おしゃれなランチは皿も大事
「うーん、レパートリーが少なすぎるな」
自分で作ったチャーハンを食べながら、湊太は口を尖らせた。
今日のランチタイムは、余り食材を刻み込んだチャーハンと味噌汁だ。
「えー?でもおいしいよ?」
妹の朝海は、嬉しそうにチャーハンを頬張っている。
「美味しいのは分かってるけど、もうネタ切れなんだよ~!明日何作ればいいか分からん!」
「毎日このチャーハンでもいいけどなあ?夕湖さんが作るのよりもう全然美味しいし…おかわりある~?」
湊太としては、チャーハンも何回か試してみて、味付けの黄金比を自分なりに見つけたところだ。だが、毎日チャーハンはさすがにない。
「おかわりはあるよ。…んで、娘にあんなこと言われちゃってますけど?」
湊太がちらりと母親に視線を送ると、
「うん、私が作るよりおいしいよね。もうずっと湊太がお昼作ってくれればいいのに」
などと悪びれずに応える。
「…仕事、一段落したんだよな?」
母は今まで部屋で仕事しながらの食事だったのに、今週に入ってから普通にダイニングに出て来て食事している。
「うん、大きなヤマは越したね」
妹は席を立ち、フライパンからおかわりを皿に盛りつけている。母も皿を持って立ち上がった。
「なら、かーちゃん作ってよ。俺、ちょっとメニューの引き出しが少なすぎる」
「えー、やめてよ。夕湖さんだと普通にカップ麺とか冷凍パスタばっか出しちゃうじゃん」
まさかの、妹からのダメ出しが来た。
夕湖はうーん、と考えると
「一品で済ませようとするから難しくなるんじゃない?ごはんに、肉料理とサラダと小鉢と汁物、って考えると、無限の可能性が出てくるゾ?」
「ゾ?じゃないよ!どこのカフェランチだよ、鬼なの?どんだけ手間かけさせんだよ~!」
文句を言いながらテーブルに肘をついたところで、湊太の脳裏にふと秀人と由梨香の顔が浮かんだ。
「…うー…金曜に一回やってみる…」
項垂れたまま、湊太が唸るように呟くと、
「やったー!」
母と妹が、嬉しそうに同時に声を上げた。
昼食後部屋に戻ると、湊太はヘッドセットを装着し、USBポートにゲーム用コントローラーを差し込んだ。ログインすると、既に由梨香はソロプレイでバトル中だった。
『今週配信予定だった新機能、延期だってね~!この間のライバーさんたちのテストプレイのダメ出しで、なんか修正に入ったらしいよ?4月過ぎまでズレ込むって』
雑談していると、すぐに秀人も現れた。3人揃ったので、ボイスチャットで話しながらスリーマンセルの対戦モードに切り替えた。
「黒百合さんラグい?このままボイチャで行ける?音スマホに切り替える?」
『行けそう…かな?』
お互い確認しながら対戦準備をする。
『ロビーで待機中』
と画面に表示される。対戦チームが集まるのを待つ。
「でもあれ、5人のチーム戦が追加実装だったら、俺たちにはあんまり関係ないよな?3人で入っといて、ランダムで2人入って貰うって感じ?得意タイプ分からん相手と組むのは、作り込んだ5人チーム相手だと勝てる気しないんだけど」
湊太達のハマっているゲーム、「ランディングファイターオンライン」は、地上のあちこちにあふれた未知のエイリアンを狩るゲームだ。
スタート時は基本武器を1つのみ装備でき、道中武器を拾いながらの強化が可能で、最大3つまで武器が持てる。
基本はエイリアンを狩るハンターモードと、エリアの覇権を掛けた生き残り対人モードの2種類で、ハンターモードは狩った数を競う、ポイント制の得点ランキング勝負だ。
ハンターモードは他プレイヤーを含め「人」を撃ったらマイナスポイントになるのに対し、対人モードは「人」を撃つことがポイントになるので、「人」に関しては真逆の対応が必要になる。
公式戦では交互に出されることも多いので、切り替えをうまくできるかが勝負の分かれ目である。
どちらもソロ戦・3人チーム戦があり、参加人数・チーム数など細かいルールもあるが、3人のチーム戦は仲間で最初から組んで入る方法と、ロビーで待機してソロ同士が集まって即席チームで参加することも可能だ。
『ふっふっふ、これがね?新年度に向けて、実は知り合いの先輩がeスポーツ部を立ち上げたのですよ~!私が入ること確定で、今現在私入れて部室貸与条件ギリギリの3名!もう、二人も入る予定にしてるから』
『まじかー!でもまあ間違いなく入るけど』
秀人も嬉しそうに入部に同意した。
『まあ、私は内申も考慮して、もう一つ兼部で入る予定だけどね』
「さすが手堅い!え、兼部とかOKなの?」
『行けるよ?活動曜日決まってる部もあるから、そこが丸被りしなければOK』
湊太は、兼部がOKなら剣道続けようかな、とも考えた。
『そういやアプデ情報の配信やっと見たけど、あれは確かに修正入るわ。追加ステージの湿地帯?あれヤバいだろ』
秀人は笑いをかみ殺したような声だ。由梨香も笑いながら
『コンタ氏が、これ湿地じゃなくて底なし沼でしょ~!って叫んでたやつね。あれ爆笑だったわ』
「あー、完全に動けなくなってたもんな~!あれはやばいわ、一回ハマっちゃうとハチの巣確定じゃん?…あ、そうだ。金曜日、ウチ来るだろ?ちょっと早めに来て、昼飯ウチで食わね?」
