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1話 秋空と坂道 (1/6)

舗装された坂道を、揃いの紺色の制服を着た少年少女が同じ方向へ歩いている。

あかつき 明希あきもその内の一人で、学校へ向かって坂を上っていた。

二車線の車道を車が行き交う音。

車道の反対側は遮るものもなく、眩しい朝日が辺りを照らす。

その向こうで遠く海が煌めいていた。

鳴き交わす鳥の声には遠くからカモメの声が混じっている。

友達はカモメとうみねこの鳴き声は似ていて聞き分けられないと言っていたが、明希にはまるで違って聞こえる。

もう秋だ。カモメは秋になるとあの海に帰ってくるから。


海沿いのこの町には坂が多い。中学校へ向かう坂道にもずいぶん慣れてはきたが、朝から登るには厳しい傾斜で四月の頃は学校へ辿り着く頃には息が切れていた。

まだ正門は目線よりも頭ひとつ分は上にある。

さらに視線を上げれば、古いながらも丁寧に塗り替えられた校舎の白とそれを囲む幾らかの緑。それから限りない青空。


青くて透き通った秋の空が、明希は大好きだ。

高い空に両手を伸ばす。

朝を纏った秋の気配は呼吸するたび体の一部になるようで、明希は秋空を胸いっぱい吸い込んだ。

深呼吸の拍子に『ふわぁ』と大きなあくびが出る。

うーん、眠い。昨日も夜ふかししちゃったからなぁ……。

動画見てると中々やめられなくって。

これまで見たら終わりにしよう、もう寝ようって思ってても、それが終わる前に『これは絶対見たい!』ってのを見つけちゃうんだよね……。

眠そうに目を擦る明希の制服ポケットがヴヴヴと震える。

明希はポケットからスマホを取り出した。

「あ。チャンネル登録通知……――ってことは!」

途端、半眼になっていた瞳が大きく開かれ朝日をキラキラと反射する。

「やった! 300人達成っ!!」

ぴょんと跳ねた明希は、坂道を走り出した。

プリーツスカートがひらめいて、肩に付かない長さの髪が耳の横で元気に跳ねる。

このビッグニュースを一刻も早く伝えたい相手は、おそらくもう学校にいるだろう。


「おはようございます」と正門から声が届いて、明希は一瞬息を止めた。

ほんの少しだけ掠れた、甘く優しい低音ボイス。

まだ声の高い男子も少なくない中で、この人の声はすっかり大人の男の色香を纏っている。

ゔっ……。今朝もいい声……っっ!

遠くからでも、生徒会長のイケボには耳が勝手に反応しちゃって困る。

まだ正門の前に立つ生徒会長の姿は豆粒よりも小さい。なのにあの声だけはどうしてかすぐ近くで囁かれているように聞こえてしまうんだよね。不思議な事に。

先月の選挙で選ばれた新生徒会長は、今月から前生徒会長と同じように毎朝正門前で挨拶活動を始めた。

新生徒会長は、分厚い黒ぶちメガネにもさもさの重い髪をしたもっさり男子だったが、彼……池川いけがわ 陸空りく会長の得票の過半数は女子票だったりする。

まあ私も、しっかり池川会長に投票したうちの一人だったりするけど。

だってあの声。あの甘く優しいイケボに毎朝おはようって言ってもらえるなら、それだけで毎日遅刻せずに登校したくなっちゃうもん。

それに演説の内容もしっかりしてたし、真面目で温和そうな雰囲気も安心できたし、ちゃんと生徒達のこと考えて活動してくれそうだったから……。


走りながらそんな事を思い出してるうちに、正門が近付く。

今はとにかく登録者数300人突破を早く伝えなきゃ!

「おはよーございまーすっ!」

言いながら駆け抜ければ、会長のイケボが重なる。

「おはようございます」

っ、耳が溶ける……っ!

距離が近いと威力が半端ないんだよね……。

「おー。朝から元気いいなー」

この声は、いつも会長の隣に立っている背の高いスラッとした男子。確か書記の人。えーと、名前が出てこないけど。

肩下まであるサラサラの髪を後ろでひとつに括っていて、眉とかも綺麗に整えてあるおしゃれな感じの人だ。

「新堂、挨拶」

「はよーざまーすっ」

「丁寧に」

「おはようございまぁーすっ」

ああ、書記の人は新堂さんって名前だったっけ。

この二人よく話してて、仲良さそうだよね。


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