第四話 魔女との邂逅
悪魔の剣がユーサの胸に迫る、その瞬間、何処からともなく現れた光が悪魔の翼を貫いた。
「チッ」
と舌打ちをし、悪魔はその場からサッと飛び退く。
「な、何だ…」
地面に叩きつけられ痛む身体をゆっくりと起こしながら、ユーサは光が来たであろう方向を見る。
ユーサから離れたところに一つの人影が見えた。
その人影は大きな先の折れた三角の帽子を被り、全身を覆うローブを纏い、手にした杖をこちらへ向け、荒く息をしているのだろう、大きく両肩を上下させていた。
「おいおいおいおい」
とユーサの背後で悪魔が焦る声をあげる。
「最悪じャねェか。」
その声にユーサが振り向くと悪魔は怒りを滲ませた表情で人影の方を見ていた。
「魔女じャねェかよ。寄りにもよって、最悪な奴を引いちまったか。」
悪魔がそう言った直後、魔女と呼ばれた人影から一つ、二つ、三つと続けて先程と同じ光が放たれる。
ユーサはそれを見て咄嗟に地面に伏せた。
悪魔は向かってくるそれを次々と剣で弾いていく。
バシッバシッバシッと叩くような、弾けるような音とともに光が逸らされる。
「こいつよりも先にあっちを殺るべきか。」
悪魔がそう呟く間にも、一つ、二つと光が放たれる。
「あ゛あ゛!!鬱陶しいッ!!」
怒りを滾らせ翼をブンッと一振させ一瞬で魔女との距離を詰める。
次の瞬間、キィィンと金属同士がぶつかったような高く嫌な音が辺りに響き渡る。
それは悪魔が突進の勢いそのままに振り抜いた剣が、魔女の作り出した魔法の障壁に阻まれた音だった。
「チッ」
またも悪魔は舌打ちをする。
反対に魔女は
「かかった!」
と言い笑みを浮かべる。
それと同時に魔女の後ろからシュッと人影が現れ、シャキンと音をさせ腰に帯びた剣を素早く抜刀し、悪魔へ斬りかかる。
それに気づいた悪魔は魔法の障壁に押し付けていた剣を引き、攻撃を防御する。
ガキィンと音を鳴らして火花が飛び散った。
「クソがッ!」
二対一は流石に分が悪いと判断したのか、悪魔は後ろへ飛び退き二人から距離を取る。
だが、魔女は悪魔に杖を向け、逃すまいと光を放つ。
放たれた光を軽くステップで躱しながら悪魔はさらに距離を取る。
その様子を呆然と見つめていたユーサはハッと我に返り、手離した聖剣を探して辺りを見回した。
直ぐに聖剣が転がっているのを見つけ、回収しようと走り出しす。
だが、悪魔の狙いもユーサと同じだったようで、魔女達の方を向きながら、翼を使い後ろ向きに聖剣へと近付いていた。
―まずい!―
魔女といる剣士が悪魔を追いかけているものの、その差は縮まらず、ユーサは自分が先に聖剣を確保しようと走る速度を上げる。
何とか悪魔より先に聖剣の元に着いたユーサは、聖剣を拾い上げ背を向けて迫ってくる悪魔に一撃を加えようと剣を体の後ろへ引く。
聖剣の位置を確認しようとチラリと後ろを向いた悪魔が、聖剣を手にしたユーサを見てその顔に怒りと憎しみを浮かべる。
「とことん邪魔してくれやがるッ!!」
そう怒りの声を上げながら、体をユーサの方に向き直し、剣を上げ構える。
「やっぱ、てめェから先にブッ殺してやるよォ!!」
「まずい!おじ様あの人が!」
魔女が悲鳴に近い声で叫び、
「分かってる!」
と剣士が低く渋い声で答える。
だが、ユーサはそんな二人の様子も気にせずに悪魔と対峙する。
ユーサの目には既に悪魔の幻影が見えており、攻撃がどこに来るか分かっているため迎え撃とうとした。
しかし、ユーサの目の前で幻影が左から強い力で殴られたかのように吹き飛ぶ様子が見え、幻影が消滅する。
何事かと驚くユーサに、
「屈んで!!」
と左から男の声が聞こえ咄嗟にその場に伏せる。
伏せたすぐ後、何かが物凄い勢いで飛来し、ユーサを斬り裂こうとする悪魔を横からドゴォ殴りつけた。
「ガハッ!」
