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第五話 白の襲来

ユーサの近くに聖剣が落下してくる少し前…

ユミを家に送り届けたリヤは、自宅のベッドで灯りも消さず一人ぼーっとしていた。


―明日はオレ達、第一班が警備の担当か…早めに休んどくか。―


一度ベッドから降りて、部屋の灯りを消そうと立ち上がったその時。


ドカーンと遠くから何かがぶつかったような音が響いてきた。


「うお!何だ!」


慌てて窓をバッと開き、身を乗り出して外を覗く。


リヤから見える範囲からでは特に何事もないが、音に驚き近所の住民が何人か既に外に出ていた。


「あ、おばちゃん!さっきの音なに!?」


ちょうど向かいの家から出てきた知り合いの中年の女性に声を掛ける。


「あら、リヤ君。ちょうど私も出てきたところでねぇ。何なのかしら怖いわねぇ。」


女性は首を傾げながらそう言う。


「あ、リヤ君、もしかしたら警備隊の招集かかるんじゃないかしら?準備しておいたほうがいいんじゃない?」


「今からしようとしてたところ!何があんだか分かんねぇんだから、おばちゃんは家でじっとしてな。」


「あらあら、頼もしくなってぇ。」


リヤはバタンッと窓を閉じ、タンスの中から警備の制服を取り出して着替える。


槍用の棚に立てかけていた槍をひっ掴み、背中の留め具に収め自室から出る。


寝室から出てきた両親と鉢合わせし、


「オレは警備隊の屯所に行ってくるから、家で大人しくしてて。」


とだけ両親に言い、家から飛び出していく。


外には既に先程よりも多くの人が出てきており、大きな音のした東の方を見ていた。


「はいはーい、何があるかわからないから、警備隊からの連絡があるまで大人しくしといてくださーい!」


大きな声で周囲の住民に呼びかけてから、警備隊の屯所へ向けて走り出す。


屯所は訓練場の隣にあり、リヤの家からもほど近くにある。


「リヤ·ランサ到着しました!」


バンッと勢いよく屯所の扉を開ける。


屯所に入ってすぐの部屋には、会場の長方形の机と、それを囲い椅子が置かれている。


椅子には既に第一班の班長と、ケインの姿があった。


「ん、リヤか早かったな。」


「流石だね。」


第一班長ことアロト·タイガとケインが落ち着いた様子で答える。


「タイガ班長!状況は!?」


反対にリヤは落ち着きがなく質問する。


「まぁ、落ち着け。既に第三班が音の原因を調べに行っている。我々は念の為ここて待機だ。」


第一班長に促され、リヤは槍を壁に立てかけ近くの椅子に腰掛ける。


「警備も第三班の残りの隊員と第四班でしている。リヤ、お前もいつでも動けるようにしておけよ。」


「…はい。」


リヤは少し考え込むも短く返事をする。


しかし、ガタッと椅子から立ち上がると壁に立てかけた槍を手に取り、外に出ようとする。


「おい、リヤ待機と言っただろう。」


タイガに咎められ立ち止まるも、


「どこかへ行くってわけじゃありません、ちょっと外の様子を見てくるだけです。屯所からは離れないですよ。」


「…分かった。だが、ここからの声が届く範囲にはいるように。」


「はい。」


リヤは短く返事をして屯所の外へと出ていく。


