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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
王の遠征
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青い目の男

相変わらずの亀更新です(汗


なんとか終わりが見えてきました…


接収された領主の館の一室。

ふと聞こえた微かな羽の音に、ユージィーンは窓を見つめた。


換気のため開いていたそれに、優雅に舞い降りたのは一羽の白い鳩。


ユージィーンは窓に歩み寄ると、その白いなだらかな背を撫でて、足許の筒を外してやる。


「御苦労様」


微笑みながら声をかければ、鳩は再び飛び立ち、部屋に用意されていた止まり木に止まり直した。


その姿を確認して、ユージィーンは筒に入っていた紙をあらためる。


そして、大きく茶色の瞳を見開き。


「…っぷっ…く…ははは!!」


堪えきれず爆笑する。


「全く…あの姫様には負けるな…」


思わずもれた呟きを、鳩は少し首を傾げて聞いていた。

その鳩に、にっこりと微笑んで。


「さて…お出迎えの準備でもするか」


ユージィーンは鼻歌をうたいながら、鳩に託す手紙をしたため始めた。




一方、(ぜい)をつくした館の中庭。

模造剣を片手に立つ、グランの心は晴れなかった。


(結局、今日で三日…)


王が行方不明になってから、既に三日が経っていた。


下流の岸と言う岸をさらい尽くして、王の手がかりどころか、王と共に流されていたはずの、あの巨木すらも見つけることが出来なかったのだ。


(あれだけの水に流されて…五体満足で居られるわけがない…)


しかし。


「あー、大丈夫。そんな簡単には死ねないの、王様は」


あの日、事態を報告したグランに、ユージィーンはそう、笑って答えたのだ。

そうはいいつつも、すぐに捜索隊の指揮と伯爵の尋問の準備を整える手際は、流石といえたが。


そのうち、伯爵の尋問に関しては、すぐに必要が無くなった。


館に戻ってきた彼らを迎えたのは、凄絶な死にかたを遂げたらしい、伯爵の死体だったのだ。


あまりの手際の良さに、グランもユージィーンも思わず感心したくらいだった。


そうして黒幕が手を引き、残されたのは領主のいない空の領地と、すっかり骨抜きにされた騎士団、そして長を失った捜索隊だったのだ。


ユージィーンは苦笑しながら。


「成る程。生温(なまぬる)いと思ったら…足留めが目的だったんだな」


とりあえず王が見つからない以上、捜索を続けながら、領地をある程度まで建て直さなくては、王都に帰ることは出来なかった。


ユージィーンはそのことがわかるや、王都に連絡を取った。


その手段は誰にも秘匿されていたが、その次の日には、王妃が代理として内政に携わる旨の文書を赤い目の白い鳩が運んできた。


そこには、付け加えてただ一言。


[励(はげ)め]


と、流麗な字で書かれていたのみだった。


「全く…休暇のつもりが…とんだオーバーワークだな。帰ってきたら倍押し付ける」


王妃の手紙に苦笑しながら、ユージィーンが(うそぶ)いたのはつい、昨日のこと。


(全く…何を考えているのやら…)


「あの…グラン様、開始しても…?」

最近、騎士団の団長を任命した兵士が恐る恐る尋ねる声に、グランは反射的に頷いた。


ほっとした彼が、外で待つ仲間に伝令に走る背中をみつめながら、グランは眉を潜めた。


(しかし…一体何故…宰相は今…)


先程訪れた宰相の執務室となっている部屋。

爽やかな朝の光を浴びて、ユージィーンはグランに告げたのだ。


「ジークはもう、探す必要はないよ」


そして、捜索の代わりの仕事として、弱体化した辺境騎士団の再生を依頼されたのだ。

既に、新兵も募集しているらしく、その相手をつとめるのが仕事だ、という。


「…それは…諦める、ということか?」


思わず、(くすぶ)るような声が出てしまった。

自分でも生存は難しいと思うのに、それをこの男に、肯定されるのは…嫌だった。


その声に、ユージィーンは意外そうに眉を上げて、それから微笑んだ。


「やり方を変えるってこと、かな?…じゃ、そう言うことでよろしく」


柔らかな物腰で、有無を言わさず畳み掛けられては、仕方なかった。

グランはタメ息をついて了承した。

そして、部屋を出ていこうとしたとき。


ユージィーンが、いかにも思い出したように付け加えたのだ。


「あ、そうそう。青い目の男が来たら…手加減しないで相手してやってね」


(あれは一体…どういう意味なのか?)


考え込んだ、グランの耳に兵士のどよめきの声が聞こえてきた。



「兵士を募集している、と聞いたのだが…」


耳に快い声は、どこか聞き覚えがあって、グランは眉を寄せた。

そして、声をかけた男を見て、声を失う。


(これは…)


それは一見、放浪の旅人のような身なりの若者だ。

西国風のゆったりした服に、粗末な外套。

さらに、その左目は包帯で隠されている。


貧しく、いかにも訳ありの容姿の男。


それを特徴あるものに変えているのは、その青い瞳だった。


それは見た瞬間に、無条件にひれ伏したくなるような高貴さとも言えるような、何かを秘めた目。


人を、人の上に立つもの足らしめる何か。


その場にいた誰もが、そのなにかに囚われていた。


時が止まったような周囲に、男はただ、淡々と自らの用向きを繰り返した。


「兵士の募集に、応募したいのだが…」


その言葉に、いち早く反応したのはグランだった。


今朝きいた、不可解な宰相の言葉。

それが今、ようやく分かったのだ。


「…俺が相手しよう」


つまり、この男とグランを引き合わせるために王の捜索を打ち切ったのだろう。


そして、王は別の方法で探す、といった宰相のあの微笑みに。


グランは思わず、うかんだ笑みを隠せなかった。

してやったり、というユージィーンが見えた気がして。


「…では…お願いしよう」


青い瞳の男は、薄く微笑んで構えた。

その構えを見て、グランは今度こそ笑いを堪えられなかった。


対峙する相手は、二刀流。


(成る程…手加減していたのは…俺だけじゃなかったんだな)


それは久しぶりの、嬉しい驚きでもあった。



その日、どちらが勝ったのかは公式な記録に残っていなかった。

しかし、この青い瞳の男が、騎士として採用されたという記録もなく。


そして同日、右腕と肋骨を負傷しながらも、王が奇跡的に帰還したことが、王妃へ伝令されたのである。


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