悪魔は飛んできた何かの勢いそのままに横へ殴り飛ばされ地面に衝突する。
先程何かが飛んできた方向からガシャガシャと音を立てながら、全身に金属の鎧を着込んだ人物がユーサに向かって走ってくる。
「そこの人!大丈夫ですか!?」
野太くも優しげな声で心配をされ、ユーサはゆっくりと起き上がる。
鎧の男(声からして恐らくそうだろう)は立ち上がったユーサが見上げるほどの巨体で、その鎧の胸には聖剣と似た四芒星の印とその両脇に一対の翼の様な文様が付けられていた。
「そのマーク、軍の人…?」
鎧の四芒星を見て呟くユーサに鎧の男は
「間に合ってよかった、もう大丈夫です!悪魔は我々で対処します。ですのであなたは下がっていてください。」
そう言い、ユーサを悪魔から庇うように立つ。
「奴の仲間が近くにいるかも知れません、あまり離れないようにお願いします。」
「は、はい。」
鎧の男の言葉に素直に従い、ユーサは後ろへ少し下がり、悪魔の様子を見ることにした。
「カヅチ!間に合ったか!」
そこへ悪魔を追いかけていた剣士が合流する。
「はい、何とか。聖剣は彼が持っています。後は彼を守りながらアレの対処を。」
カヅチと呼ばれた鎧の男が剣士にそう答える。
「おい、坊主、怪我はないか。」
ユーサに声をかける剣士は、ユーサの祖父よりも少し年下な印象を受ける壮年の男で、男にしては長い髪を後ろにまとめ、鎧の男とは対照的に薄い布だけを身にまとっている。
その服装はシノノメ地方で日常的に着用される、着物と呼ばれるものだと、以前読んだ本にあったのを思い出し、同時に手に握られている少し沿った片刃の剣が刀と呼ばれる剣だと思い出す。
「怪我なら少し、でも深くはないです、動けます。」
「まさか、さっきまでアレとやり合ってたのがお前か?」
剣士からそう聞かれ、ユーサは
「はい。」
と答えた。
「アレとやり合って無事なのか、見込みのある坊主だ。」
「ちょっとソドウさん、そんな事言ってる場合じゃ無いですよ。」
カヅチに咎められ、
「おう、すまん。」
と短く返し、悪魔の方を見る。
「おじ様、悪魔は?」
遅れて走ってきた魔女がソドウと呼ばれた剣士に駆け寄ってくる。
その服装は影を見たときから分かっていたが、先の折れたつばの広い三角帽子と足元まで覆う長いローブを身にまとっている。
ローブに付いた四芒星とその上部を囲う円の文様を見て、魔法協会の者だと見て取れた。
声の印象通りの若い女性で、長く美しい金髪をかぜになびかせ、その容姿は端正な顔立ちをした美人だった。
ユーサは彼女の容姿に危機的な状況を一瞬忘れ、ドキッとする。
「カヅチの一撃をモロに喰らってあそこで倒れてる。」
左手の親指でクイッと悪魔の方を指差す。
「なら、早く仕留めましょう。それに彼を安全なところへ連れて行かないと。」
「ボクもマホさんに賛成です。」
マホと呼ばれた魔女がユーサの方をチラリと見ながら言い、それにカヅチが同意する。
「あぁ、そうするか。カヅチお前は念の為坊主についててやれ。マホいざってときの援護を頼む。」
ソドウが二人に指示し悪魔に近寄ろうとしたその時。
マホが急に空を見上げたかと思うと、
「皆!動かないで!!」
と突然言い地面に杖を突きたて、四人の周りに半球の障壁を作り出す。
その直後ドーンッと雷が四人を襲った。
「うわっ」
と声を上げその衝撃にユーサは尻餅をつく。
他の三人は平然と立ったままで雷が落ちた原因であろう存在をその目で捕捉し、空を見上げている。
「増援が来やがったか…」
ソドウが鬱陶しそうに呟く。
ユーサも三人同じ方向を見上げ、ソレを見つける。
月明かりに照らされたもう一体の悪魔が背中の両翼で宙に浮かびながら、右手に槍を持ち、左手をこちらに向けていた。
「落とします!」
障壁を解いたマホが杖を掲げ、その先に人の頭ほどの氷塊を生成する。
