ガゼボにて 後編
大牙が席からそっと離れ、先程メイドが置いていったカートから、もう一人分のお茶を用意しようとしていた。
「手伝います」
湊太も席を立ってカートに近寄る。アステリアが来ることは織り込み済みだったらしく、最初から一人分多めに準備がされていた。
「ありがとう、じゃあこれ運んで」
大牙は手早くトレイに紅茶を淹れたカップ&ソーサーと、お茶菓子の乗った皿を載せると、湊太に託した。他の人には供されなかった、小さな半身の柑橘系に見える果物が一かけら載った小鉢があるのがちょっと気になったが…
アステリアを乗せてきたドラゴンは、ゆっくりと木陰に移動して、静かに座った。青み掛かった白い鱗が木漏れ日でキラキラと反射している。
「先ほども言ったが、星同士の戦争が長かった。消滅させられた星から逃げ出した人々や、戦火に巻き込まれそうな星々から避難した人々が、未開の地だったが居住可能なこの星に逃げ込むのは必然だった。…が、この星はかつてはドラゴンの支配する星だった。空からやってくる避難民を追い返すわ船ごと焼くわ、彼らは避難民を住まわせてくれる気は欠片もなかった」
皆からの質問には答えなかった割に、この星の歴史について語るレビは、一転して饒舌だった。
「それが当時の『私』の意思だったから、仕方がないであろう?竜たちはこの星の守護者であり、星の声を聴いて命に従っておったに過ぎぬ」
それだけ言うと、アステリアは湊太が運んできた紅茶をそっと一口飲んだ。
「星に…意思があるの?」
不思議そうに問い返すソフィアに、補足したのは秀人だった。
「地球にもその考え方はあります。ガイア理論ですね。星が一つの生命体であるっていう」
「ほんとにお前雑学すげーな」
おかわりの紅茶の入ったティーポットを運びつつ席に戻った湊太は、友人の博識ぶりを素直に称賛した。レビは1つ頷き、話を続けた。
「数々の難民が追い返される中、逃げ込んできた者の中に、竜たちと同じく星の声を聴くことができる者がいた。それが私たち一族の先祖だ。
一族の中で最も声を理解できる、星に近しいと思われた者が、星と人々との間を取り持つことで住むことを許された。どう翻訳されるかわからないが…『巫女』という呼び名が近い。その初代巫女がアステリアと言う名前だった。そして彼女はこの星と同義になり、この星は『ドラゴンの支配する星』から『アステリア』という呼び名になった」
ここまで一気にしゃべると、レビは一呼吸ついて少年たちを見回した。
「この星の気に入らないことをする者は、お帰りいただくか…竜の吐息を受けることになる」
「つまり、私の気に入らないことをすると、あ奴らに何をされても仕方がないということじゃ」
乗ってきた竜に目配せをしながら、いたずらっぽく笑うアステリアの言葉に思わず湊太が
「リアル逆鱗!」
と叫んだ。
「わ、そうだ、マジの逆鱗じゃん。え?あるのか、逆鱗ってあごの下だっけ?」
秀人がぶつぶつ言いながらアステリアの乗ってきたドラゴンをまじまじと眺めていた。
「…っと…そろそろソフィアは帰った方がいいんじゃないか?学校だろ、今日は」
ちらりと腕時計に目をやって、大牙が提案した。しかし
「やーよ、こんなモヤモヤの状態で!学校なんかどうでもいいよ!」
と聞く耳を持たない。
そうか、妹の朝海もまだ学校あるし、春休みは俺たちだけか、と考えると湊太は
「え、ソフィアってどこの国の人?」
と疑問を口にした。
そこでふと、本人にちゃんと話しかけるのは初めてかもしれない、と今更ながら気づいた。
「自己紹介まだだった、神木湊太です。こっちは吉沢秀人。みんなシュートって呼んでるし本人もそっちの方が良いらしいからシュートって呼んで。日本人、4月から高校生ですよろしく」
ざざっと自己紹介してみたが、
「もー知ってるよ!ソフィア・バーンスタイン、ドイツ人よ。年齢は多分あんたたちの一個上」
とテーブルに突っ伏したまま、でも答えてはくれた。
「呼び方シュートくんの方が良いのか。じゃあ僕もそう呼ぶよ」
乗っかってきた大牙に
「呼び捨てでオナシャス」
と秀人が返したので、慌てて
「俺も呼び捨てで!」
と湊太もかぶせてみた。
「了解」
笑って親指を立てた大牙は、本当に男でも見惚れるようで、ちょっとドキッとした。
「まあ、でも学校は行けよ。…無理か」
