸い(?)にも集中攻撃を受けた相手は今ので終わりという訳じゃないようだった。
なおも飛んでくる攻撃を今度は障壁のような物で防いでいる。
見るからにぼろぼろではあるがまだ生きている。砦街の奪還作戦としてはあっさり倒されてくれた方が楽なんだけどね。
逆に、そんな簡単に倒れては罠を疑うところなのでちょうどいいかもしれない。
「アレ、何? 人? それにしては変な格好だけど」
「変な気配ですわね……」
叫んだ本人は結局降りてくるとか、遠距離から何かを撃ってくるということも無く合図を出しているばかり。
それに従ってか、あちこちからモンスターたちがうじゃうじゃとやってくる。
合間合間にそんなことを言い合う余裕ぐらいはあった。
この世界で死骸が消えない物だったら周囲はあっという間にモンスターのそれで埋まっていたと思う。
ここにきて、相手の動きはどちらかというと単調な物となっていっていた。
突撃はして来ても、他との連携がとりにくそうな感じ、といった状態だ。
なんだろう、どこかで見たことあるような気がするなこういうの……。
綺麗な動きをしている相手と、本能っぽい動きをしている相手と様々だ。
ある集団はこちらの隙を突くように迫って来たかと思えばそうでない集団も一緒にいる。
「ひとまず防ぐものは防いで、倒す物は倒すよ。ルビー、燃えるかもしれないから撃つ先は絞ってね」
「とーぜん! まっかせなさいよ!」
「ジルも、行く」
あれこれ考えている間に、周囲の人々も砦街に侵入し始めている。大きな通りではその分相手も多いようで、激しい戦いが始まっていた。
俺達はその間を半ば縫うようにして狭い場所はニーナに塞いでもらい、少数対少数を意図的に作り上げて撃破しては壁を除去、別の場所にという戦い方を繰り返すことにした。
結果として大通りへの増援を減らせるかなという目論見は今のところ上手く行っているように思える。
行き交う冒険者や兵士からも時々声がかかるぐらいだし、このまま続けようと思う。
もっとも、剣士1人に術士5人、しかも少女というのが珍しくて声をかけてくるということもあるかもしれない。
少し余裕が出てきたので改めて周囲と、建物の上の方に見える異形のヒトを見る。
今もまた、ヒトは何やら身振り手振りで……ああ!
「そういうことかっ!」
頭にひらめいた今の状況とヒトの関係。なんとなくだが俺の中に答えが出た。
あいつは上から魔法か何かでモンスターに指示を出しているのだ、と。
当然、全部を把握できていないので個別に指示を出すわけだが近くで動くほど状況に追いついていないのだ。
だから遠い時は大体だけど全体に指示を出せているがこうもあちこちで連続して状況が動くとそれも出来ない。
「なるほど……指揮系統がそんな感じなら納得なのです」
「とーる、やるぅー」
次々に微笑むみんなだが、どうやらやることがわかっている笑顔だ。ジルちゃんでさえ、短剣を構えて睨む先は前方ではなく、建物の上の方に小さく見える異形のヒト。
要は、あいつの邪魔をしてやればいい。
「フローラ、そこの屋根の上に!」
「おっけー!」
ふわりと浮遊感の後、6人が近くの建物の上に登る。ここにはモンスターがおらず、その分視界も広い。
逆に相手からも見えるということになるけど、この行動は間違いではない。
無言で俺も含め、全員が手を突き出して小さな魔法陣を生み出してマナを集中。
貴石術の行使に必要な物は力の集中と発動のイメージ、それでいい。
そして再び、貴石術の光が異形のヒトを襲う。
警戒していた相手にそれは防がれるけど、構わず俺たちは射撃を続けた。
地上の兵士や冒険者はそんな俺達を時々変な目で見るけど、その動きが変わる。
彼らも気が付いたのだ。相手の動きが連携なんてない状態になったことに。
「ラピス、マナ残量は?」
「こちらはまだまだいけますわ。たっぷりマスターに補充されましたもの」
「ボクもだよー!」
聞きようによっては誤解……いや、事実だからいいのか?な言葉を叫ぶ2人。
では残りの3人は、と見るが誰もがまだ余裕そうだ。
まだ貴石ステージは6になってないけれど、手ごたえはある状態だからその分マナ総量は増えているということかな。
視界に入る戦線が前に進む度に、こちらも屋根の上を歩いては進み、時々飛んで渡る。
『グギギギ。ウットオオシイ!』
「元がなんだか知らないが、残念だったな!」
聞こえないとは思いつつも、遠くに見えるヒトに声を返すと、何故だからこちらを向く異形のヒト。
こうしてみると、なんだか妙に装飾されたゾンビみたいな見た目をしている。ここにいた偉い人か何かだろうか?