「はっ!」
と氷塊を宙に浮かぶ悪魔へと射出する。
悪魔は右手の剣で氷塊を叩き割ろうとするも、すんでのところで氷塊が炸裂し、悪魔に破片が降りかかる。
幾つか当たったようだが、悪魔に傷一つ負わせることなく、氷の破片が広く悪魔の周りに散らばっていく。
月明かりを反射して星の如く輝く氷たちは不思議なことに落下せずその場に留まっていた。
マホはそれを確認した後、先程のお返しと言わんばかりに杖から雷を悪魔に向けて放った。
ゴロゴロと激しい音をさせながら雷が悪魔に迫るもヒラリと躱される。
しかし、雷は悪魔の周りに散らばった氷の破片に当たり、氷から氷へと伝わっていき、まるで網の様になり全方位から悪魔を襲う。
夜空に出現した雷の網をみてユーサは思わず声を漏らす。
「す、すごい…」
流石の悪魔も全方位からの同時攻撃には対処できなかったようで、全身を雷に打たれゆっくりと下降していく。
すかさずソドウとマホが追い討ちをかける為、降りてくる悪魔に向けて走り出す。
ユーサは依然として目の前に立ち、悪魔から庇おうとするカヅチの後ろからその様子を眺めていた。
「流石は噂の魔女、不意打ちをかけるどころか、お返しをもらってしまうとは…」
知的な声でそう言いながらスタッと地面に降りる。
上空にいた時は影しか見えず分からなかったが倒れている悪魔とは違い、整った身なりの服、燕尾服を着ていた。
流石に悪魔の着ている服だけはあり、マホの雷を受けても所々焦げる程度で他に目立った傷はない。
ソドウがマホの前にサッと出て、降りてきた悪魔に剣を向ける。
「ほぉ、お嬢一撃を喰らって、まだおしゃべりする余裕が有るたぁな。」
剣を向けたままソドウが軽口を叩く。
「実はこう見えても立っているのがやっとでしてね。」
燕尾服の悪魔は涼しい顔でそう答える。
「その割には余裕そうだけど。」
「いえいえ、本当ですよ。こちらから先に攻撃しておいて大変申し訳ないのですが、ここは見逃してもらえないでしょうか?」
燕尾服の悪魔はそう言い頭を下げた。
「先に仕掛けておいて、本当にどの口が言ってるんだか。」
マホも杖を向け、悪魔達をここで仕留めるという意志を明確にする。
「えぇ、そうでしょう。大人しく逃がしてもらえるとは思ってはいませんでしたよッ!」
顔を上げた燕尾服の悪魔が左手を前に掲げ、雷を放つ。
「クソッ!」
「そんなの喰らわない!」
マホが魔法の障壁を創り出し雷を防ごうとするも、雷はマホ達にあたることはなく、倒れている悪魔に命中する。
「ガア゛ア゛ア゛!!」
倒れていた悪魔は電撃で目を覚まし悲鳴を上げる。
「起きなさい!!イーラ!!」
切羽の詰まった様子で燕尾服の悪魔は叫ぶ。
「チッ!」
ソドウは舌打ちをし、燕尾服の悪魔へと斬りかかる。
燕尾服の悪魔は右手に持った槍でその攻撃を受け止める。
「ゴーティア隊長!!」
イーラと呼ばれた悪魔が、燕尾服に向けて叫ぶ。
「イーラ!今直ぐに逃げなさい!」
ソドウと鍔迫り合いをしながらゴーティアと呼ばれた悪魔が、イーラへと命令する。
「逃がすわけないでしょうが!」
マホが素早く杖の先に火球を生成し、イーラへと放つ。
「クソがッ!」
悪態をつきつつもイーラは火球をヒラリと躱す。
「で、でも!奴らが聖剣を!」
ソドウを押し返し、ゴーティアは再び命令を飛ばす。
「今最も避けるべきことは、其れすらも味方に伝わらないことです!」
「クソッ!」
またも悪態をつきながらイーラは翼を使い飛翔する。
ユーサとの戦闘、カヅチの一撃で疲労しているのか、その速度はユーサと戦っていた時よりもかなり遅くなっていた。
「落ちろッ!」
杖をイーラへと向け、マホは先程よりも射出する光の数を増やし、逃がすまいと弾幕を張る。