ごまかすようにソフィアの方に向き直った湊太は、一瞬まじめな提案をしてみたが、じとっと睨まれてあっさり意見を引っ込めた。
「無理だよ、無理に決まってんじゃん!こんだけ色々とっ散らかった状態で!学校行っても気になって誰の話も頭に入らないじゃん!一個でも二個でもいいから、解決しなきゃ無理!」
「でも無断欠席は良くないって!ドイツのガッコのルールなんて知らんけどさ!」
「真面目か」
食い下がる湊太に、反射的に秀人が切り返した。
「分かった。ちゃんと休むって言ってきたらいいのね?」
がばっと起き上がると、ソフィアはレビの方をちらっと睨み、
「トリ貸して」
と言った。鳥の持ち主から
「やめた方が良い、慣れないと酔うぞ」
と断られると「チッ」と舌打ちをし、ものすごい勢いで城のような屋敷の方に走っていった。
「あれ…?」
彼女が走っていったのは、建物の向かって左端の方だったが、そこに随分と趣の違う、シンプルな箱状の造りの別棟があることに二人は初めて気づいた。
「ソフィアの行ったとこ…あそこだけ、建物違いますね?」
調子が出てきたのか、秀人がぐいぐい質問するようになっていた。
「ちょっとあの建物は特殊でね。一番手前側のエリアをソフィアの家族に貸している」
レビが相変わらず表情一つ変えず答える。
「僕や君たちが使う部屋は本館の方だ。本来このアンバーゲートは木にぶら下げて使うものじゃないからね。後で部屋に返して設置し直さないとな」
東屋の端の方に無造作に立て掛けられているアンバーゲートを見ながら、大牙が補足した。
「え、じゃあなんでわざわざ木に移動させたんですか?」
あんな鍋つかみのようなもので触れないように気を使ってまで運ぶなんて、意味が分からなすぎる。
「本来の設置場所は壁なんだ。まあ、壁でなくても、ほかのアンバーゲートはもれなく縦置きされている。だけど、湊太の部屋にあるのは引き出しで、唯一上から入る構造になってる。下に飛び降りたつもりが壁から横向きで出てくるのは、何というか…理解していないと脳がバグるというか、気持ちが悪い」
「ああ…なるほど」
ぽん、と湊太は手を打った。祖父のこだわりがこんな面倒な構造になったのだな、と理解した。
「一般的なポータル用のアンバーゲートはかなり大きくて、普通に歩いて通過できるサイズで作成されてる。くぐり抜けるような使い方は地球用だけだ。まあ、私がコーサクに渡した資材のサイズが小さかったせいなのだがな」
レビが肘をつきながら、面倒臭そうに解説した。
「耕作…じいちゃんか…」
面白い祖父だった。特殊な病気だったらしく、晩年は高名な先生がいるとの事で、海外の病院に入院していた。そのまま海外で亡くなったので、湊太が最後を看取る事はなかったが。
机だけじゃなく、あのゲートも祖父が作ったのか…すごい技術じゃないのか?そんなことを考えていると、屋敷の方から、先ほどエルフメイドの乗っていた「飛ぶキックボード」に乗ってソフィアが向かってきているのが見えた。
「もー!これなんでもっと高く飛ばないのよ!地上スレスレ辛うじて浮いてるくらいじゃん!」
戻ってくるなりソフィアは大文句だ。
「さっきの小さいおじさん、めっちゃ飛んでたのに!」
「仕方ないだろう。基本、この星の空は竜のものだ。飛ぶことが許されているのは竜と、緊急出動のある警官と役人の一部、あとは救急救命関係だけだ」
「竜…竜乗るの…いいな」
湊太としては、ドラゴンライダーとか、想像しただけでメチャクチャときめく。
そして竜に乗ってきたアステリアを見ると、トレイに乗っていた小鉢の小さな果物をスプーンにのせ、そっと紅茶に浮かべていた。何かとても集中している。
「アステリア様、何をなさっている?」
「ロゥロゥの実チャレンジじゃ。ふふ、浮いたの。これはどう見ても浮いてる」
「…浮いたらどうだというのです」
さっきレビの事を叔父と言っていた。親戚同士、になるのだろう。麗しいエルフ二人が他愛もない会話でティータイムを楽しんでいるみたいで、ちょっとほっこりするなあ、と眺めていると
「浮いたら、ヘタレ叔父の代わりに話そうと決めておった」
「…っく…」
ヘタレ呼ばわりされた叔父は、一瞬何か言い返そうとして息をのんだのだが…
「私が『アステリア』になってから数年経ったころだったと思うが、空から宇宙船が2機ほど落ちてきた」
―――躊躇なく話し始めたー!!!レビがあんなに嫌がってた事を!
