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4話 校内放送と作詞(9/9)

「……新堂、お前の努力は逆効果だったみたいだぞ?」

生徒会長はRINEの内容に目を通すとため息混じりに言った。

昼休みの生徒会室では、池川会長と新堂書記の二人だけが弁当を広げていた。

「逆効果……?」

聞き返す長髪の男に、会長はスマホの画面を見せる。

それを読んだ書記の顔色はみるみる青くなった。

「……マジかよ……」

「ここのところ正体バレで悩んでいた彼女にとっては、決定打だったんだろ」

RINEの最後には、ミモザが酷く怯えているためテレビ出演は難しいかも知れないとのアキの言葉が入っていた。

「うわ……。ごめん。俺めっちゃ謝るから!!」

「どうやって?」

「本人に直接……言いに行ったら……もっとビビられると思うか?」

「……だろうな」

「あー……。俺が軽率なことしたせいで……、もし空とA4Uのコラボ曲がダメになったら……」

長髪の男が天井を仰いで片手で顔を覆うと、そのままがっくりうなだれる。

「それは僕も困るな」

メガネの会長は思い悩むような様子で一つため息をついてから言った。

「……仕方ない。何とかならないか、相談してみるよ」


***


「ミモザ、大地さん謝罪したいって言ってるらしいけど……どうする?」

昼ごはんを食べ終わる頃、アキは空から届いたRINEを読んでそう尋ねた。


あれから、二人は昼休みはなるべく人の多い食堂で食べていた。

昼休み中に部長さんにクラスを覗きに来られても、どの組かわからないようにというささやかな抵抗だ。


「ええっ。……でも……私が先に大地さんの事フォローしてたんだし、フォロバもらって謝られるのもおかしいよね……」

「あはは、まあそうだよね。どうする?」

アキは楽しそうに笑顔を浮かべて尋ねる。

こんな時、深刻になりすぎないアキがそばにいてくれるのはミモザにとって心強かった。

「私……。フォロー許可して、大地さんとお話ししてみる」

ミモザがありったけの勇気を振り絞ってそう答えれば、アキは太陽のように笑う。

「うん、それがいいよっ」

「大地さんのトイッター、ずっと見てて……。いつも明るくて、楽しそうで、アキちゃんみたいだなって思ってたの。きっと……嫌なこと言われたりはしないと思う……」

「うんうん、あの空さんのお友達なんだし、良い人に違いないよ」

「うん……だといいなぁ……」

コクコクと大きく頷くアキの嬉しそうな顔を見ていると、本当に大丈夫な気がしてくるので不思議だとミモザは思う。


ふと、視線を感じた気がしてミモザは振り返った。

人の多い食堂に、こちらを見ている生徒の姿はない。


「ミモザ?」

「ううん、気のせいみたい」


なんだろう。ここのところ時々嫌な視線を感じる。

授業中には感じないのに、休み時間に……生徒の誰かに見られてる……?

ミモザの脳裏に先日の放送部長の姿が過ぎる。


どこか高圧的な彼の態度は、以前自分をいじめていた女子達と重なって、ミモザにはとても恐ろしかった。


***


その晩、ミモザは自室で一人ノートパソコンに向かっていた。

机の上にはノートパソコンと、山積みの少女漫画。

ミモザの座る周りにも数冊ずつ積まれた漫画がいくつも山を作っている。

その一冊を手に、ミモザは片手でキーボードを打っていた。

カタカタと文字を打つ軽い音は、途切れ途切れではあるものの、もうかれこれ二時間以上続いている。


ずっと憧れて追いかけていた推し絵師さんに、フォロー許可を出す。と、決めてはみたものの、なかなかそのボタンひとつが押し切れないミモザの横から「えい」と承認ボタンを押して帰ったのはアキだった。


何かメッセージを送る方がいいのかしら。

でも、この場合なんて送るのが良いのかしら……と、ドキドキハラハラしたままご飯を食べて、自室に戻れば、パソコンにはもう大地さんからのDMが届いていた。


『フォロー許可ありがとう。

えっと、大地です。

この度は本当にごめんなさい!!!

空から、ミモザさんが怖がってたって聞いて、本当に悪い事をしたと思って。

本っっ当に、心から反省してます!!

すみませんでした!!!』


……『本当に』って三回も書いてある……。

ミモザがトイッターを始めたきっかけでもあり、ずっとフォローしていたミモザの推し絵師は、自分との初DMで謝り倒していた。


『ああっ、途中送信ごめんなさい!!

ミモザさんが俺からフォローされてるの嫌だなって思うなら、いつでもブロックしてください!!

そしたら俺、にゃーちゅーぶのミモザさんのとこにコメント送ったりとか絶対しないようにします!!

今回は、俺がミモザさんにサプライズしたいと思って勝手にやったことで、空は全然関わってないので、空の事は怖がらないでやってください、お願いします!!』


「え……、俺……?」

ミモザは思わずその文章を三回読み直して、それから大地さんのトイッターのページを開く。大地さんの一人称はいつも『私』だった。

他の喋り方は確かにいつもの大地さんがちょっと敬語を使ってるくらいのもので、大地さんらしい感じの言葉だけど。

……『俺』……って……。


ミモザは慌てて今までのアキとの会話を思い返す。

アキから大地さんの性別は聞いていない。

アキは空さんの性別もハッキリは知らないと言っていたから……。


思い巡らせている間に、相手が文章を入力している旨の表示が現れた。

え、大地さん、今トイッターを……この画面を見てる……。


とにかく、まずは謝り続ける大地に謝罪をやめてもらわないと……、と、ミモザはキーボードに手を乗せた。


三通目のド謝罪DMが届いたのと、ミモザが『大地さんはじめまして。今回の事は私が過剰反応だっただけなので、どうかお気になさらないでください』と書いたDMを送信したのはほぼ同時だった。


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