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静の姫君と嘘つきの王  作者: うぃすた
後宮での日々
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不穏な食卓

長大な食卓の解決策はシンプルだった。

「さすが王様、朝から豪華だね~」

「お前のとこも変わらないだろ」

「あの…ホントに私も座ってていいのですか?」

「大丈夫大丈夫!美人はいるだけで役立ってるから」

「………。」

「あの…陛下ホントによかったんですか?クリスはともかくグランまで…」

改めて目の前に座る王をみやる。

「領地ではこの様に食べていたと聞いて、な」

まだ給仕をする使用人がいるため、王は眼差しに愛を込めてレインを見つめている。昨日は遠すぎて分からなかったが、今日は至近距離なので目のやり場に困った。俯いていると、隣の会話が耳に飛び込む。

「そのドレスも素敵だね。君の瞳によく似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

主が主なら従者も従者と言うべきか、男と知っていてもこの態度はある意味立派というべきか。その隣には相変わらずの仏頂面で、黙々と朝食を平らげるグランがいる。

(グランのあの平常心が羨ましい…)

ここへ来てからなにかと振り回されっぱなしのレインは、密かにタメ息をついた。

「どうかしたのか?」

レインを振り回す最大の元凶は、優しく気遣わしげな目を向けてくる。

「いえ…陛下の心遣いに胸が一杯で…」

当たり障りない答に王の顔が悪戯っぽく変わる。

「そうか、ならば褒美のひとつでもとらせてくれるか?」

「褒美…ですか?」

聞き返したレインに意味ありげに微笑んで。

「そうだな…口づけのひとつでも」

妖しく光る隻眼に、レインは今朝のやりとりを思い出して首まで赤くなった。

「そ、それは…」

口ごもるレインの口許に王の手がすっと伸ばされて、気づいたら口の中に甘い香りが広がっていた。びっくりして黙り混むレインに、ふっと笑みをもらして、王は手元の赤い果実を割ってみせる。

「茘枝という果物だ。なかなか美味だろう?」

中身は白いぷるんした果実で、どうやらさっき口に入れられたものと同じようだ。

その言葉に、口の中の果実を噛み締めると、甘い果肉の奥に、固いものがあって顔をしかめた

。そっととりだしてみると艶のある黒い種子だった。

「これを植えたら…育ちますか?」

はじめて食べた果物におどろきながらも、目を輝かせるレインに王の唇が笑みを象る。

「その発想になるのがレインらしいな」

さらりと呼ばれた愛称にピクリと反応してしまう。呼んだ本人は涼しい顔をしていたが、よく見たら目が笑っていた。

(絶対からかわれてる…)

言いように手玉にとられる自分に、悔しさを噛み締めているレインには頓着せず、王はさらりと言葉を続ける。

「南の国の果物だから、この国で作るのはなかなか難しいだろうな」

その王の言葉に弾かれるように反応したのは、レインではなくクリスだった。

「そ、そんなこと有りませんよ!ガラス張りの部屋をつくって、温度をある程度一定にできれば、南国のものでも条件があえばつくることは可能です」

いつもなら臆して話しかけられない王に、目を反らさず言い切った後で、クリスは青くなる。

すみません、と謝ろうとしたところで、王がユージィーンを確認するように見た。

「後宮の温室に空きはあるか?」

王の突然の問いに、ユージィーンは少し考えるように間を空けたが、すぐにクリスにニッコリと微笑んでみせる。

「何個か空いてたはずだ。後で確認するよ」

「ではクリス、君の裁量に任せるから育ててみてくれるか?」

「え?あ、はい…」

あまりの急展開についていけないクリスだが、舞い上がりながらもキチンと王から種を受け取っていた。ここが王の御前でなければ、温室にすっ飛んでいきたいであろう弟の様子に、ついレインの頬も緩む。

「さて、君達のイチャイチャもその辺りにしていただいて、本題に入ろうか」

「…何ですかお義父さま」

イチャイチャの部分に激しく突っ込みたかったものの、面倒なことになるのは火を見るより明らかで、レインはグッと堪える。

「実は近々、夜会を開催することになってね、ついてはお姫様にも参加してほしいんだ」

「私が参加?王妃様が狙われる恐れがあるんですか?」

予想外の答えだったのか、珍しくユージィーンが一瞬黙りこみ、王が隣から補足した。

「お前のお披露目、ということになる夜会だ」

そう言えば、と失念していたことを思い出す。いつの間にか側妃として後宮にいるが、普通はお披露目あるのだろう。

「わかりました。出来るだけ頑張ります」

社交デビューで、一回だけ参加して散々だった夜会を思い出しながら、レインは渋々頷く。

「普通の女の子は喜ぶもんなのにね?どんな服でいったらいいのかしら?とかならないのかな~」

ユージィーンの残念そうな口振りにレインは菫の瞳を細めた。

「新しい服はお腹に溜まりませんもの」

「あ、姉上…」

その言葉にクリスが慌てて袖を引き、王はその赤い瞳で静かにレインを見つめていた。

「…着飾ることも仕事のひとつだ。貴族のな」

王の言葉にレインは反発した。それはあまりに使いふるされた、貴族の特権を守る発言に思えたから。

「あの浮かれ騒ぐ馬鹿どもの集まりにそれだけの価値はあるのですか」

きっと睨みつけるレインの菫の瞳をうけとめて、その赤い隻眼は少しも揺らがない。

「価値を見いだそうとしないだけだ」

冷淡に響く声はレインを容赦なく追い詰める。

「…逃げるなよ」

「……失礼しますわ」

「あ、姉上!!」

怒りのままにナプキンを叩きつけ、レインは足音も勇ましく去っていった。その後を慌ててクリスが追いかける。その姿を見届けてユージィーンは肩をすくめた。

「相変わらず肝心なとこを抜かすからだぞ。まぁその辺りは実地教育なんだろーけど」

「…わかってるならさっさと仕事しろ」

「はいはい。人使い荒いんだから、も~」

文句を言いつつも身軽にユージィーンが去るのを見届けて、ジークは一人残った赤毛の男に対峙する。見下ろすジークの隻眼を座ったままで水色の瞳が見つめ返す。

「俺に用があるのだろう?」

一国の主に対するには不遜な口振りに、ジークは片頬を緩めた。

「少し食べ過ぎてな…朝食後の腹ごなしに付き合ってもらおうか」

グランの水色の瞳に少しだけ波がたつ。それはどこか嵐の前触れに似ていた。



ここから2、3話は後で書き直す可能性ありますが、取り敢えず上げます。


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