表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
城下町へ
20/67

第三の妃

街は活気に溢れていた。

店先にはところ狭しと品物が並び、呼び込みの声がひっきりなしにかかる。

領地からでたのが初めての、レインとクリスは歩く度に見つける不思議な品々に目を奪われ、何度も人波に浚われる都会の洗礼を受けていた。

「ク、クリスこんな調子でたどり着けるのかしら?」

「…諦めて棗さんのおすすめの方にしては?」

「…絶対いや」

「姉上…そんなところで意地はらなくても…」

「…いい加減ながされっぱなしなのは…腹立つのよ」

姉のキッパリした言葉に説得を諦めて、クリスは姉の手を掴んだ。

「とりあえず、情報を集めなくては。この辺りで評判をとるお店なら間違いないでしょう」

「…でもそのお店は陛下の耳にも入ってるんじゃ?」

「裏通りで評判の店とあればどうでしょう?」

クリスの言葉にレインはびくりと反応した。

「…掘り出し物の可能性はあるわね?でも…」

先ほどの棗の忠告を思い出して、レインは先をいく茉莉花の背中を見つめた。

「…反対されるわよね?」

その言葉に、クリスは青ざめつつ提案した。

「こ、ここは私がいって参りますから、姉上は茉莉花さまといてください」

ぷるぷると小動物のように震える弟に、レインはタメ息をついて、ふと閃いてにっこりと微笑む。

「いいこと思い付いたわ。こうするの…」

耳元に囁かれた言葉に、クリスはブルブル首をふった。

「そんな…そんな危ないことできません!!」

「貴方と私、どっちが剣技の授業で上だった?」

「あ、姉上です…」

「じゃあ、さっさとやりなさい」


こうしてまんまとクリスから護衛の服と剣を譲り受けたレインは、意気揚々と街を歩いていた。今頃はメイド服に戻ったクリスが時間稼ぎをしてくれているはずだ。

(まずは…情報収集ね)

表通りとは通り一本隔てただけなのに、日当たりがわるいせいか、こちらの心持ちなのか裏通りは荒んでみえた。

人通りも疎らだったため、レインはとりあえず、目についた布を扱う店に聞き込みをしてみることにする。

「こんにちは」

とりあえず挨拶してみると、通りすぎる客に陰気な瞳を向けていた店主は、吃驚したようにレインを見つめた。

「驚いた…兄さんどこの人?ここらじゃ普通の挨拶なんてしないから吃驚したよ」

「驚かせてご免なさい。ちょっとお尋ねしたいことがあって…」

その言葉に、店主の瞳にどこか狡猾な色がちらつく。

「なんだい?あんた上流階級みたいじゃねーか。聞きたいってからにはこっち、はずんでくれるんだよな?」

その指の形にレインは首を傾げた。

「オッケー??」

レインの発言に店主は飛び上がった。

「あほ!!金だよ金!ただで情報くれてやるわけないだろが!」

男の剣幕に、レインは吃驚してしまう。

「え、お金…?持ってたかしら??」

思わずでた言葉に店主の目が、改めてレインを嘗めるように見回す。

「おや…そんな格好だから兄さんかと思いや、女じゃねーか…色々足りないけどマニアには受けるかもしんねー…っぶっ」

「余計なお世話よ!!」

男の好色な台詞に全身の毛が逆立ち、気付けば回し蹴りをお見舞いしていた。

(やってしまった…)

しつこい求婚者に追われた時用に、密かにグランに教授された技だったが、こうも威力があるとは本人も吃驚だ。

因みに目潰しと急所蹴りも教わったものの、どちらもあまり披露したくない技だった。

(まぁいいか…そのうち起きるでしょ)

泡を吹いて倒れる店主はそのままに、レインは店先の品物を物色してみた。

先ほどみた棗の店とは、比べるべくもない貧弱な品揃えだが、そのなかに一点、鮮やかな赤に染め抜かれた布を複雑におった巾着を見つけ、レインは思わず嘆息した。

それは花びらのように作られたひだに、子細な刺繍が施された一品で、優雅で繊細なのにどこか大胆さも感じる不思議な作品だった。

(この仕立て屋なら…)

