表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

車持ってないのにドライブデートの約束してしまいデート当日が来てしまった男


 若者の活気に溢れる街角で、埼来さいくるは心臓の音を独り言で誤魔化していた。 「……つい、言っちゃったんだよな。同じゼミのかわいいリンコちゃんが『ドライブ大好き!』なんて言うから。つい、『俺も車持ってるよ』って」  勢いで約束したドライブデート当日。当然、車など持っていない。 「でも、ドライブのこと忘れるくらい完璧な徒歩デートプランを考えたぞ。いける、いけるはずだ……」

「埼来くん、待った?」  弾むような声と共に、リンコがやってきた。 「いや、僕も今来たとこ」 「ドライブ楽しみにしてた! 車、どこに停めたの?」  いきなりの直球に、埼来の目が泳ぐ。 「あー、この辺駐車場埋まってて、むこーーーの方に停めたんだ」 「そうなんだ。じゃあタクシーでそこまで戻る?」 「えーーー、車が通れないような……狭いとこに停めたんだよ」 「じゃあ、埼来くんの車はどうやってそこを通ったの?」  リンコの純粋な瞳が突き刺さる。埼来は強引にハンドルを切った。 「……今日、タクシーデートにしよっか」 「なんで~?」 「あっ、リンコちゃん、見て! あれ話題の五十巻まで選べるソフトクリーム屋だよ!」


 話題を逸らされたリンコは、すぐに目を輝かせた。 「食べたい!」 「行こう、行こう!」  店頭のメニューを見上げ、リンコが指をさす。 「わーーー美味しそう。私、この排気ガス色のがいい!」 「……リンコちゃん、本当にドライブ(車関係)が好きなんだね。すみません、ミックスと、この『コンクリートジャングル』ください」


 リンコが受け取ったのは、ねずみ小僧のトッピングが乗った可愛らしいサイズ。対して埼来に手渡されたのは、そびえ立つ五十巻の巨大ソフトクリームだった。 「あ、ありがとうございます……重てぇぇぇ!!」  両手で必死に支え、ふらつく埼来。その時、リンコが知人を見つけた。どうやらゼミ仲間の部留ベルが通りかかったらしい。


「部留くん、偶然! 買い物?」  リンコが空中に向かって親しげに話しかける。どうやら部留は、さっき駐輪場で埼来を見かけたらしかった。 「え、さっき部留くんと駐輪場で会ったの? 自転車で来たの?」 「自転車なんかじゃないって! 車停めて、近道として通っただけだよ」  埼来の必死の否定も虚しく、リンコは「部留の言葉」を代弁し続ける。 「チェーン掛け忘れてたから掛けてあげたって。……埼来くん家の車、チェーン掛けられるの?」 「あ、えっと……自転車なんかじゃ~ないよ! ほら、今日雪降りそうだから、タイヤチェーン的な……。部留は親切だな!」  埼来は架空の部留に必死のアイコンタクトを送るが、リンコの手のひらには「預かった物」が載っていた。


「これがチェーンの鍵だって」  それは、どう見ても自転車用のワイヤーロックと小さな鍵だった。 「自転車の鍵みたいだね」  埼来は固まった。だが、ここで引くわけにはいかない。 「……自転車なんかじゃないよ! 今の車のキーはこんなにしょぼ……いや、コンパクトになるんだから。技術の進化ってすごいよな」  息を止めてリンコの反応を待つ。 「え~、埼来くんの車ってそんなに進化してるの~。楽しみ~!」  リンコが納得したのを見て、埼来は心の中でガッツポーズを作った。 (チョロかった……! いや、それはそれでマズいんだよなあ。どうやって乗せるんだよ)  一人で頭を抱える埼来に、リンコが不思議そうに首を傾げる。 「ん!? どうしたの?」 「なんでもない。さあ、ゆっくりソフトクリームを味わおう。こういう休日が至福っていうんだよね」


 五十巻の重みに耐えながら埼来が微笑むと、リンコはあっさりと手を振った。 「へーーー。じゃあ、私は部留くんの最新の二人乗り用自転車に乗せてもらうから。ゆっくりしてて!」 「え?」 「私、車も自転車も大好き~! じゃーねー!」  リンコは架空の部留の後ろに飛び乗るような仕草をして、そのまま街の雑踏へと消えていった。

 手元には、排気ガス色の巨大なソフトクリーム。 「あっ……」  埼来の情けない声が、コンクリートジャングルに虚しく溶けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