外の騒ぎは徐々に治まりつつあり、村の人々も多くが家の中に戻っている。


リヤは屯所の扉から出てすぐ、空を見上げる。


空を覆っていた真っ暗な雲はいつの間にか割れ、その隙間から月が顔を出していた。


リヤが外に出てから少しして、今日の警備担当ではない、第一班、第二班の隊員達が続々と屯所へ集まって来る。


屯所へ入っていく隊員に声をかけながらも、リヤは村の様子を眺める。


「リヤ。あらかた集まったから、村の巡回の組を決めるってよ。」


隊員の一人から声をかけられ、


「おう、分かった。」


と返事をして振り向こうとしたその時、視界の端に一筋の光を捉えた。


リヤはバッとその光に顔を向ける。


「流れ…星?」


リヤの目に映るその光は徐々に大きさを増し、村に落ちてきているように見えた。


それに驚いたリヤは慌てて屯所の中にいた全員に警告する。


「ヤバイ!!何か落ちてきてる!!」


リヤのその言葉を聞き、屯所内はざわめき出す。


「リヤ!それは本当か!?」


タイガが驚き椅子から立ち上がる。


「本当です!恐らく近くに落下してくるか…」


ドカーンという激しい音と衝撃にリヤの声は遮られた。


「のわッ!」


落下の衝撃で地面が大きく揺れ、リヤは建物に寄りかかりなんとか持ちこたえる。


揺れが収まり顔を上げると、屯所内は棚の物が落ち、中にいた隊員達もそれぞれ壁や机にもたれたり、地面に転げていたりと散々な有り様だった。


リヤは屯所の中から目を離し、後ろを振り返り外の様子を確認する。


すると屯所から東側、先程までは夜闇に包まれていたリヤの家の方向が赤々と明るくなっているだけでなく煙が立ちのぼっていた。


「あれ…家の近くじゃ…」


リヤは一瞬硬直するも、槍を強く握りしめ飛び出していく。


「おい!!リヤ!!勝手に動くんじゃない!!!」


タイガが咎めるも、リヤは既に遠ざかり声も聞こえていない様子だった。


「俺はリヤを追いかける、悪いがクネス、後は任せる。」


第二班長ことヘジャビ·クネスは渋々といったように頷く。


「了解しました。全く…頭より先に身体が動くあのイノシシ小僧の事は頼みましたよ。」


「あぁ、任せろ。」


タイガはそれだけいうと、何時でも動けるよう近くに置いていた剣と盾を装備して、リヤを追いかけ屯所を急ぎ出ていった。


―親父、お袋、無事だよな―


そんな不安に駆り立てられながらリヤは走り続ける。


広場に続く広い道から民家が続く馴染の細い道を曲がり煙の上がる方向へ駆ける。


煙に近付く程焦げた匂いと、「火事だ!」と叫ぶ声が届いてきた。


逃げ惑う人の波を器用にかわしながら、走り続ける。


自宅が見え、落下の被害にあっていないことを確認し安堵しつつも、そうではないと首を横に振り、再び逃げる人の流れに逆らいながら落下地点へ向けて走り出した。


自宅よりも二つ東側の区画まで来ると煙が近く、匂いもさらに強くなる。


顔をしかめながら角を曲がり遂に落下地点を目にする。


何かが落下したであろう民家の屋根と壁は崩れ、火の手が立ち上っていた。


既に周りの家にも火の手が回り始めているが、周りの住民たちは既に逃げた後か、辺りに殆ど人の気配がなく、唯一人見慣れない服装の人物が崩れた民家を俯きながら見つめ佇んでいる。


