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しらないところで  作者: 南 紅夏
春休み編
7/62

星の名は…

忘れがちですが、一応主役は湊太。

基本は湊太の目線で進めます。

 ソフィアと大牙が部屋を出た後、飾り暖炉の上の小さな棚に、湊太と秀人二人分のラムダを片付けた。

 間違っても持ち帰らないよう重々注意されたが、ラムダはどの道地球行きのゲートは通れないように設定されているとのことで、うっかり装着したまま通っても、こちら側に残るそうだ。


 使ったティーカップ等がそのままだったが

「メイドさんたちはほぼ全部の部屋出入りできるから、置いとけばいい」

 と言われたので、あえてそのままにして帰ることにした。

 先ほどのレビの「クレアは仕事を取ると怒る」と言う言葉も引っかかったので、下手に手出しをしない方がいいと判断した。


「さあてどーする?トランポリン使用?」

 秀人がニヤニヤしながら後ろから見ている。

「まあ、使うは使うけどさ。跳ねるかフレーム踏み台にするかだよな」

 ジャージの袖部分でアンバーゲートの縁を撫でてみる。しかし六角形のゲートの向こうは、この部屋の壁のままだ。

「あれ…?」

「静電気足りないんじゃないの?」

「ああ、そうかも」


 下敷きで静電気を起こす感覚で、今度は元気よくジャージの袖でごしごし擦ってみた。すると、ゲート内に一瞬靄がかかり、湊太の部屋の見慣れた天井が浮かび上がった。真っ白の天井でも自分の部屋だと認識できたのは、前々から存在が謎だった、暗めのダウンライトの光が見えたからだ。

「あー、間違いない。お前の部屋のよっわいダウンライトだ」

「そうそうよっわいヤツ…もだけど、部屋の電気も点いてるな。…よっと」

 湊太は借りていたサンダルを脱ぐと、そのままフレームをつかんでトランポリンのフレームに両足を乗せた。

「よし行くわ。ここまで来たら、思い切りが大事!」

 頭をフレームに突っ込んで見た。ああ、自分の部屋だ。見下ろすと、肩まで地球に戻れているけど、肩から下は暗闇のゲートの奥だ。


 ―――完全に戻るには両腕の力よりも、やはり効率的なのは…。


 両足を閉じて、2,3度軽くはねた後、思い切り膝を曲げてトランポリンを蹴り飛ばし、腕の力で体を持ち上げた。スタっと、自分の部屋の床にきれいに着地が決まった。

「よし、10点!」

 誰もいない部屋で、両手を挙げてポーズを取ってみる。そしてゲートのある「じいちゃんの机」の椅子が、机からかなり離されていることに気付いた。飛び込んで帰ってくることを見越して夕湖が離したのだな、と察した。


「甘いなかーちゃん。俺はそれでいいんだけどねー。…多分シュートはこれじゃダメだと思うよ」

 独り言を言うと、部屋の反対側に置いてあるスツールを机のそばに運びつつ秀人を待った。すぐに頭がひょこっと現れた。

「思い切りよすぎるって、ちょっとは躊躇え?」

 頭だけ出てくるなり、怒られてしまった。そして一言言ったまま動きが止まった。何か考え込んでいる。

「うん、やっぱトランポリンが正解っぽいな」

「だろ?」

 秀人の事だ、同じことをするのは芸がないと思ったのだろう。しかし、この高さ、このつかみ方から懸垂は出来なくはないかもしれないが、失敗するとどうなるのか。一方通行とか双方向とか話を聞いた後だと、どうなるのかわからないのが怖い。しかも、秀人はそんなに体力自慢でもない方だ。

「はあっ!」

 気合と共にトランポリンで跳ねたらしいが、真上に跳び上がったらしい。

「やべっ!」

そのまま真っすぐ落ちかけて、秀人が慌てて引き出しの端を引き寄せた。

「あーあ…」

 何となく、秀人が失敗しそうな気はしていたが、真上に跳ねただけだったのは予想外だった。


「むぎぎぎぎ…」

 おそらく足は空中でバタバタさせているのだろう。見たことのない形相で、秀人が歯を食いしばりつつ体を持ち上げようとしているが、胸までしか出て来ていない。引き出しの縁に両腕が乗っかっている状態だ。