いきなりの芯を食った発言に、湊太も秀人も口をはくはくとさせていたが、アステリアは遠慮なく続ける。
「この星の上空には、かなり古いものだが宇宙船用のポータルがあっての。原理は同じじゃ、巨大なアンバーゲートが衛星軌道上にある。対の出口の設置先は…そなたたちの住む太陽系じゃ。そこから『戻ってきた』船が墜落した」
「戻ってきた…?」
合いの手を入れたのは秀人だった。
「そのゲートは、昔々この星が危機に直面した時、移住先を探す為に使っておったものじゃ。今は基本使う者はおらぬ、過去の遺物じゃ。
だが、その数日前にそのポータルを無許可で使用し、太陽系に飛んだものがおったのでな。恐らく戻ってくるであろうと踏んで、拿捕しようと役人どもが大挙して押し寄せて、この星に詰めておったのじゃ」
アステリアがティーカップを持ち上げると、中の実は静かに沈んだ。
「先に戻ってきた小型船は、古い型だったからの。役人たちが船のコントロールを奪って無傷で墜とした。乗組員4人と、攫われてきた地球人が4人、計8人が乗っておった。攫われてきた中の一人がコーサクじゃ」
「じいちゃんが…」
淡々と起こった事実のみを話す巫女と、嫌そうに聞いている叔父。その横で自分はどんな顔をして聞けばいいのだろう。
祖父は、誘拐事件の被害者としてここに連れて来られたのか。大牙も複雑な表情をしていたが、秀人とソフィアが顔芸かと思うほどにもっと複雑な顔をしていたので、湊太は急に冷静さを取り戻した。
「攫われてきたって…いや…それはこの星の人たちに助けられたって事…でしょうか?」
「まあ、そうじゃな。正確には惑星間連盟の入管管理官たちになるか。…そして、それから丸2日近く遅れて、もう一機が戻ってきたが…こちらは、既にコントロールを失っておった。墜落に近かった。原因はソフィア、お前の祖母のシルビアじゃ」
「え…?」
急に降りかかってきた身内の話に、ソフィアが固まった。
「こちらの船も乗組員4人と、攫われてきた地球人が4人、計8人の構成は同じじゃ。どちらも攫った地球人はカプセルで眠っていたのだが…どうにもオスと言う生き物は下種なことを考える奴がいるものじゃ」
若干の嫌な予感。レビが話を渋っていたのはこの話か、と湊太にも察しがついた。
「最初からカプセルに入れず、凌辱するつもりだったようじゃな。しかし…もともと薬に耐性があったのか、睡眠薬の効果が早めに切れたのか。服を切り裂かれている途中で…シルビアは目覚め、猛反撃を始めた」
「はっ?」
思ってたのと違う。
湊太と秀人は同時に変な声が出てしまった。
「格闘技の有段者だったらしいな。若干の薬の影響もあってか状況把握出来ないまま、防御本能だけで誘拐犯を船内で投げまくっておったわ。まあ、おかげで船内もかなり破壊された。残っていた船内動画はなかなか痛快だったぞ」
湊太はおそるおそるソフィアを見たが、固まったままだ。
アステリアは構わず続ける。
「完全に体の自由が戻ったところで外は宇宙。宇宙船の操縦など出来るはずもなく、まあ自分で破壊もしておったしの。シルビアにはもうどうすることも出来なかった。
自動操縦がセットされておったのでゲートは何とか通過したが、待ち構えていた役人がコントロールを奪おうとした際に…船は墜ちた」
「えーっと…中の人たちは…」
そーっと挙手しながら、秀人が聞いた。
「カプセルに入っておった3人は無傷、関節を外され、縛って転がされていた誘拐犯どもは死んだ。カプセルの外にいたシルビアは、墜落の際に内臓を抉られ瀕死の状態じゃった」
「じゃあ…じゃあ私のおばあちゃんは…そんな死に方だったの?」
ソフィアの手が震えている。アステリアとレビの顔を交互に見ながら二人の次の言葉をじっと待つ。
「皆を地球に帰す船に乗せるには無理な状態だった上、連れ帰ったところで地球の医術で助けられる状態ではなかったので、議論した末『死亡』という情報だけを持って帰ってもらうことにした…実際は、今もこの星で生きている」
諦めたようにレビが答えた。
「色々言うことを聞かない人でね。無茶ばかりするので、今もまたカプセルで療養中だ…会ってみたいか?」
「会ってみたい!」
叫びながら、ソフィアは勢いよく椅子から立ち上がった。
「いや、今すぐは無理だ。医術団に聞いておくから今日は諦めるんだ」
「はぁい…」