―なんだあの人、消火活動のために残ったのか?―


そう思うも、ただ佇むだけのその人物にリヤは違和感を覚えるが、突然のことで混乱し逃げ遅れてしまったのかと考え急いで近寄り声をかける。


「おい!そこのあんた…」


早く避難を、と言いかけリヤは佇む人物の詳細な姿を見て、「ん?」と困惑気味に唸る。


この辺りでは見慣れない、白色(炎に照らされ橙色に見えるがおそらく白)の統一感のあるシワなく伸ばされピシッとした上着を羽織っている。


上着と同等にシワ一つない白いズボンを履き、足元はピカピカと光を反射するほどに磨かれた白い革靴を履いている。


背中まで伸びる白く長い髪と胸元の膨らみからおそらく女であろうと判別できる。


そこまでなら、ただの見慣れない服装の人物だが、その人物の背中には一対の白い鳥のような翼が生えていた。


―何だよあれ、飾りでも背負ってんのかよ―


困惑を思考の外へ追いやり、避難のためにその白い女へ声をかけようとして再び違和感を覚える。


最初はあまりの事に恐怖で動けなくなっているのかと思ったが、俯く、いや下を見つめているその顔は何かを哀れむ様な表情をたたえていた。


翼に気を取られていてよく見えていなかったが、右手には細身の剣が握られていて、それを視線の先に突きつけている。


その剣の向けられた先に視線を移すと瓦礫で隠れ気付かなかったが倒れた人の足が覗いていた。


―足…?誰がそこにいるのか―


リヤが誰が倒れているのか確認しようと駆け出した時、白い女がおもむろに剣を振り上げた。


「マジか!」


白い女が何をしようとしているか瞬時に悟り、一気に距離を詰める。


ゆっくりと、だが確かに倒れている誰かを切り裂こうと剣を振り下ろす白い女の前に飛び出し、槍でその剣を受け止める。


「ぐッ!」


思いの外、重い一撃に思わずリヤは声を漏らす。


「ん…ここの人間か。」


白い女は見た目の印象通りな、美しく透き通った声で呟いた。


「何やってんだあんた。周り見えてねぇのかよ!」


白い女は剣を引くものの、鞘には収めず今度はリヤに突きつけてくる。


「貴様は関係ないであろう、そこをどけ。」


冷たく殺意すら乗せた声でリヤに言い放つ。


その殺意に炎の近くで熱いはずなのに背筋にゾッと寒気が走る。


だが、リヤはそれに臆さず槍をトンと地面につくと白い女を説得しようと試みた。


「無関係じゃない、オレはこの村の警備隊の人間だ!民間人を避難させる義務がある。」


「この私が民間人…だと?笑わせる。だが、目的を果たせばこのような場所、直ぐに去ってやる。」


「それにだ、貴様もしやソレを庇うつもりではなかろう?」


白い女はリヤの後ろを剣で指し、くいッとソレを見ろと言うかのように促す。


「おい、ソレってあんたな、どんな事情かはしらんがいくら何でも…」


そう振り向き後ろ見たリヤは再び驚愕し、絶句する。


リヤが思った通り後ろでは瓦礫の上に人が倒れていた。


白い女とは対照的に露出多い鎧を身に着けた女性で胸の辺りから腹にかけて縦一直線の深い傷を負っている。


だが驚いた理由はそれだけではない、倒れているい女性の肌は青く、背にはコウモリのような翼が、頭には二本の角が生えている。


天使と同様、おとぎ話の中でしか聴いたことのな存在…


「あ…悪魔…なのか?」


思わず声が漏れ、一歩後ろへと下がる。


「理解したか?では、どけ邪魔だ。」


白い女はリヤの左肩をガシッと掴みそのまま右へと追いやり、見た目の細さからは想像できない力で押され、リヤはドスッと尻餅をつく。


そして白い女が再び悪魔へと剣を向ける。


リヤもその切っ先につられ悪魔へと目を向けた。


悪魔と目が合い、助けを乞うようなその瞳に思わず顔を背ける。


―そんな目で見るんじゃねぇよ…だって、悪魔だろ?おとぎ話に出てくるワルもんじゃねぇかよ…そんな奴がどうなったところでオレは…―


リヤは俯き、苦々し顔で自問を続ける。


―だってのに何なんだよ、何で助けたいって思ってんだよオレは!―


だが、意を決したように顔を上げ立ち上がる。


「なぁ、あんた殺す…つもりなのか。」


リヤは白い女に問い、悪魔に鋭い視線を向けているその横顔を見つめる。


白い女はリヤに顔を向けずにさも当然かのように答える。


「あぁ、そうだ。」


「何でだ、殺す必要があるのか?捕らえるとかじゃ足りないのか?」