 これは多分無理なパターンだ。…無理やり片足だけ跨いでも、股間を強打する未来しか見えない。


「ほい、右肩貸せ。暴れるなよ」

 軽くため息をつきつつ、体が引き出しから抜けきらない秀人を背負い投げするような形で引きずり出した。

「そこ、スツールあるから足降ろせ」

 秀人は何とか引き上げた右足を、おそるおそるスツールに降ろした。

「た、助かった。このスツールなかったらやばかった…」

 左足も無事引き上げて、スツールに降ろす。これで漸く二人とも帰還に成功した。

「感謝したまえ」

「いや、マジでサンキューな。…なんか斜めと真上でごちゃごちゃ考えたら、ワケわかんなくなってた」

どうやらフレームの角度のせいで、色々考えすぎてしまったらしい。

「多分、前に飛び込む感じで良いんだよ。あの取り付け金具、真下向けれるか今度やってみるか」

向こうのフレームが真下を向いていたら、この違和感はなくなるはずだ。次回見てみよう。


 そんなことを考えていると、直後、秀人のスマホが恐ろしい勢いで色々な通知音を響かせ始めた。

「うわうわ、怖え!鬼のようなスタ連来てるわ」

 慌てて湊太も自分のスマホを探すと、吹っ飛んだと思われたはずのスマホは、なぜか湊太の勉強机の上にあった。確認すると、ユリカからの不在通知も怒りのスタ連も13:40あたりですべて止まっている。

「諦め早かったな…。ああ」

 親からのメッセージも2件入っていた。


『お使い頼んで外出したってユリカちゃんには言っといたから、後は説明ヨロ』

『今後引き出し使う際は、朝海に知られないよう部屋の鍵掛け必須ね』


「…だってよ、ユリカにどう説明する?」

 画面を秀人に見せながら、引き出しを机に押し込み、湊太は椅子に座った。

「まあ、謝るのは早い方が良いし、明日の件もあるしなー…」

 と言いながら、もう秀人は由梨香への音声通話を開始していた。同時にスピーカーもONにするとスマホを机に置いた。

「いや、お前こそ躊躇え?まだ何も考えてないって、上手い説明できんわ!」


 2,3コールで由梨香は出た。

「ごめん!連絡できなくて」

 まずは第一声、湊太が速攻で謝ってみた。

『夕湖さんから聞いたからもう良いよ、それは。それより…』

「え、やっぱなんか怒ってない?」

 おっかなびっくり、秀人が尋ねてみると

『もー!明日は絶対そっちでやる!もーめっちゃ腹立つ!!』

 若干食い気味に怒りの発言をかぶせてきた。

 そこからは一方的な、怒涛のマシンガン愚痴トークだった。


『わかってた、わかってたけどやっぱウチのネットめちゃめちゃラグいのよ。まあパソもかなり色々アレだけどさ?カクカクよ。湊太のとこぐらいヌルヌル動けっつっても無理じゃん?

 だけどまあ二人が来れないっつーからソロ戦やってたわけよ。そしたらあの時の優勝チーム、名前忘れたあの中二病臭いチーム名の。あいつらも同い年だったじゃん?卒業してるじゃん?やっぱ昼間っからログインしてるわけよ。でもうラグいしボロいしカクカクだしで全っ然動かなくてさ。

『おやおや黒百合さんお一人だとてんでダメですね』とか

『今日はナイトさんたち守ってくれないんですね、喧嘩でもしましたか?』とかメッセ送って来るし!