どこかに銘はないかと確認していると、後ろから声がかかる。

「それが欲しいのかな?」

少し低めの耳障りのいい声に、振り帰ればそこには不思議な麗人が立っていた。

暗い路地に輝くような銀の髪に、同じく優しい銀の瞳をした中性的な顔立ちの麗人は、明らかに女性でありながら。簡素な鎧をつけた男装だったのだ。

すらりとした長い足で間合いを瞬時に詰められ、横からひょいとその巾着をとりあげられてしまう。小柄なレインには見上げるような長身だ。ちょうど、王と同じくらいの。

思わず、隻眼の青年を思い出してしまい、レインは憮然とした。

そんな彼女には頓着せず、麗人は手にした巾着を眺め、嘆息する。

「あぁ。君はなかなか目が肥えてるね。これは紅華の作品だよ」

「しっているのですか?」

思わず、勢い込んで尋ねるレインを、安心させるように麗人は優しく微笑んだ。

「あぁ。良ければ案内しよう。おっと…」

麗人はまだ伸びている店主の後ろに回ると、くっとある一点を押した。

「かはっ…ごほっ…このアマなめたマネしやがっておぼえて…ろ…白銀さま!」

目を覚ますなり、レインに詰め寄った店主は、後ろに麗人を認めると即座に置物になってしまった。麗人はそんな店主からそっとレインを引き離して、にっこりとわらった。

「連れが失礼したね。これの代金と迷惑料だ。とっておけ」

白銀と呼ばれた麗人が、ぴんと指で弾いた金貨を慌てて受け取りながら店主は平伏した。

そのようすに、レインは改めて傍らの麗人を見上げる。

「貴方は…何者なの?」

訝しげなレインをにっこりと微笑んでかわす。

「善意の隣人さ。ちょっとだけこの通りに詳しい…ね」

その言葉に、嘘は見えなかったが白銀の人を食った笑みにレインは警戒を強めた。

「とりあえず案内していただけるかしら?」

レインの言葉に、白銀はおどけて手を差し出した。

「仰せの通りに、姫君」

その仕草は皮肉なほど、この中性的な麗人に似合っていた。


白銀の案内で、連れていかれた先は、裏通りをかなりいったところにある廃屋一歩手前の小屋だった。

「ここ…なの?」

思わず不安げに尋ねたレインに、白銀はただニヤリとわらった。

「もしかして人買いのアジトかもよ?」

その後ろに微かな靄を見て、レインは少し瞳を閉じて目眩をやり過ごす。

そして、微笑んだ。

「貴方を信じるわ」

白銀は少し驚いたように目を見張ったが、それを打ち消すように、微笑んで扉をあけた。

「紅華、お客だ」

名前から女性だとは思っていたが、その予想外の姿にレインは驚かされた。

「白銀姐さん」

白銀の呼び掛けに答えたのは、まだ少女と呼ぶに相応しい子供だった。美しい青い瞳は大人びた光を讃えていたが、一目で栄養が足りないとわかるほど手足は細かった。

レインは思わず、子供のまえに膝をついていた。彼女が何者か推し量ろうとする少女の手には、先ほどの巾着と同じく美しい赤の布があり、そこには正に、繊細な刺繍が指されていく途中でとまっていた。

「貴方が紅華なのね?」

確信をもって問いかければ、少女は昂然と眼差しをかえす。

「…そうよ。あなたがお客さま?」

「えぇ。貴方に私のドレスをお願いしたいの。あまり日数は無いんだけど…どうしても、お願いしたいの。できるかしら?」

紅華はその小さな頭を傾げて考えているようだった。

「やりたい…けど、私にはドレスに仕立てるだけの布がないの。これも…」

紅華は手の中の赤い布を撫でで唇を噛み締めた。

「おかあさまの婚礼衣装なの…ちょっとだけ手を加えれば高く売れるって言われたから細かくしちゃった…だからもうないの」

「生地はこのお姉さんが手配するよ。それに君の衣食住もね」

横から口を出してきた白銀に、レインは思わず眉をつり上げる。

「ちょっと!勝手なこといわないでよ!」

レインの抗議も、どこ吹く風で白銀は紅華に支度をさせている。そのようすにレインは眉をしかめた。

「あの子供の家族は…」

「つい先頃、母上を見送った。それが最後だ」

思わず言葉を失うレインの鼻を白銀がつまむ。

「にゃにするのよ!?」

「簡単に同情するなよ。あの子が望んでるのはそんなもんじゃない。そんなか弱くできてないよ、下町育ちはね。お嬢ちゃん」

からかうような口調に込められた思いに、レイはただ沈黙するしかなかった。

「支度できました」

すこし緊張して青ざめた面持ちの紅華を、白銀はひょいと抱き上げた。

「あ、わ…白銀姐さん、私歩けるよ」

急いで降りようとする紅華に、白銀はわさとしかめつらをつくってみせる。

「お前の歩幅にあわせると日がくれるだろ?子供は黙って甘えとけ」

その言葉に、レインは思わず吹き出した。

(私には甘やかすなって行ったくせに…)

矛盾だらけだけど、妙に憎めない人だ。

「さて、行くか」

だからテクテクあるきだした白銀のあとを黙って着いていく。そして、今日何度めかの驚きと怒りにレインはうち震えた。

「着いたよ」

といって白銀が紅華を下ろしたのは、見覚えのある店の前。一行が着いたのを待ち望んでいたように、中から扉が開く。

「お帰りなさい」

艶然と微笑んで出迎えてくれた茉莉花と、悄然と項垂れるクリスに迎えられて、レインは憮然と、白銀を睨み付けた。

「それで、貴方は何者?」

白銀はその瞳を悪戯っぽく歪めて、道化師のように一礼してみせた。

「下町の人気者白銀、又の名をアヴィカ・ヤクトと申します」

「!」

(このひとが風の民の…剣の姫…)

それが、残虐王の第三側妃との出逢いだった。

これでようやく主要人物出揃いました。

国の名前を考えるのが面倒なので東やら西やらで読んでますが大体のイメージはこんな感じです。

東の国→中華

西の国→モンゴル

砂の国→エジプト


主人公のいる国は名前すら有りません(笑)

島国なので何となく日本(あくまで地理上では)と想定して、その他の国はシルクロード的なイメージで想定したのでホントに適当です。

これが後で首を絞めないといいのですが。

物語はようやく序盤戦修了です。

ここから伏線回収して40話位で纏めたいんですがどうなることやら。気長におつきあいくだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