その問いに白い女はリヤに顔を向け、先程よりも強い殺気で睨みつける。


「貴様…この期に及んでこいつを庇い立てるつもりか?返答次第では…」


白い女が悪魔に向けていた剣をシュッと振るいリヤに突きつける。


「どうなるか分かっているだろうな?」


突きつけられた剣に怯みもせず、自分を睨みつける白い女をリヤは睨み返す。


―この女が只者じゃないってことぐらい、分かってるってのに、何やってんだオレは…―


「どうなるってんだ?オレ馬鹿だからよくわかんねぇな、教えてくれよ。」


そう挑発し、リヤは地面に突いていた槍をクルッと回し、腰を落とす。


槍は両手で持ち戦闘の構えを取り魔力を流す。


「フッ、それで魔導のつもりか?練度が低い…」


そう言ったかと思うと、次の瞬間白い女が視界から消え、リヤの身体は物凄い勢いで吹き飛び、突き路地の当りの家屋に埋もれていた。


「かッ!ぁぁ…」


リヤはその衝撃にただうめき声をあげるしかできなかった。


―何が…起こった…?―


自分の身に起きたことを理解できず呆然としていたが、胸に耐え難い熱い感覚が走り感覚の鈍い手を動かし確かめる。


胸にベチョッとした生暖かい液体が付いていることに気づき、家屋の瓦礫から顔を起こし見ると、リヤの胸が横一文字に斬り裂かれ、傷口から鮮血が溢れていた。


「あ…?」


事態をようやく理解したリヤの頭が命の危機を告げるかの如く、胸に激しい痛みを迸らせる。


「あァァァァァ!!」


―い、痛い痛い痛い痛い!!―


痛みに耐えきれずリヤは無意識に悲鳴を上げる。


―何も見えなかった、何も反応できなかった。―


「んぐッンンン!!」


しかし、リヤは唇を噛み、痛みに抗い自らの悲鳴を封じ込め、無理矢理身体を起こそうとする。


槍を支えに立とうとしたが、槍は真っ二つに斬られ長さが半分になっていた。


穂先が付いている方を右手に、断ち切られた方は左手に持ち、その両方を地面に突き支えにしてふらふらと立ち上がる。


―意識が…飛びそうだ…―


思考は朧げだが、身体はその身に染み付いた何時もの構えを取ろうとする。


しかし、二つに斬られた槍ではうまく姿勢が制御できずよろめいてしまう。


ザッ…ザッ…と白い女がリヤを哀れむような目で見つめながら歩いてくる。


「まさか…人間がここまで愚かだとは思いもしなかった。」


リヤは、今まで生きてきて最も死に近いであろうこの瞬間で、不思議と朧げだった思考が明瞭になっていくのを感じていた。


それに応じてか、自然と身体も二つに斬られた槍を扱いやすい構えをとる。


穂先の付いた方を持つ右手を少し下げ、左手は斬られて尖った持ち手を相手に向け、今まで練習したことのない構えをとっていた。


「愚かな、まだ歯向かうつもりか。」


白い女は呆れ混じりに驚きつつも、その歩みを止めようとはしない。


「リヤァー!!何があった!!」


ふらつきながらも立つリヤを見つけたタイガが、その体格に似合わぬ速度と軽やかさでリヤのもとへ駆け寄る。


「お前…なんだその怪我は!槍も折れているじゃないか。誰にやられた!!」


明らかに火事や瓦礫による怪我ではないそれを見てタイガは困惑するも、静かに前を見据えるリヤの視線を追い、その原因と目が合う。


「お前は下がってろ、無茶をするな。」


白い女の行動に気を配りつつも、ふらつくリヤの肩を掴みゆっくりと座らせる。


「班長…オレ…何もできなかった…何も見えなかった。」


傷口を押さえ座り込むリヤが、息も絶え絶えになりながら悔しげにそう零す。


「あいつ…ありえないくらい強い…だから…逃げてくれ…班長…」


「馬鹿野郎、班員を置いて逃げる班長がどこに居る。」


タイガはすっと立ち上がり白い女の方を向くと、右手で腰から剣をシャキンと抜き、左手を前にして盾を構え戦闘態勢を取った。



どうも闇鶴 彗です!


第五話、お読みいただきありがとうございます。


今回はユーサが戦っていた間、村では何が起こっていたのか…というお話でした。


リヤを襲った白い女は一体何者なのか…


投稿まで一ヶ月以上かかってしまったので次の更新はもっと早くできるよう頑張ります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

それでは、また次にお会いするまで。

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