 ハード完璧だったらお前らなんかソロでも狩れるっつーの!あーもう腹立つ!だから明日はそっち行く!』


 一気にまくし立てた後、はーはーと息を整えているのが聞こえた。ちらりと秀人の方を見ると、あちゃー…と言う顔で向こうもこちらを見ていた。

『…ということで明日土曜日ですが、ご家族お休みの日に押しかけて申し訳ございませんがお邪魔してよろしいでしょうか?さっきカスタードプリン買ってまいりましたので』

 急な低姿勢に、湊太は思わずぶはっと吹き出してしまった。

「もちろんいいよ、いいけど、ちょっと見せたいものもあるから、むしろ来てくれると話が早い」




 通話を終了させたとき、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「はーい」

 普通に返事しつつも、相手は母親で間違いないだろうな、と確信していた。

 さて、何から聞こう?などと考えていると

「朝海迎えに行くから、ついでにヒデ君送っていくけど?」

「あざます…て…ええ?」

 秀人は困った顔で湊太の方を振り返った。てっきり今日の事の説明があると思ったのに。それは二人とも同じ認識だったようだ。

「いやそうじゃないでしょ?説明は?」

 ドアもあけずに、外から「本日終了」を突き付けてきた親に、それは違うだろうというモヤモヤが抑えられない。

「じゃあ、湊太も一緒に来れば?車の中で話そっか」




 外はもう真っ暗だった。すっかり冷え切った庭先で、男子二人は大きめのワンボックスカーに秀人の自転車を積み込んだ。

「わざわざすんません」

 後部座席に乗り込みながら秀人が夕湖に社交辞令的に礼を言うが、もう聞きたいことが脳内で渋滞していることが見て取れて、湊太は一旦車内での質問は秀人に譲る事にした。

「いいって事よ。あ、シートベルト締めてね」

 二人がカチャカチャとシートベルトを締めると、緩やかに車が動き出した。


「で?何から聞きたい?ソフィアちゃんって会ったの?私まだ会ったことないんだ。大牙くんイケメンっしょ?」

「ソフィアは会った。なんか翻訳スゲーって思った。あんなにラグなしで会話行けるもんかってくらい自然」

 何でそっちが質問してるんだよ、と思いつつ湊太が一問目の問いに答えた。

「大牙さんはイケ散らかしてました。イケメンなのになんか知的で穏やかな感じ。何すかね、全て持って生まれた感じ。神様は不公平って痛感しましたね。

 あ、大牙さんで質問です。あの人家族に有名人いません?格闘系の」


「えっ?」


 秀人の質問に対して、母子が同時に発した「えっ?」だったが、驚きすぎたのか、信号のない交差点で一時停止しようとしていた夕湖は、思わず急ブレーキを踏んでしまった。急に締め付けられるシートベルトの感触はやはり好きにはなれない。思わず湊太は叫んでしまった。

「ちょっとお!危ないなあ」

「いやごめんごめん、あー、えーっと。シートベルトしてて良かったネッ!」

 夕湖はそれで調子よく誤魔化したつもりだろうか。

 車は再び動き出し、坂道をゆるゆると下る。


「そっち系も履修済みとは思わなかったなー。すごいね、ヒデ君は。正解だよ。大牙くんちは格闘一家。なんでか大牙くんだけ学者になっちゃった」

「学者なんだ…」

 湊太と秀人でハモってしまった。

 社会人なのは話の流れから何となく分かっていたけど、職業は聞いていなかった。学者というのは初耳だ。でも他所の星を研究している学者って何だろう。それはそれで意味が分からない。

「レビも会ったよね?マイペースでしょ。悪い人じゃないんだけどさ。言葉足らずと言うか」

「人の話聞いてなさそうだよな、あの人。みんながシュートの呼び方シュートで統一って感じになってたのに、一人だけヒデト呼びだったし」

「あー、そうそう。聞いてなかったなこれはって思ったわ」


「レビの奥さんには会った?日本人なんだけど」

「いや、会ってない」


 ―――じいちゃんと一緒に攫われた人。…だったよな、あの話の流れだと。


 そういや攫ったのって誰だ?話が色々と途方もなさすぎて、聞き忘れていた。

「じいちゃん達は攫われて、あの星の連盟の人たちに助けられたって聞いたけど、そもそも攫ったのって誰なの?」

「同じ恒星系の、ララカリブスって星の人らしいよ。アステリアより外周を回ってる、寒い星なんだって」

「なんで攫ったの?捕まった犯人たちいたんだろ?」

「分かんないんだ、これが。犯人たちは上の命令で任務遂行しただけ。情報は与えられてなかった」

「じゃあ、上の人に抗議は?攫われて文句も…あ…そうか、地球人攫っても…」


 言いながら、思い出してしまった。連盟に入っていない地球の人間を攫っても、抗議する人はいないのだ。

「そう、人道的に納得は行かないと思うけど、地球人攫って怒る人も問題にする人も向こうには居ない。問題になるのはゲートの無断使用だけ。私達で言うと、パスポートなしで無断渡航した罪ってとこかな」

「それはそれで問題なんじゃないんですか?」

 秀人もぐいっと身を乗り出してきた。シートベルトを目いっぱい伸ばして、助手席のシートにかじりついている。

「…そう、問題だね。ただ、その拉致事件の直前に、突然ララカリブスは連盟を抜けてるのよ。理由も言わず一方的に」


「??え?」

 助手席のシートを掴んでいた手が離れ、秀人は背もたれにどさりともたれ掛かった。


「つまり、どういう事??」

 理解が追い付かず、湊太はきょろきょろとしてしまった。


「はい、今日はここまで。自転車降ろして」

 いつの間にか坂を下りきっていて、車はすでに秀人のマンション前だった。このまま塾終わりの妹を迎えに行くので、これ以上の質問が無理なことだけは理解出来た。

「…ありがとうございました」

 礼を言いつつ、秀人は素直に車を降りた。自転車を下すのを手伝うため、湊太も続いて車を降りる。

 トランクを開け、二人がかりで自転車を持ち上げた。


「どうせユリカに最初から説明しなきゃいけないんだ。あいつが一番頭良いんだ。同じスタートラインに並んでから、3人で考察すればいい」

 秀人が自分に言い聞かせるように呟いた。


「そう…だね」

 とりあえず合わせるような返事をしたが、湊太はまた違う心配もしていた。


 誰よりもゲーム好きな由梨香の事だ。他の星などに連れて行ったら、ゲーム時間減ったとか言ってキレるかもしれないな、と…。


帰れたけど、まだ何も解決してないよね…

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