シュシュシュシュンと、天へと昇る光の雨の中、何発か撃たれながらもイーラは飛翔を続けた。
「ふん、先に逃がしちまってよかったのかい。」
そう言いながらも逃がす暇など与えぬと、ソドウは怒涛の連撃を浴びせる。
「ふふ、私一人なら逃げるなど造作もないことですので。」
ゴーティアは穂先を天に向け魔力を集中させ、雷を生成した。
ゴーティアが勝負を決めに来たことを悟ったソドウは、カチンと一度刀を鞘にしまい抜刀の構えを取る。
それに気付いたマホは、既に遠くまで逃げてしまったイーラへの追撃を諦め、ゴーティアへと杖を向け光を射出する。
マホの放った光が直撃する瞬間、ゴーティアは槍を地面に向けて振りかざした。
槍はマホの放った光をかき消し、ドッカーンと雷の激しい音と共に辺り一面を眩い光が襲う。
思わずマホもソドウも光から目を庇い、ゴーティアを視界から外してしまう。
光が薄れ周りが見えるようになった時、周囲に悪魔たちの影は見当たらなかった。
「逃げられた!」
マホが忌々しそうに杖で地面を突き刺す。
「お嬢、切り替えろ。何より聖剣を取り戻せた、本来の目的は果たせたんだ。」
慰めるようにマホの肩をポンと叩き、カヅチとユーサの元に行くよう促す。
「えぇ、そうね。それよりも彼の事が心配だわ。」
マホ達がユーサ達の元に駆け寄ってくる。
「坊主、怪我してるんだったな、そこのお嬢がちぃとなら治癒魔法が使える。見せてみな。」
ソドウに促され、ユーサは傷を負った右の脇腹と胸をマホに見せる。
マホは顔をユーサの胸に近づけるも、流石に月明かりだけでは見えづらかったのか、左手でシュッと小さな光の球を灯す。
ユーサが灯りにしていた火の球と比べてかなり明るく、傷跡がハッキリと見える。
「うん、そこまで深くはないみたい。これなら私でも治せる。」
そう言いマホは右手の杖をユーサの胸に近づけ、
「癒やしの力よ…」
と短く呟き杖の先端に緑色の綺麗な光を灯す。
その光がユーサの傷口に染み込み、ほんのりと温かい心地の良い感覚が拡がっていき、傷口を塞いだ。
続けて右脇腹にもあてがい傷を塞ぐ。
「すみません、ありがとうございます。」
ユーサは礼を言いマホに頭を下げた。
「お礼はいいの、寧ろこっちが言いたいくらい。」
マホは手を振りながらそう言う。
「聖剣、君が守ってくれたんだね。ありがとう。」
マホが微笑みユーサに礼を言う。
その微笑みにまたもドキッとしてしまう。
しかし、そのときめきは一旦忘れ、マホ達に疑問をぶつける。
「やっぱりこの聖剣って本物なんですか。」
その疑問にマホは少し複雑そうな表情を浮かべた。
「そう、本物。悪魔達に盗まれたの。」
「えっ!」
予想はしていたが、衝撃の事実にユーサは固まる。
「それで、私達が悪魔を追って聖剣を取り戻そうとしていたわけ。」
「ぬ、盗まれたってどうして…?」
ユーサの疑問にマホは首を横に振り、
「確かにそれは気になるでしょうけど、まず一度休める場所にいかないかしら?この近くにオーエン村って所があると思うのだけれど。」
ユーサに村の場所を聞いてくる。
「…分かりました、村なら近くにあります。村についたら話してもらえますか?」
「いくら聖剣を回収いてくれたとはいえ、無関係の民間人にそれを話すのは…」
カヅチが口を開き意見を言う。
「確かにそれはあるけど…でも彼は聖剣を回収し、悪魔と戦ってもいる。完全に無関係では無いはずよ。」
「…分かりました。ここはマホさんに従います。」
カヅチは大人しく引き下がり、
「悪魔に投げつけた大槌を回収してきます。」
と言いその場から離れた。
「と言うわけで、村についたら話してあげるので、案内お願いできるかしら?」
マホにそう聞かれユーサは
「はい、村まで案内します。あ、でもコレの鞘が近くに落ちてたはずなので、ソレも回収しといたほうが良いですよね?」