見られてるというのは少々厄介かもしれないが、これでこっちに意識がより向けば儲けものだ。その分、モンスターの動きが鈍る。
徐々に戦線は押し上げられ、気が付けば街部分は討伐が終わったようだ。
後は砦を残すのみ……そして砦の大きな門の向こうにはオークやそれよりさらに大きな体が見える。
「トロールだと!? 矢は効きにくい。脚を狙え!」
誰かの叫び声が聞こえ、相手がトロールという物だとわかる。
お相撲さんをそのまま2倍か3倍にしたようなでっぷりとした体。
しかし、その迫力はその体の中に筋肉という力を隠していることを容易に伝えてくれる。
こいつがヒトの指示を受けて連携を取って動くとなると非常に厄介だろう。
『グハハハハ! ヒメイノオンガクヲカナデルガイイ!』
背中をそらすような勢いで高笑いを続けるヒト。なんだか妙にムカツク言動である。
会話の合間にも貴石術による射撃が襲い掛かるが、障壁は貫けていない。
妙に硬いな、あれ……それにこれだけの間、維持するって相当な実力だ。
「トール様、なんだか効いてない気がするのです」
「防がないわけにはいかないようですけど……貫通する様子がありませんわね」
それでも手を休めるわけにもいかないので続けてもらう中、妙なことに気が付いた。
射線がずれ、ヒトの近くの壁にルビーの火の矢が当たった時に砕けた瓦礫は障壁にはじかれていないのだ。
こちらの貴石術やラピスの氷、ジルちゃんの短剣は防ぐのに、だ。
(もしかして……)
「ニーナ、ちょっと」
「はいなのです」
彼女の耳にひそひそと今からやることを告げると、びっくりした顔になるがそのまま頷いた。
よし、後は俺の腕が女神様の肉体によりそこまで強くなっていれば、だ。
「みんな、撃ちまくれ!」
「言われなくてもっ!」
「ボタンれんだでれんしゃ、れんしゃ」
何度目かのカラフルな攻撃がヒトに迫り、高笑いしながらそれを防ぐという構図が続く。
が、その中に俺達だけがわかる変化があった。障壁の一部を通り過ぎた物がある。それはそこら中にある何の変哲もない瓦礫。そう、俺が投げた物だ。
(やっぱり、あいつは物理的な物は防げない!)
あるいは障壁の性質を選べるのかもしれないが、今は貴石術を防ぐためにそれ専用の障壁を張っている。
あの姿では矢が刺さったところで大したことが無いということだろう。
「だけど……これはどうかな!」
そうして振りかぶり、全力で投擲したのは……聖剣。
音を立てて飛んでいくそれは一気にヒトに迫り……見事にその胸元に突き刺さった。
『ギイエエエエエエエエ!?』
突き抜けても困るので多少切れ味は落としておいた聖剣が貼り付けにするようにヒトを貫き、後ろの壁に押し付けるような状態になっている。
慌てて胸元に手をやるヒトだがダメージは大きいようで体が震えているのがここからでもわかる。
だが、そうなってしまえばこちらの物。
「行くよ、とーるミサイル!」
「おおおお!?」
わかっていても怖いものは怖い。みんなに抱えられ、フローラによる加速を受けて俺はひとっとびし、ヒトの前に。
近くで見るとぐろいが、今はそれどころではない。
『ギザマ!』
「さよならだ!」
刺さったままの聖剣に手をやり、そのまま横に切り払う。さらに念のためにと斜めに切り裂いたところで手ごたえ。
他のモンスター同様、石英が中にあったようでそれを切った手ごたえだ。
砂のように崩れ落ちるヒト。結局正体はわからないままだったが、戦いの行く末は大きく変わる。
人間側が砦街を取り返したのはそれから間もなくのことだった。
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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