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熱が生まれるとき

 多分、俺はこいつが嫌いだ。

 小倉はふと、そんなことを思った。

 時刻は午後8時。日課となっている上村の家への寄り道で、いつも通り夕飯を作って貰って、それから今は二人、リビングのソファーで適当なテレビ番組を眺めているところだ。

 ちらりと右側の横顔を盗み見る。いつもと少しも変わらない無表情だ。

 冷たくも見える、シャープで聡明そうな顔つき。一見すればいかにもA型、整理整頓が大好きで勉強が生きがい、そんなイメージだが、全くの正反対。

 この男は何に対しても全くやる気が無い。最低限の事は完璧にこなすが、必要にならない限りは全く動かない。部屋は本棚で埋まっており、それもジャンルが様々。何が好き、というものも無いようで、本人に訊いたところ目に留まった本を片っ端から買って読み漁る、そんな読書をしているらしい。

 だから読解力もあるし何だかんだ成績は良いし、顔だってきつい印象があるだけで悪くはない。性格も、極度の面倒くさがりなだけで崩壊している訳では無いようである。

 ひとつ問題があるとすれば社交性が皆無なことだけだろう。そう分析する。

 自分が居ても居なくても、いや誰と居ても居なくても、相手が話し掛けなければ終止無言で一日過ごせるほど上村は喋らないのだ。

 しかも表情すら変わらない。これほど厄介な人間を、小倉は今まで見たことが無かった。

 相変わらず上村はつまらなそうに画面を見詰めている。最近人気の若手芸人が体を張って笑いを取るような無茶な番組だったが、口許ひとつ動かない。一体何を考えながらテレビを見ているのか不思議だ。

 いやいやと、小倉は心の中だけでかぶりを振る。そんな事を考えるより、二人きりなのだからもっとしたい事は沢山ある。


 「上村」


 名前を呼ぶ。

 すると視線だけがこちらに向いた。

 なに?などと言い出しそうな雰囲気だ。断りもせずに細い銀フレームの眼鏡を外す。

 無機質な仕切りが取り払われれば、少し睫毛の長めな双眸が露になった。

 切れ長の眼を見詰めながら柔く唇を重ねると、それも瞼に覆われる。自分も目を閉じ、細い項へ手をかけ固定して口付けを深めた。

 横向きでのキスはやや辛い。軽く唇を吸ってからすぐに開放する。

 目を開け上村を見る。同じく瞼を上げた目の前の男は、変わらず無表情で自らの唇を舐めた。


 ああ、たまんねえな。


 どんなことがあっても、何事も無かったような顔でいる。

 そんなポーカーフェイスが気に食わない。

 自分の意志を、訊かれるまで絶対に口に出そうとしない。

 そんな受け身な部分が苛々を掻き立てる。

 全てが自分と合わない。だから小倉は上村が嫌いだ。


 「余裕そうなツラしやがって」


 手に持った眼鏡をやや乱暴にテーブルへ。ゆったりとした暗い色のパーカーから覗く細い手首を掴んで、逆に肩を押しながらソファーの上に押し倒す。

 触れた唇に、掴んだ場所に、熱が灯った。

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