レビの制止を素直に聞き入れ、ソフィアはしょんぼりと椅子に座りなおした。
少し、肌寒くなってきた。
日が傾いてきた気がするな、と思っていると、東屋の6本の柱の屋根部分との接合部あたりに照明が灯り、間接照明のように屋根に反射して、柔らかく周囲を照らした。
見上げると、光に照らされた屋根の模様が切り絵のように浮かび上がって美しい。
湊太が屋根を見るともなく眺めていると、木陰に居たドラゴンがいきなり起き上がった。アステリアもはっとドラゴンの方を見る。
「おお、そんな時間か。すっかり長居をしてしもうた。挨拶も済ませた事だし、私は戻るとするかの。何日後になるか分らぬが、また来るとしよう」
「うわー!!時間!」
湊太も思わず叫んで立ち上がった。ポケットのスマホを探すが、ない。ソフィアに引き出しをぶつけられて吹っ飛んだ際に落としたか。
「ユリカ…怒ってるだろうなあ…」
ため息をつきながら、諦めたように椅子に再び座り込んだ。
「あースマホか?…15:45。2時間過ぎてるわ。当然圏外」
秀人も額に手をやって、顔をしかめていたが、横目でちらりと湊太を見て
「説明どうするよ?」
と言いながら大きくため息をついた。
「…連れてきちゃう?口で説明して分かってもらえるとは思えねーし」
苦虫をかみつぶしたような顔で湊太が返すと、
「え?女子?女子?」
なぜか嬉しそうにソフィアが目を輝かせた。
白い竜が、アステリアを乗せて大樹の街の方へ帰って行った。
見送った後、ソフィアは勢いよく湊太達の方に振り返り
「じゃあ、連れてくるの明日ね?土曜日だし!」
と叫びながら、興奮気味に両手をぱたぱたさせていた。
「いや勝手に決めんなって!」
湊太が、なぜか嬉しそうなソフィアを押し止めたところで
「はーい、ちょっと注意事項ね」
と大牙が割って入った。
「さっきの管理官の話覚えてる?新しく人を連れて来る前に、一度レビを通して管理官に連絡!」
「了解です!」
なぜか敬礼しながら秀人が答えた。
「それと、また追々詳しく話す予定だけど、この星…というかこの星々の連盟の人たちは、別に地球に自分たちの存在を隠す気はない。むしろ地球には加盟して欲しいくらいに思っている。
加盟していないから、君たちの祖父母のように攫われる人がいても助ける義務がないし、窓口すらないから何かあった際に賠償も何も請求できなければ抗議も出来ない。
シルビアさんが治療してもらえてるのは、たまたまレビの土地に船が墜とされて、そのレビが地位も財力も暇もあったってだけなんだ」
「暇は余計だ」
アステリアを見送ったレビが戻ってくるなり反論したが、大牙は無視してそのまま続けた。
「地球側が…この30年前の誘拐事件を知っている一部組織が、未だに湊太の家をマークしていると思っておいた方が良い。もちろん、僕の上司やソフィアの実家も条件は一緒なんだけど…」
「メン・イン・ブラックってやつか?」
はっ、と湊太が口に手をやった。
「うん、まあそういう系。だから、君たちにも今まで伏せられてた、判断できる歳になるまで。
で、君たちが今後連れてくる友人にも、同じ判断力を求められる。ソフィアが来始めた段階で湊太を呼ぼうって話になってたんだが、受験もろもろ落ち着くまで待ってて欲しいって夕湖さんに言われてたからね」
「さっきも出てきたけど、ユーコってソータのお母さんで合ってる?」
ソフィアが不思議そうに二人の顔を見た。
「合ってるよ。あー…シュート巻き込んだのもわざとって事か」
管理官に事前連絡が行っていたことも、秀人に新品のラムダが用意されていたことも、夕湖の差し金だと思うと全て合点がいく。
「帰ったらちょーっと詳しく説明してもらわないとな、これは」
「夕湖さんは君たち位の年の頃、父親が攫われた直後だったこともあって、考えすぎて誰にもここの話が出来なかったらしい。だから、湊太には共有できる友人を最初から連れて行って欲しかったんじゃないかな」
大牙が夕湖をフォローするが、今の湊太にはこの案件が危険と面白さのバランスがどちらに振れているか測りかねる。
「いや、確かにこれは共有出来たら面白いというか…誰かと話せるのは助かるけれど、でも知らない誰かに狙われるかもって話なら、無責任でしょうが!」
「そんな怒んなって。俺はむしろ感謝してるぜ?」
