2話 歌と声(7/9)
昼休みに空さんにDMの返事を送ると、あの曲は放課後にはにゃーちゅーぶに投稿されていた。
空さんの学校もスマホが持ち込みできるんだろうか。
いや、高校生なら皆学校にスマホくらい持っていけるのかな。
それとも、今日は学校をお休みしてたとか?
学校が違えば、創立記念日とかの可能性もあるよね。
……空さんって、どんな人なのかなぁ……。
「えっ、空さんにRINEを聞いてみたい!?」
私の言葉を、ミモザは丁寧にも繰り返した。
いつもの放課後。いつもの勝手知ったるミモザの部屋で。
「今の、トイッターのDMでのやり取りで十分じゃない?」
ミモザの声には不安が滲んでいる。
「そうなんだけど、会話にスタンプが使えたらいいなと思って」
RINEというのは利用者の非常に多い通話アプリで、音声通話やビデオ通話もできるし、文字チャットでは数えきれないほど沢山のスタンプ……イラストメッセージが使える。
私の言葉にミモザは「うーん……」と呟いて、ゆるく握った拳を顎に当てた。
これはミモザが真剣に考えている時の仕草だ。
私が差し出している、私と空さんとのDMログを上から下まで確認したミモザは「確かにねぇ……」と吐き出すように言った。
空さんは悪い人ではないんだけど、残念なことに会話が全く弾まない。
作業するにあたって最低限必要な内容までは話してくれるけど、それだけだ。
長文感想が欲しいとまでは言わないけれど、もう少しこう、感情が垣間見えるリアクションが欲しい。
私はもっと空さんのことを知りたいし、できれば空さんと仲良くなりたいと思っているんだけど、そもそも空さんがその辺をどうしたいのかもわからない。
スタンプが使えれば、シンプルな空さんの発言からも、もうちょっとニュアンスが掴めそうな気がするんだよね。
「うーん。RINEがダメとは言わないけど……、身バレしそうな情報はダメだよ? 地震だとか雷だとか夕立だとかもダメ。住んでる地域が絞られるからね?」
「えっ、そうなの!?」
「そうなの。アキちゃん時々トイッターでも雷だーとか地震だーって言う事あるけど、あれはやめた方がいいよ」
「はーい……」
えー……。そんなことまで住所特定に繋がるのか……。考えてもいなかった。今度から気をつけようっと。
「……あとは……、……もしかしたら、空さんは私みたいにスマホとかRINEを持ってないかも知れないけど……」
「大丈夫。断られても平気だから」
にっこり笑って言えば、ミモザは「余計なお世話だったね」と苦笑した。
「全然余計じゃないよ。ミモザがそうやって気遣ってくれるおかげで、私が『平気だ』って思えるんだからね」
グッと握り締めたスマホからポコッと軽い通知音が鳴る。
「あ、またコメントきてる」
「どんなの?」
ミモザは少しだけ心配そうだ。通知が来たのがこの人でよかった。
「あのすっごいテンションの人」
笑って答えれば、ミモザもホッとしたように笑って「見たい見たい」と私のスマホを覗き込んだ。
この人はあの曲からA4Uのファンになってくれた人みたいで、毎日いくつかずつ動画を見ては、そのひとつひとつにめちゃくちゃ絵文字たっぷりのハイテンションなコメントをくれていた。
曲が公開されてから一週間。私達が歌った曲の再生回数は日を追うごとにどんどん伸びていった。
それに引っ張られるように、私たちの他の動画も新旧問わず再生数が伸びている。
「ちょっと、あんまりにあんまりなのは消したい……」とミモザが言うので、昨日まで丸三日かけて今までの投稿動画を全部整理したところだ。
ミモザはお菓子動画のパッケージの反射による写り込みまで細かくチェックして、私達が顔バレしないよう十分気遣ってくれていた。
いやあ結構映ってたね。ポテチのパッケージの裏とかそういうキラキラ面に、私達の顔が。あと食器に窓の外が映ってる動画もあって、それも編集した。




