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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
夜会、または全ての終わり
49/67

帰還の夜

地味にブックマークが増えているのを見て、嬉しくなってしまいました。

こんな不定期な更新の作品を、読んでくださってる方、本当にありがとうございます。


今回は主人公ではなく、側妃たちのお話です。


「全く…なんなんですの?!あの男は?!」


王妃は、プリプリと怒っているヒルダに苦笑している。


「なんで、ヒルダが怒っているんだ?」

「だって、王のあの態度は何なんですか?!留守を守ったのは、王妃さまなのに…(ねぎら)いの言葉すら無しで…!」

「そうだねぇ。でも、好きな気持ちを素直に表現するって…スゴいよね」


早々に、自室にひっこんでしまった王に配慮して、執務室ではなく王妃の部屋で、淡々と引き継ぎ処理を続けながら、王妃はにっこりと微笑みながら語る。

その言葉に含まれる甘い色に、ヒルダは眉をあげた。


「お、王妃様…もしかして…」


王妃は、それには答えずに、ただ物憂げにため息をつく。

完全に心ここにあらず、だ。


「あの人は…よく分からないんだ…嫌われてはいないとおもうんだけど…」


そして、突然頬を赤くする。


「でも…あんなことを…了承してもらえる程、好かれてもいないような…」

「悩むくらいなら、聞いたらよいではありませんか?」


スッパリと言い切るヒルダを、王妃は怨めしそうに見つめる。


「それが出来たら悩まないよ…ヒルダは怒らないの?」


王妃はふと、不思議そうにヒルダに聞く。

ヒルダは引き継ぎ用の書類を(まと)めながら、首を傾げる。


「何をですか?」

「だって…」

「お相手が陛下以外だからですか?」


王妃の顔がさっと紅潮する。

それを微笑んで眺めて、ヒルダは静かな声音で続けた。


「私は王妃様の(しもべ)です。そのお心に添うことが私の役目ですし」


いつになく穏やかな雰囲気のなか、翡翠の瞳は優しく輝いている。


「好きな人にはいつも、笑っていてほしいと願うものでしょう?」


その言葉に、王妃は照れたように目を伏せた。

自分も曲がりなりにも、恋を知っただけに、素直に好意を示してくれるヒルダに、羨ましさにも似た、照れ臭さがあったのだ。


「ヒルダは…どうして…そんなに私を好きでいてくれるの?」


その言葉に、ヒルダは彼女らしからぬ反応をした。

すなわち、押し黙ったのである。


「ヒルダ…??」


珍しい彼女の様子に、王妃は首を傾げた。

しばらくの沈黙の後。


「王妃様の…婚礼パレードを見ておりました」

「…え?」


予期せぬ言葉に、王妃は戸惑った。

ヒルダの話すそれは、ジークがシリーンを連れて戻った日のことだろう。

神聖帝国という、排他的な国から王女を譲り受けた王は、直々に王女を迎えにいった。

その時シリーンが身に付けていたのが、白いヴェールだったので、さながら花嫁そのもので、それが婚礼パレードとして、国民には認識されていた。


その一言を発して、ヒルダはまた黙ってしまう。

いつもは、忙しなく動いている彼女の静かな様は、居心地が悪くて落ち着けない。


「その折の…その瞳が…似ていたのです」


彼女の言葉に、王妃は理解した。

自分とよく似た、琥珀の瞳。


それは。


「シオン王子…君は彼の婚約者だったね」


前王の子にして、現王に惨殺された悲運の王子。

その名前に、ヒルダはフッと微笑んだ。

彼女には似つかわしくない、暗い微笑み。


「…婚約と言っても、その候補の一人だっただけですわ。会ったのも数回でしたしね」


それでも、彼女の中に王子は確かに、足跡を残していたのだ。

未だに、くすぶる想いを抱えてしまうほどには。


「好き…だったの?」


王妃の質問に、ヒルダは首を振る。


「分かりませんわ。あの方の…好きなものさえ知らず仕舞いでしたから」


そして、彼女は王妃に微笑んだ。


「だからこそ…私は、素直に生きることにしたんです」


あまりにも唐突に、理不尽にやってくる。

死、というものを、幼い彼女は目の当たりにしたのだから。


「そう…だね…」


そう呟いた、王妃の瞳は大きく揺れていた。

その唇は何かを伝えようと一度開かれたが。

次の瞬間、諦めたように閉ざされた。


「さぁ、とっとと終わらせて、ボンクラ王を部屋から引きずり出させてやりましょう!」


なにやら黒い笑みを浮かべるヒルダに、微笑み返しながら、王妃はその琥珀の瞳を伏せた。



ガキッ

鈍い音がして、三本目の剣が折れた。


「ちょっと!また備品壊したって、アランに怒られるじゃない!」


柳眉を逆立てるアヴィカに、グランは肩を竦めた。


「…なら、止めとくか?」

「ご冗談!あと、一回で私の勝ち越しなんだから!」


(したた)る汗を拭いながら、グランは思わず苦笑した。

飄々として見えて、この負けず嫌いぶり。

これを可愛いと思ってしまう辺り、自分は末期だと思う。


(もう手遅れなら…仕方ないな)


グランは潔く、腹を括ることにした。


ヤッパリ自分のじゃないと…といって、自らの愛用の武器を手に取る彼女に。


「…風の民は、自分より強いものしか、婿の名乗りを許さないと聞いたが…」


突然のグランの言葉に、アヴィカがキョトンと彼をみる。

その銀色の瞳を見返して、グランは笑った。


「この勝負、俺が勝ったら…名乗る権利をくれ」


グランの笑顔と、台詞の両方に、アヴィカは呆然としたようだ。

動きの止まってしまった彼女に、これ幸いとグランはそっと手をかけた。


ずっと触れたかった胸…は遠慮して、白く滑らかな頬を撫でる。


「アヴィカ。…俺はお前が欲しい」


初めて、自分から手を伸ばして乞うたもの。

その相手は、これ以上は赤くなれない、というほど顔を赤くした後。


「…手加減なんか…しないからな!」


涙目になりながら、最も得意とする武器を構えた。

それは彼女の紋が刻まれた、矛であった。


「…こちらも、だ」


グランはニヤリと微笑むと、手に馴染んだその長剣を構えた。

そして、鬼神の如く打ち掛かる愛しい人を、全力で受け止めた。



茉莉花(ジャスミン)は、届けられた手紙を一読すると直ぐ様、燭台の火で燃やした。


それはすぐに灰となったが、だからといってその内容が消え去るわけではなかった。


思い浮かべるのは、傲岸不遜なその笑み。


(断れる…訳がない…)


相手があの男である以上、色仕掛けも効かないだろう。


茉莉花は、菫色の瞳を思った。

平凡な容姿のなかで、際立って美しいその瞳を。


自分のやることは、彼女を傷つけるだろう。

それでも、少しそれを喜ぶ自分は。


「嫌だわ…思ったよりも…本気だったなんて」


目に焼き付いて離れない、あの二人の姿。

どこかピッタリと、似合いのふたりに。


その黒い瞳からぽろり、とこぼれた涙は、人知れず机に染み込んでいくのみだった。



様々な人の、様々な思惑を乗せて、帰還の夜は暮れていく。


やがて来る、終末の宴を祝うように。

なんか、色々とキャラクター崩壊した回でした…


でもグランは作者の中ではあんな人です。

欲望に忠実、というか。

なんにもなかったころが長いひとほど、執着したら凄いんじゃないかなぁと思うので、アヴィカはこれから色々大変なんだろうな…と。


主人公たちはまだ一悶着します…


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