こういうお誘いは早い方がいい。変なタイミングだったが、湊太は思い出したタイミングで言っておいた。
『え?何?なんかソータ作ってくれんの?…あ、ロビーいっぱいだ。詳細は後で!始まるぞー!』
由梨香の声で、湊太も頭を戦闘モードに切り替えた。
飛行艇から、一気に全アバターが空中に放り出される。回線の状況で1番早いと思われる湊太が、ランダムステージの確認をするのが常だ。雲の隙間から街並みが見えた。
「市街地、低層ビル群」
湊太がそう告げると、
『り』
と二人から返答が来た。アドレナリンが出まくっている感覚を感じながら、湊太はコントローラーを握りしめた。
『ああもう、今日は家に誰もいなかったからまだマシだったけどさ、やっぱラグいわ』
ゲーム終わりに、由梨香が回線にぶーぶー文句を言っている。
「え?今日は弟君は?」
『友達んとこにゲームしに行ってる…あ、それで金曜ランチの話、急にどうしたの』
「いや、なんか親と妹にはめられて、カフェ風ランチ作ることになってさ。ちょこっとずつ何種類も作るの、もったいないじゃん。ならいっそ大量に仕込んじゃおうかと思って」
『まじでお前んちおもろいわ。ありがたくゴチになります!』
秀人も笑いながら誘いを受けてくれた。
「まだメニューは検討中だけど、二人とも好き嫌いなかったよな?」
『ないよー』
『俺はトマトがちょっと苦手。食えなくはない』
秀人がトマトが苦手な事は、随分前に聞いた気がする。ケチャップとか缶詰とか、加工済みだったり料理に使われているのは平気だそうだ。
「うん、シュートのトマト苦手は知ってる。外しとくわ。で、メインは魚は高いからゴメン。トリかハンバーグで考えてるから、楽しみにしといて!」
『えー何それ素敵ー!楽しみ!』
『俺は、鳥でもハンバーグでも、どっち来ても嬉しいな』
二人の声を聞いて、湊太もちょっと作るのが楽しみになってきた。
秀人が塾の時間になり、全員がログアウトした。
湊太はゲーム画面を閉じると、そのままカフェの画像を検索してメニューを考え始めた。
「メインと、サラダと、突き出し…?小鉢みたいなものか。デザートもなー…」
早めに作っておいて、冷蔵庫からそのまま出せるもの、熱々で提供したいもの。考えるとまあまあ大変な工程だ。
棚から中学生時代の数学のノートを引っ張り出す。後ろの方が半分以上、未使用で残っているものだ。
前半の使用済み部分を引きちぎると、薄くなったノートにメニューを書き、それぞれ必要な食材を全部書き出してみた。大体のイメージが出来ると、次に気になったものがある。
「あとは、皿だなー…」
湊太は部屋を出てキッチンに移動し、各棚を開けて回った。
元々祖母のキッチンだから、夕湖も完全に把握しているか怪しい。こういうのは自分で確認するに限る。
バタバタと探し回っていると夕湖が出て来て
「…何探してるの?」
と苦笑いされた。
「いや…なんか3つ四角い小鉢がくっついたような皿、前あった気がして」
「あー、あったね!…さーて、どこだろ…」
いつも同じような皿しか使わない人に聞いても、無駄な話である。
「あ、金曜のやつ?そこまで本気で作らなくても」
その上、最初から探す気もない。
「せっかくだから、シュートとユリカにも食べて貰おうと思って」
「…なるほどね!そうなると、確かにカタチから入るの大事だね!…おばあちゃんに電話してみれば?聞いた方が早いんじゃない?」
夕湖の言葉で、ぴたりと湊太の動きが止まった。
「…電話?え?こっちにいるの?」
「いるけど?」
「いや…俺はてっきり『向こう』に行ってるもんだとばかり…」
まさか、本当に普通の旅行に行っているとは思わなかった。祖母は絶対アステリアに行っていると思っていたのに。
「軽井沢の別荘にいるはずだよ。あそこもつよつよ回線入れてたから、フツーにケータイも通じるって」
「まじかー…」
湊太はノートに、四角い皿が3つくっついた形の皿の絵を描くと、写真に撮って祖母に送った。
『こんな形の皿、どこかにある?』とメッセージを添えて。するとすぐに返信が来た。
『天袋、炊飯器の上のへん』
湊太が天袋を開けてみると、言われた通りの場所に思った通りの形の皿があった。
「ほんとだ、あった」
湊太がちょっと感動していると、横から夕湖に
「最近、似たの百均でも見たけどねー」
と身も蓋もない事を言われてしまった。
「さて、ちょっと夕飯の買い出しと朝海のお迎えに行くけど、何か買ってくるものある?」
ノートを見ながら冷蔵庫や調味料をチェックする湊太に夕湖が声をかけると
「え、あいつやっぱり遊びに行ってたのかよ。…いや、買い物はちょっと多すぎるから一緒に行くわ。今日明日のうちに実験で作ってみたいものもあるし。…あ、そうだ、明日のランチは豚丼にするから!」
ケータイに買い物メモを打ち込みながら、湊太は一気に色々とまくし立てた。
昼間の冗談半分の無茶振りから、本気でカフェランチを作る気になっている息子を、夕湖は面白そうに眺めていた。




