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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
後宮入りまで
3/67

残虐王

与えられた館の一室のバルコニーで。

月明かりに照らされて佇む男に、ユージィーンは思わず吹き出した。

「忍びこむ部屋を間違えたのか、ジーク?」

闇の化身のような、黒衣を纏う細身の青年。

廷臣に恐れられるルビーの瞳と、いつもなら眼帯に隠されいるサファイアの瞳が、闇夜に浮かびあがっている。

惨殺王の名を冠する年若き主は、自分の腹心を憮然と見つめて口を開く。

「…間違えるか。で、どうだった?」

そのオッドアイの威圧感に全く動じることのない唯一の廷臣、ユージィーンは楽しそうに続ける。

「え?エレイン嬢は、見た目は守ってあげたい愛くるしい感じなのに気が強そうで、割とでるとこ出てるのに男なれしてない感じで、ギャップ萌えたまらんなぁ~って、こと以外にあったかな?」

「…ちょうど、切れ味を試したい刀があったな」

さらりと冷淡に返す主に、さすがにからかいすぎたことを反省して、ユージィンは答える。

強い光りを放つ菫の瞳を思い返す。

「間違いないね。どことなく、あの方に似ているよ」

「…そうか」

その言葉に、まるで殴られたかのように俯く王の頬を、月光が照らしている。

「…まさか、こんな時に見つかるとはな…」


その娘を知ったのは偶然だった。

街で聞いた噂の一つに、何故か心ひかれた。

静の姫君と呼ばれる、とある辺境にすむ伯爵令嬢が、国の指名手配を受けていた詐欺師を捕まえた話。

よくある誇張された話だと思いながら、敢えて調査してみたのは、話に出てくるような完璧な令嬢がいるわけない、という反発からだった。


そして、調査結果に唖然とした。

完璧な淑女どころか、貴族の子女としても、おかしい行動ばかりだった。

たしかに伯爵家の財政は豊かとはいえないが、領主の娘が率先して、畑を耕し家畜を追うほど切迫したものでもない。

(まさかと思うが、趣味なのか?…謎だな)

殺伐とした日々で見つけた、ちょっとした楽しみ。

一度会ってみたいと思っていた。

だから、肖像画を手に入れて驚愕した。

艶やかに輝く栗色の髪を垂らして、控え目に微笑んでいる令嬢の菫の瞳。

結局、彼女を捨て置かなかったのは自分の為か、はたまた身に染み付いた習性か。

「…今更だな」

利にならぬものは排除する、それが残虐王のやり方なのだから。

「ジーク…」

ユージィンは普段、強い瞳に隠されているその繊細で優美な面に、疲労の色濃さをみてとり、臣下としてではなく、友人として声をかける。

「今ならまだ…」

そして、その後を続けることができなくなる。

再び開かれたオッドアイがそれを拒否したから。

ユージィーンは密かに吐息をつく。

(若いのに、色々悩みすぎなんだよね、我が敬愛する王は…)

「バイロイト伯爵は、どの程度把握していた?」

「…あの御仁は白だね。同じニオイもしなかったし、ホントに知らないんだろうな。まぁ無理もないけど」

「養女の話は?」

「それでエレイン嬢の、後宮での扱いがよくなるならいいんだと。出世欲もないんだろうね。確かに、詐欺師のカモに成りそうな人だった」

「無駄な情報はいらん」

話を急いでる主の様子にピンと来て、ユージィーンはニヤリと笑う。

「さてはお前、アランに黙って出てきたな?」

「…途中から見なくなっただけだ」

それでも自覚があるのか、罰が悪そうにあさっての方向をみるジークに、ユージィーンは堪えきれず吹き出す。

「どこの世界に、自分の護衛を撒いてくる王様がいるんだよ!」

冷厳と評される騎士団長は、今頃半狂乱で彼を探していることだろう。

「あいつは泣くから面倒なんだ」

(全身刀傷だらけの、ヒグマのような騎士団長に吐く台詞じゃないけどね…)

それでも彼なりに気遣ってるのか、話を切り上げて早々に背を向けた主に、ユージィーンはつい、お節介をしたくなって声をかける。

「エレイン嬢には会わなくていいの?」

その言葉には反応せず、年若き主は手にしていた眼帯を嵌める。

思慮深い青い瞳は隠され、ただ血のように赤い瞳の、苛烈にして残虐と呼ばれる王の姿になる。

そしてひらりと身を翻すと、バルコニーから消えた。

(さて、これでどう動いてくるかな?)

これから彼女が引き起こすであろう諸々に、堪らなく愉快な気持ちになって、ユージィーンは明るい部屋に帰っていった。

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