と言い、キョロキョロと辺りを見回した。
「おう、ソレならここに有るぞ。」
いつの間にかソドウが鞘を回収しており、ユーサに向けて掲げる。
「それじゃ、聖剣はお渡ししておいた方が良いですね。」
聖剣をソドウに渡し、ソドウはソレをカチンと鞘に収める。
そうしている間に、大槌を回収したカヅチも戻ってきたので、ユーサは三人を連れて村へと歩き出した。
「あ、そうだまだ君の名前、聞いてなかったわね?」
歩きながらマホがそう言い出し、自己紹介を始める。
「私は、マホ·マジク。もう見たと思うけど魔法が得意よ。」
「あ、ボクはカヅチ·マハンといいます。」
とカヅチも続けて自己紹介をする。
「おう、オレはギルツ·ソドウだ。」
ソドウも短くそう言う。
「マホ·マジクさんに、カヅチ·マハンさん、ギルツ·ソドウさん。」
どこかで聞いたことが有るような名前にユーサは少し考える。
だが、何か引っかかるだけで何も思い浮かばなかったため、自分も自己紹介をする。
「俺はユーサ·ヒウロって言います。オーエン村で神学者に成るために勉強中です。」
ユーサの自己紹介を聞き、一同は立ち止まる。
「ん、どうかしましたか?」
「ユーサ·ヒウロって、まさかヒウロさんの息子さん!?」
「…え?」
三人の驚きようにユーサも足を止め振り返る。
「あ!」
何故三人の名前が引っかかっていたか思い当たる。
「あの、皆さんってもしかして父さんの知り合い…ですか?」
「坊主、お前さんユーエのやつの息子だったか。」
ソドウも腑に落ちたように言う。
「皆さんのことは父さんからよく聞いています。強くて頼りになる方たちだとか。」
「ヒウロさんにはお世話になってます。うん、やっぱり彼は無関係なんかじゃないよ、事の顛末はちゃんと教えてあげたほうが良い。」
そう言うとマホはトンとユーサの肩を叩き、
「よし、それなら立ち止まってないで早く村へ行きましょうか。ヒウロさんの美人な奥さんにも会ってみたいしね。」
早く村へ案内するように促す。
「あ、はい。この丘を迂回したら見えてきます。まぁ夜なんで見えないでしょうけど。」
四人は丘の麓の道をグルっと周りの迂回して村の見える位置まで歩く。
「え…?」
丘を周り、見えた景色にユーサは立ち止まり困惑の声を漏らす。
「ん?ユーサ君どうしたの?」
その様子にマホがユーサの顔を覗き込み声を掛ける。
「あ?何だありゃ?えらく明るいじゃねぇか。祭でもやってるのか?」
ソドウがその様子を見てユーサに質問する。
いつもこの時間なら闇に包まれ静まり返っている村が炎の色で照らされている。
「いや…祭りなんて、今日はやっていないです…」
既に最悪の想像をしているユーサが震えた声でそう答える。
―嘘だ、あれはただの夢のはずだろ?―
最近よく見る夢の景色を思い出し、ユーサはそれが現実になってしまったのではないかと想像してしまう。
「とにかく、様子が変です急ぎましょう!」
「ちょっと!ユーサ君!」
ユーサは不安を払うように三人よりも先に駆け出した。
―嘘だ嘘だ嘘だ!―
心のなかでそう唱えながら村へ向けてひたすらに走る。
「はぁ…はぁ…」
不安と恐怖で胸が締め付けられ息が荒くなっていく。
「あ…あぁぁぁぁ!!」
近付くことでハッキリと見えてきた村の様子にユーサは絶望し膝から崩れ落ちる。
ユーサの目は、燃え崩れ落ちていく村をただ見つめていた。
どうも闇鶴 彗です!
第四話、お読みいただきありがとうございます。
第四話は衝撃の展開続きでしたが、いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけたのなら幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
それでは、また次にお会いするまで。