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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
後宮入りまで
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王の出迎え

ユージィーンの助けを借りて、馬車を降りたレインが見たものは、一面の黄色い花畑だった。

(キレイ…だけども…)

これが褒美になるのか、と首をかしげるレインに、ユージィーンは愉快そうに微笑む。

「これは…紅花という花なんだよ」

その名前にレインは激しく反応した。

書物でしか見たことのないものだったからだ。

「あれは…海を越えた砂の国にしかないと聞いたのですが…」

レインの疑問に、ユージィーンは微笑んで答えた。

「砂の国とは、とある伝手で交易があってね…はじめは薬効目当てで買い付けたんだ。でも今は、口紅としての利用が多いかな。君が求めていた赤の染料も、これなら出せるんじゃないかな?」

あまりのことに声を失ったレインに、ユージィーンは続けた。

「そして、ここは僕の所領だから、いくらでも使ってくれて構わない。いずれ養女である君のものになるんだからね」

ユージィーンの言葉を聞きながら、レインの総身が奮い立つ。

今すぐ、この黄色い花からどんな色が出せるのか、試してみたかった。

(もしかして、葉や根っこでは違う色が出るのかも…)

「後宮に摘んで、もっていってもいいですか?」

一刻もはやく試してみたくて、瞳をキラキラさせるレインに対して、ユージィーンの瞳が何故か泳いだ。

「そ…れはちょっときびしいかな…持ってられるか分からないしね」

(持ってられるかわからないって?馬車なのに…??)

ユージィーンの不可思議な発言に、首をかしげたとき、それは地響きとともにやって来た。

「え?なに!?」

慌てて頭を上げると、黄色い花の向こうに小さなシミのような黒い点を見つけた。

点は見つめる内にドンドン大きくなって、それが黒馬にのった人影だと思ったときには、腰に何やらかたいものが巻き付いていて。

足は宙に浮いていて。

気づけば、横抱きにして馬にのせられていた。

「…舌をかみたくなかったら黙ってろ」

短く告げた声に降りあおげば、そこには赤い隻眼の王がいた。

王は手綱を操り馬首を返すと、何かいいたげなユージィーンの前に付けた。

「何か言いたそうだな?」

「…一応、言っとくけど飛ばしすぎるなよ。ぐしゃぐしゃで入城するんじゃ、流石に可愛そうだ」

その言葉に、王は神妙に頷いた。

「…あぁ。あとは頼むぞ」

「アラン以外は引き受けた」

「……。」

日の光を受けて鈍く光る赤い目が、嬉しそうにキラキラ輝く茶色の瞳を見据えたが、王はなにも言わず手綱を動かした。

エボニーが走り出す前、ユージィーンは突然現れた王に人さらいのごとく拉致された、という現状に追い付けず沈黙しているレインを安心させるように、ウィンクしてみせる。

「お姫様、ここから先は、ウソつきの王国だ。騙されるなよ…とくに、君の後ろの男にな」

「え?」

レインが思わず、ユージィーンに聞き返そうと口を開いた瞬間、エボニーが走り出す。

それは、思考すら置き去りにされるほどのスピードで、レインは全てを忘れて、ただ目の前にあるものにしがみつく。

領地でも乗馬はよく嗜んだし、好きだった位だったが、この馬はその次元をとうに超越していた。

あまりに速く駆けるので、唸る風が煩いほどだったが、その声はレインが固く身を寄せた王の体を通じて届いてきた。

「俺は…お前を守らない。失敗すれば、切り捨てる。其だけを、肝に銘じろ」

何処までも冷たい声なのに、どこか泣いているように感じてレインは顔をあげた。

陽光の中でみる王は、夜見た王と違って威圧感は薄れていたが、その赤い隻眼の強さだけは全く変わらなかった。

(でも…陛下の言葉に、嘘は見えない…)

そこに靄は一欠片も見えなかった。

しかし何から守り、何故守れないかは言ってくれない。

口数が少ないのはグランで慣れてはいるものの、慣れているからといって考えをつかむところまでは至らなかった。

(この人は…冷たいのか優しいのか…わからない人だ)

いままでそばにいた人とは、何から何までまるで違う王に、レインは戸惑うことしかできなかった。

救いを求めて周りをみれば、さきほどまで飛ぶように流れていた景色が、段々ハッキリと見えてきた。遠くに城の尖塔が見える。どうやら街に着くようだ。

ようやく人心地ついて吐息を吐き、レインは改めてルビーの瞳を挑むように見据える。

なんだかわからないまま、流されていくのはレインの主義ではなかった。

(…失敗なんてしない。必ずやり遂げて報酬をもらうわ!じゃないと、割にあわないもの)

「守ってもらうつもりはありませんから、ご安心ください。自分のことくらい、なんとかして見せます」

内心の恐れを隠して、あえて昂然と顔をあげて見せたレインに、王は唇を歪めた。

ほんのすこしだけど…笑みの形に。

「ならば…お手並み拝見といこう」

門番が慌てて開門した大扉をくぐり、王は微笑んだまま、レインの背をぐっと引き寄せた。


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