ヒートアップしている湊太に比べて、秀人はやけに嬉しそうだ。考えると色々心配になってきた湊太は、ふとソフィアが気になった。
「え、ソフィアはここ来始めて2か月くらいって言ってたっけ?今日初めて説明されたって事は、今まで口止めもされてなかったって事だよね?誰にも言ってない?大丈夫?」
「いや、まだ土地勘ないし情報とかも足りてなくて…もうちょっと街の方とか探索して面白いもの見つけてから、連れてこようかなって思ってたけど…ヤバかった~!先に言ってて欲しいわ、その情報!これって私らも危険だし、知った友達も下手したら危険に晒すかもって話だよね…」
何だかソフィアの目が、不自然に泳いだ気がした。
「知らせる友人も、見極めて連れて来いって話ですよね?」
秀人が大牙に向き直ると、
「まあ、そういう事だね。危険なのは君たちだけじゃなく、連れてくる相手によっては…下手したらこの星に迷惑を掛けることもあるって可能性とか。想定外のことだって起きるかもしれない」
「メン・イン・ブラックのスパイとか?」
「ん~。そこは逆に心配してないかな。まあ、想像力を働かせてみて。色んなパターンが出てくると思うから。例を挙げるとしたら、この星には地球にはない色々なモノがあるって事だ。欲に目がくらんで持ち出そうとすると、厄介な問題が起こる可能性も出てくる」
大牙はちらっとアステリアの去った大木の方に目をやる。
「あとは…そうだね。分かりやすいところで言うと…例えば、この星が気に入らない事をすると、怖―い守護者に消し炭にされるかもしれない。そうなったらそうなったで色々厄介だよね。
こちらでは死体も証拠も残らない殺人事件だけど、地球上ではまず行方不明として話が始まる。そして『その子』が最後に目撃されたのは湊太の家。さて、どうなる?」
「うっわ…」
「考えうる事例の1つだよ。もっと色々考えられるけど。ここと僕たちでは常識も考え方のものさしも違う。だから単純に、想像力の足りない人間は連れてこない方が良い」
「肝に銘じます!」
きりっと、真面目な顔で秀人が返答した。
ここまで話すと、大牙はぱんっと手を打った。
「さて、急いで帰って謝んなきゃだね。本来今日は『シライシユリカ』ちゃんも来るってつもりで予定してたから、彼女のラムダはもう用意されてる。いつでも連れてくればいい。
最初に連れてくる小一時間くらい前までには管理官におおよその到着時間を知らせた方が良いから、それだけ注意して」
二人はうんうんと頷いた。そこで壁際に転がされた「アンバーゲート」がはたと湊太の目に留まった。
「で、えっと、どうやって帰ればいいんでしょう…?あのゲートの使い方とか」
「それ!本来の設置場所ってやつも気になるし」
秀人もチラチラと城のような屋敷の方を伺う。
「じゃあ、ゲートを元の場所に戻すか。そこから帰るといい」
立ち上がりながら、大牙はトレイに飲み終わったカップ類を手際よくまとめていく。
「置いておけ。クレアが片付ける。下手に仕事を取るとあいつは怒るからな」
いつの間にか、勝手に本を読み始めていたレビが一瞥もせずに告げた。ここにも本があるんだな、と妙な所に湊太は感心していたが、
「クレアってさっきのメイドさんですか?地球っぽい名前ですね」
秀人はやはりメイドが気になるらしい。妙に食らいついている。
「名付けのネタが色々尽きていてね。最近は地球人に名前を付けてもらうのが流行っている。まあ、こちらと似たような名前もあるがね…ああ、秀人君。今度君とはゆっくり話をしてみたい」
さっきまでの流れでみんなが「シュート」と呼ぶことになっていたはずだったが、レビはまるで人の話を聞いていなかったのだろう。マイペースが過ぎるな、と湊太は思いながら大牙に倣って立ち上がった。
「え、あのお屋敷の方に行くの?私入ったことない!行きたい行きたい!」
ソフィアもわくわくと立ち上がった。
「その飛行盤はクレアに返しておけよ」
ぱたんと本を閉じると、レビも立ち上がった。
「大丈夫、乗って行くから」
言いながら、もうソフィアは円盤型キックボードに乗っていた。
「じゃ、行きますか」
大牙も「シリコン鍋つかみ」で再びゲートを握ると、歩き始めた。
後ろについて湊太と秀人も歩き始めたが、その横を白い鳥に乗ったレビが勢いよく追い抜いていった。
次は一旦地球に…まだ帰れないかも。




